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晩餐会の対峙と、墜ちた聖女
第21話:新たなる波紋
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常夜の国に、新しい命の予感という最高の幸福が訪れてから数週間。
私は、ゼノス様の過保護が以前の数倍に跳ね上がったことに、嬉しい悲鳴を上げていた。
「エレナ、歩くな。移動はすべて我の背か、この魔法の椅子を使え」
「ゼノス様、まだお腹も膨らんでいませんし、体調も良いのですから大丈夫ですわ」
「ならん。貴様の体の中にいるのは、我と貴様の魂を繋ぐ至宝だ。万が一にも、この国の段差一つで転ぶようなことがあっては、我がこの城を平らに作り直さねばならなくなる」
真顔で恐ろしいことを言うゼノス様に、私は苦笑いするしかない。
けれど、彼が私の腹部に耳を当て、愛おしそうに目を細める姿を見るたび、私の胸は甘い幸福感で満たされるのだった。
そんな穏やかな日々の中、城の謁見の間に一人の「珍客」が訪れた。
それは、没落した母国の者ではなく、さらに北に位置する軍事大国――『鋼鉄の帝国』からの特使だった。
「常夜の国の王、そして王妃エレナ様。我が皇帝より、親書を預かって参りました」
鎧を纏った使者は、ゼノス様の威圧に冷や汗を流しながらも、毅然とした態度で膝を突く。
ゼノス様が指先で空をなぞると、親書がふわりと浮き上がり、彼の手元へと届けられた。中身を一読したゼノス様の眉が、不機嫌そうに跳ね上がる。
「……エレナ、貴様の噂は、どうやら不浄な母国の壁を越えて世界に広まってしまったようだな」
「え……?」
「帝国は、貴様がサンクチュアリ王国で見せた『浄化の力』を、星の意思そのものだと断定した。そして、近々行われる『世界会議』へ、貴様を唯一の真なる聖女として招待したいと言ってきている」
真なる聖女。
その響きに、私の右腕の紋章が微かに熱を帯びた。
サンクチュアリ王国が「偽物」を掲げて自滅した今、世界は混沌に陥っている。大地の腐敗を止めることができる【星の楔】の持ち主を、列強諸国が放っておくはずがなかったのだ。
「帝国は、貴様の力を軍事的に利用しようとしているのか、あるいは……。どちらにせよ、我の番《つがい》を衆目に晒すのは不愉快極まりない」
ゼノス様の背後から、銀龍の影がゆらりと立ち上がる。
だが、私はそっと彼の大きな手を握った。
「ゼノス様。……今の私は、もう守られるだけの存在ではありません。私たちの子供が生まれるこの世界が、毒にまみれて腐っていくのを放ってはおけませんわ」
私は、使者の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「お伝えください。常夜の国の王妃として、その招待をお受けします。……ただし、私の隣には常に『夜の王』がいらっしゃることを、お忘れなきよう」
復讐の次に来たのは、世界という名の舞台。
不浄の令嬢と呼ばれた女が、世界の命運を握る「星の守護者」として、その真価を問われる戦いが始まろうとしていた。
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私は、ゼノス様の過保護が以前の数倍に跳ね上がったことに、嬉しい悲鳴を上げていた。
「エレナ、歩くな。移動はすべて我の背か、この魔法の椅子を使え」
「ゼノス様、まだお腹も膨らんでいませんし、体調も良いのですから大丈夫ですわ」
「ならん。貴様の体の中にいるのは、我と貴様の魂を繋ぐ至宝だ。万が一にも、この国の段差一つで転ぶようなことがあっては、我がこの城を平らに作り直さねばならなくなる」
真顔で恐ろしいことを言うゼノス様に、私は苦笑いするしかない。
けれど、彼が私の腹部に耳を当て、愛おしそうに目を細める姿を見るたび、私の胸は甘い幸福感で満たされるのだった。
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ゼノス様が指先で空をなぞると、親書がふわりと浮き上がり、彼の手元へと届けられた。中身を一読したゼノス様の眉が、不機嫌そうに跳ね上がる。
「……エレナ、貴様の噂は、どうやら不浄な母国の壁を越えて世界に広まってしまったようだな」
「え……?」
「帝国は、貴様がサンクチュアリ王国で見せた『浄化の力』を、星の意思そのものだと断定した。そして、近々行われる『世界会議』へ、貴様を唯一の真なる聖女として招待したいと言ってきている」
真なる聖女。
その響きに、私の右腕の紋章が微かに熱を帯びた。
サンクチュアリ王国が「偽物」を掲げて自滅した今、世界は混沌に陥っている。大地の腐敗を止めることができる【星の楔】の持ち主を、列強諸国が放っておくはずがなかったのだ。
「帝国は、貴様の力を軍事的に利用しようとしているのか、あるいは……。どちらにせよ、我の番《つがい》を衆目に晒すのは不愉快極まりない」
ゼノス様の背後から、銀龍の影がゆらりと立ち上がる。
だが、私はそっと彼の大きな手を握った。
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私は、使者の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「お伝えください。常夜の国の王妃として、その招待をお受けします。……ただし、私の隣には常に『夜の王』がいらっしゃることを、お忘れなきよう」
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