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隣国での寵愛と、偽りの聖女の再起
第14話:招かれざる夜の使者
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サンクチュアリ王国の王都は、不穏な静寂に包まれていた。
本来ならば建国記念を祝う『星辰祭』の準備で賑わうはずだが、街を覆う空気は重く、どす黒い霧が足元にまとわりついている。
「……何よ、あの霧は。不愉快だわ」
王宮のテラスから街を見下ろすセリナが、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
彼女の肌は『極光の滴』の副作用か、陶器のように白すぎるほど白くなり、指先には細い黒い筋が浮き出ている。それを隠すために、彼女は真夏だというのに長い手袋を嵌めていた。
そこへ、カイル王子が青ざめた顔で駆け込んできた。
「セリナ! 大変だ、正門に……正門に『使者』が来た!」
「使者? どこかの小国の朝貢かしら。今は忙しいって追い返せばいいじゃない」
「違う! 隣国、常夜の国……『夜の王』の軍勢だ!」
その言葉に、セリナの肩が跳ねた。
常夜の国。数千年前の神話において、この世の闇を統べるとされた龍王が住まう禁忌の地。長らく国交も途絶え、滅びたと思われていた伝説の国だ。
二人が城のバルコニーへ駆け出すと、そこには異様な光景が広がっていた。
昼間だというのに、王都の正門からまっすぐ王宮へと続く一本道だけが、夜のように暗く染まっている。
漆黒の鎧に身を包んだ精強な騎士団が、音もなく行進してくる。その中心には、銀色の装飾が施された、巨大な影を纏う馬車が鎮座していた。
「あ、あれは……何なの……?」
セリナの震える声に応えるように、馬車の扉が開いた。
最初に降り立ったのは、月光をそのまま形にしたような銀髪の美青年――ゼノスだった。
彼が地面に足を下ろした瞬間、周囲の「黒い霧」が彼を恐れるように霧散し、代わりに清冽な星の光が降り注ぐ。
そして、ゼノスが恭しく手を差し出した。
馬車の中から現れたのは、夜空を紡いだようなドレスを纏った、一人の女性。
「……嘘。そんな、まさか……」
カイルの声が裏返った。
そこにいたのは、かつて彼らがゴミのように捨て、奈落へと突き落としたはずの女。
右腕を炭化させ、泥を啜って死ぬはずだった――エレナ・ローウェル。
だが、今の彼女に無惨な面影は微塵もなかった。
絹のように輝く肌、女王のような気品、そして何より、右腕で白銀に輝く、かつて「不浄」と罵ったはずの美しい紋章。
エレナはバルコニーにいる二人を見上げると、優雅に裾を摘まみ、完璧な会釈をしてみせた。
その唇が、声には出さず、けれど明確にこう告げた。
『――ただいま戻りました、お父様、お母様。……そして、可愛いセリナ』
セリナの顔から、一気に血の気が引いていく。
一方で、ゼノスは獲物を定める龍のような眼光で、カイルとセリナを射抜いた。
「サンクチュアリ王国の王よ。我が最愛の妃が、故郷に挨拶をしたいと仰せだ。……まさか、門前払いなどという無粋な真似はせぬだろうな?」
その圧に押され、城を守る騎士たちは武器を落とし、次々と膝を突いた。
復讐の幕が、ついに王都のど真ん中で上がったのだ。
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本来ならば建国記念を祝う『星辰祭』の準備で賑わうはずだが、街を覆う空気は重く、どす黒い霧が足元にまとわりついている。
「……何よ、あの霧は。不愉快だわ」
王宮のテラスから街を見下ろすセリナが、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
彼女の肌は『極光の滴』の副作用か、陶器のように白すぎるほど白くなり、指先には細い黒い筋が浮き出ている。それを隠すために、彼女は真夏だというのに長い手袋を嵌めていた。
そこへ、カイル王子が青ざめた顔で駆け込んできた。
「セリナ! 大変だ、正門に……正門に『使者』が来た!」
「使者? どこかの小国の朝貢かしら。今は忙しいって追い返せばいいじゃない」
「違う! 隣国、常夜の国……『夜の王』の軍勢だ!」
その言葉に、セリナの肩が跳ねた。
常夜の国。数千年前の神話において、この世の闇を統べるとされた龍王が住まう禁忌の地。長らく国交も途絶え、滅びたと思われていた伝説の国だ。
二人が城のバルコニーへ駆け出すと、そこには異様な光景が広がっていた。
昼間だというのに、王都の正門からまっすぐ王宮へと続く一本道だけが、夜のように暗く染まっている。
漆黒の鎧に身を包んだ精強な騎士団が、音もなく行進してくる。その中心には、銀色の装飾が施された、巨大な影を纏う馬車が鎮座していた。
「あ、あれは……何なの……?」
セリナの震える声に応えるように、馬車の扉が開いた。
最初に降り立ったのは、月光をそのまま形にしたような銀髪の美青年――ゼノスだった。
彼が地面に足を下ろした瞬間、周囲の「黒い霧」が彼を恐れるように霧散し、代わりに清冽な星の光が降り注ぐ。
そして、ゼノスが恭しく手を差し出した。
馬車の中から現れたのは、夜空を紡いだようなドレスを纏った、一人の女性。
「……嘘。そんな、まさか……」
カイルの声が裏返った。
そこにいたのは、かつて彼らがゴミのように捨て、奈落へと突き落としたはずの女。
右腕を炭化させ、泥を啜って死ぬはずだった――エレナ・ローウェル。
だが、今の彼女に無惨な面影は微塵もなかった。
絹のように輝く肌、女王のような気品、そして何より、右腕で白銀に輝く、かつて「不浄」と罵ったはずの美しい紋章。
エレナはバルコニーにいる二人を見上げると、優雅に裾を摘まみ、完璧な会釈をしてみせた。
その唇が、声には出さず、けれど明確にこう告げた。
『――ただいま戻りました、お父様、お母様。……そして、可愛いセリナ』
セリナの顔から、一気に血の気が引いていく。
一方で、ゼノスは獲物を定める龍のような眼光で、カイルとセリナを射抜いた。
「サンクチュアリ王国の王よ。我が最愛の妃が、故郷に挨拶をしたいと仰せだ。……まさか、門前払いなどという無粋な真似はせぬだろうな?」
その圧に押され、城を守る騎士たちは武器を落とし、次々と膝を突いた。
復讐の幕が、ついに王都のど真ん中で上がったのだ。
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