月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜  嘘つきの妹に成敗を、ざまあ

しょくぱん

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晩餐会の対峙と、墜ちた聖女

第22話:星の守護者の旅立ち

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帝国への出発の日。常夜の国の王城前には、見たこともないほど巨大な「浮遊戦艦」が姿を現していた。
それはゼノス様が私の体の負担を考え、この旅のためだけに魔力で構築させた、銀龍の鱗のような光沢を持つ美しい器だった。

「エレナ、気分は悪くないか? 風が冷たければすぐに言え。空を丸ごと暖めてやる」
「ふふ、大丈夫ですわ、ゼノス様。少し過保護すぎますけれど……そのお気持ちは、お腹の子にも伝わっていますわ」

私が微笑みながら膨らみ始めたお腹を撫でると、ゼノス様は満足げに、けれど周囲を威嚇するような鋭い視線で周囲を睥睨した。
今回の旅には、帝国の特使のほかに、各地から「真の聖女」を一目見ようと集まった者たちが同行していた。

「……あ、あの! エレナ様!」

乗船の間際、一人の少年が私の前に飛び出してきた。
帝国から派遣された若き魔術師、アルヴィンと名乗った彼は、私の右腕にある【星の楔】を凝視し、瞳を輝かせている。

「僕は帝国の魔導アカデミーで星脈を研究しています! エレナ様がサンクチュアリ王国で見せた、あの『再構築』の術式……あれは伝説の星霊魔法ではありませんか!? ぜひ、お話を伺わせていただけないでしょうか!」

興奮して詰め寄ろうとするアルヴィンの首根っこを、ゼノス様の漆黒の魔力の爪がひょいと持ち上げた。

「これ以上我の妃に近づけば、その首から上を星屑に変えてやるぞ、小僧」
「ひ、ひえぇっ!? すみません、つい学術的好奇心が……!」

バタバタと足を動かすアルヴィンを宥めつつ、私たちは戦艦へと乗り込んだ。
船がゆっくりと浮上し、眼下に広がる常夜の国の美しい夜景が遠ざかっていく。

数日の航路を経て、私たちはついに軍事大国『鋼鉄の帝国』の領空へと入った。
だが、窓から見えたその景色に、私は息を呑んだ。
豊かな緑に覆われていたはずの北の大地は、鉄錆のような色に変色し、巨大な煙突からは黒い煙が吐き出されている。

「……ひどい。ここも、サンクチュアリ王国と同じように蝕まれているの?」

「いいえ、エレナ様。帝国は、エレナ様の母国とは違う理由で病んでいるのです」

解放されたアルヴィンが、沈痛な面持ちで説明を補足した。

「帝国は、魔力を人工的に抽出する『魔導炉』に依存しすぎました。その結果、大地から吸い上げられた魔力が循環せず、地脈が壊死えししかけているのです。……もはや、人の手には負えません」

その時だった。
戦艦を揺るがすような不気味な咆哮が響き渡った。
雲を突き破り現れたのは、全身が機械と腐敗した肉で覆われた、巨大な「魔導変異種」の怪物。

「チッ、不浄なゴミが。エレナ、下がっていろ。我が出て――」
「いいえ、ゼノス様。……これは、私の仕事です」

私は、制止するゼノス様の手に自分の手を重ねた。
彼から与えられた魔力が、お腹の命を通して、私の右腕へと集まっていく。

私が戦艦の甲板に立ち、右腕を天に掲げると、白銀の光が帝国の煤けた空を一瞬で塗り替えた。
「不浄」と蔑まれた力が、今度は絶望の淵にある大国を救うための「希望」として解き放たれる。

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