初夜に「快楽の毒」を注がれた身代わり花嫁。〜冷徹な魔公爵は「もう二度と逃がさない」と私の首筋に所有の証を深く刻み込む〜

しょくぱん

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第四章 契約満了の朝と、永遠の鎖

第21話:開かれた扉と、残酷な「自由」

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 契約満了の朝は、皮肉なほど静かに訪れた。 目覚めたエルシアが目にしたのは、一年前から一度も開かれることのなかった寝室の重厚な扉が、不気味なほど大きく放たれている光景だった。

「ゼノス、様……?」

隣に主の姿はない。代わりに、枕元には一通の手紙と、見慣れぬ簡素な外出着が置かれていた。 『契約は満了した。扉はすべて開けてある。望むなら、朝日と共にこの城を去るがいい』 無機質なその筆跡に、エルシアの心臓は凍りついた。

「自由……?私が、……ここから、出る……?」

彼女は震える足取りでベッドを下りた。 一歩踏み出すたびに、足首の金の鈴アンクレットが冷ややかにチリンと鳴る。この一年、彼女を縛り、同時に守ってきた唯一の証。 エルシアは吸い寄せられるように、開かれた扉の先へと歩みを進めた。

廊下も、中庭も、正門も。ゼノスの言葉通り、すべての門扉が開放されていた。 一歩、また一歩と「外」へ近づくにつれ、空気は冷たさを増し、ゼノスの濃厚な魔力の残滓においが薄れていく。それと反比例するように、エルシアの体内には耐え難い不快感ノイズが広がり始めた。

「はぁ、っ、……あ、……っ」

ついに、城の敷地と外界を隔てる境界線――その最後の一線を、エルシアのつま先が越えた。

「――っ!?」

その瞬間、エルシアは激しい衝撃に襲われ、雪の上に崩れ落ちた。 肺が焼ける。呼吸をしようとしても、外の空気が猛毒であるかのように喉を拒絶する。心臓は狂ったように脈打ち、全身の血管が内側から弾け飛ぶような激痛げきつうが走った。

「あ、……ぁ、……がはっ、……あ、あぁぁぁっ!!」

口の端から鮮血がこぼれ、白い雪を汚す。 ゼノスの魔力によって書き換えられ、呪いを半分分かち合った彼女の肉体は、すでにこの世界の「清浄な空気」では生きていけない体に作り替えられていたのだ。 外界の光は瞳を灼き、自然の風は肌を削る。彼女にとって、城の外はもはや生存不可能な死の世界だった。

「……苦しいか、エルシア」

頭上から降ってきたのは、待ち望んでいた、冷酷で慈悲深い声。 ゼノスが、影の中からゆっくりと姿を現した。彼は雪の上に伏して喘ぐエルシアを、救おうともせず冷ややかに見下ろしている。

「それが、お前の望んだ『自由』の正体だ。俺の魔力という温室ゆりかごから出れば、お前はただの、呼吸すらできない肉の塊なりそこないに過ぎない」 「ゼノス、様、……たすけ、……て……っ。息が、……できない……っ!」

エルシアは血に汚れた手で、彼のブーツに縋り付いた。 今や、彼女にとっての「自由」とは、死そのものだった。 ゼノスは満足げに瞳を細めると、彼女の細い首を掴み、強引に引き寄せた。

「教えてやろう。お前をこう(・・)したのは、他でもない俺だ。一年かけて、お前の髪の先から爪の先まで、俺なしでは機能しないように丁寧に壊して(・・・・)やったんだよ」

ゼノスの口唇から、濃厚な魔力がエルシアの口内へと流し込まれる。 その一滴が喉を通った瞬間、死にかけていたエルシアの身体に、暴力的なまでの生気と悦楽しびれが戻ってきた。

「あ、……あぁぁぁ……っ、……いき、が……できる……っ」 「選べ、エルシア。このまま外で窒息して死ぬか。それとも、一生俺の腕の中で、光を奪われたまま飼い殺されるか」

エルシアは涙を流しながら、自らゼノスの胸に顔を埋めた。 選択肢など、最初から存在しなかったのだ。 彼女は確信した。自分という存在の最後の一片まで、この男に奪い尽くされることこそが、自分に許された唯一の幸福すくいなのだと。

「……一生、……離さないで。……私を、あなたの檻の中に……閉じ込めて……っ」

足首の鈴が、絶望の終わりを告げるように、激しく鳴り響いた。

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