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晩餐会の対峙と、墜ちた聖女
第23話:鋼鉄の空を拭う銀光
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機械の歯車が噛み合うような不快な音を立て、巨大な魔導変異種がこちらへ肉薄する。
それは、帝国の歪んだ魔導技術が生み出した「大地の悲鳴」そのものだった。腐りかけた肉塊から黒い油のような液体が滴り、戦艦の装甲を焼き溶かしていく。
「エレナ、無理はするな。あのような雑多な魔力の塊、我が一撃で塵にしてやると言っている」
ゼノス様が黄金の瞳を険しくし、私の肩を抱き寄せる。その指先には、すでに次元を切り裂くほどの漆黒の雷鳴が宿っていた。
「ありがとうございます、ゼノス様。でも、あれを破壊するだけでは、この地の傷は癒えません。……あれを『還して』あげなければならないのです」
私はゼノス様の胸から離れ、戦艦の先端へと歩みを進めた。
風が私の銀髪を激しくなびかせる。眼下には、恐怖に凍りつく帝国の辺境都市が見えた。
私は右腕の【星の楔】を解放した。
「――星脈、同調」
私の呟きと共に、白銀の紋章が爆発的な輝きを放つ。
かつて母国で毒を吸い取っていた時の苦痛はない。今、私の内側にはゼノス様の愛と、お腹に宿る新たな命の鼓動がある。その全方位に広がる温かな魔力が、私の腕を通して、空全体へと広がる巨大な『幾何学模様』を描き出した。
「な、なんだ……あの術式は!? 既存の魔法体系のどれにも当てはまらない……美しすぎる……!」
背後でアルヴィンが驚愕の声を漏らす。
私が右手を怪物の咆哮に向けて差し伸べると、溢れ出した白銀の粒子が、巨大な怪物を優しく包み込んだ。
「苦しかったわね。……もう、元の場所へ還っていいのですよ」
粒子が怪物に触れた瞬間、腐敗した肉と無機質な機械が、光の塵へと分解されていく。
破壊ではない。それは不純物を取り除き、純粋なエネルギーへと還元する「星の再編」。
咆哮は静かな吐息へと変わり、怪物の巨体は一筋の巨大な光の柱となって、枯れ果てた地脈へと吸い込まれていった。
直後、帝国の重苦しい煤煙が、まるでカーテンを開けるように真っ二つに割れた。
そこから差し込んだのは、この国の人々が何十年も忘れていた、本物の太陽の光。
「空が……。帝国の空が、青い……?」
「嘘だろ、地脈の壊死が止まって……花が、芽吹いている……!」
戦艦から見下ろす街々で、人々が窓を開け、奇跡を目の当たりにして涙を流していた。
私はゆっくりと腕を下げたが、めまいがして体が傾く。それを、ゼノス様が瞬時に抱きとめてくれた。
「……よくやった、エレナ。貴様は我の想像をどこまで超えれば気が済むのだ」
ゼノス様は呆れたように吐息をつき、けれどその瞳には隠しきれない誇らしさと、熱い情熱が宿っていた。
「……ゼノス様、少しだけ、疲れました」
「当然だ。後のことはすべて我が引き受ける。帝国も、皇帝も……この奇跡を見せつけられて、なお不敬を働く度胸はあるまい」
戦艦が帝都の巨大なドックへゆっくりと着陸していく。
そこには、冷徹さで知られる帝国の皇帝自身が、軍を率いて、そして……信じられないことに、最敬礼の姿勢で私たちを待ち構えていた。
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それは、帝国の歪んだ魔導技術が生み出した「大地の悲鳴」そのものだった。腐りかけた肉塊から黒い油のような液体が滴り、戦艦の装甲を焼き溶かしていく。
「エレナ、無理はするな。あのような雑多な魔力の塊、我が一撃で塵にしてやると言っている」
ゼノス様が黄金の瞳を険しくし、私の肩を抱き寄せる。その指先には、すでに次元を切り裂くほどの漆黒の雷鳴が宿っていた。
「ありがとうございます、ゼノス様。でも、あれを破壊するだけでは、この地の傷は癒えません。……あれを『還して』あげなければならないのです」
私はゼノス様の胸から離れ、戦艦の先端へと歩みを進めた。
風が私の銀髪を激しくなびかせる。眼下には、恐怖に凍りつく帝国の辺境都市が見えた。
私は右腕の【星の楔】を解放した。
「――星脈、同調」
私の呟きと共に、白銀の紋章が爆発的な輝きを放つ。
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「な、なんだ……あの術式は!? 既存の魔法体系のどれにも当てはまらない……美しすぎる……!」
背後でアルヴィンが驚愕の声を漏らす。
私が右手を怪物の咆哮に向けて差し伸べると、溢れ出した白銀の粒子が、巨大な怪物を優しく包み込んだ。
「苦しかったわね。……もう、元の場所へ還っていいのですよ」
粒子が怪物に触れた瞬間、腐敗した肉と無機質な機械が、光の塵へと分解されていく。
破壊ではない。それは不純物を取り除き、純粋なエネルギーへと還元する「星の再編」。
咆哮は静かな吐息へと変わり、怪物の巨体は一筋の巨大な光の柱となって、枯れ果てた地脈へと吸い込まれていった。
直後、帝国の重苦しい煤煙が、まるでカーテンを開けるように真っ二つに割れた。
そこから差し込んだのは、この国の人々が何十年も忘れていた、本物の太陽の光。
「空が……。帝国の空が、青い……?」
「嘘だろ、地脈の壊死が止まって……花が、芽吹いている……!」
戦艦から見下ろす街々で、人々が窓を開け、奇跡を目の当たりにして涙を流していた。
私はゆっくりと腕を下げたが、めまいがして体が傾く。それを、ゼノス様が瞬時に抱きとめてくれた。
「……よくやった、エレナ。貴様は我の想像をどこまで超えれば気が済むのだ」
ゼノス様は呆れたように吐息をつき、けれどその瞳には隠しきれない誇らしさと、熱い情熱が宿っていた。
「……ゼノス様、少しだけ、疲れました」
「当然だ。後のことはすべて我が引き受ける。帝国も、皇帝も……この奇跡を見せつけられて、なお不敬を働く度胸はあるまい」
戦艦が帝都の巨大なドックへゆっくりと着陸していく。
そこには、冷徹さで知られる帝国の皇帝自身が、軍を率いて、そして……信じられないことに、最敬礼の姿勢で私たちを待ち構えていた。
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