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第三章 侵食される境界線
第16話:毒された体温と、終わらない渇望
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騎士の鮮血が飛び散った寝室で、エルシアは一人、自らの手をじっと見つめていた。 かつては病める者を癒やし、枯れた大地に花を咲かせたその指先は、今や一人の男の目を迷いなく突き刺し、その命を奪った。それなのに、胸を占めているのは罪悪感ではなく、ゼノスに褒められたという背徳的な充足感だけだった。
「……はぁ、っ、……熱い……っ」
ふいに、全身を激しい虚脱感が襲った。 呪いを共有し、ゼノスの魔力なしでは生きられない体質へと変質した弊害――魔力飢餓だ。 騎士を殺めるためにゼノスの力を借りたことで、彼女の体内にあった「毒」が枯渇し、細胞の一つ一つが悲鳴を上げ始めたのだ。
「ゼノス、様……。どこ、……どこですか……っ」
エルシアは這いずるようにして、天蓋付きのベッドから転がり落ちた。 床の冷たさが、火照りきった肌を刺す。足首の金の鈴が、助けを求めるように激しく、不規則に鳴り響く。 視界がチカチカと明滅し、内側から身体が崩壊していくような恐怖。今の彼女にとって、ゼノスの魔力は空気よりも、水よりも必要な、生命維持のための絶対条件となっていた。
「ここだ、エルシア」
背後から伸びてきた腕が、冷え切った彼女の体を軽々と抱き上げる。 その瞬間に肌から伝わるゼノスの体温。それだけでエルシアの脳内に、暴力的なまでの安らぎが駆け巡った。
「あ、……ぁ、……っ、ゼノス、様……っ。遅い、です……死んでしまうかと……思いました……っ」 「すまない。お前の体があれほどの短時間で、これほどまでに俺を求めてしまうようになるとは、俺の予想を超えていた」
ゼノスはエルシアを椅子に座らせ、彼女の前に跪いた。 彼は手袋を外した素手で、エルシアの細い太ももを割り、その奥に広がる呪いの紋様を愛おしげになぞる。
「……苦しいか、エルシア。俺がいなければ、一秒も耐えられないか?」 「はい、……そうです……。もっと、……もっと私に、あなたの毒をください……っ。首筋も、胸も、……もっと深く、……私を汚して……っ」
エルシアは自らドレスの襟元を大きく寛げ、ゼノスの頭を自分の胸元へと引き寄せた。 かつての清楚な聖女の面影はどこにもない。そこにあるのは、魔力という名の快楽に溺れ、主を強請るだけの淫らな獣の姿だった。
「いい子だ。お前のその飢えが、俺を狂わせる」
ゼノスは剥き出しになったエルシアの肩に、深く、鋭く、その牙を立てた。 首筋にある既存の刻印よりも深く、激しく。 凄まじい密度の魔力が、エルシアの血管へ直接流し込まれる。
「あ、……ぁ、……あぁぁぁああっ!!」
エルシアはのけ反り、ゼノスの黒髪を掻きむしった。 身体中の血液が沸騰し、思考が白く塗り潰される。彼女の背中に刻まれた蝶の紋章が、ゼノスの流入に呼応して、毒々しいほど鮮やかな燐光を放った。
「ひ、あ、……っ、あぁ、……っ!すご、い……っ、満たされて、いく……っ!」 「これでお前は、一生俺の腕の中から逃げられない。俺から離れれば、その瞬間にお前の体は内側から腐り落ち、絶命するだろう」
ゼノスは吸い付いた場所から口を離すと、銀糸のような唾液を引き、満足げに微笑んだ。 エルシアの瞳は完全に虚脱し、ただゼノスの顔を見つめることしかできない。
外の世界では、彼女を連れ戻そうとする騎士たちが死体となって転がっている。 けれど、そんなことはもう、どうでもいい。 自分の命が、自分のものではなく、この男の指先一つに握られているという事実。 その残酷な隷属こそが、今のエルシアにとっての唯一の福音だった。
