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【第4章】
■第77話 : 広瀬の苦悩
「な、名前……?
俺に勝負を吹っかけてきてるヤツの?」
「そう。夏目の前の彼女を盾に勝負しようとしてる、そいつの名前」
「……」
なんでそんなことを聞くのだろう、と一瞬考え込んだが、特に隠す理由もないので素直に答えることにした優司。
「鴻上、っていうんだけど……」
「ッ!」
鴻上の名前を聞いた瞬間、目を見開き、広瀬は固まった。
その様子を見た優司は、広瀬が鴻上という男について何かしら知っているのだということを悟った。
「知ってるの? 鴻上のこと?」
「……一応、名前は」
「なんでっ?」
「いや……。
前に、俺の知り合いの女の子二人から似たような話聞いたのを思い出してさ。似たような話って言っても、女を盾にしてスロ勝負、ってわけじゃないけどね。でも、『凄腕のヒモ』っていう夏目の言葉で、なんとなく鴻上ってやつのことが頭に浮かんだんだ」
「……」
「その女の子たち、二人とも鴻上に借金背負わされてさ。危うく風俗送りになるところだったみたい。
でも、二人ともなんとかハードなバイトシフトで乗り切ったみたいだけど。
……それにしても、まさか本当に同じヤツだとまでは思わなかったよ」
「やっぱり、鴻上ってやつはそこまでするヤツなんだ……」
「……」
「俺の前の彼女……飯島っていうんだけど、その飯島を盾にとられて、『お前がわざと勝負に負けなかったら、この女を風俗に堕とす』って言われてるんだ。
それで仕方なく……負け勝負をするしか…………」
「……なるほどね」
小さく何度も頷く広瀬。
それからしばらく、二人の間には沈黙が落ちた。
「で……本当に悪いんだけど……」
沈黙を切り裂き、優司が口を開く。
「広瀬君に、見届け役を引き受けてもらってもいいかな?」
「……それって、やっぱり絶対負けなきゃいけない勝負……なのか?」
「え?」
「いや、その飯島って子の安全を考えるならそれが一番だけど、やっぱりなんか悔しいじゃん、そんなやつの思い通りになるなんて」
「それは……そうだけど……」
散々自分も悩んできたことを改めて広瀬から指摘され、思わず口ごもったものの、すぐさま言葉を続ける。
「もちろん俺だってイヤだよ。あんなクズの言いなりになるなんて。
でも……もうどうしようもないっていうか…… 」
「わかってる。
俺も、何の算段もなくこんなこと言ってるわけじゃないよ」
「え?」
「さっき話しただろ?
俺の知り合いにも、鴻上にひどい目に遭わされた子がいるって」
「う、うん」
「その子たちに現場に来てもらって、飯島って子に教えてあげるのはどうかな?」
「あっ……。
な、なるほどっ……!
そうかっ!」
みるみる生気を取り戻していく優司。
しかし、直後に再び表情が曇っていった。
「でも……協力なんてしてくれるのかな、その子たち?
もう鴻上なんかと会いたくないんじゃ……」
「もちろんそれはあると思う。
だけどそれ以上に、鴻上が好き放題やってて、どんどん被害者を生んでることの方が許せないんじゃないかな。
少なくとも、俺がこの前話を聞いた時はそんな感じだった」
「……」
「もちろん、俺が勝手にあの子たちにそういう印象を持ってるだけで、実際に頼んでみたら断られるかもしれないけど。さすがに無理強いなんかはできないからさ」
「うん、それはそうだよね」
「まあ、とにかく今携帯で聞いてみるよ。
まずは、引き受けてくれるかどうかが大事だから」
そう言って立ち上がった広瀬は、ポケットから携帯を取り出しながら店の外へ出て行った。
◇◇◇◇◇◇
広瀬が席を立ってから15分ほどが経過した頃。
ドキドキしながら待っている優司の下へ、広瀬が足早に戻ってきた。
そして、開口一番こう言った。
「オッケーだって! 二人とも来てくれるってさ!」
「ほ、ほんとっ? おお~っ!」
思わずハイタッチを求める優司。
広瀬も、喜んでそれに応じた。
「これでもう俺は、わざと負けたりしなくていいんだ!
