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第二章 聖域の露呈と、歪んだ浄化
第7話:実家の襲来と、血の拒絶
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氷の城の謁見の間に、場違いな不協和音が響いていた。エルシアの父である公爵と、その傍らで不安げに、しかし計算高く周囲を伺う妹のステラ。二人は厚い毛皮に身を包みながらも、城を支配する圧倒的な冷気に歯の根を鳴らしている。
「……遅い。辺境伯ともあろうお方が、我ら公爵家をこれほど待たせるとは」
父が苛立ちを口にしたその瞬間、正面の重厚な扉が音もなく開いた。現れたのは、漆黒の礼装を纏ったゼノス。そして、その腕の中に、まるで宝物のように抱き抱えられたエルシアだった。
「ひ……っ!」
ステラが小さく悲鳴を上げる。エルシアの姿は、あまりにも変貌していた。実家にいた頃の煤けた服ではなく、最高級の薄紗で編まれたドレス。だが、その首筋には目を疑うほど鮮やかな深紅の刻印が浮かび上がり、足首が動くたびに、チリン、チリンと、家畜に繋ぐような金の鈴が甘い音を立てる。
「待たせたな。我が愛妻が、俺の腕の中から離れたがらなくてね」
ゼノスは傲岸に言い放つと、中央の玉座に腰を下ろした。エルシアを下ろすことはせず、そのまま自分の膝の上に乗せ、太ももを強引に抱え込む。
「エ、エルシア……! なんという破廉恥な姿を……!」 「お父様、お久しぶりです」
エルシアの声は、驚くほど静かだった。ゼノスの胸に背中を預け、彼の魔力が肌を撫でる陶酔感に耐えながら、かつての家族を見据える。
「……用件は何ですか。私は今、ゼノス様と密やかな時間を過ごしていたのです。邪魔をしないでいただきたいわ」 「な……っ! お前、売られた身でありながら、その言い草はなんだ!」
父が激昂し、エルシアの腕を掴もうと一歩踏み出した。その瞬間、ゼノスの瞳が虚無に染まる。
「――触れるな」
凍てつく威圧感が部屋中を席巻し、父の足元が瞬時に氷結した。氷の刃が父の喉元に突きつけられ、一歩でも動けば首が飛ぶという絶望がその場を支配する。
「この女の肌に触れていいのは、世界で俺一人だ。その汚らわしい手を引っ込めろ。さもなくば、お前の公爵領ごと凍土に変えてやる」 「ゼ、ゼノス様……! お待ちください、話があるのです!」
ステラが震えながら前に出る。彼女は必死に瞳を潤ませ、ゼノスを誘惑するように見上げた。
「お姉様は魔力を持たない無能ですわ。そのような欠陥品では、公爵様の呪いを癒やすことなど……。光の魔力を持つ私なら、もっとお役に立てるはずです。ですから、お姉様を返して、私を……」
エルシアの胸に、不快なざわつきが広がる。だが、それをかき消したのは、ゼノスの低い笑い声だった。彼はエルシアの腰を引き寄せ、わざとらしく彼女の耳たぶを蹂躙んだ。
「く……っ、あ、……ぁん……っ」
家族の前で漏らされた、淫らな吐息。エルシアは羞恥に顔を赤らめるが、首筋の刻印がゼノスの魔力に反応し、快楽の毒が全身を駆け巡る。
「欠陥品だと? 笑わせるな。エルシアの透明の魔力こそが、俺の黒い呪いを飲み込み、至上の蜜へと変える。……ステラと言ったか。お前のような濁った光では、俺の指先一つ癒やすことはできん」
ゼノスはエルシアの足首の鈴を、指先でチリンと鳴らした。
「エルシア。お前はどうしたい? この男たちが、お前を連れ戻したいと言っているが」
エルシアは、自分を捨てた父と、虐げてきた妹を冷ややかに見下ろした。かつての恐怖は、もうない。今の自分を満たしているのは、この美しく狂った男から与えられる、暴力的なまでの愛と魔力だけだ。
「……お父様、ステラ。私に触らないで。あなたたちの匂いを嗅ぐだけで、吐き気がするの」 「な、……お前っ!」 「私は、ここがいいわ。……ゼノス様の毒に溶かされて、この檻の中で死ぬのが、一番幸せなんですもの」
エルシアは自ら、ゼノスの太い首に腕を回した。ゼノスが満足げに目を細め、彼女の唇を蹂躙するように塞ぐ。実家の家族が見守る前で、濃厚な愛の儀式が繰り広げられる。
「聴いたか。……もうお前たちの居場所はない。エルシアは、骨の髄まで俺のものだ」
ゼノスが手を振ると、公爵とステラは突風に吹き飛ばされ、謁見の間から無惨に放り出された。扉が閉まり、再び二人きりの沈黙が訪れる。
「……よく言った、エルシア。ご褒美が必要だな」
ゼノスの手が、ドレスの胸元を乱暴に寛げていく。実家を拒絶した代償は、今夜もまた、息もできないほどの執拗な求愛で支払われることになるのだ。
【作者より】面白いと思っていただけたら、ぜひ「いいね」「感想」「エール」をお願いします!
