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晩餐会の対峙と、墜ちた聖女
第28話:嵐の後の静寂と決意
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「死ね、塵が」
ゼノス様の指先から放たれようとしているのは、一撃で帝都の中枢を消滅させかねない破壊の奔流だった。枢機卿はすでに腰を抜かし、神への祈りさえ忘れて震えている。
このままでは、罪のない帝都の民までが、この怒りの余波に飲み込まれてしまう。
「――ゼノス様、もう止めてください!」
私は痛む体を揺り動かし、背後からゼノス様の逞しい腰にしがみついた。
龍の鱗のように硬く、熱を帯びた彼の背中に、そっと頬を寄せる。
「エレナ、退け。この男は貴様と我が子を害そうとしたのだ。生かしておく理由がない」
「わかっています。でも、あなたのその手は、私とこの子を抱きしめるためのものでしょう? こんな男の血で、これ以上汚さないで……」
私の必死の訴えに、ゼノス様の背中の震えがピタリと止まった。
荒れ狂っていた銀と漆黒の魔力が、霧が晴れるように静まっていく。彼はゆっくりと人の姿に戻ると、崩れ落ちるように私を振り返り、その大きな手で私の頬を包み込んだ。
「……すまぬ、エレナ。貴様を案じるあまり、我としたことが理性を失った」
「いいえ。守ってくださって、ありがとうございます」
ゼノス様は私を抱き寄せると、這いつくばる枢機卿を、ゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
「命拾いしたな。だが、至聖教団へ伝えておけ。我が子に指一本でも触れようとすれば、この大陸全土から『聖域』と名の付く場所をすべて焼き尽くしてやると」
枢機卿は返事もできぬまま、這うようにして部屋から逃げ出していった。
嵐が去った後の静寂の中、私は窓の外を見つめた。
帝都の夜明けが近い。けれど、その光は決して穏やかなものではない。
母国の断罪、帝国の浄化、そして教団との決裂。私を「不浄」と呼んだ世界は、今や私という存在を巡って、巨大な争いの渦へと巻き込まれようとしている。
「ゼノス様。私、決めましたわ」
私はお腹の上で、白銀に輝く右腕を強く握りしめた。
「もう、隠れて過ごすのは終わりです。私は夜の王妃として、そして星の守護者として、この子が進む道を阻むすべての不浄を、私自身の手で掃い清めます」
私の瞳に宿る白銀の光は、もはやかつての弱々しさは微塵もなかった。
「ククッ……。良い。それでこそ我の選んだ唯一の女だ。ならば行こう。世界を平らげ、我が子のための揺り籠に変えてやろうではないか」
ゼノス様が私の手を取り、夜明けの空へ向かって力強く歩き出す。
不浄の令嬢が綴る、世界を塗り替えるための真の逆襲劇は、ここからが本番だった。
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ゼノス様の指先から放たれようとしているのは、一撃で帝都の中枢を消滅させかねない破壊の奔流だった。枢機卿はすでに腰を抜かし、神への祈りさえ忘れて震えている。
このままでは、罪のない帝都の民までが、この怒りの余波に飲み込まれてしまう。
「――ゼノス様、もう止めてください!」
私は痛む体を揺り動かし、背後からゼノス様の逞しい腰にしがみついた。
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「わかっています。でも、あなたのその手は、私とこの子を抱きしめるためのものでしょう? こんな男の血で、これ以上汚さないで……」
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荒れ狂っていた銀と漆黒の魔力が、霧が晴れるように静まっていく。彼はゆっくりと人の姿に戻ると、崩れ落ちるように私を振り返り、その大きな手で私の頬を包み込んだ。
「……すまぬ、エレナ。貴様を案じるあまり、我としたことが理性を失った」
「いいえ。守ってくださって、ありがとうございます」
ゼノス様は私を抱き寄せると、這いつくばる枢機卿を、ゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
「命拾いしたな。だが、至聖教団へ伝えておけ。我が子に指一本でも触れようとすれば、この大陸全土から『聖域』と名の付く場所をすべて焼き尽くしてやると」
枢機卿は返事もできぬまま、這うようにして部屋から逃げ出していった。
嵐が去った後の静寂の中、私は窓の外を見つめた。
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母国の断罪、帝国の浄化、そして教団との決裂。私を「不浄」と呼んだ世界は、今や私という存在を巡って、巨大な争いの渦へと巻き込まれようとしている。
「ゼノス様。私、決めましたわ」
私はお腹の上で、白銀に輝く右腕を強く握りしめた。
「もう、隠れて過ごすのは終わりです。私は夜の王妃として、そして星の守護者として、この子が進む道を阻むすべての不浄を、私自身の手で掃い清めます」
私の瞳に宿る白銀の光は、もはやかつての弱々しさは微塵もなかった。
「ククッ……。良い。それでこそ我の選んだ唯一の女だ。ならば行こう。世界を平らげ、我が子のための揺り籠に変えてやろうではないか」
ゼノス様が私の手を取り、夜明けの空へ向かって力強く歩き出す。
不浄の令嬢が綴る、世界を塗り替えるための真の逆襲劇は、ここからが本番だった。
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