良かったぁ……。本当に助かったっ!」
狂喜する優司。
広瀬も、事がうまく進んだことで、いつもの柔らかな笑みを浮かべていた。
しかし、段々と広瀬の顔から笑みが消えていき、そして重々しく口を開きだした。
「だけどさ、夏目……」
「……?」
「これで大丈夫なのか、って言われると、そうでもないんだよね。
100%成功するから、もうわざと負けたりしなくていい、とまでは言えないよ」
「え……? な、なんで……?」
「現場にあの子たちを連れていっても、鴻上がすっとぼけ続けたらどうにもならないかもしれないからね。
飯島って子がどっちを信じるかは微妙じゃん?」
「……」
ここで優司は、飯島由香と二人で話していた時のことを思い出した。
確かに、わざわざ鴻上を遠ざけ、あえて二人きりになり、そこで鴻上の本性についてあれだけ真剣に訴えたのに、飯島は全く優司の言うことを信じず、そのまま去っていってしまった。
あの様子から察するに、広瀬が恐れているようなことは充分に起こりうる。
それは、優司の中でも容易に想像ができた。
しかし、あえて「大丈夫!大丈夫!」と心の中で呟き、必死で何とかなると思い込もうとしていた。
そうしなければ、自分が勝負に勝ちにいくための大義名分がなくなってしまうから。
変に可能性が見えてしまったことで、勝負に対する欲が出始めていたのだ。
それだけ、優司がスロ勝負にかける情熱は異常なものだった。
「大丈夫だよ! イケるってっ!
二人も被害者が来て、熱心に訴えかけてくれるわけでしょ?
飯島だって、そこまですればいくらなんでも信じてくれるよ!」
「……」
「勝負は勝ちにいく。もう決めたよ」
「……俺からけしかけちゃったんだし、そうして欲しいって思いもあるんだけど、ふと冷静に考えちゃってさ。
俺、すごく余計なことをしたんじゃないかって……」
「そんなことないって!
こんな手を打ってくれて、広瀬君には凄い感謝してるし!」
「……まあ、あんなヤツの言いなりになって夏目が負けるのは俺も悔しいしね。
それなりの手も打ったわけだし、勝ちにいくのはいいのかもしれないけど……。
でも、今更こんなこと言うのもどうかと思うけど、やっぱり一番安全なのは、夏目がわざと負けることだよ? これは間違いない」
「そうだけど……でも、大丈夫だって! 絶対成功する。飯島だってきっと目を覚ましてくれる!」
「うん、まあ……。
そうか。じゃあわかった。とりあえずこの作戦でいこう。
コトがコトだし、俺も全面的に協力するよ。
夏目は普通に勝負して、鴻上に勝つ。で、その後当然鴻上はゴネ出すだろうから、そこで女の子たちに出てきてもらって飯島って子に真実を明かす。
……この流れでやってみようか」
「うん、それでいこう!」
「……わかった」
了解しつつ、どこか腑に落ちないといった表情の広瀬。
万全を期すならば、やはりわざと負けるに越したことはない。
しかし、その選択肢は既に優司の中から完全に消えてしまっている。
(夏目……。ただ勝負にこだわりすぎてるだけなのかな?
『何もせず飯島由香を見捨ててしまう』という罪悪感を消せる何らかの理由があれば、それでいいってことなのか?
ただ見捨てただけだと心が痛むし言い訳も出来ないけど、一応飯島を助けるための策を講じた、という名目があればそれでいい、みたいな……)
こんな疑問が、広瀬の中で沸きあがってきた。
良かれと思ってやったことだが、予想以上に盛り上がっている優司を見て、広瀬としてはどうにも素直に納得できなかった。
しかし、これは広瀬から提案したこと。
今更強く止めることもできない。
優司が意気揚々と言葉を吐く。
「さぁて、じゃあこれから明後日の勝負について練らないと!
俺が二人分の設定予想をしないといけないしね! 俺の台と、あいつが座る台。
でも、ジュピターはわりかし設定も読みやすいし、楽勝かな!」
「……」
「それじゃあ広瀬君、本当に悪いんだけど、明後日はお願いします!
