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【第3章】
■第57話 : 理解不能
(何が起こったんだ……? なんで……? 何がどうなってんだ……?)
ただただ困惑するだけ。
(おいおい……冗談だろ……?
もう夜の10時50分じゃねぇか……。閉店まであと10分だぞ……?
出玉の差はどうなってる……?
夏目のヤツは、どうみても2000枚くらいしかない。
で、俺が…………くっ…………5000枚はある…………。
なんで…………なんでこんなことに…………)
「おい、勝負あったんじゃないか?」
吉宗を回しながら一人思い悩む八尾に、日高が余裕たっぷりで話しかけた。
「……」
沈黙する八尾に、さらに日高が話し続ける。
「残念だったな、八尾。
まさか、あそこから5000枚叩き出すとはね。
しかしあれだな、お前の台のボーナス履歴、綺麗に設定6の履歴だよな?
ハマリは浅く、初当たり3回に1回は天国入って2連か3連で抜ける。
たまに1G連でドカっと増やす。
謎解除も多かったし、まさに吉宗の6の挙動じゃん」
「……うるせぇ。たまたまだよ。
コイツは設定1だ。紛れもなく。
1だって、たまには6っぽい挙動をしちまうんだよ……」
「おめでたいヤツだね。
まだそんなこと言ってんだ?」
自分の打っている台から離れ、優司が割って入ってきた。
八尾が、目を丸くしながら答える。
「な、夏目……? どういうことだよ」
「とりあえず、コイン流して外に出ようよ。もういいでしょ? 」
閉店まで残り10分では、どんな奇跡が起ころうとも逆転は不可能。
優司の申し出は正しいものだった。
しかし、それでも八尾は諦めようとしない。
(クソ……。こうなったら多少強引でもかまわねぇ。主任の近藤を呼び出して、さっきの没収したコインを夏目に戻させよう。そうすれば、夏目の持ちコインは5000枚を超える。
それで、コインは同じくらいになるが、投資額は俺の方が2万多いんだから、これで俺の勝ちだ。
へへへ……。ホール主任と組んでる以上、なんだってできるんだ。負けるわけがねぇ)
携帯を取り出し、近藤へ電話をかけるため席を離れようとした。
しかしその時、優司が八尾の肩を掴み、動きを制した。
八尾が、不愉快そうに口を開く。
「なんだよ、放せよ。まだ終わってねぇだろ?
どう行動しようと、俺の自由だ」
「……まだわかってないのかよ?
そこそこキレ者かと思いきや、案外大したことないんだな?」
「あん? 何言ってんだ?」
「だから、もう無駄だって言ってんだよ。今更、近藤主任に電話かけたって」
八尾は、この言葉に一瞬ドキっとするも、もうバレていることは知っているのでそこまで大きくは動揺しなかった。
それどこか、逆に開き直ることにした。
「……別に電話したっていいだろ?
そこまでズバっと言ってくんなら話は早い。今からだって、俺に逆転の目はあるんだぜ?
ホール主任と組んでる以上、やりたい放題なんだからよッ!」
優司は、一つ大きく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「八尾。お前さ、金で買収したような関係がそんなに長く続くとでも思ってんのか?」
「はっ?」
八尾の顔色が変わった。
しかし、優司はそれに構わず淡々と話す。
「鈍いね。
はっきり言ってやるけど、お前がさっきまで打ってた吉宗は設定6、俺の吉宗は1だよ。
しかも俺の台は、しっかりとストックまで飛ばされてるし。
さすがの俺でも、ここまでお膳立てが整えば負けやしないさ」
「なっ……えっ……?」
「主任の近藤からは、『吉宗のシマの設定1と6を逆に教えておいた』みたいに聞いてるんだろ?」
八尾は、歯を食いしばりながら無言で優司の話を聞いている。
「なんで知ってるんだ、って顔してるね。
ここまで言えばもう察しはついただろうけど、俺が近藤に、そう言えって伝えたからだよ」
「……」
「買収の額はケチるもんじゃないね、八尾。
お前、近藤に10万しか払わなかったらしいじゃん。前金5万の後金5万で。
近藤主任、あっさりと倍の20万で転んだよ」
依然、口をポカーンと開けたまま微動だにしない八尾。
そのまま優司が言葉を続ける。
「近藤には、『八尾から電話がかかってくるだろうから、この紙に書いてある通りに言え』って指示しといたんだ。お前から電話があった時、近藤は俺が書いた紙を読んでただけだよ。
あと、お前の巨人は設定2だから、みたいなことも聞いただろ? あれは、お前を吉宗の6に誘導するためのウソだよ」
「そんな……バカな……だって……」
「じゃあ、なんで俺がここまで知ってんの?
