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【第4章】
■第73話 : 苦渋の決断
「なんだよ? もう用はねぇんだろ?」
優司の呼び止めに応じて足を止めた鴻上は、振り返りながら問い掛けた。
下唇を強く噛んだ後、優司が怒鳴る。
「わかったよ、勝負すればいいんだろ!
受けるよ、受けてやるよ!
ただし、俺が負けたら、ちゃんと飯島と別れろよ! それが絶対の条件だ」
「へぇ……やっぱ受けるんだ。
まあ、そりゃそうだよな。スロにしか生きがいを見出せないようなクズ人間を、最後まで心配してくれてた女だもんなぁ?」
「お前だけにはクズだなんて言われたくないっ……。黙ってろっ……。
とにかく勝負してやるんだから、もういいだろうが」
「はいはい、わかりましたよ。
ま、勝負するってんならこれ以上イジめてもしょうがねぇな」
「ッ…………」
「じゃあ、勝負は3日後な。
賭け金は、いつものお前の相場通り30万。
勝負ホールはT駅西口にある『ジュピター』。
分かってんだろうけど、当日は、俺に打つ台をこっそり教えてくれよな。設定6の台を。
で、お前は低設定台を選んで座る、と。
これで無事、俺の勝利ってわけだ」
「……わかったよ」
「悪いなぁ。
俺には、どこにどんな設定の台が置かれるかなんてわからないもんでさ。ヘヘ!」
「…………」
「安心しろって。
お前がちゃんと負けたら、俺もしっかりと約束を守って由香と別れてやる」
「……当然だろうが」
「へっ……。
まあいいや。とりあえずメアド教えといてくれよ。細かいことは後々メールで連絡すっから。
あと、一応電話番号もな」
仕方なく、言われるままに自分の携帯を取り出し、鴻上に自分のメアドと携帯の番号を見せる優司。
鴻上は、提示されたメアドと携帯番号を自分の携帯に入力した。
「オッケー。
じゃあ、明日にでも細かい連絡事項を送っとくから。
あらかじめ言っとくけどよ、間違っても、お前の後ろ盾の日高とか真鍋とかにこのことをチクんなよ?
そんなことすりゃ、それでこの話はなかったことになるからな」
鴻上の歪んだ表現に、思わず頭に血が上る。
「後ろ盾なんかじゃない! ただの友人だっ!」
「あっそ。
どうでもいいけど、とにかくあの二人には言うなってこと。この街でがっつりスロット打ってる奴の間では有名だもんな、日高と真鍋。横のつながりも多そうだから、あの二人に知られると面倒くさいことになりそうだからな」
「……ああ、わかった。言わないよ」
「でも、ちゃんと勝負現場にはあの二人を連れてくるんだぜ?
じゃないと証人がいないしよ。
余計なことは言わず、ただ『勝負するから見届けてくれ』とでも言っときゃいいよ。
それ以上は何も言わなくていいからな」
「……」
「よし、これで話はまとまった。それじゃな!」
そう言って、余裕に満ち溢れた笑みでその場を離れていく鴻上。
その姿を、優司はただただ苦々しく見送った。
(くそっ……。結局ヤツの思い通りかよ……。
これで本当に良かったのか俺は……?
飯島の為に、今までやってきたことを全部フイにしちまっていいのか……?
それより何より、あんなクソ野郎の言いなりになってていいのかよ…………)
◇◇◇◇◇◇
「やぁ、小島。俺」
鴻上が立ち去ってから10分ほどが経ち、優司はおもむろに小島の携帯に電話をした。
聞くのはもちろん、鴻上のことだった。
「あ、夏目君ッスか?」
「ああ……。今、ちょっといいか?」
「ええ、大丈夫ッスけど……。
どうしたんスか? なんか声のトーンが……」
「いや、ちょっといろいろあってさ」
「え……?」
「『街の情報通』みたいなお前にちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。
鴻上って男の名前、聞いたことある?」
「へっ? コウガミ……っすか?」
「うん。もしかしたら小島なら知ってるかも、と思ってさ」
「うーん……。さすがに名字だけいきなり聞いても……」
「あ、わるいわるい。
下の名前が……確か『ケンジ』だったかな?
んで、やたら女ったらし、みたいな」
「ケンジ……コウガミケンジ……」
さすがに、そうそううまいこと知ってるものじゃないか。
そう諦めかけた時だった。
「……あっ!」
「え? な、なんだよ小島。急に大声を出して」
「わかったッス!
