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隣国での寵愛と、偽りの聖女の再起
第20話:夜の王妃の凱歌
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復讐の劇が幕を下ろしてから、数ヶ月。
かつて私を奈落へ投げ捨てたサンクチュアリ王国は、いまや「呪われた地」として周辺諸国から国交を断絶されていた。
私が最後に残した『澱みの固定』は、想像以上の絶望を彼らにもたらしたようだ。
伝え聞くところによれば、セリナは全身に浮き出た黒い痣を隠すために地下室に引きこもり、カイル様は発狂した民衆の暴動によって、王太子の地位を剥奪されたという。
私を「ゴミ箱」扱いした家族も、もはや公爵家の体裁すら保てず、自らが溜め込んだ汚物のような噂にまみれて没落の一途を辿っている。
――けれど、そんな彼らの末路など、今の私には砂粒ほどの価値もなかった。
「……ふふ、くすぐったいですわ、ゼノス様」
常夜の国のバルコニー。
柔らかな月光に包まれながら、私はゼノス様の膝の上で心地よい微睡みに身を任せていた。
ゼノス様は、私の右腕に刻まれた白銀の紋章を、今でも飽きることなく愛おしそうに撫でている。
「貴様は我の宝だ。こうして触れていないと、どこかへ消えてしまいそうでならん」
「どこへも行きませんわ。私の居場所は、あなたの腕の中だけですもの」
ゼノス様が満足げに目を細め、私の額に深い口づけを落とした。
そのとき、私の腹部の奥で、小さな、けれど確かな『光』の胎動を感じた。
それはかつて私を焼いた刺々しい光ではない。ゼノス様の闇と、私の星の力が混ざり合った、温かな「新しい命」の萌芽。
「……ゼノス様。どうやら、私たちの『楔』が、もう一つ増えるようですわ」
私の言葉に、ゼノス様の黄金の瞳が大きく見開かれた。
最強の龍王ともあろうお方が、信じられないものを見た子供のように呆然とし、やがて歓喜に震える手で私を強く、壊れ物を扱うように抱きしめた。
「……そうか。我らの子が。……ククッ、あはははは! 素晴らしい! この星の次なる主の誕生だな!」
彼の高らかな笑い声が、星々の煌めく夜空に響き渡る。
かつて私は、誰の役にも立たない、生石の毒に焼かれるだけの惨めな存在だった。
けれど、奈落に落ちたあの日、私は世界で一番美しい夜を手に入れた。
不浄の令嬢はもういない。
私はこの常夜の国で、愛する王と共に、永遠に続く優雅な夜を統べていく。
暗闇は、決して恐ろしいものではない。
それは、真実の光を最も美しく輝かせるための、深い慈愛の色なのだから。
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かつて私を奈落へ投げ捨てたサンクチュアリ王国は、いまや「呪われた地」として周辺諸国から国交を断絶されていた。
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