ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第105話 : 裂かれる仲

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「こいつが土屋……?
 そ、そういえば……」

日高の言葉を受け、改めて金髪の男の顔を覗き込む真鍋。

確かにその顔に見覚えがあった。
紛れもなく、1年前にこの街のバランスを大きく崩し、忌み嫌われたあの男だった。

呆然とする真鍋とヒデ。
しかし、日高はなんとか平静を保ちつつ、土屋に言葉を投げかけた。

「お前……話には聞いてたけど、本当にこの街に来てたのか。
 ってか、よくのうのうとまたこの街に出てこれたもんだな? 神崎に完膚なきまでにやられて撤退したんじゃねぇのか?
 俺だったら、あんな負け方したら恥ずかしくてもう二度とノコノコやって来たりはできないけどな」

「へっ、言ってくれるねぇ。
 まあ、とりあえず外に出ようぜ。ここだとホールの迷惑になるだろ?」

「……わかったよ」

日高はおとなしく従い、先陣を切って外に出た。
それに真鍋とヒデも従い、その後に土屋と柿崎も続いた。



◇◇◇◇◇◇



「で、どういうことなんだ土屋?
 なんでまたこの街に来たんだよ。説明しろよな」

ホールを出て少し離れると、日高はすぐに食って掛かった。

「なんだ? 俺がこの街に来ちゃいけないのか?」

「てめぇ……ふざけてんのか?
 お前らがこの街で何をやったかってこと、この街のスロッターで忘れてる奴なんていねぇぞ」

「おいおい日高、そりゃちょっと大げさだろう。
 お前はしっかりと俺らにボコられてるから覚えてるんだろうけど、他の奴らにとっちゃもう過去のことだって」

「…………」

奥歯を噛みしめながら、憎々しく土屋を睨む日高。

「まあ、お前は運がなかったんだよ。
 あの時、別に俺らにとっちゃ誰でも良かったんだ。ボコる相手はな。
 とにかく、この街のスロッターたちを手当たり次第に暴力で脅してプレッシャーをかけまくって、そのプレッシャーが神崎に伝わることが目的だったんだからよ。
 で、神崎が音をあげて俺らに素直に協力するようになるのを待ってたわけだ」

「……」

「ってことで、恨むなら神崎を恨めよな。あいつが素直に折れて最初から俺達に協力してれば、あんなことにはならなかったんだからな」

「ああっ? 何勝手なこと言ってんだテメェはっ!」

必死で我慢していた真鍋が、ここで強引に割り込んできた。

「おお、その血の気の多さから察するに、お前が真鍋だろ?
 初めましてだな。日高をボコった時にはいなかったもんな。最近になってツルみだしたのか?」

「……」

一時期仲違いしていた、などということをいちいち説明する気にはなれず、真鍋は黙りこくった。

土屋が、構わず喋り続ける。

「お前のこともよぉく知ってるぜ。下のモンにこの街のことを調べさせたからな。
 で、ケンカっぱやいんだって? どうだ? 俺の兵隊にならないか? お前みたいな血の気の多い奴が不足してんだよ」

