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【第3章】
■第43話 : 歪な邂逅
先ほどまでの八尾とのやりとりを詳しく説明した優司。
一通り説明を聞き終えた日高は、なんとなく納得したような顔つきで言葉を発した。
「なるほどね。『逆出玉勝負』か……」
その言葉を受け、真鍋が明るい表情で続く。
「でも、その勝負形式ならお前のヒキの弱さが武器になるよな。
だったら、いいんじゃないのか?」
ところが、この真鍋の言葉に日高が突っかかる。
「おいおい、ヒキの弱さが武器ってなんだよ遼介!
そんなのが武器になるわけないだろ?
何度も言うようだけどよ、ヒキなんてモンは存在しないんだよ。
ヒキなんてのは個々の勝負における単なる結果であって、いつかは必ず収束するもんなんだ。そんな不確かなものに強いも弱いもないって」
「あ? 光平だって今までの夏目を見てきただろ?
ヒキは存在するんだよ! こんなにヒキ弱なヤツ、見たことねぇだろ?
いい加減認めちまえよ!」
「はぁ……
また言い出しやがったよ、このオカルト野郎が……」
「なんだとッ?」
「いいか?
パチスロってのは数学が分かってりゃ勝てるモンなんだよ。
ギャンブルは、数学ができない奴に課される税金だ。
夏目のヒキだって単なる偏りで、そのうち収束するんだよ!」
「収束収束って、言うのは簡単でもなかなかそうはならねぇだろうがッ!」
段々とヒートアップする二人。
ここからは、いつもの言い合いへと発展していった。
(毎度のこととはいえ、よくやるよなぁホント……)
この二人の様子を見ながら、呆れたような、ちょっと羨ましいような、そんな微妙な気持ちになった優司だった。
◇◇◇◇◇◇
串丸を出たのは、23:00を過ぎた頃。
八尾との勝負の件は、「とりあえず他に相手も決まらないことだし、まあOKだろう」ということでまとまった。
皆、心のどこかで「高設定ばかり座ってマイナスを叩く男が、逆出玉勝負で負けるわけがない」と思っていたところもあった。
ヒキを否定する日高でさえ、無意識のうちにそう考えていた。
「よぉし、それじゃあな夏目ッ! ご機嫌ようッ!」
上機嫌の真鍋が、日高と肩を組みながら大声で叫ぶ。
当然、さっきまでの口論の気配などどこにもない。
それは日高も同様。
「うん! それじゃあまた今度」
優司も相当に酔っ払っていたため、この真鍋の呼び掛けに負けず劣らずの大声で返事をした。
そのまま散会し、各々家路へと着く。
優司は、常宿として利用しているマンガ喫茶へ向かった。
(そうだ。そろそろ洗濯も行っとかないとな。
コインロッカーに荷物取りに行かないと)
金のない頃は、危険を承知で公園などの隅っこに置きっぱなしにしていた衣類などの荷物。
しかし、そこそこの金を持つようになった今は、荷物をコインロッカーに入れておくようにしていた。
コインロッカーに荷物を置いておき、必要な時に取りに行く。
これが、最近の優司のライフスタイルだった。
行き先をマンガ喫茶から駅前のコインロッカーへと変更し、千鳥足でフラフラと歩く。
ボンヤリと八尾との勝負のことを考えながら。
「イテッ!」
フラフラしていたせいか、ボンヤリしていたせいか、気付くと、何かにぶつかってしまっていた。
足元へ目をやると、そこにはホームレスと思しき一人の小汚い若い男がしゃがみこんでいた。
どうやら、飲食店のゴミを漁っていたようだった。
(邪魔だなぁ。
何でこんなとこにしゃがみ込んでんだよ……)
あからさまにイラついた表情になる優司に対し、そのホームレスも不愉快そうに優司をにらみつけてきた。
しかし、優司と目が合ったその瞬間、そのホームレスの表情はみるみる変わっていった。
「あッ……?
お、お、お前はッ……
な、夏目……夏目だよな…………?」
「……?」
「お前っ! 夏目優司だろ?
ほら、俺だよ! わかるだろっ?」
そう言って胸倉を掴みながら、執拗に優司の体を揺さぶるホームレス。
優司は、必死で振り払おうとする。
「な、なんなんだよっ? 誰だよっ?
お前みたいな小汚い男に知り合いなんていな――」
そう言いかけたところで、なんとなく見覚えがあることに気付いた。
そして……。
「えっ…………?
も、もしかして…………ふ、藤田…………か?」
「やっと思い出したのかよ!
そうだよ! テメェにボロボロにされた藤田だッ!」
藤田。
優司と日高が勝負するきっかけとなった男である。
優司の選んだ台で藤田が打ち、その収支を折半しようと約束したのだが、いざ金を分配する時に藤田が金を独り占めしたことにより優司にきつい復讐をされ、ついにはここまで身を落としていたのだった。
優司は、日高から「藤田はホームレスになりそうだ」という話は聞いていたが、まさか本当にホームレスになっているとは予想もしていなかった。
「ふ、藤田、お前……こんなことやってんのかよ……?