埋め合わせはするから!」
「……うん、わかった。明後日の朝にジュピターね」
「いや、立ち会ってもらうだけだから、昼過ぎくらいに来てもらえれば充分だよ」
「そっか、了解」
「さぁて、じゃあそろそろ――」
広瀬との話が終わり、優司が席を立ちかけた、その時だった。
ポケットに入っていた携帯が振動していることに気付いた優司。
携帯をとりだし、携帯のディスプレイに表示されている相手の名前を確認する。
すると、電話に出ることなくそのまま携帯をポケットにしまいこんだ。
その様子を見ていた広瀬がすぐに声をかける。
「あれ? 出ないの?
俺に気にせず出ていいよ」
「いや……いいんだ。また後で掛け直すからさ。
それじゃ、今日は本当にありがとう!
広瀬君のおかげでいろいろ救われたよ! 本当にありがとう!」
「いや……あんまり気にしなくていいよ」
そう言われ、テレたような笑いを浮かべる優司。
「広瀬君はこれからどうするの?」
「うん。もうちょいここにいるよ。
ちょっとのんびりしたくなってさ」
「そうなんだ。わかった!
それじゃ俺、ジュピターでいろいろ調べたいこともあるし、もう行くね!
……あ、もうこんな時間なんだ。そろそろパチ屋が開店しちゃう時間だね。
ゴメン、長々と話し込んじゃって。
広瀬君、今日も打ちに行く予定だったよね……?」
「いや、今日は特に狙い台もなかったし、大丈夫だよ。気にしなくていいって。
……ほら、急がないとジュピター開店しちゃうよ? 」
「うん! ありがとう!
本当にいろいろ助かりました!
それじゃ、また明後日に!」
そう言って、高いテンションのまま喫茶店を後にした。
そんな優司の後姿を見ながら、物思いに耽る広瀬。
(まあ……ここまできたらなるようにしかならないか……。
絶対成功させないとな。飯島って子のためにも。
……夏目はそのへんのことはどう考えてんだろ? もう、勝負のことしか頭になさそうだけど……)
複雑な思いを抱えながら、なんとなく外を眺めながら、広瀬は大きなため息をついた。
俺に勝負を吹っかけてきてるヤツの?」
「そう。夏目の前の彼女を盾に勝負しようとしてる、そいつの名前」
「……」
なんでそんなことを聞くのだろう、と一瞬考え込んだが、特に隠す理由もないので素直に答えることにした優司。
「鴻上、っていうんだけど……」
「ッ!」
鴻上の名前を聞いた瞬間、目を見開き、広瀬は固まった。
その様子を見た優司は、広瀬が鴻上という男について何かしら知っているのだということを悟った。
「知ってるの? 鴻上のこと?」
「……一応、名前は」
「なんでっ?」
「いや……。
前に、俺の知り合いの女の子二人から似たような話聞いたのを思い出してさ。似たような話って言っても、女を盾にしてスロ勝負、ってわけじゃないけどね。でも、『凄腕のヒモ』っていう夏目の言葉で、なんとなく鴻上ってやつのことが頭に浮かんだんだ」
「……」
「その女の子たち、二人とも鴻上に借金背負わされてさ。危うく風俗送りになるところだったみたい。
でも、二人ともなんとかハードなバイトシフトで乗り切ったみたいだけど。
……それにしても、まさか本当に同じヤツだとまでは思わなかったよ」
「やっぱり、鴻上ってやつはそこまでするヤツなんだ……」
「……」
「俺の前の彼女……飯島っていうんだけど、その飯島を盾にとられて、『お前がわざと勝負に負けなかったら、この女を風俗に堕とす』って言われてるんだ。
それで仕方なく……負け勝負をするしか…………」
「……なるほどね」
小さく何度も頷く広瀬。
それからしばらく、二人の間には沈黙が落ちた。
「で……本当に悪いんだけど……」
沈黙を切り裂き、優司が口を開く。
「広瀬君に、見届け役を引き受けてもらってもいいかな?」
「……それって、やっぱり絶対負けなきゃいけない勝負……なのか?」
「え?」
「いや、その飯島って子の安全を考えるならそれが一番だけど、やっぱりなんか悔しいじゃん、そんなやつの思い通りになるなんて」
「それは……そうだけど……」
散々自分も悩んできたことを改めて広瀬から指摘され、思わず口ごもったものの、すぐさま言葉を続ける。
「もちろん俺だってイヤだよ。あんなクズの言いなりになるなんて。
でも……もうどうしようもないっていうか…… 」
「わかってる。
俺も、何の算段もなくこんなこと言ってるわけじゃないよ」
「え?」
「さっき話しただろ?
