初夜に「快楽の毒」を注がれた身代わり花嫁。〜冷徹な魔公爵は「もう二度と逃がさない」と私の首筋に所有の証を深く刻み込む〜

しょくぱん

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第三章 侵食される境界線

第20話:共依存の絶頂と、死神の契約書

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 窓のない寝室は、もはや時間さえも凍りついた聖域おりとなっていた。 紫煙の香りに燻され、ゼノスの魔力に浸かりきったエルシアは、一日のほとんどを彼の腕の中で過ごしている。食事も、入浴も、排泄に近い世話までもが、ゼノスの大きな手によって行われる。彼女はもはや、自分の足で立つことさえ忘れかけていた。

「……ゼノス、様……。外は、……まだ、雪……ですか?」 「ああ。永遠に止まぬ雪だ。お前を隠すための、白いとばりだよ」

ゼノスはエルシアの背後から、彼女の肢体からだを丸ごと包み込むように抱いている。 エルシアの背中に刻まれた蝶の紋章まもんは、ゼノスの心臓の鼓動と完全に同期し、トクン、トクンと妖しく明滅していた。二人の境界線は、汗と魔力が混じり合う中で限りなく透明になり、一つの生き物のように癒着ゆちゃくし始めている。

足首の金の鈴アンクレットが、愛を交わすたびに甘く鳴る。その音はもはや屈辱ではなく、彼女が「ここに存在していい」という唯一の許可証のようだった。

だが、その平穏きょうきを切り裂くように、一通の紙切れが卓上の上で淡い光を放った。 それは、一年前のあの日、血のインクで交わされた――『身代わり婚姻契約書』。

「……あ、……れ、は……?」

エルシアの虚ろな瞳が、その紙を捉えた。 忘却の香によって塗り潰されていた記憶が、紙面に記された『期間:一年』という文字を見た瞬間、心臓を直接掴まれたような衝撃と共に蘇る。

「……そう、だ……。私、……一年経ったら、自由になれるって……。お父様たちが、そう……」 「自由?」

ゼノスの声が、一瞬にして絶対零度ぜったいれいどまで冷え切った。 彼はエルシアの細い首に手をかけ、自分の方へと強制的に向かせる。その瞳には、今まで見せたことのない、底なしの深淵くらやみが渦巻いていた。

「お前は、この檻を自由と呼んでいたはずだ。……今さら、あの薄汚い外の世界へ戻りたいと言うのか?俺を置いて」 「あ、……ちが、……ちがいます、ゼノス様……っ!でも、契約が……」 「契約だと?あんなものは、お前を正当に拉致さらうするための口実に過ぎない」

ゼノスは契約書を指先でなぞった。すると、紙面が黒く腐食し、無惨な灰となって散っていく。 彼は怯えるエルシアをベッドに押し倒し、その両手首を頭の上で押さえつけた。

「いいか、エルシア。明日で、あの日からちょうど一年だ。……世間では『契約終了』と呼ばれる日だな。だが、俺とお前の契約に『終わり』など存在しない」

ゼノスは彼女の首筋、ちょうど一年前に初めて噛み付いたその場所を、肉を抉るほど深く蹂躙じゅうりんした。

「ひ、あ、……ぁぁぁああかっ!!」

激痛と、それ以上の密度で流れ込む支配の魔力どく。 エルシアはのけ反り、シーツを掻きむしる。契約が切れるという事実が、逆にゼノスの独占欲を最後の防壁さえも決壊させるほどの狂気パッションへと変えていた。

「明日、お前には選ばせてやる。……このまま俺の腕の中で、永遠の絶頂ねむりにつくか。それとも、すべてを失って外に放り出されるか」 「や、……だ、……離さないで……っ!ゼノス様、私を……置いて行かないで……っ!」

エルシアは泣きながら、彼に縋り付いた。 自由など、もういらない。自分という形を保つことさえ、もう苦しい。 ただ、この冷たくて熱い男の一部でいたい。

鈴の音が、壊れた鐘のように激しく鳴り続ける。 契約終了まで、残り二十四時間。 それは、二人が共にあるための「本当の儀式」が始まる合図だった。

【作者より】ついに「契約満了」の期日が迫りました。自由を求めるどころか、自由を恐れるようになったエルシア。ゼノスが用意した「最後の罠」とは……。面白いと思ったら、ぜひ「いいね」「感想」「エール」をお願いします!
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