ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
57 / 138
【第3章】

■第57話 : 理解不能

しおりを挟む
(何が起こったんだ……? なんで……? 何がどうなってんだ……?)

ただただ困惑するだけ。

(おいおい……冗談だろ……?
 もう夜の10時50分じゃねぇか……。閉店まであと10分だぞ……?
 出玉の差はどうなってる……?
 夏目のヤツは、どうみても2000枚くらいしかない。
 で、俺が…………くっ…………5000枚はある…………。
 なんで…………なんでこんなことに…………)

「おい、勝負あったんじゃないか?」

吉宗を回しながら一人思い悩む八尾に、日高が余裕たっぷりで話しかけた。

「……」

沈黙する八尾に、さらに日高が話し続ける。

「残念だったな、八尾。
 まさか、あそこから5000枚叩き出すとはね。
 しかしあれだな、お前の台のボーナス履歴、綺麗に設定6の履歴だよな?
 ハマリは浅く、初当たり3回に1回は天国入って2連か3連で抜ける。
 たまに1G連でドカっと増やす。
 謎解除も多かったし、まさに吉宗の6の挙動じゃん」

「……うるせぇ。たまたまだよ。
 コイツは設定1だ。紛れもなく。
 1だって、たまには6っぽい挙動をしちまうんだよ……」

「おめでたいヤツだね。
 まだそんなこと言ってんだ?」

自分の打っている台から離れ、優司が割って入ってきた。

八尾が、目を丸くしながら答える。

「な、夏目……? どういうことだよ」

「とりあえず、コイン流して外に出ようよ。もういいでしょ? 」

閉店まで残り10分では、どんな奇跡が起ころうとも逆転は不可能。
優司の申し出は正しいものだった。

しかし、それでも八尾は諦めようとしない。

(クソ……。こうなったら多少強引でもかまわねぇ。主任の近藤を呼び出して、さっきの没収したコインを夏目に戻させよう。そうすれば、夏目の持ちコインは5000枚を超える。
 それで、コインは同じくらいになるが、投資額は俺の方が2万多いんだから、これで俺の勝ちだ。
 へへへ……。ホール主任と組んでる以上、なんだってできるんだ。負けるわけがねぇ)

携帯を取り出し、近藤へ電話をかけるため席を離れようとした。

しかしその時、優司が八尾の肩を掴み、動きを制した。

八尾が、不愉快そうに口を開く。

「なんだよ、放せよ。まだ終わってねぇだろ?
 どう行動しようと、俺の自由だ」

「……まだわかってないのかよ?
 そこそこキレ者かと思いきや、案外大したことないんだな?」

「あん? 何言ってんだ?」

「だから、もう無駄だって言ってんだよ。今更、近藤主任に電話かけたって」

八尾は、この言葉に一瞬ドキっとするも、もうバレていることは知っているのでそこまで大きくは動揺しなかった。

それどこか、逆に開き直ることにした。

「……別に電話したっていいだろ?
 そこまでズバっと言ってくんなら話は早い。今からだって、俺に逆転の目はあるんだぜ?
 ホール主任と組んでる以上、やりたい放題なんだからよッ!」

優司は、一つ大きく息を吐いてから言葉を紡ぐ。

「八尾。お前さ、金で買収したような関係がそんなに長く続くとでも思ってんのか?」

「はっ?」

八尾の顔色が変わった。
しかし、優司はそれに構わず淡々と話す。

「鈍いね。
 はっきり言ってやるけど、お前がさっきまで打ってた吉宗は設定6、俺の吉宗は1だよ。
 しかも俺の台は、しっかりとストックまで飛ばされてるし。
 さすがの俺でも、ここまでお膳立てが整えば負けやしないさ」

「なっ……えっ……?」

「主任の近藤からは、『吉宗のシマの設定1と6を逆に教えておいた』みたいに聞いてるんだろ?」

八尾は、歯を食いしばりながら無言で優司の話を聞いている。

「なんで知ってるんだ、って顔してるね。
 ここまで言えばもう察しはついただろうけど、俺が近藤に、そう言えって伝えたからだよ」

「……」

「買収の額はケチるもんじゃないね、八尾。
 お前、近藤に10万しか払わなかったらしいじゃん。前金5万の後金5万で。
 近藤主任、あっさりと倍の20万で転んだよ」

依然、口をポカーンと開けたまま微動だにしない八尾。
そのまま優司が言葉を続ける。

「近藤には、『八尾から電話がかかってくるだろうから、この紙に書いてある通りに言え』って指示しといたんだ。お前から電話があった時、近藤は俺が書いた紙を読んでただけだよ。
 あと、お前の巨人は設定2だから、みたいなことも聞いただろ? あれは、お前を吉宗の6に誘導するためのウソだよ」

