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【第4章】
■第74話 : 選ぶべき道
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「――ってわけなんだよ。
やってらんないだろ?
なんで俺がこんな目に……」
「ちょ、ちょっとペース早すぎじゃないッスか……? もう少しゆっくり飲んだ方が……。
ほら、まだ9時過ぎですよ?」
馴染みの居酒屋、串丸。
優司は、小島と合流して飲みだすなり、まくし立てるように先ほどまでの出来事を語りながら、凄い勢いでビールを体内に流し込んでいた。
「まあいいからよ!
俺の体なんてどうなったっていいんだからさ! ハッハッハ!」
「な、夏目君……」
事の顛末を聞き、優司が荒れてしまう理由もなんとなく理解できる小島。
日高達との不和。
最悪な形での元彼女との再会。
そして、そんな元彼女を助けるためには、今まで自分が築いてきたものを捨て去らなければならないという不条理。
何より、最低だと思えるような人間の軍門に下ったような形になるという屈辱。
「なぁ小島ぁ……。
俺、マジであんなヤツに負けてやんないといけないのかなぁ……」
「……」
「鴻上のヤツ、当初飯島は俺のこと気遣ってたなんて都合のいいこと言ってやがったけど、そんなのなんとでも言えるもんなぁ」
「でも、本当のことかもしれないッスよ?
だから、さすがにこのまま見捨てるってのは……。
俺としてはあんまり賛成できないッス」
「わかってるよ! そんなことは俺だってわかってんだ!
だから……だから悔しいのを承知で、バカげた負け決定の勝負を引き受けてきたんだろっ!」
「す、すいませんっ……」
「……いや、ゴメン。小島に怒鳴ってもしょうがないよな」
「……」
「何か……。何か手はないんかな……」
しばらく黙りこくった後、何かを決意したように小島が話し出した。
「あ、あの……。
イ、イヤかもしれないッスけど、ここは素直に日高さん達に相談してみたらどうッスか?」
「小島……」
「わかってます!
今みたいにあんまうまくいってない感じの時に、困ったことになったからって急に日高さんを頼るなんて、確かになんか違う気がしますよね?
でも、それを承知で言ってるんッス!」
「…………」
「俺の力じゃどうにもできそうにないし、ここは素直に頼りましょうよ……?」
「…………」
小島の真摯な言葉を受け、しばらくうつむいたまま考え込む。
そして、残っていたビールを一気に飲み干し、訥々と話し出した。
「小島……。
悪いけど、やっぱりそれは出来ないって。
散々、彼らの意見に逆らっといて、ちょっと都合悪くなりゃすぐに頼るなんて、どう考えたって間違ってる。
俺にも、意地ってもんがあるんだよ」
「……」
「それに鴻上は、日高たちにこのことを喋ったら、飯島の身の保障はないって言ってたしね。
何かの拍子に伝わったら、元も子もないよ。
だから、お前も絶対に日高たちにこのことは言わないでくれよ」
「わ、わかったッス……」
「はぁ……。
結局、俺が素直に負けるしか、飯島を救う道はないんだよな…………」
カラになったビールジョッキを手に持ち、焦点の合っていない視線を宙へやる優司。
アルコールにやられているのもあるが、それ以上に、己の今の立場に絶望しているという要素の方が強い。
たまらず、悪いとは思いながらも、少し話題を逸らそうとする小島。
「……だ、大体、なんで鴻上は急にスロでの名声なんて欲しくなったんスかね?
そのままヒモで喰ってりゃいいのに、なんで今更夏目君に勝とうなんて……」
「さぁね。知らないよそんなこと。
どうだっていいしさ」
「……」
話、逸れず。
◇◇◇◇◇◇
23:00。
結局これといった解決策も見当たらず、優司と小島はそのまま解散した。
小島は自宅へ、優司はいつものマンガ喫茶へ。
マンガ喫茶の個室に入ると、優司はすぐにシートを倒し、横になった。
そして天井を見つめながら、考え事に耽った。
(勝負は3日後、か……)
負けなければならない勝負へのカウントダウンは始まっている。
このことが、優司の心を果てしなく締め付ける。
(俺は今まで何をやってきたんだろう。
ホームレスまでして、必死でホールに落ちてるコインを拾い集めて食い繋いで、ようやく思い付いた作戦ではあっさり藤田に裏切られ……。
でも、それを逆手にとって日高に勝負を仕掛けて、そこからようやくどん底から這い上がって、ここまで連勝を続けて……。
やっとこの世界では一端の人間になれたかと思ったのに……)
同じようなスロニート達からスロッターとして認められようと、社会的に見ればなんら価値はない。
それどころか、下手をすればマイナスにすらなってしまうような要素。
麻雀などのように、プロが存在するわけでもないのだから。
それは優司も、心の奥底ではわかっていた。
しかしそれでも、優司はスロッターとして皆から認められていることに誇りを持っていた。
なんだかんだで、誰にでもできることではないのだ、と。
だが、唯一とも言っていいほどのその誇りが、今まさに失われようとしている。
そして、優司の悩みは一つではない。
それは、誰しもが一度は悩む大問題、「自分の将来」についてだった。
日高や真鍋からもしきりに心配されていたことだが、30万を賭けてのパチスロ勝負などいつまでも続くものではない。
もちろん、そんなことは人から言われるまでもなくわかっていた。
どこかで見切りをつけて、新たな道へ進まなければならないということを。
しかし、どこで切り上げ、そこからどう進んでいけばいいのか全く検討がつかない。
このことについて、あまり人前では出していないものの、実は密かに悩み続けていた。
(何らかの方法で、今回の鴻上との勝負を仮に勝ちで終えられたとしても、今度は乾を探していろんなホールを飛び回る生活が待ってる。
で、乾との勝負に勝てたら、次は神崎だ。
神崎を探して勝負を依頼する。で、俺は勝つ!