俺の知り合いにも、鴻上にひどい目に遭わされた子がいるって」
「う、うん」
「その子たちに現場に来てもらって、飯島って子に教えてあげるのはどうかな?」
「あっ……。
な、なるほどっ……!
そうかっ!」
みるみる生気を取り戻していく優司。
しかし、直後に再び表情が曇っていった。
「でも……協力なんてしてくれるのかな、その子たち?
もう鴻上なんかと会いたくないんじゃ……」
「もちろんそれはあると思う。
だけどそれ以上に、鴻上が好き放題やってて、どんどん被害者を生んでることの方が許せないんじゃないかな。
少なくとも、俺がこの前話を聞いた時はそんな感じだった」
「……」
「もちろん、俺が勝手にあの子たちにそういう印象を持ってるだけで、実際に頼んでみたら断られるかもしれないけど。さすがに無理強いなんかはできないからさ」
「うん、それはそうだよね」
「まあ、とにかく今携帯で聞いてみるよ。
まずは、引き受けてくれるかどうかが大事だから」
そう言って立ち上がった広瀬は、ポケットから携帯を取り出しながら店の外へ出て行った。
◇◇◇◇◇◇
広瀬が席を立ってから15分ほどが経過した頃。
ドキドキしながら待っている優司の下へ、広瀬が足早に戻ってきた。
そして、開口一番こう言った。
「オッケーだって! 二人とも来てくれるってさ!」
「ほ、ほんとっ? おお~っ!」
思わずハイタッチを求める優司。
広瀬も、喜んでそれに応じた。
「これでもう俺は、わざと負けたりしなくていいんだ!
良かったぁ……。本当に助かったっ!」
狂喜する優司。
広瀬も、事がうまく進んだことで、いつもの柔らかな笑みを浮かべていた。
しかし、段々と広瀬の顔から笑みが消えていき、そして重々しく口を開きだした。
「だけどさ、夏目……」
「……?」
「これで大丈夫なのか、って言われると、そうでもないんだよね。
100%成功するから、もうわざと負けたりしなくていい、とまでは言えないよ」
「え……? な、なんで……?」
「現場にあの子たちを連れていっても、鴻上がすっとぼけ続けたらどうにもならないかもしれないからね。
飯島って子がどっちを信じるかは微妙じゃん?」
「……」
ここで優司は、飯島由香と二人で話していた時のことを思い出した。
確かに、わざわざ鴻上を遠ざけ、あえて二人きりになり、そこで鴻上の本性についてあれだけ真剣に訴えたのに、飯島は全く優司の言うことを信じず、そのまま去っていってしまった。
あの様子から察するに、広瀬が恐れているようなことは充分に起こりうる。
それは、優司の中でも容易に想像ができた。
しかし、あえて「大丈夫!大丈夫!」と心の中で呟き、必死で何とかなると思い込もうとしていた。
そうしなければ、自分が勝負に勝ちにいくための大義名分がなくなってしまうから。
変に可能性が見えてしまったことで、勝負に対する欲が出始めていたのだ。
それだけ、優司がスロ勝負にかける情熱は異常なものだった。
「大丈夫だよ! イケるってっ!
二人も被害者が来て、熱心に訴えかけてくれるわけでしょ?
飯島だって、そこまですればいくらなんでも信じてくれるよ!」
「……」
「勝負は勝ちにいく。もう決めたよ」
「……俺からけしかけちゃったんだし、そうして欲しいって思いもあるんだけど、ふと冷静に考えちゃってさ。
俺、すごく余計なことをしたんじゃないかって……」
「そんなことないって!