「そんな……バカな……だって……」

「じゃあ、なんで俺がここまで知ってんの?
 今の話が嘘なら、こんなにいろいろ知ってるわけないし。
 そういうわけで、今更近藤に電話したって無駄だよ。彼はもうこっち側の人間なんだからさ」

この説明に驚いたのは八尾だけではない。
信次はもちろん、日高もこのことは知らなかった。
ただ、『あとで話すから』と延ばされていたのだ。

そう、なんと優司は、買収されて八尾側についていた近藤を、逆に買収し返してしまったのだ。
冷静に考えてみれば、呆れ返るほど単純な逆転技。

「……あの時か。俺と日高がやりあってる最中に……。
 だから近藤の野郎は、あんな大騒ぎになってるのにホールへ出てこなかったのか……」

「まあ、大体その頃だろうね。
 別に日高と示しあわせてそうしたわけじゃないんだけどね。
 それにしてもあの近藤主任、口説き落とすのに2分とかからなかったよ。その後の打ち合わせで時間がかかったから、トータルで20分くらい電話してたけどね」

「…………」

「唯一怖かったのは、買収じゃなくて、お前が『友達として近藤と繋がってる』ってことだった。
 もしそうだったら、俺はもう終わりだったよ。友達を金で売る人間はそうそういないからね。
 でも、ほぼ買収に間違いないとは思った。
 もし友達だったなら、勝負前にお前と近藤の関係が俺たちにバレたら終わりだからね。
 用心深いお前なら、あえて赤の他人を使うだろうと思ったのさ。
 となれば、金の関係である可能性が高い。金の関係なら壊すのは簡単だ。ただ単にお前以上に金を積めばいいだけだし」

「…………」

ここでついに八尾は観念した。

そして、表情を大きく歪めながらも、吉宗の下皿に残っているコインをドル箱につめ始めた。



◇◇◇◇◇◇



「おかしいとは思ったんだ……
 あのボンクラの近藤が、そんな機転が利くわけねぇんだよ……クソ……」

コインを流してレシートを受け取った後、店の外へと出た優司・日高・八尾・信次の4人。
その最中、ボヤきながらノソノソと歩く八尾。

うつろな表情で徘徊するように歩き続ける八尾に、優司が声をかける。

「もうこのへんでいいだろ? さっさと清算しようよ。
 っていっても、お前が30万払えばそれで終わりだけど」

優司が喋り終わると、八尾は素直に立ち止まって財布を取り出し、1枚1枚数えながら万札を取り出していく。

日高の攻撃によって腫れた顔、そして丸まった背中。
その姿は、朝のふてぶてしい八尾の姿からは想像も出来ないほど、ひどくみすぼらしいものだった。

日高にとっても、あれだけ憎たらしく思えた男なのに、今の八尾の姿を見ると同情心すら沸いてきた。

「……俺は、勝ちたかった。金なんかどうでもいい。ただ、勝ちたかった……」

財布から金を取り出しながら、小さな声で呟く八尾。
優司も日高も、そして信次もただ黙ってそれを聞いている。

「手段を問わず、とにかく夏目を負かせればそれで良かったんだ……。
 なんで……。なんでここまで追い詰めたのに、土壇場でかわされたんだ……。
 クソ……クソ……」

段々と声が上ずってくる。

プライドを捨て、店員買収という下劣な手まで使ったのにまさかの敗北。
八尾にとって、その悔しさは尋常ではなかった。

「広瀬に……広瀬に……俺は……」

呟き続ける八尾を横目に、他の3人は黙り続けていた。

皆、複雑な気持ちで、ただひたすら八尾が30万を取り出し終えるのを待っている。

その時だった。

「よぉ。今呼ばなかった?
 偶然通りかかったんだけどさぁ」

「……えッ?」

一同、一斉に驚く。

「ん? どうしたんだ八尾、そんなに顔腫らして?」

皆、驚いた表情のまま絶句している。

それもそのはず、目の前には、今まさに八尾が名前を口にした広瀬が立っていたのだから。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...