27 / 32
晩餐会の対峙と、墜ちた聖女
第27話:逆鱗に触れた龍
しおりを挟む
「――あ、ぐ……っ!」
お腹の奥を直接掴まれるような、魂を削り取られる激痛に私は膝を突いた。
枢機卿が振るう『星繋ぎの鈴』が鳴るたび、私の内側に宿る愛しい命の灯火が、冷たい虚空へと吸い出されようとしている。
「エレナ!」
ゼノス様が悲鳴のような叫び声を上げ、私を抱きとめる。その手が触れた瞬間、彼の肌から伝わってきたのは、震えるほどの激情――「怒り」などという言葉では到底言い表せない、世界そのものを焼き尽くさんとする破壊の衝動だった。
「教団の分際で……我の愛しき番と、その腹に宿る我が子を、道具のように弄ぶか……」
ゼノス様の黄金の瞳が、どろりと溶けたような紅蓮の色へと変貌する。
彼の背後で、銀色の魔力が爆発的に膨れ上がり、実体化した巨大な龍の四肢が、部屋の壁を紙細工のように粉砕した。
「聖なる結界だと? 我が牙が通らぬ理など、この世に存在せぬ!」
ゼノス様が吼える。その咆哮だけで、帝都中のガラスが砕け散り、枢機卿が展開していた黄金の結界に目に見えるほどの「亀裂」が走った。
「な、なんという力だ……。魔物の王といえど、神の術式を力技で叩き割るというのか!?」
枢機卿が顔を歪め、必死に鈴を鳴らし続ける。
私は、痛みに視界を白ませながらも、ゼノス様の腕の中で歯を食いしばった。
(……この子は、渡さない。二度と、誰の道具にもさせない!)
私を奈落へ突き落とした母国の連中も、私を部品にしようとした皇帝も、そしてこの子を依代にしようとする教団も。
誰もが自分の都合で、私たちの幸せを奪おうとする。
「――お下がりなさい。その『汚れた』音を、私の子供に聞かせないで!」
私の右腕、白銀の【星の楔】が、かつてないほど激しく脈動した。
浄化の光ではない。それは拒絶の光。
私の意思に呼応し、紋章から放たれた白銀の衝撃波が、枢機卿の持つ鈴を直撃した。
パリン――ッ!
甲高い音と共に、禁忌の魔道具が粉々に砕け散る。
同時に、私を苛んでいた激痛が消え去り、内側から溢れ出した聖女の力が、ゼノス様の龍の魔力と混ざり合って嵐のように吹き荒れた。
「……ぐ、あああぁっ!? 私の術式が、逆に浄化されている……!?」
枢機卿が光に焼かれ、無様に転がり出す。
だが、真の絶望はこれからだった。
鈴の呪縛から解放されたゼノス様が、完全な龍の姿を半分だけ顕現させ、枢機卿を逃げ場のない隅へと追い詰める。
「神の依代だと? 貴様ら人間が管理できるほど、我らの子は安くない。……その身に刻め。我の番に触れた罪を、万死をもって償え」
ゼノス様の掌に、銀と漆黒が混ざり合った、次元を崩壊させるほどの超高密度の魔力が収束していく。
今夜、帝都の一角が地図から消えようとしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お腹の奥を直接掴まれるような、魂を削り取られる激痛に私は膝を突いた。
枢機卿が振るう『星繋ぎの鈴』が鳴るたび、私の内側に宿る愛しい命の灯火が、冷たい虚空へと吸い出されようとしている。
「エレナ!」
ゼノス様が悲鳴のような叫び声を上げ、私を抱きとめる。その手が触れた瞬間、彼の肌から伝わってきたのは、震えるほどの激情――「怒り」などという言葉では到底言い表せない、世界そのものを焼き尽くさんとする破壊の衝動だった。
「教団の分際で……我の愛しき番と、その腹に宿る我が子を、道具のように弄ぶか……」
ゼノス様の黄金の瞳が、どろりと溶けたような紅蓮の色へと変貌する。
彼の背後で、銀色の魔力が爆発的に膨れ上がり、実体化した巨大な龍の四肢が、部屋の壁を紙細工のように粉砕した。
「聖なる結界だと? 我が牙が通らぬ理など、この世に存在せぬ!」
ゼノス様が吼える。その咆哮だけで、帝都中のガラスが砕け散り、枢機卿が展開していた黄金の結界に目に見えるほどの「亀裂」が走った。
「な、なんという力だ……。魔物の王といえど、神の術式を力技で叩き割るというのか!?」
枢機卿が顔を歪め、必死に鈴を鳴らし続ける。
私は、痛みに視界を白ませながらも、ゼノス様の腕の中で歯を食いしばった。
(……この子は、渡さない。二度と、誰の道具にもさせない!)