「ふざけてんのか? お前みたいなクソに力を貸す奴がこの街にいると思ってんのかよ」

「おいおい、随分な言われようだな。こっちは、お前らが扱いきれなくなった夏目優司を預かってやってんだぞ?」

「はッ……?」

日高・真鍋・ヒデの3人ともが揃って声を発し、目を剥いて驚いた。
『土屋と夏目が組んでいる』という噂は、やはり本当だったのか、と。

しかし、日高はすぐに気を取り直し、土屋に向かって言い放った。

「何が『預かってる』だ! どうせ、何か弱みに付け込んだりしてあいつを無理矢理仲間に引き込んだんだろ? お前のやりそうなことだな。そうなんだろ土屋っ!」

「なんだかえらく誤解されてるみたいだなぁ。
 聞いたか柿崎? ひどいよな?
 こっちは、夏目から直々に頼んできたから仕方なく一緒に組んでんのになぁ?」

すかさず柿崎も合わせる。

これは、事前に土屋とも打ち合わせていたことだった。
自分が夏目の件で何か話を振ったら、とことん合わせろ、と。

「ねぇ? ひどいよね?
 いろいろ困ってた夏目を土屋君が助けたから、今の夏目があるのに。
 夏目のやつ、凄く土屋君に感謝してんだぜ?」

二人を睨みつけながら日高が言う。

「……信用できないな。
 そんなもん、お前のでまかせかもしれないだろ? いろいろ困ってたにしても、お前らみたいなのとしれっと組んだりする奴じゃないんだよ、夏目は」

しかし、土屋は平然としたまま。

「へっ、美しいねぇ。そこまであいつを信じるなんてね。
 でもさ、本当なんだから仕方ないじゃん? なんだったら夏目に直接聞いてみろよ。それが一番早いだろ?」

「え? つ、連れてこれるのか?」

「ああ、今すぐな」

「……じゃあ連れてこいよ。直接話を聞くからよ」

「わかった、ちょっと待ってろ」

そう言って、土屋はその場から少し離れて携帯を取り出した。
そしてすぐさま、どこかへ電話をかける「フリ」をした。

「……あ、もしもし、丸島か?
 ちょっと夏目に代わってくれ。そこにいるよな。
 ……え? なんでかって?
 ちょっと日高に頼まれたんだよ。お前も覚えてるだろ、日高を。……そう、夏目のお友達だよ」

少し離れた場所にいるとはいえ、声はなんとか聞こえる位置にいたため、日高たちは息を押し殺して必死で土屋の声を聞こうとする。

「……え? 無理?
 なんでだよ! いいから夏目に代われって。ちょっとこっちに来てもらいたいんだよ。日高たちに話をつけてもらうためにな」

何やら雲行きが怪しくなってきたことを感じる日高たち。

「……わかった。どうしても嫌だって言うんだな?
 ……はいよ、了解。じゃあそう伝えとく」

どこへも繋がっていなかった電話を切るフリをし、日高たちに近づく土屋。

「聞こえてたかもしれないけどよ、まあそういうことだ。これでわかっただろ、日高?」

「そういうことってどういうことだよ? 何もわかんねぇぞ?」

「ニブいな。大体わかるだろ? 夏目は、お前らと会いたくないし、喋りたくもないってよ。
 まあ、そう言うかなとは思ったけどな。お前らに愛想を尽かして俺らのところに来たわけだし」

「嘘つけよっ! あいつがそんなこと言うわけねぇだろ? 適当なこと言って誤魔化そうとしてんだろ」

「おいおい、失礼なこと言うなよな。こっちは、お前らが望むからわざわざ会わせてやろうとまでしたんだぞ? その言い草はないだろ。実際、本当に夏目が嫌がってんだからしょうがねぇじゃん」

「……」

「大体な、よく考えてみろよ日高。
 あいつは、俺が過去に何をしたか全部知ってるんだぜ?
 それを承知で、あいつは俺らと組んでんだ。そうなった原因はなんだと思う?」

「な、なんだよ……?」

「わからねぇのか? パチスロ勝負の件だよ。
 あいつが乾とか神崎と勝負したいってのを、お前じゃ勝てないからやめろって言って止めてたらしいじゃん。
 それじゃ、さすがに夏目も愛想を尽かすだろ。
 自分の実力を認めてもらえず、自分のやろうとしてることの邪魔をするような奴らにはな」

「……」

パチスロ勝負のことを言われ、思わず黙ってしまう日高。
真鍋とヒデも、押し黙ったまま若干俯いている。

「ようやくわかったみたいだな。
 ま、そういうことだから、もう二度と夏目にちょっかい出すようなマネはやめてくれ。夏目の意志で俺達と居たいって言ってんだからな。
 それをお前らにいちいち引っ掻き回されたんじゃ、あいつが不憫だからよ」

土屋は、勝ち誇ったように言い放った。 
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