……でも、そこから先はどうするんだ?)
いつもここで詰まる。
この先が全く浮かんでこないのだ。
(もしスロ勝負を続行するとしたら、新たな街にでも行って相手を探すしかない。
でも、新たな街へ行けば、ホール情報収集から始めないといけない。
そもそも、せっかくここまでの地盤が作れた土地を離れるなんてありえない。
っていうか、それより何より、パチスロでの生活なんていつまでも続くわけないし、続けられるわけがないんだ。
いつかは社会に出て、ちゃんと働かないといけないんだから。
でも、親父の後を継いで医者になるなんてのも今更だし……)
まさに堂々巡り。
一向に答えを導き出せない。
(……まあとにかく、まずは目の前のことを処理しないと。鴻上との勝負の件を。
本当に負け勝負を演じるんなら、これからのスロ勝負なんて心配する必要はなくなるんだし。
俺の場合、一度でも負けたらおしまいっていうルールがあるからな。
……じゃあどうする? 本当に、ただ黙っておとなしく負けるのか俺は……?)
天井をじっと見ながら、自然と大きなため息が出る。
そのまましばらく考え込みながら、徐々に自分の中での答えを固めていく。
(飯島は、別れる寸前まで俺のことを心配してくれてた。それは事実だ。
こんな俺のことを……。
でもあの時の俺は、そんな飯島の思いを踏みにじった。
その罪滅ぼしが…………少しでもできるなら…………)
やってらんないだろ?
なんで俺がこんな目に……」
「ちょ、ちょっとペース早すぎじゃないッスか……? もう少しゆっくり飲んだ方が……。
ほら、まだ9時過ぎですよ?」
馴染みの居酒屋、串丸。
優司は、小島と合流して飲みだすなり、まくし立てるように先ほどまでの出来事を語りながら、凄い勢いでビールを体内に流し込んでいた。
「まあいいからよ!
俺の体なんてどうなったっていいんだからさ! ハッハッハ!」
「な、夏目君……」
事の顛末を聞き、優司が荒れてしまう理由もなんとなく理解できる小島。
日高達との不和。
最悪な形での元彼女との再会。
そして、そんな元彼女を助けるためには、今まで自分が築いてきたものを捨て去らなければならないという不条理。
何より、最低だと思えるような人間の軍門に下ったような形になるという屈辱。
「なぁ小島ぁ……。
俺、マジであんなヤツに負けてやんないといけないのかなぁ……」
「……」
「鴻上のヤツ、当初飯島は俺のこと気遣ってたなんて都合のいいこと言ってやがったけど、そんなのなんとでも言えるもんなぁ」
「でも、本当のことかもしれないッスよ?
だから、さすがにこのまま見捨てるってのは……。
俺としてはあんまり賛成できないッス」
「わかってるよ! そんなことは俺だってわかってんだ!
だから……だから悔しいのを承知で、バカげた負け決定の勝負を引き受けてきたんだろっ!」
「す、すいませんっ……」
「……いや、ゴメン。小島に怒鳴ってもしょうがないよな」
「……」
「何か……。何か手はないんかな……」
しばらく黙りこくった後、何かを決意したように小島が話し出した。
「あ、あの……。
イ、イヤかもしれないッスけど、ここは素直に日高さん達に相談してみたらどうッスか?」
「小島……」
「わかってます!
今みたいにあんまうまくいってない感じの時に、困ったことになったからって急に日高さんを頼るなんて、確かになんか違う気がしますよね?