今の話が嘘なら、こんなにいろいろ知ってるわけないし。
そういうわけで、今更近藤に電話したって無駄だよ。彼はもうこっち側の人間なんだからさ」
この説明に驚いたのは八尾だけではない。
信次はもちろん、日高もこのことは知らなかった。
ただ、『あとで話すから』と延ばされていたのだ。
そう、なんと優司は、買収されて八尾側についていた近藤を、逆に買収し返してしまったのだ。
冷静に考えてみれば、呆れ返るほど単純な逆転技。
「……あの時か。俺と日高がやりあってる最中に……。
だから近藤の野郎は、あんな大騒ぎになってるのにホールへ出てこなかったのか……」
「まあ、大体その頃だろうね。
別に日高と示しあわせてそうしたわけじゃないんだけどね。
それにしてもあの近藤主任、口説き落とすのに2分とかからなかったよ。その後の打ち合わせで時間がかかったから、トータルで20分くらい電話してたけどね」
「…………」
「唯一怖かったのは、買収じゃなくて、お前が『友達として近藤と繋がってる』ってことだった。
もしそうだったら、俺はもう終わりだったよ。友達を金で売る人間はそうそういないからね。
でも、ほぼ買収に間違いないとは思った。
もし友達だったなら、勝負前にお前と近藤の関係が俺たちにバレたら終わりだからね。
用心深いお前なら、あえて赤の他人を使うだろうと思ったのさ。
となれば、金の関係である可能性が高い。金の関係なら壊すのは簡単だ。ただ単にお前以上に金を積めばいいだけだし」
「…………」
ここでついに八尾は観念した。
そして、表情を大きく歪めながらも、吉宗の下皿に残っているコインをドル箱につめ始めた。
◇◇◇◇◇◇
「おかしいとは思ったんだ……
あのボンクラの近藤が、そんな機転が利くわけねぇんだよ……クソ……」
コインを流してレシートを受け取った後、店の外へと出た優司・日高・八尾・信次の4人。
その最中、ボヤきながらノソノソと歩く八尾。
うつろな表情で徘徊するように歩き続ける八尾に、優司が声をかける。
「もうこのへんでいいだろ? さっさと清算しようよ。
っていっても、お前が30万払えばそれで終わりだけど」
優司が喋り終わると、八尾は素直に立ち止まって財布を取り出し、1枚1枚数えながら万札を取り出していく。
日高の攻撃によって腫れた顔、そして丸まった背中。
その姿は、朝のふてぶてしい八尾の姿からは想像も出来ないほど、ひどくみすぼらしいものだった。
日高にとっても、あれだけ憎たらしく思えた男なのに、今の八尾の姿を見ると同情心すら沸いてきた。
「……俺は、勝ちたかった。金なんかどうでもいい。ただ、勝ちたかった……」
財布から金を取り出しながら、小さな声で呟く八尾。
優司も日高も、そして信次もただ黙ってそれを聞いている。
「手段を問わず、とにかく夏目を負かせればそれで良かったんだ……。
なんで……。なんでここまで追い詰めたのに、土壇場でかわされたんだ……。
クソ……クソ……」
段々と声が上ずってくる。
プライドを捨て、店員買収という下劣な手まで使ったのにまさかの敗北。
八尾にとって、その悔しさは尋常ではなかった。
「広瀬に……広瀬に……俺は……」
呟き続ける八尾を横目に、他の3人は黙り続けていた。
皆、複雑な気持ちで、ただひたすら八尾が30万を取り出し終えるのを待っている。
その時だった。
「よぉ。今呼ばなかった?
偶然通りかかったんだけどさぁ」
「……えッ?」
一同、一斉に驚く。
「ん? どうしたんだ八尾、そんなに顔腫らして?」
皆、驚いた表情のまま絶句している。
それもそのはず、目の前には、今まさに八尾が名前を口にした広瀬が立っていたのだから。
ただただ困惑するだけ。
(おいおい……冗談だろ……?