鴻上健自ですよね?
そういえば、ちょこちょこと噂を聞いたことが……」
「マジっ? やっぱすごいね、小島の情報力は!」
「でも……。
その男、女ったらしっつーか、確かヒモみたいなヤツですよ?
女を生活の道具としか見てないような人間だって聞いたような……」
「あ……」
これで聞くことがなくなってしまった。
優司が一番聞きたかったのは、鴻上という男が、『自分のことを世話してくれている女に対し、簡単に手のひらを返してひどい目に遭わせるような男なのか?』ということなのだから。
もしあの脅しがハッタリならば、むざむざ負ける必要はない。
他に手段を考えることもできる。
しかし、小島の口ぶりからも、やはり鴻上の言っていたことは嘘ではなさそうだということがわかった。
そういう非道を平気でやりかねない、ということが。
さらに小島が続ける。
「友達から聞いた話なんスけど、その友達の知り合いの女の子が、鴻上のヤツに大借金背負わされて、とんでもない目に遭ったんだとか……」
「……」
『名の知れたクズ』だとわかり、余計落ち込んでしまった優司に対し、畳み掛けるように冷酷な事実を告げてしまった小島。
「あれ……? どうしたんスか?」
「小島……。この後なんか予定ある?
出来たら、軽く飲みたいんだけどさ……」
「え……?
あ、はい、別にいいッスけど」
明らかに沈んだトーンの優司に、半ば圧倒されるような形で承諾する小島。
「よし、じゃあ1時間後に串丸でな」
「あ、了解ッス。
……ちなみに、日高さんとか真鍋さんは呼ばなくていいんスか?」
「ああ、今日はいいや。
というか、呼ばないでくれ。頼む」
「……」
軽く気まずい空気が流れ、それに耐え切れなくなる優司。
じゃあ1時間後に、とだけ言い、そのまま電話を切ってしまった。
(なんか……良くないことの連続だな。
日高達とはバツが悪い感じだし、ワケわかんないヤツから因縁つけられるし、挙句、飯島との再会がこんな形だなんて……。
なんか悪いことでもしたんかな、俺……。
バチでもあたってるのかな…… )
優司の呼び止めに応じて足を止めた鴻上は、振り返りながら問い掛けた。
下唇を強く噛んだ後、優司が怒鳴る。
「わかったよ、勝負すればいいんだろ!
受けるよ、受けてやるよ!
ただし、俺が負けたら、ちゃんと飯島と別れろよ! それが絶対の条件だ」
「へぇ……やっぱ受けるんだ。
まあ、そりゃそうだよな。スロにしか生きがいを見出せないようなクズ人間を、最後まで心配してくれてた女だもんなぁ?」
「お前だけにはクズだなんて言われたくないっ……。黙ってろっ……。
とにかく勝負してやるんだから、もういいだろうが」
「はいはい、わかりましたよ。
ま、勝負するってんならこれ以上イジめてもしょうがねぇな」
「ッ…………」
「じゃあ、勝負は3日後な。
賭け金は、いつものお前の相場通り30万。
勝負ホールはT駅西口にある『ジュピター』。
分かってんだろうけど、当日は、俺に打つ台をこっそり教えてくれよな。設定6の台を。
で、お前は低設定台を選んで座る、と。
これで無事、俺の勝利ってわけだ」
「……わかったよ」
「悪いなぁ。
俺には、どこにどんな設定の台が置かれるかなんてわからないもんでさ。ヘヘ!」
「…………」
「安心しろって。
お前がちゃんと負けたら、俺もしっかりと約束を守って由香と別れてやる」
「……当然だろうが」
「へっ……。
まあいいや。とりあえずメアド教えといてくれよ。細かいことは後々メールで連絡すっから。
あと、一応電話番号もな」
仕方なく、言われるままに自分の携帯を取り出し、鴻上に自分のメアドと携帯の番号を見せる優司。
鴻上は、提示されたメアドと携帯番号を自分の携帯に入力した。
「オッケー。
じゃあ、明日にでも細かい連絡事項を送っとくから。
あらかじめ言っとくけどよ、間違っても、お前の後ろ盾の日高とか真鍋とかにこのことをチクんなよ?