な、なんでだ……?」
「なんでじゃねぇよッ! お前のせいだろうがッ!
あの後、日高の野郎にきっちりと有り金持っていかれてよ、結局家賃も払えなくなって、家も追い出されちまったんだよッ!」
「で、でもそれはお前が悪いんだろ。お前が最初に俺を裏切るようなマネをしたんだから……」
「うるせぇッ!
それにしたって、あそこまですることもないだろうがよッ!
大体あの時――」
その後も、延々と恨み辛みを大声でがなりたてる藤田。
最初はやや圧倒されていた優司だが、あまりに身勝手な藤田の言い分に段々と腹が立ってきた。
そしてついに我慢できなくなり、藤田の胸倉を掴み返し、藤田以上の大声で言い返す優司。
「い、いい加減にしろよッ!
全部お前が勝手なマネしたことから始まってんだろッ?
あの時、俺がどれだけショック受けたと思ってんだよッ!
ふざけんなよッ! さっさとどっかで野垂れ死んじまえよッ!」
それまでおとなしくしていた優司がいきなりキレたことにより、藤田は思わず怯んでしまった。
そんな藤田を尻目に、優司は振り向きもせずにその場から早足に歩き去っていった。
◇◇◇◇◇◇
イライラしながら歩き続けること5分。
目的のコインロッカーへと到着した。
ポケットから鍵を取り出し、ロッカーを開けて自分の荷物を取り出す。
この間、必死で平常心を取り戻そうとしていた優司だが、頭に浮かんでくるのは先ほどの藤田の姿だけだった。
(もし今度の八尾との勝負に負ければ、いつ俺がああなるかわかったもんじゃないんだ。
俺は、『無敗』という勲章だけでなんとかなってるようなもんだしな。
一度負けたら、あとはどうなるかわかったもんじゃない。
今ある金だって、たちどころに無くなっていくことになるかもしれないんだ。
……実家には絶対に戻れないし。
とにかく、何がなんでもこの街で生きていかないと。今は、それしかないんだ……)
先ほどまでの陽気な気分は、完全に吹き飛んでいた。
あるのは、ただただ恐怖心のみ。
今更ながらに、自分が置かれている立場を再認識する優司だった。
一通り説明を聞き終えた日高は、なんとなく納得したような顔つきで言葉を発した。
「なるほどね。『逆出玉勝負』か……」
その言葉を受け、真鍋が明るい表情で続く。
「でも、その勝負形式ならお前のヒキの弱さが武器になるよな。
だったら、いいんじゃないのか?」
ところが、この真鍋の言葉に日高が突っかかる。
「おいおい、ヒキの弱さが武器ってなんだよ遼介!
そんなのが武器になるわけないだろ?
何度も言うようだけどよ、ヒキなんてモンは存在しないんだよ。
ヒキなんてのは個々の勝負における単なる結果であって、いつかは必ず収束するもんなんだ。そんな不確かなものに強いも弱いもないって」
「あ? 光平だって今までの夏目を見てきただろ?
ヒキは存在するんだよ! こんなにヒキ弱なヤツ、見たことねぇだろ?
いい加減認めちまえよ!」
「はぁ……
また言い出しやがったよ、このオカルト野郎が……」
「なんだとッ?」
「いいか?