私を奈落へ突き落とした母国の連中も、私を部品にしようとした皇帝も、そしてこの子を依代にしようとする教団も。
誰もが自分の都合で、私たちの幸せを奪おうとする。
「――お下がりなさい。その『汚れた』音を、私の子供に聞かせないで!」
私の右腕、白銀の【星の楔】が、かつてないほど激しく脈動した。
浄化の光ではない。それは拒絶の光。
私の意思に呼応し、紋章から放たれた白銀の衝撃波が、枢機卿の持つ鈴を直撃した。
パリン――ッ!
甲高い音と共に、禁忌の魔道具が粉々に砕け散る。
同時に、私を苛んでいた激痛が消え去り、内側から溢れ出した聖女の力が、ゼノス様の龍の魔力と混ざり合って嵐のように吹き荒れた。
「……ぐ、あああぁっ!? 私の術式が、逆に浄化されている……!?」
枢機卿が光に焼かれ、無様に転がり出す。
だが、真の絶望はこれからだった。
鈴の呪縛から解放されたゼノス様が、完全な龍の姿を半分だけ顕現させ、枢機卿を逃げ場のない隅へと追い詰める。
「神の依代だと? 貴様ら人間が管理できるほど、我らの子は安くない。……その身に刻め。我の番に触れた罪を、万死をもって償え」
ゼノス様の掌に、銀と漆黒が混ざり合った、次元を崩壊させるほどの超高密度の魔力が収束していく。
今夜、帝都の一角が地図から消えようとしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
57
あなたにおすすめの小説
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~
遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。
「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」
彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。
瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット!
彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる!
その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。
一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。
知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!
【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?
如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。
留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。
政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。
家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。
「こんな国、もう知らない!」
そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。
アトリアは弱いながらも治癒の力がある。
子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。
それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。
「ぜひ我が国へ来てほしい」
男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。
「……ん!?」
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください
放浪人
恋愛
社交界で“悪女”と呼ばれ、無実の罪で断罪された公爵令嬢リディア。
処刑の刃が落ちた瞬間、彼女は断罪される半年前の朝に時を遡っていた。
「二度目も殺されるなんて御免だわ。私は、何もできない無能な令嬢になって生き延びる!」
有能さが仇になったと悟ったリディアは、プライドも実績も捨てて「無能」を装い、北の辺境・白夜領へ引きこもる計画を立てる。
これで平和なスローライフが送れる……はずだった。
けれど、幼い頃から仕える専属執事・レージだけは誤魔化せない。
彼はリディアの嘘を最初から見抜いているくせに、涼しい顔で「無能な主人」を完璧に演じさせてくれないのだ。
「黙っててと言いましたよね?」
「ええ。ですから黙って、あなたが快適に過ごせるよう裏ですべて処理しておきました」
過保護すぎる執事に管理され、逃げ道を塞がれながらも、リディアは持ち前の正義感で領地の危機を次々と救ってしまう。
隠したいのに、有能さがダダ漏れ。
そうこうするうちに王都からは聖女と王太子の魔の手が迫り――?
「守られるだけはもう終わり。……レージ、私に力を貸しなさい」
これは、一度死んだ令嬢が「言葉」と「誇り」を取り戻し、過保護な執事の手を振りほどいて、対等なパートナーとして共に幸せを掴み取るまでの物語。
元婚約者に冷たく捨てられた伯爵令嬢、努力が実って王太子の恋人に。今さら跪かれても遅いですわ!
sika
恋愛
幼い頃から完璧な淑女として育てられたクロエは、心から想っていた婚約者に「君の努力は重い」と一言で婚約破棄を突きつけられる。
絶望の淵に立たされた彼女だったが、ある夜、偶然出会った温かな笑みの青年──実は身分を隠した王太子であるノエルと運命的な出会いを果たす。
新たな居場所で才能を咲かせ、彼の隣で花開くクロエ。だが元婚約者が後悔と嫉妬を滲ませ再び現れたとき──彼女は毅然と微笑む。
「貴方の愛を乞われるほど、私の人生は安くありませんわ」
これは、見放された令嬢が愛と誇りを手にする逆転劇。そして、誰より彼女を溺愛する王太子の物語。
偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~
日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】
https://ncode.syosetu.com/n9071il/
異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。
貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。
イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。
このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん?
別にいっか!
聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね!
重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる