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晩餐会の対峙と、墜ちた聖女
第29話:断罪の円卓
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帝都の中央、各国の代表が集う『世界会議』の会場。
そこには、かつて私を奈落へ突き落としたサンクチュアリ王国の影も、醜く這いずり回っていた。
「……お、おのれ、エレナ……。私の、私の美貌を返しなさい!」
会場の隅、教団の保護下にあるという名目で現れたセリナは、見る影もなく変わり果てていた。
かつての輝かしい金髪は抜け落ち、肌には呪いの残滓である黒い斑点が浮き出ている。それを隠すために厚手のベールを被っているが、漏れ出る悪臭までは隠しきれていない。
カイル王子もまた、度重なる心労と「澱み」の影響で、かつての快活さは消え、怯えた獣のように周囲を伺っていた。
「静かにしろ、セリナ。……枢機卿閣下が、今日こそあのアバズレから『聖権』を取り戻してくださる。そうすれば、我々は再びこの世界の中心に返り咲けるのだ」
カイルが縋るような視線を向けた先には、先日ゼノス様に叩き伏せられたはずの枢機卿が、包帯を巻いた姿で不気味に微笑んでいた。
「――皆様、お揃いのようですね」
重厚な扉が開き、私とゼノス様が入場した瞬間、会場の空気が物理的な重圧で支配された。
私は、夜の国の最高礼装である、銀龍の鱗を加工した純白のドレスを纏い、堂々と中央の席へと進む。その神々しい姿に、他国の王たちは言葉を失い、カイルはあまりの格差に絶望して震えた。
「夜の王妃エレナよ。君の力は認めるが、その胎に宿る子はあまりに危険だ」
枢機卿が、傷んだ声を絞り出して告発する。
「魔王の血と聖女の血。それが混ざり合えば、世界を滅ぼす災厄となるだろう。ゆえに我ら教団は、今日この場で、聖女エレナの『剥奪』と、胎児の『封印』を提言する!」
教団の呼びかけに応じるように、彼らに買収された小国の代表たちが一斉に同調の声を上げる。
だが、私は動じなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、白銀に輝く右腕を、今にも叫び出しそうなセリナと、かつての婚約者へと向けた。
「剥奪、ですか。……では、枢機卿。あなた方が『聖女』と崇めていた私の妹の、そのベールの下にある真実を、今一度世界に示してはいかがでしょう?」
「な、何を……やめなさい! お姉様!」
私が指先を鳴らすと、白銀の光がセリナのベールを優しく、けれど容赦なく弾き飛ばした。
露わになったのは、腐敗と毒に蝕まれた、見るに堪えない「偽りの聖女」の末路。
「……ひっ!?」「なんだ、あの怪物は!」
会場に悲鳴が上がる。セリナは顔を覆って泣き叫び、カイルは汚いものを見るように彼女から身を引いた。
「これこそが、あなた方が私という『ゴミ箱』を捨てて得た結果です。……枢機卿。自らが作り出した毒さえ浄化できない者に、私の、そして私の子供の運命を左右する資格があるとでも?」
私は一歩、枢機卿に向かって踏み出す。
その足元から、清冽な白銀の華が咲き誇り、会場を満たしていた教団の淀んだ空気をごっそりと塗り替えていく。
「――私はもう、誰の言いなりにもなりません。この命も、未来も、すべて私自身が勝ち取ります」
私の宣言と共に、ゼノス様が満足げに立ち上がった。
その影が龍の形を成し、円卓に集まった者たちを、今度こそ完全に黙らせた。
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そこには、かつて私を奈落へ突き落としたサンクチュアリ王国の影も、醜く這いずり回っていた。
「……お、おのれ、エレナ……。私の、私の美貌を返しなさい!」
会場の隅、教団の保護下にあるという名目で現れたセリナは、見る影もなく変わり果てていた。
かつての輝かしい金髪は抜け落ち、肌には呪いの残滓である黒い斑点が浮き出ている。それを隠すために厚手のベールを被っているが、漏れ出る悪臭までは隠しきれていない。
カイル王子もまた、度重なる心労と「澱み」の影響で、かつての快活さは消え、怯えた獣のように周囲を伺っていた。
「静かにしろ、セリナ。……枢機卿閣下が、今日こそあのアバズレから『聖権』を取り戻してくださる。そうすれば、我々は再びこの世界の中心に返り咲けるのだ」
カイルが縋るような視線を向けた先には、先日ゼノス様に叩き伏せられたはずの枢機卿が、包帯を巻いた姿で不気味に微笑んでいた。
「――皆様、お揃いのようですね」
重厚な扉が開き、私とゼノス様が入場した瞬間、会場の空気が物理的な重圧で支配された。
私は、夜の国の最高礼装である、銀龍の鱗を加工した純白のドレスを纏い、堂々と中央の席へと進む。その神々しい姿に、他国の王たちは言葉を失い、カイルはあまりの格差に絶望して震えた。
「夜の王妃エレナよ。君の力は認めるが、その胎に宿る子はあまりに危険だ」
枢機卿が、傷んだ声を絞り出して告発する。
「魔王の血と聖女の血。それが混ざり合えば、世界を滅ぼす災厄となるだろう。ゆえに我ら教団は、今日この場で、聖女エレナの『剥奪』と、胎児の『封印』を提言する!」
教団の呼びかけに応じるように、彼らに買収された小国の代表たちが一斉に同調の声を上げる。
だが、私は動じなかった。
私はゆっくりと立ち上がり、白銀に輝く右腕を、今にも叫び出しそうなセリナと、かつての婚約者へと向けた。
「剥奪、ですか。……では、枢機卿。あなた方が『聖女』と崇めていた私の妹の、そのベールの下にある真実を、今一度世界に示してはいかがでしょう?」
「な、何を……やめなさい! お姉様!」
私が指先を鳴らすと、白銀の光がセリナのベールを優しく、けれど容赦なく弾き飛ばした。
露わになったのは、腐敗と毒に蝕まれた、見るに堪えない「偽りの聖女」の末路。
「……ひっ!?」「なんだ、あの怪物は!」
会場に悲鳴が上がる。セリナは顔を覆って泣き叫び、カイルは汚いものを見るように彼女から身を引いた。
「これこそが、あなた方が私という『ゴミ箱』を捨てて得た結果です。……枢機卿。自らが作り出した毒さえ浄化できない者に、私の、そして私の子供の運命を左右する資格があるとでも?」
私は一歩、枢機卿に向かって踏み出す。
その足元から、清冽な白銀の華が咲き誇り、会場を満たしていた教団の淀んだ空気をごっそりと塗り替えていく。
「――私はもう、誰の言いなりにもなりません。この命も、未来も、すべて私自身が勝ち取ります」
私の宣言と共に、ゼノス様が満足げに立ち上がった。
その影が龍の形を成し、円卓に集まった者たちを、今度こそ完全に黙らせた。
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