パチスロってのは数学が分かってりゃ勝てるモンなんだよ。
ギャンブルは、数学ができない奴に課される税金だ。
夏目のヒキだって単なる偏りで、そのうち収束するんだよ!」
「収束収束って、言うのは簡単でもなかなかそうはならねぇだろうがッ!」
段々とヒートアップする二人。
ここからは、いつもの言い合いへと発展していった。
(毎度のこととはいえ、よくやるよなぁホント……)
この二人の様子を見ながら、呆れたような、ちょっと羨ましいような、そんな微妙な気持ちになった優司だった。
◇◇◇◇◇◇
串丸を出たのは、23:00を過ぎた頃。
八尾との勝負の件は、「とりあえず他に相手も決まらないことだし、まあOKだろう」ということでまとまった。
皆、心のどこかで「高設定ばかり座ってマイナスを叩く男が、逆出玉勝負で負けるわけがない」と思っていたところもあった。
ヒキを否定する日高でさえ、無意識のうちにそう考えていた。
「よぉし、それじゃあな夏目ッ! ご機嫌ようッ!」
上機嫌の真鍋が、日高と肩を組みながら大声で叫ぶ。
当然、さっきまでの口論の気配などどこにもない。
それは日高も同様。
「うん! それじゃあまた今度」
優司も相当に酔っ払っていたため、この真鍋の呼び掛けに負けず劣らずの大声で返事をした。
そのまま散会し、各々家路へと着く。
優司は、常宿として利用しているマンガ喫茶へ向かった。
(そうだ。そろそろ洗濯も行っとかないとな。
コインロッカーに荷物取りに行かないと)
金のない頃は、危険を承知で公園などの隅っこに置きっぱなしにしていた衣類などの荷物。
しかし、そこそこの金を持つようになった今は、荷物をコインロッカーに入れておくようにしていた。
コインロッカーに荷物を置いておき、必要な時に取りに行く。
これが、最近の優司のライフスタイルだった。
行き先をマンガ喫茶から駅前のコインロッカーへと変更し、千鳥足でフラフラと歩く。
ボンヤリと八尾との勝負のことを考えながら。
「イテッ!」
フラフラしていたせいか、ボンヤリしていたせいか、気付くと、何かにぶつかってしまっていた。
足元へ目をやると、そこにはホームレスと思しき一人の小汚い若い男がしゃがみこんでいた。
どうやら、飲食店のゴミを漁っていたようだった。
(邪魔だなぁ。
何でこんなとこにしゃがみ込んでんだよ……)
あからさまにイラついた表情になる優司に対し、そのホームレスも不愉快そうに優司をにらみつけてきた。
しかし、優司と目が合ったその瞬間、そのホームレスの表情はみるみる変わっていった。
「あッ……?
お、お、お前はッ……
な、夏目……夏目だよな…………?」
「……?」
「お前っ! 夏目優司だろ?
ほら、俺だよ! わかるだろっ?」
そう言って胸倉を掴みながら、執拗に優司の体を揺さぶるホームレス。
優司は、必死で振り払おうとする。
「な、なんなんだよっ? 誰だよっ?
お前みたいな小汚い男に知り合いなんていな――」
そう言いかけたところで、なんとなく見覚えがあることに気付いた。
そして……。
「えっ…………?
も、もしかして…………ふ、藤田…………か?」
「やっと思い出したのかよ!
そうだよ! テメェにボロボロにされた藤田だッ!」
藤田。
優司と日高が勝負するきっかけとなった男である。
優司の選んだ台で藤田が打ち、その収支を折半しようと約束したのだが、いざ金を分配する時に藤田が金を独り占めしたことにより優司にきつい復讐をされ、ついにはここまで身を落としていたのだった。
優司は、日高から「藤田はホームレスになりそうだ」という話は聞いていたが、まさか本当にホームレスになっているとは予想もしていなかった。
「ふ、藤田、お前……こんなことやってんのかよ……?
な、なんでだ……?」
「なんでじゃねぇよッ! お前のせいだろうがッ!
あの後、日高の野郎にきっちりと有り金持っていかれてよ、結局家賃も払えなくなって、家も追い出されちまったんだよッ!」
「で、でもそれはお前が悪いんだろ。お前が最初に俺を裏切るようなマネをしたんだから……」
「うるせぇッ!
それにしたって、あそこまですることもないだろうがよッ!
大体あの時――」
その後も、延々と恨み辛みを大声でがなりたてる藤田。
最初はやや圧倒されていた優司だが、あまりに身勝手な藤田の言い分に段々と腹が立ってきた。
そしてついに我慢できなくなり、藤田の胸倉を掴み返し、藤田以上の大声で言い返す優司。
「い、いい加減にしろよッ!
全部お前が勝手なマネしたことから始まってんだろッ?
あの時、俺がどれだけショック受けたと思ってんだよッ!
ふざけんなよッ! さっさとどっかで野垂れ死んじまえよッ!」
それまでおとなしくしていた優司がいきなりキレたことにより、藤田は思わず怯んでしまった。
そんな藤田を尻目に、優司は振り向きもせずにその場から早足に歩き去っていった。
◇◇◇◇◇◇
イライラしながら歩き続けること5分。
目的のコインロッカーへと到着した。
ポケットから鍵を取り出し、ロッカーを開けて自分の荷物を取り出す。
この間、必死で平常心を取り戻そうとしていた優司だが、頭に浮かんでくるのは先ほどの藤田の姿だけだった。
(もし今度の八尾との勝負に負ければ、いつ俺がああなるかわかったもんじゃないんだ。
俺は、『無敗』という勲章だけでなんとかなってるようなもんだしな。
一度負けたら、あとはどうなるかわかったもんじゃない。
今ある金だって、たちどころに無くなっていくことになるかもしれないんだ。
……実家には絶対に戻れないし。
とにかく、何がなんでもこの街で生きていかないと。今は、それしかないんだ……)
先ほどまでの陽気な気分は、完全に吹き飛んでいた。
あるのは、ただただ恐怖心のみ。
今更ながらに、自分が置かれている立場を再認識する優司だった。
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