もう夜の10時50分じゃねぇか……。閉店まであと10分だぞ……?
出玉の差はどうなってる……?
夏目のヤツは、どうみても2000枚くらいしかない。
で、俺が…………くっ…………5000枚はある…………。
なんで…………なんでこんなことに…………)
「おい、勝負あったんじゃないか?」
吉宗を回しながら一人思い悩む八尾に、日高が余裕たっぷりで話しかけた。
「……」
沈黙する八尾に、さらに日高が話し続ける。
「残念だったな、八尾。
まさか、あそこから5000枚叩き出すとはね。
しかしあれだな、お前の台のボーナス履歴、綺麗に設定6の履歴だよな?
ハマリは浅く、初当たり3回に1回は天国入って2連か3連で抜ける。
たまに1G連でドカっと増やす。
謎解除も多かったし、まさに吉宗の6の挙動じゃん」
「……うるせぇ。たまたまだよ。
コイツは設定1だ。紛れもなく。
1だって、たまには6っぽい挙動をしちまうんだよ……」
「おめでたいヤツだね。
まだそんなこと言ってんだ?」
自分の打っている台から離れ、優司が割って入ってきた。
八尾が、目を丸くしながら答える。
「な、夏目……? どういうことだよ」
「とりあえず、コイン流して外に出ようよ。もういいでしょ? 」
閉店まで残り10分では、どんな奇跡が起ころうとも逆転は不可能。
優司の申し出は正しいものだった。
しかし、それでも八尾は諦めようとしない。
(クソ……。こうなったら多少強引でもかまわねぇ。主任の近藤を呼び出して、さっきの没収したコインを夏目に戻させよう。そうすれば、夏目の持ちコインは5000枚を超える。
それで、コインは同じくらいになるが、投資額は俺の方が2万多いんだから、これで俺の勝ちだ。
へへへ……。ホール主任と組んでる以上、なんだってできるんだ。負けるわけがねぇ)
携帯を取り出し、近藤へ電話をかけるため席を離れようとした。
しかしその時、優司が八尾の肩を掴み、動きを制した。
八尾が、不愉快そうに口を開く。
「なんだよ、放せよ。まだ終わってねぇだろ?
どう行動しようと、俺の自由だ」
「……まだわかってないのかよ?
そこそこキレ者かと思いきや、案外大したことないんだな?」
「あん? 何言ってんだ?」
「だから、もう無駄だって言ってんだよ。今更、近藤主任に電話かけたって」
八尾は、この言葉に一瞬ドキっとするも、もうバレていることは知っているのでそこまで大きくは動揺しなかった。
それどこか、逆に開き直ることにした。
「……別に電話したっていいだろ?
そこまでズバっと言ってくんなら話は早い。今からだって、俺に逆転の目はあるんだぜ?
ホール主任と組んでる以上、やりたい放題なんだからよッ!」
優司は、一つ大きく息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「八尾。お前さ、金で買収したような関係がそんなに長く続くとでも思ってんのか?」
「はっ?」
八尾の顔色が変わった。
しかし、優司はそれに構わず淡々と話す。
「鈍いね。
はっきり言ってやるけど、お前がさっきまで打ってた吉宗は設定6、俺の吉宗は1だよ。
しかも俺の台は、しっかりとストックまで飛ばされてるし。
さすがの俺でも、ここまでお膳立てが整えば負けやしないさ」
「なっ……えっ……?」
「主任の近藤からは、『吉宗のシマの設定1と6を逆に教えておいた』みたいに聞いてるんだろ?」
八尾は、歯を食いしばりながら無言で優司の話を聞いている。
「なんで知ってるんだ、って顔してるね。
ここまで言えばもう察しはついただろうけど、俺が近藤に、そう言えって伝えたからだよ」
「……」
「買収の額はケチるもんじゃないね、八尾。
お前、近藤に10万しか払わなかったらしいじゃん。前金5万の後金5万で。
近藤主任、あっさりと倍の20万で転んだよ」
依然、口をポカーンと開けたまま微動だにしない八尾。
そのまま優司が言葉を続ける。
「近藤には、『八尾から電話がかかってくるだろうから、この紙に書いてある通りに言え』って指示しといたんだ。お前から電話があった時、近藤は俺が書いた紙を読んでただけだよ。
あと、お前の巨人は設定2だから、みたいなことも聞いただろ? あれは、お前を吉宗の6に誘導するためのウソだよ」
「そんな……バカな……だって……」
「じゃあ、なんで俺がここまで知ってんの?
今の話が嘘なら、こんなにいろいろ知ってるわけないし。
そういうわけで、今更近藤に電話したって無駄だよ。彼はもうこっち側の人間なんだからさ」
この説明に驚いたのは八尾だけではない。
信次はもちろん、日高もこのことは知らなかった。
ただ、『あとで話すから』と延ばされていたのだ。
そう、なんと優司は、買収されて八尾側についていた近藤を、逆に買収し返してしまったのだ。
冷静に考えてみれば、呆れ返るほど単純な逆転技。
「……あの時か。俺と日高がやりあってる最中に……。
だから近藤の野郎は、あんな大騒ぎになってるのにホールへ出てこなかったのか……」
「まあ、大体その頃だろうね。
別に日高と示しあわせてそうしたわけじゃないんだけどね。
それにしてもあの近藤主任、口説き落とすのに2分とかからなかったよ。その後の打ち合わせで時間がかかったから、トータルで20分くらい電話してたけどね」
「…………」
「唯一怖かったのは、買収じゃなくて、お前が『友達として近藤と繋がってる』ってことだった。
もしそうだったら、俺はもう終わりだったよ。友達を金で売る人間はそうそういないからね。
でも、ほぼ買収に間違いないとは思った。
もし友達だったなら、勝負前にお前と近藤の関係が俺たちにバレたら終わりだからね。
用心深いお前なら、あえて赤の他人を使うだろうと思ったのさ。
となれば、金の関係である可能性が高い。金の関係なら壊すのは簡単だ。ただ単にお前以上に金を積めばいいだけだし」
「…………」
ここでついに八尾は観念した。
そして、表情を大きく歪めながらも、吉宗の下皿に残っているコインをドル箱につめ始めた。
◇◇◇◇◇◇
「おかしいとは思ったんだ……
あのボンクラの近藤が、そんな機転が利くわけねぇんだよ……クソ……」
コインを流してレシートを受け取った後、店の外へと出た優司・日高・八尾・信次の4人。
その最中、ボヤきながらノソノソと歩く八尾。
うつろな表情で徘徊するように歩き続ける八尾に、優司が声をかける。
「もうこのへんでいいだろ? さっさと清算しようよ。
っていっても、お前が30万払えばそれで終わりだけど」
優司が喋り終わると、八尾は素直に立ち止まって財布を取り出し、1枚1枚数えながら万札を取り出していく。
日高の攻撃によって腫れた顔、そして丸まった背中。
その姿は、朝のふてぶてしい八尾の姿からは想像も出来ないほど、ひどくみすぼらしいものだった。
日高にとっても、あれだけ憎たらしく思えた男なのに、今の八尾の姿を見ると同情心すら沸いてきた。
「……俺は、勝ちたかった。金なんかどうでもいい。ただ、勝ちたかった……」
財布から金を取り出しながら、小さな声で呟く八尾。
優司も日高も、そして信次もただ黙ってそれを聞いている。
「手段を問わず、とにかく夏目を負かせればそれで良かったんだ……。
なんで……。なんでここまで追い詰めたのに、土壇場でかわされたんだ……。
クソ……クソ……」
段々と声が上ずってくる。
プライドを捨て、店員買収という下劣な手まで使ったのにまさかの敗北。
八尾にとって、その悔しさは尋常ではなかった。
「広瀬に……広瀬に……俺は……」
呟き続ける八尾を横目に、他の3人は黙り続けていた。
皆、複雑な気持ちで、ただひたすら八尾が30万を取り出し終えるのを待っている。
その時だった。
「よぉ。今呼ばなかった?
偶然通りかかったんだけどさぁ」
「……えッ?」
一同、一斉に驚く。
「ん? どうしたんだ八尾、そんなに顔腫らして?」
皆、驚いた表情のまま絶句している。
それもそのはず、目の前には、今まさに八尾が名前を口にした広瀬が立っていたのだから。
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