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第一部:役立たずと捨てられた建築士、隣国で「聖域」を造って無双する
第四話:皇帝陛下、私の「技術」を買いませんか?
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暖炉の中で薪がパチパチとはぜる音が、静かな室内に響く。
外は瘴気が荒れ狂う死の荒野だというのに、このログハウスの中は驚くほど穏やかで、春のような陽気に満ちていた。
「信じられん……。この瘴気の中、呼吸をすることすら楽になるとは」
ソファに身を横たえたレオンハルト陛下が、驚愕の面持ちで私を見つめていた。
先ほどまで彼を苦しめていた赤黒い呪いの紋様は、その半分以上が消え失せている。
肌には血色が戻り、鋭い眼光の中には力強い知性が宿り始めていた。
「当たり前ですわ。壁材にマナ濾過の術式を重ね掛けした石灰石を使用していますから。不純物を遮断し、純粋な魔力だけを循環させる……。建築学の基礎を応用すれば、これくらいは当然の帰結です」
私は手元の製図板にペンを走らせながら、事も無げに応じる。
周囲で縮こまっていた騎士たちも、温かいスープ(私が魔法コンロで作ったものだ)を口にし、ようやく生きた心地を取り戻したようだ。
「基礎、だと……?我が国の宮廷魔導師たちは、総掛かりで浄化魔法を試みて、それでも私の呪いを抑えられなかった。それを君は、ただ『家を建てた』だけで解決したと言うのか」
「陛下、魔法とは対象に直接ぶつけるだけのものではありません。最適な『環境』を構築し、そこにある理を書き換える。それが私の建築魔導です」
私はペンを置き、陛下と真っ直ぐに向き合った。
「ところで陛下。一つ、ご提案がございます」
「提案?」
「はい。私は先ほど、母国を永久追放されました。現在、無職で住む家もございません。……そこで、陛下の隣国で私を『お抱え建築士』として雇っていただけませんか?」
私の言葉に、騎士たちが「えっ」と声を漏らす。
だが、レオンハルト陛下だけは、面白そうに口角を上げた。
「……追放、か。あの王国は、これほどの至宝をゴミのように捨てたというわけか」
「ええ。土木女と罵られましたわ。地味で華がない、と」
「くははは!傑作だな。これほどの『聖域』を一瞬で顕現させる魔法を、地味だと断じるとは。あそこの王太子は、よほど目が腐っているらしい」
陛下はゆっくりと体を起こし、力強く私の手を取った。
「よかろう。アニエス・ラ・トール。君を我が国の『国家建築顧問』として正式に招聘しよう。給与も、地位も、最高のものを約束する。……そして、何より」
陛下が私の顔を覗き込み、銀色の瞳で射抜くように囁く。
「君のその類稀なる技術を、私は正当に評価しよう。……私の国を、君の思うがままに造り変えてみろ。誰もが跪くような『最高の聖域』にな」
「――承知いたしました。陛下、後悔はさせませんわ」
私は優雅に微笑んだ。
新しい雇い主は、なかなかに話が分かる人のようだ。
一方その頃。
母国の王城では、シグムンド様が崩れた天井の下から這い出し、顔中を傷だらけにしながら叫んでいた。
「な、なんだこの臭いは!下水が逆流しているぞ!クロエ、お前の魔法でなんとかしろ!」
「い、言われなくてもやってますわよ!でも、術式が多すぎて、どこをどう直せばいいのか……!きゃっ、また壁が!」
クロエが派手な光魔法を放つたびに、かえって建物の歪みは激しくなり、王城はまるで苦悶に震える獣のように不気味な音を立てていた。
彼らが『当たり前』に享受していた快適さが、どれほど緻密な計算の上に成り立っていたのか。
それを知る者は、もうこの国には一人もいなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
外は瘴気が荒れ狂う死の荒野だというのに、このログハウスの中は驚くほど穏やかで、春のような陽気に満ちていた。
「信じられん……。この瘴気の中、呼吸をすることすら楽になるとは」
ソファに身を横たえたレオンハルト陛下が、驚愕の面持ちで私を見つめていた。
先ほどまで彼を苦しめていた赤黒い呪いの紋様は、その半分以上が消え失せている。
肌には血色が戻り、鋭い眼光の中には力強い知性が宿り始めていた。
「当たり前ですわ。壁材にマナ濾過の術式を重ね掛けした石灰石を使用していますから。不純物を遮断し、純粋な魔力だけを循環させる……。建築学の基礎を応用すれば、これくらいは当然の帰結です」
私は手元の製図板にペンを走らせながら、事も無げに応じる。
周囲で縮こまっていた騎士たちも、温かいスープ(私が魔法コンロで作ったものだ)を口にし、ようやく生きた心地を取り戻したようだ。
「基礎、だと……?我が国の宮廷魔導師たちは、総掛かりで浄化魔法を試みて、それでも私の呪いを抑えられなかった。それを君は、ただ『家を建てた』だけで解決したと言うのか」
「陛下、魔法とは対象に直接ぶつけるだけのものではありません。最適な『環境』を構築し、そこにある理を書き換える。それが私の建築魔導です」
私はペンを置き、陛下と真っ直ぐに向き合った。
「ところで陛下。一つ、ご提案がございます」
「提案?」
「はい。私は先ほど、母国を永久追放されました。現在、無職で住む家もございません。……そこで、陛下の隣国で私を『お抱え建築士』として雇っていただけませんか?」
私の言葉に、騎士たちが「えっ」と声を漏らす。
だが、レオンハルト陛下だけは、面白そうに口角を上げた。
「……追放、か。あの王国は、これほどの至宝をゴミのように捨てたというわけか」
「ええ。土木女と罵られましたわ。地味で華がない、と」
「くははは!傑作だな。これほどの『聖域』を一瞬で顕現させる魔法を、地味だと断じるとは。あそこの王太子は、よほど目が腐っているらしい」
陛下はゆっくりと体を起こし、力強く私の手を取った。
「よかろう。アニエス・ラ・トール。君を我が国の『国家建築顧問』として正式に招聘しよう。給与も、地位も、最高のものを約束する。……そして、何より」
陛下が私の顔を覗き込み、銀色の瞳で射抜くように囁く。
「君のその類稀なる技術を、私は正当に評価しよう。……私の国を、君の思うがままに造り変えてみろ。誰もが跪くような『最高の聖域』にな」
「――承知いたしました。陛下、後悔はさせませんわ」
私は優雅に微笑んだ。
新しい雇い主は、なかなかに話が分かる人のようだ。
一方その頃。
母国の王城では、シグムンド様が崩れた天井の下から這い出し、顔中を傷だらけにしながら叫んでいた。
「な、なんだこの臭いは!下水が逆流しているぞ!クロエ、お前の魔法でなんとかしろ!」
「い、言われなくてもやってますわよ!でも、術式が多すぎて、どこをどう直せばいいのか……!きゃっ、また壁が!」
クロエが派手な光魔法を放つたびに、かえって建物の歪みは激しくなり、王城はまるで苦悶に震える獣のように不気味な音を立てていた。
彼らが『当たり前』に享受していた快適さが、どれほど緻密な計算の上に成り立っていたのか。
それを知る者は、もうこの国には一人もいなかった。
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