そんなことすりゃ、それでこの話はなかったことになるからな」
鴻上の歪んだ表現に、思わず頭に血が上る。
「後ろ盾なんかじゃない! ただの友人だっ!」
「あっそ。
どうでもいいけど、とにかくあの二人には言うなってこと。この街でがっつりスロット打ってる奴の間では有名だもんな、日高と真鍋。横のつながりも多そうだから、あの二人に知られると面倒くさいことになりそうだからな」
「……ああ、わかった。言わないよ」
「でも、ちゃんと勝負現場にはあの二人を連れてくるんだぜ?
じゃないと証人がいないしよ。
余計なことは言わず、ただ『勝負するから見届けてくれ』とでも言っときゃいいよ。
それ以上は何も言わなくていいからな」
「……」
「よし、これで話はまとまった。それじゃな!」
そう言って、余裕に満ち溢れた笑みでその場を離れていく鴻上。
その姿を、優司はただただ苦々しく見送った。
(くそっ……。結局ヤツの思い通りかよ……。
これで本当に良かったのか俺は……?
飯島の為に、今までやってきたことを全部フイにしちまっていいのか……?
それより何より、あんなクソ野郎の言いなりになってていいのかよ…………)
◇◇◇◇◇◇
「やぁ、小島。俺」
鴻上が立ち去ってから10分ほどが経ち、優司はおもむろに小島の携帯に電話をした。
聞くのはもちろん、鴻上のことだった。
「あ、夏目君ッスか?」
「ああ……。今、ちょっといいか?」
「ええ、大丈夫ッスけど……。
どうしたんスか? なんか声のトーンが……」
「いや、ちょっといろいろあってさ」
「え……?」
「『街の情報通』みたいなお前にちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。
鴻上って男の名前、聞いたことある?」
「へっ? コウガミ……っすか?」
「うん。もしかしたら小島なら知ってるかも、と思ってさ」
「うーん……。さすがに名字だけいきなり聞いても……」
「あ、わるいわるい。
下の名前が……確か『ケンジ』だったかな?
んで、やたら女ったらし、みたいな」
「ケンジ……コウガミケンジ……」
さすがに、そうそううまいこと知ってるものじゃないか。
そう諦めかけた時だった。
「……あっ!」
「え? な、なんだよ小島。急に大声を出して」
「わかったッス!
鴻上健自ですよね?
そういえば、ちょこちょこと噂を聞いたことが……」
「マジっ? やっぱすごいね、小島の情報力は!」
「でも……。
その男、女ったらしっつーか、確かヒモみたいなヤツですよ?
女を生活の道具としか見てないような人間だって聞いたような……」
「あ……」
これで聞くことがなくなってしまった。
優司が一番聞きたかったのは、鴻上という男が、『自分のことを世話してくれている女に対し、簡単に手のひらを返してひどい目に遭わせるような男なのか?』ということなのだから。
もしあの脅しがハッタリならば、むざむざ負ける必要はない。
他に手段を考えることもできる。
しかし、小島の口ぶりからも、やはり鴻上の言っていたことは嘘ではなさそうだということがわかった。
そういう非道を平気でやりかねない、ということが。
さらに小島が続ける。
「友達から聞いた話なんスけど、その友達の知り合いの女の子が、鴻上のヤツに大借金背負わされて、とんでもない目に遭ったんだとか……」
「……」
『名の知れたクズ』だとわかり、余計落ち込んでしまった優司に対し、畳み掛けるように冷酷な事実を告げてしまった小島。
「あれ……? どうしたんスか?」
「小島……。この後なんか予定ある?
出来たら、軽く飲みたいんだけどさ……」
「え……?
あ、はい、別にいいッスけど」
明らかに沈んだトーンの優司に、半ば圧倒されるような形で承諾する小島。
「よし、じゃあ1時間後に串丸でな」
「あ、了解ッス。
……ちなみに、日高さんとか真鍋さんは呼ばなくていいんスか?」
「ああ、今日はいいや。
というか、呼ばないでくれ。頼む」
「……」
軽く気まずい空気が流れ、それに耐え切れなくなる優司。
じゃあ1時間後に、とだけ言い、そのまま電話を切ってしまった。
(なんか……良くないことの連続だな。
日高達とはバツが悪い感じだし、ワケわかんないヤツから因縁つけられるし、挙句、飯島との再会がこんな形だなんて……。
なんか悪いことでもしたんかな、俺……。
バチでもあたってるのかな…… )
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