死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん

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第8話:公爵家の食卓が荒れ始める

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公爵家において、食事は権威の象徴だった。 かつてのアデナウアー家では、朝から最高級の銀器が並び、王宮顔負けの豪華な料理が食卓を彩っていた。……昨日までは。

「……ハンス!なんだ、このゴミのような食事はッ!」

朝食の席に着くなり、父が絶叫した。 テーブルに並んでいたのは、焦げた硬いパンと、具材がほとんど見当たらない薄いスープ。そして、一切れの塩辛い干し肉だけだった。

「……申し訳ございません、旦那様。今朝、納入業者から『これまでの未払金が精算されるまで、最高級の食材は卸せない』と断られましてな」

料理長のハンスが、死んだ魚のような目で淡々と答える。もちろん、これは私とハンスが事前に打ち合わせていた「演技」だ。 実際には、質の良い食材はすべて、ハンスが秘密裏に隣国へ送る保存食へと回されている。

「ふざけるな!そんなはずがあるか!あんな商人ども、公爵家の権威で黙らせればいいだろう!」

「お父様、それは無理というものですわ」

私は優雅に――ただし、自分だけは事前に自室でトニに用意させた軽食を済ませた状態で――スープを一口啜り、顔をしかめて見せた。

「現在、公爵家の信用枠は完全に停止しております。マリアが昨日、宝石店で騒ぎを起こしたせいで、『アデナウアー家は不渡りを出した』という噂が市場に広まってしまったのですもの」

「なっ、私のせいですって!?お姉様、なんてこと言うのよ!」

マリアがヒステリックに叫ぶが、その手は空腹に耐えかねて、焦げたパンを震えながら掴んでいた。

「仕方ありませんわね。これからは『節約』が必要ですわ。お父様。……ハンス、これからは使用人を半分に減らし、光熱費も切り詰めてちょうだい。夜会のための魔導具も、すべて質に入れましょう」

「エルゼ、お前!そんなことをしたら、公爵家の面目が丸潰れではないか!」

「面目と倒産、どちらが大事なのですか?……ああ、そういえばディートリヒ。王宮への再報告書はどうなりました?今日が期限のはずですが」

話を振られたディートリヒは、一気に青ざめた。 彼は昨日から一睡もせずに机に向かっていたはずだが、私が仕掛けた「論理の迷宮」を解くことなど、彼には一生かかっても不可能だ。

「……う、うるさい!今、最終調整をしているところだ!」

「そうですか。徹夜続きで頭が回らないのでしたら、そのスープでも飲んで、しっかり栄養を摂ってくださいね」

私は皮肉たっぷりに微笑んだ。  食卓は静まり返り、焦げたパンを噛む不快な音だけが響く。 前世で、私が一人でこの家を支えていた時、彼らは私の苦労など露ほども知らずに、贅沢な食事を笑いながら楽しんでいた。 その光景を思い出すたび、今のこのが、最高の音楽のように聞こえる。

食事を終えた私は、執務室に戻るふりをして、ハンスに目配せをした。

「ハンス、準備は?」

「ええ。屋敷の銀器、および父上が大切にしていた地下のヴィンテージワインの一部を、すでに運び出しました。本物と見分けがつかないにすり替え済みです」

「完璧ね。……ありがとう、ハンス。あなたも早めに、家族を連れて街の外へ出てちょうだい」

ハンスが深く一礼し、厨房へと戻っていく。  次に私が向かったのは、父の書斎だ。 そこには、公爵家の象徴である「初代公爵の肖像画」が飾られている。時価数億リラとも言われる国宝級の絵画だ。

私は懐から、シオンに手配してもらった「魔法の模写」を取り出した。 プロの鑑定士でも一週間は騙せる、究極のレプリカ。

本物を額縁から外し、代わりに偽物を嵌め込む。 本物は布に包み、窓から合図を送るトニへと託した。

(これで、公爵家に残っている価値のあるものは、このだけになったわね)

中身をすべて抜き取られ、外見だけを保った公爵家。 あとは、私がこの場を離れる「きっかけ」を待つだけだ。

その時、廊下から父の怒号と、何かが割れる音が聞こえてきた。 どうやら、金策に詰まった父が、ついに家宝を売ろうと画策し始めたらしい。

「ああ、お父様。……その絵を売ろうとした時、あなたがどんな顔をするのか、今から楽しみでなりませんわ」

私は静かに、自室の荷物をまとめ始めた。














定期アナウンス↓

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