「……ゼノス、様。私を……永遠に、離さないで……」 「ああ。死が二人を分かつその時まで。……いや、死んだ後も、お前の魂ごと、俺の地獄へ連れて行ってやる」
二人の影が重なり、足首の鈴が、祝祭の鐘のように高らかに鳴り響いた。
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「……はぁ、っ、……熱い……っ」
ふいに、全身を激しい虚脱感が襲った。 呪いを共有し、ゼノスの魔力なしでは生きられない体質へと変質した弊害――魔力飢餓だ。 騎士を殺めるためにゼノスの力を借りたことで、彼女の体内にあった「毒」が枯渇し、細胞の一つ一つが悲鳴を上げ始めたのだ。
「ゼノス、様……。どこ、……どこですか……っ」
エルシアは這いずるようにして、天蓋付きのベッドから転がり落ちた。 床の冷たさが、火照りきった肌を刺す。足首の金の鈴が、助けを求めるように激しく、不規則に鳴り響く。 視界がチカチカと明滅し、内側から身体が崩壊していくような恐怖。今の彼女にとって、ゼノスの魔力は空気よりも、水よりも必要な、生命維持のための絶対条件となっていた。
「ここだ、エルシア」
背後から伸びてきた腕が、冷え切った彼女の体を軽々と抱き上げる。 その瞬間に肌から伝わるゼノスの体温。それだけでエルシアの脳内に、暴力的なまでの安らぎが駆け巡った。
「あ、……ぁ、……っ、ゼノス、様……っ。遅い、です……死んでしまうかと……思いました……っ」 「すまない。お前の体があれほどの短時間で、これほどまでに俺を求めてしまうようになるとは、俺の予想を超えていた」
ゼノスはエルシアを椅子に座らせ、彼女の前に跪いた。 彼は手袋を外した素手で、エルシアの細い太ももを割り、その奥に広がる呪いの紋様を愛おしげになぞる。
「……苦しいか、エルシア。俺がいなければ、一秒も耐えられないか?」 「はい、……そうです……。もっと、……もっと私に、あなたの毒をください……っ。首筋も、胸も、……もっと深く、……私を汚して……っ」
エルシアは自らドレスの襟元を大きく寛げ、ゼノスの頭を自分の胸元へと引き寄せた。 かつての清楚な聖女の面影はどこにもない。そこにあるのは、魔力という名の快楽に溺れ、主を強請るだけの淫らな獣の姿だった。
「いい子だ。お前のその飢えが、俺を狂わせる」
ゼノスは剥き出しになったエルシアの肩に、深く、鋭く、その牙を立てた。 首筋にある既存の刻印よりも深く、激しく。 凄まじい密度の魔力が、エルシアの血管へ直接流し込まれる。
「あ、……ぁ、……あぁぁぁああっ!!」
エルシアはのけ反り、ゼノスの黒髪を掻きむしった。 身体中の血液が沸騰し、思考が白く塗り潰される。彼女の背中に刻まれた蝶の紋章が、ゼノスの流入に呼応して、毒々しいほど鮮やかな燐光を放った。
「ひ、あ、……っ、あぁ、……っ!すご、い……っ、満たされて、いく……っ!」 「これでお前は、一生俺の腕の中から逃げられない。俺から離れれば、その瞬間にお前の体は内側から腐り落ち、絶命するだろう」
ゼノスは吸い付いた場所から口を離すと、銀糸のような唾液を引き、満足げに微笑んだ。 エルシアの瞳は完全に虚脱し、ただゼノスの顔を見つめることしかできない。
外の世界では、彼女を連れ戻そうとする騎士たちが死体となって転がっている。 けれど、そんなことはもう、どうでもいい。 自分の命が、自分のものではなく、この男の指先一つに握られているという事実。 その残酷な隷属こそが、今のエルシアにとっての唯一の福音だった。
「……ゼノス、様。私を……永遠に、離さないで……」 「ああ。死が二人を分かつその時まで。……いや、死んだ後も、お前の魂ごと、俺の地獄へ連れて行ってやる」
二人の影が重なり、足首の鈴が、祝祭の鐘のように高らかに鳴り響いた。
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