でも、それを承知で言ってるんッス!」
「…………」
「俺の力じゃどうにもできそうにないし、ここは素直に頼りましょうよ……?」
「…………」
小島の真摯な言葉を受け、しばらくうつむいたまま考え込む。
そして、残っていたビールを一気に飲み干し、訥々と話し出した。
「小島……。
悪いけど、やっぱりそれは出来ないって。
散々、彼らの意見に逆らっといて、ちょっと都合悪くなりゃすぐに頼るなんて、どう考えたって間違ってる。
俺にも、意地ってもんがあるんだよ」
「……」
「それに鴻上は、日高たちにこのことを喋ったら、飯島の身の保障はないって言ってたしね。
何かの拍子に伝わったら、元も子もないよ。
だから、お前も絶対に日高たちにこのことは言わないでくれよ」
「わ、わかったッス……」
「はぁ……。
結局、俺が素直に負けるしか、飯島を救う道はないんだよな…………」
カラになったビールジョッキを手に持ち、焦点の合っていない視線を宙へやる優司。
アルコールにやられているのもあるが、それ以上に、己の今の立場に絶望しているという要素の方が強い。
たまらず、悪いとは思いながらも、少し話題を逸らそうとする小島。
「……だ、大体、なんで鴻上は急にスロでの名声なんて欲しくなったんスかね?
そのままヒモで喰ってりゃいいのに、なんで今更夏目君に勝とうなんて……」
「さぁね。知らないよそんなこと。
どうだっていいしさ」
「……」
話、逸れず。
◇◇◇◇◇◇
23:00。
結局これといった解決策も見当たらず、優司と小島はそのまま解散した。
小島は自宅へ、優司はいつものマンガ喫茶へ。
マンガ喫茶の個室に入ると、優司はすぐにシートを倒し、横になった。
そして天井を見つめながら、考え事に耽った。
(勝負は3日後、か……)
負けなければならない勝負へのカウントダウンは始まっている。
このことが、優司の心を果てしなく締め付ける。
(俺は今まで何をやってきたんだろう。
ホームレスまでして、必死でホールに落ちてるコインを拾い集めて食い繋いで、ようやく思い付いた作戦ではあっさり藤田に裏切られ……。
でも、それを逆手にとって日高に勝負を仕掛けて、そこからようやくどん底から這い上がって、ここまで連勝を続けて……。
やっとこの世界では一端の人間になれたかと思ったのに……)
同じようなスロニート達からスロッターとして認められようと、社会的に見ればなんら価値はない。
それどころか、下手をすればマイナスにすらなってしまうような要素。
麻雀などのように、プロが存在するわけでもないのだから。
それは優司も、心の奥底ではわかっていた。
しかしそれでも、優司はスロッターとして皆から認められていることに誇りを持っていた。
なんだかんだで、誰にでもできることではないのだ、と。
だが、唯一とも言っていいほどのその誇りが、今まさに失われようとしている。
そして、優司の悩みは一つではない。
それは、誰しもが一度は悩む大問題、「自分の将来」についてだった。
日高や真鍋からもしきりに心配されていたことだが、30万を賭けてのパチスロ勝負などいつまでも続くものではない。
もちろん、そんなことは人から言われるまでもなくわかっていた。
どこかで見切りをつけて、新たな道へ進まなければならないということを。
しかし、どこで切り上げ、そこからどう進んでいけばいいのか全く検討がつかない。
このことについて、あまり人前では出していないものの、実は密かに悩み続けていた。
(何らかの方法で、今回の鴻上との勝負を仮に勝ちで終えられたとしても、今度は乾を探していろんなホールを飛び回る生活が待ってる。
で、乾との勝負に勝てたら、次は神崎だ。
神崎を探して勝負を依頼する。で、俺は勝つ!
……でも、そこから先はどうするんだ?)
いつもここで詰まる。
この先が全く浮かんでこないのだ。
(もしスロ勝負を続行するとしたら、新たな街にでも行って相手を探すしかない。
でも、新たな街へ行けば、ホール情報収集から始めないといけない。
そもそも、せっかくここまでの地盤が作れた土地を離れるなんてありえない。
っていうか、それより何より、パチスロでの生活なんていつまでも続くわけないし、続けられるわけがないんだ。
いつかは社会に出て、ちゃんと働かないといけないんだから。
でも、親父の後を継いで医者になるなんてのも今更だし……)
まさに堂々巡り。
一向に答えを導き出せない。
(……まあとにかく、まずは目の前のことを処理しないと。鴻上との勝負の件を。
本当に負け勝負を演じるんなら、これからのスロ勝負なんて心配する必要はなくなるんだし。
俺の場合、一度でも負けたらおしまいっていうルールがあるからな。
……じゃあどうする? 本当に、ただ黙っておとなしく負けるのか俺は……?)
天井をじっと見ながら、自然と大きなため息が出る。
そのまましばらく考え込みながら、徐々に自分の中での答えを固めていく。
(飯島は、別れる寸前まで俺のことを心配してくれてた。それは事実だ。
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