こんな手を打ってくれて、広瀬君には凄い感謝してるし!」
「……まあ、あんなヤツの言いなりになって夏目が負けるのは俺も悔しいしね。
それなりの手も打ったわけだし、勝ちにいくのはいいのかもしれないけど……。
でも、今更こんなこと言うのもどうかと思うけど、やっぱり一番安全なのは、夏目がわざと負けることだよ? これは間違いない」
「そうだけど……でも、大丈夫だって! 絶対成功する。飯島だってきっと目を覚ましてくれる!」
「うん、まあ……。
そうか。じゃあわかった。とりあえずこの作戦でいこう。
コトがコトだし、俺も全面的に協力するよ。
夏目は普通に勝負して、鴻上に勝つ。で、その後当然鴻上はゴネ出すだろうから、そこで女の子たちに出てきてもらって飯島って子に真実を明かす。
……この流れでやってみようか」
「うん、それでいこう!」
「……わかった」
了解しつつ、どこか腑に落ちないといった表情の広瀬。
万全を期すならば、やはりわざと負けるに越したことはない。
しかし、その選択肢は既に優司の中から完全に消えてしまっている。
(夏目……。ただ勝負にこだわりすぎてるだけなのかな?
『何もせず飯島由香を見捨ててしまう』という罪悪感を消せる何らかの理由があれば、それでいいってことなのか?
ただ見捨てただけだと心が痛むし言い訳も出来ないけど、一応飯島を助けるための策を講じた、という名目があればそれでいい、みたいな……)
こんな疑問が、広瀬の中で沸きあがってきた。
良かれと思ってやったことだが、予想以上に盛り上がっている優司を見て、広瀬としてはどうにも素直に納得できなかった。
しかし、これは広瀬から提案したこと。
今更強く止めることもできない。
優司が意気揚々と言葉を吐く。
「さぁて、じゃあこれから明後日の勝負について練らないと!
俺が二人分の設定予想をしないといけないしね! 俺の台と、あいつが座る台。
でも、ジュピターはわりかし設定も読みやすいし、楽勝かな!」
「……」
「それじゃあ広瀬君、本当に悪いんだけど、明後日はお願いします!
埋め合わせはするから!」
「……うん、わかった。明後日の朝にジュピターね」
「いや、立ち会ってもらうだけだから、昼過ぎくらいに来てもらえれば充分だよ」
「そっか、了解」
「さぁて、じゃあそろそろ――」
広瀬との話が終わり、優司が席を立ちかけた、その時だった。
ポケットに入っていた携帯が振動していることに気付いた優司。
携帯をとりだし、携帯のディスプレイに表示されている相手の名前を確認する。
すると、電話に出ることなくそのまま携帯をポケットにしまいこんだ。
その様子を見ていた広瀬がすぐに声をかける。
「あれ? 出ないの?
俺に気にせず出ていいよ」
「いや……いいんだ。また後で掛け直すからさ。
それじゃ、今日は本当にありがとう!
広瀬君のおかげでいろいろ救われたよ! 本当にありがとう!」
「いや……あんまり気にしなくていいよ」
そう言われ、テレたような笑いを浮かべる優司。
「広瀬君はこれからどうするの?」
「うん。もうちょいここにいるよ。
ちょっとのんびりしたくなってさ」
「そうなんだ。わかった!
それじゃ俺、ジュピターでいろいろ調べたいこともあるし、もう行くね!
……あ、もうこんな時間なんだ。そろそろパチ屋が開店しちゃう時間だね。
ゴメン、長々と話し込んじゃって。
広瀬君、今日も打ちに行く予定だったよね……?」
「いや、今日は特に狙い台もなかったし、大丈夫だよ。気にしなくていいって。
……ほら、急がないとジュピター開店しちゃうよ? 」
「うん! ありがとう!
本当にいろいろ助かりました!
それじゃ、また明後日に!」
そう言って、高いテンションのまま喫茶店を後にした。
そんな優司の後姿を見ながら、物思いに耽る広瀬。
(まあ……ここまできたらなるようにしかならないか……。
絶対成功させないとな。飯島って子のためにも。
……夏目はそのへんのことはどう考えてんだろ? もう、勝負のことしか頭になさそうだけど……)
複雑な思いを抱えながら、なんとなく外を眺めながら、広瀬は大きなため息をついた。
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