「……遅い。辺境伯ともあろうお方が、我ら公爵家をこれほど待たせるとは」
父が苛立ちを口にしたその瞬間、正面の重厚な扉が音もなく開いた。現れたのは、漆黒の礼装を纏ったゼノス。そして、その腕の中に、まるで宝物のように抱き抱えられたエルシアだった。
「ひ……っ!」
ステラが小さく悲鳴を上げる。エルシアの姿は、あまりにも変貌していた。実家にいた頃の煤けた服ではなく、最高級の薄紗で編まれたドレス。だが、その首筋には目を疑うほど鮮やかな深紅の刻印が浮かび上がり、足首が動くたびに、チリン、チリンと、家畜に繋ぐような金の鈴が甘い音を立てる。
「待たせたな。我が愛妻が、俺の腕の中から離れたがらなくてね」
ゼノスは傲岸に言い放つと、中央の玉座に腰を下ろした。エルシアを下ろすことはせず、そのまま自分の膝の上に乗せ、太ももを強引に抱え込む。
「エ、エルシア……! なんという破廉恥な姿を……!」 「お父様、お久しぶりです」
エルシアの声は、驚くほど静かだった。ゼノスの胸に背中を預け、彼の魔力が肌を撫でる陶酔感に耐えながら、かつての家族を見据える。
「……用件は何ですか。私は今、ゼノス様と密やかな時間を過ごしていたのです。邪魔をしないでいただきたいわ」 「な……っ! お前、売られた身でありながら、その言い草はなんだ!」
父が激昂し、エルシアの腕を掴もうと一歩踏み出した。その瞬間、ゼノスの瞳が虚無に染まる。
「――触れるな」
凍てつく威圧感が部屋中を席巻し、父の足元が瞬時に氷結した。氷の刃が父の喉元に突きつけられ、一歩でも動けば首が飛ぶという絶望がその場を支配する。
「この女の肌に触れていいのは、世界で俺一人だ。その汚らわしい手を引っ込めろ。さもなくば、お前の公爵領ごと凍土に変えてやる」 「ゼ、ゼノス様……! お待ちください、話があるのです!」
ステラが震えながら前に出る。彼女は必死に瞳を潤ませ、ゼノスを誘惑するように見上げた。
「お姉様は魔力を持たない無能ですわ。そのような欠陥品では、公爵様の呪いを癒やすことなど……。光の魔力を持つ私なら、もっとお役に立てるはずです。ですから、お姉様を返して、私を……」
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「く……っ、あ、……ぁん……っ」
家族の前で漏らされた、淫らな吐息。エルシアは羞恥に顔を赤らめるが、首筋の刻印がゼノスの魔力に反応し、快楽の毒が全身を駆け巡る。
「欠陥品だと? 笑わせるな。エルシアの透明の魔力こそが、俺の黒い呪いを飲み込み、至上の蜜へと変える。……ステラと言ったか。お前のような濁った光では、俺の指先一つ癒やすことはできん」
ゼノスはエルシアの足首の鈴を、指先でチリンと鳴らした。
「エルシア。お前はどうしたい? この男たちが、お前を連れ戻したいと言っているが」
エルシアは、自分を捨てた父と、虐げてきた妹を冷ややかに見下ろした。かつての恐怖は、もうない。今の自分を満たしているのは、この美しく狂った男から与えられる、暴力的なまでの愛と魔力だけだ。
「……お父様、ステラ。私に触らないで。あなたたちの匂いを嗅ぐだけで、吐き気がするの」 「な、……お前っ!」 「私は、ここがいいわ。……ゼノス様の毒に溶かされて、この檻の中で死ぬのが、一番幸せなんですもの」
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ゼノスが手を振ると、公爵とステラは突風に吹き飛ばされ、謁見の間から無惨に放り出された。扉が閉まり、再び二人きりの沈黙が訪れる。
「……よく言った、エルシア。ご褒美が必要だな」
ゼノスの手が、ドレスの胸元を乱暴に寛げていく。実家を拒絶した代償は、今夜もまた、息もできないほどの執拗な求愛で支払われることになるのだ。
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