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第二章 幸せな領地生活
第十五話 王都降臨と、再会の序曲
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ヴォルフェン公爵家の紋章を掲げた、純白の馬車が王都の城門をくぐった。沿道を埋め尽くす民衆からは、地鳴りのような歓声が上がる。
「見ろ! 『死神公爵』の馬車だ!」 「呪いが解けたって噂は本当なのか? 隣に乗っているのが、噂の『お掃除聖女』様か!?」
馬車の窓から外を覗くと、かつて私が実家を追い出された時とは比べものにならないほどの活気に、胸が締め付けられる。あの時は、窓もない鉄格子の馬車で、誰にも見送られずに捨てられたのに。
「レティシア、外が気になるか?」
隣に座るアレクシス様が、私の手を取り、指先を絡める。今日の彼は、公爵としての正装を纏い、その美貌は直視できないほどに輝いている。
「……はい。少しだけ、昔のことを思い出してしまって。でも、今は怖くありません。アレクシス様がいてくださるから」
「ああ。君に指一本触れさせはしない。……さあ、着いたぞ。まずは陛下への挨拶だ」
馬車が王宮の正面玄関に止まると、そこに待機していた近衛騎士たちが一斉に敬礼した。アレクシス様に導かれ、私は王宮の長い廊下を歩く。だが、職業柄だろうか。私は歩きながら、王宮の至る所にある「澱み」が気になって仕方がなかった。
(……王宮なのに、隅の方に古い埃や、負の感情が溜まっているわ)
私は無意識に、指先から微かな浄化の光を漏らしてしまった。すると、私たちが通り過ぎた後の廊下の壁画や燭台が、新品のように輝きを取り戻し、重苦しかった王宮の空気が一気に澄み渡っていく。
謁見の間に入ると、玉座に座る国王陛下が目を見開いて立ち上がった。
「……これは驚いた。ヴォルフェン公爵、君の呪いが解けたというのは真実だったのだな。そして……その隣にいるのが、レティシアか」
「はっ。我が妻、レティシアにございます。……陛下、この王宮の空気が清らかになったことにお気づきですか? 彼女が歩くだけで、数百年蓄積した汚れが消え去ったのです」
国王陛下は、信じられないという顔で周囲を見渡し、それから私に向かって深く頷いた。
「素晴らしい。バーンズ伯爵家からは『無能ゆえに生贄に出した』と聞いていたが……。ヴォルフェンよ、君は最高の宝を手に入れたようだな」
陛下からの直々の賛辞。それは、私のこれまでの人生が肯定された瞬間だった。
だが、拝謁を終えて廊下に出た時、私の耳に、忘れもしない嫌悪感に満ちた声が飛び込んできた。
「あら……。本当に生きていたのね、レティシア。その汚い身なりで、よくも王宮に足を踏み入れられたものだわ」
振り返ると、そこには豪華絢爛なドレスに身を包んだ姉、ミランダと、お父様、お母様が立っていた。ミランダは扇子を広げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「公爵様も、こんな掃除女に騙されるなんてお気の毒。……公爵様、ご存知ですか? その子の『浄化』は、もともと私の魔力を吸い取って使っているだけの偽物なのですよ?」
「……お姉様?」
あまりの嘘に、私は言葉を失う。お父様も一歩前に出て、高圧的な態度でアレクシス様を睨みつけた。
「公爵閣下。娘を返していただこう。無能な妹に魔力を盗まれ、ミランダは衰弱している。レティシアを連れ戻し、ミランダに魔力を返却させるのが筋というものだ」
家族たちの醜い欲心。私を「魔力泥棒」に仕立て上げ、またあのゴミ屋敷へと連れ戻そうとする魂胆が見え透いていた。
その時、アレクシス様の周囲の温度が、一気に氷点下まで下がった。
「……ふん。これほどまでに厚顔無恥な一族が、まだ存在していたとはな」
アレクシス様は私を背後に隠すように一歩前に出ると、ミランダたちをゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
「ミランダ。お前が『本物の聖女』だと言うのなら、明日の夜会で証明してみせろ。……もし嘘であれば、不敬罪と詐称罪で、伯爵家の名は今日限りで消滅することになるが……構わないな?」
「え……っ」
ミランダの顔が、一瞬で土気色に変わった。アレクシス様はそれ以上相手にせず、私の腰を引き寄せると、家族たちの横を颯爽と通り過ぎた。
「レティシア、行こう。……明日の夜、この世で最も美しい『ざまぁ』を君に見せてやる」
耳元で囁かれたその声は、頼もしく、そして最高に甘かった。いよいよ、地獄の家族との決着の時が来たのだ。
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最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
これにて、第二章完結です。
次回より第三章に移ります。引き続き応援よろしくお願いします。
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「見ろ! 『死神公爵』の馬車だ!」 「呪いが解けたって噂は本当なのか? 隣に乗っているのが、噂の『お掃除聖女』様か!?」
馬車の窓から外を覗くと、かつて私が実家を追い出された時とは比べものにならないほどの活気に、胸が締め付けられる。あの時は、窓もない鉄格子の馬車で、誰にも見送られずに捨てられたのに。
「レティシア、外が気になるか?」
隣に座るアレクシス様が、私の手を取り、指先を絡める。今日の彼は、公爵としての正装を纏い、その美貌は直視できないほどに輝いている。
「……はい。少しだけ、昔のことを思い出してしまって。でも、今は怖くありません。アレクシス様がいてくださるから」
「ああ。君に指一本触れさせはしない。……さあ、着いたぞ。まずは陛下への挨拶だ」
馬車が王宮の正面玄関に止まると、そこに待機していた近衛騎士たちが一斉に敬礼した。アレクシス様に導かれ、私は王宮の長い廊下を歩く。だが、職業柄だろうか。私は歩きながら、王宮の至る所にある「澱み」が気になって仕方がなかった。
(……王宮なのに、隅の方に古い埃や、負の感情が溜まっているわ)
私は無意識に、指先から微かな浄化の光を漏らしてしまった。すると、私たちが通り過ぎた後の廊下の壁画や燭台が、新品のように輝きを取り戻し、重苦しかった王宮の空気が一気に澄み渡っていく。
謁見の間に入ると、玉座に座る国王陛下が目を見開いて立ち上がった。
「……これは驚いた。ヴォルフェン公爵、君の呪いが解けたというのは真実だったのだな。そして……その隣にいるのが、レティシアか」
「はっ。我が妻、レティシアにございます。……陛下、この王宮の空気が清らかになったことにお気づきですか? 彼女が歩くだけで、数百年蓄積した汚れが消え去ったのです」
国王陛下は、信じられないという顔で周囲を見渡し、それから私に向かって深く頷いた。
「素晴らしい。バーンズ伯爵家からは『無能ゆえに生贄に出した』と聞いていたが……。ヴォルフェンよ、君は最高の宝を手に入れたようだな」
陛下からの直々の賛辞。それは、私のこれまでの人生が肯定された瞬間だった。
だが、拝謁を終えて廊下に出た時、私の耳に、忘れもしない嫌悪感に満ちた声が飛び込んできた。
「あら……。本当に生きていたのね、レティシア。その汚い身なりで、よくも王宮に足を踏み入れられたものだわ」
振り返ると、そこには豪華絢爛なドレスに身を包んだ姉、ミランダと、お父様、お母様が立っていた。ミランダは扇子を広げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「公爵様も、こんな掃除女に騙されるなんてお気の毒。……公爵様、ご存知ですか? その子の『浄化』は、もともと私の魔力を吸い取って使っているだけの偽物なのですよ?」
「……お姉様?」
あまりの嘘に、私は言葉を失う。お父様も一歩前に出て、高圧的な態度でアレクシス様を睨みつけた。
「公爵閣下。娘を返していただこう。無能な妹に魔力を盗まれ、ミランダは衰弱している。レティシアを連れ戻し、ミランダに魔力を返却させるのが筋というものだ」
家族たちの醜い欲心。私を「魔力泥棒」に仕立て上げ、またあのゴミ屋敷へと連れ戻そうとする魂胆が見え透いていた。
その時、アレクシス様の周囲の温度が、一気に氷点下まで下がった。
「……ふん。これほどまでに厚顔無恥な一族が、まだ存在していたとはな」
アレクシス様は私を背後に隠すように一歩前に出ると、ミランダたちをゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
「ミランダ。お前が『本物の聖女』だと言うのなら、明日の夜会で証明してみせろ。……もし嘘であれば、不敬罪と詐称罪で、伯爵家の名は今日限りで消滅することになるが……構わないな?」
「え……っ」
ミランダの顔が、一瞬で土気色に変わった。アレクシス様はそれ以上相手にせず、私の腰を引き寄せると、家族たちの横を颯爽と通り過ぎた。
「レティシア、行こう。……明日の夜、この世で最も美しい『ざまぁ』を君に見せてやる」
耳元で囁かれたその声は、頼もしく、そして最高に甘かった。いよいよ、地獄の家族との決着の時が来たのだ。
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