後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

文字の大きさ
61 / 83
外伝 イズミルと後宮の隠し部屋

グレアム君現る

しおりを挟む
「………えっと……グレアム…様?いえ……」

後宮の地下で見つかった隠し部屋の封印の解術と部屋の調査に立ち会ったグレアムが、頭を抱えた側近達に部屋に連れて来られた姿を見て、イズミルは戸惑いながらもこう呼んだ。

「グレアム……君?」

「なんだお前は?偉そうだな。グレアムだと?俺はこの国の王太子だぞ」

なんとグレアムの体は子ども頃に、いや体だけでなく記憶まで過去に戻った姿となってしまったのだった。


「そ、それは大変失礼いたしました。グレアム様、その…大変お可愛らしくなられて……」

「可愛いとはなんだ男子にむかって。俺はもう八歳だぞ!」

「さようでございますか……」

イズミルはぷりぷり怒るチビグレアムを呆気にとられながら見つめた。


するとグレアムの幼馴染にして乳兄弟でもあるランスロット=オルガがイズミルに言った。

「先触れでお知らせする事もなく陛下をお連れして申し訳ございません。隠し部屋のトラップにより陛下がこのような状態になってしまい、私共も大変狼狽しておりまして……」

「トラップ……部屋の封印によるものですか?」

イズミルが尋ねると、遅れて部屋にやって来たグレガリオが答えた。

「封印によるものではない、隠し部屋そのものが呪いだったのじゃ」

師匠先生、ではもしかして隠し部屋は……」

「最初から存在しなかったわい。解術してドアを開けたら壁……ビックリおったまげじゃ☆そしてその瞬間、呪いが発動された」

「封印を解いた後ドアを開ける、という行為が発動の鍵になる仕掛けだったのですね……」

「まぁそういう事じゃな。いやはやしてやられたわい。さすがはダンテルマ様じゃ」

数百年前に実在した妃の名を耳にし、イズミルはグレガリオに尋ねた。

「師匠が呪いの施術者をダンテルマだと判断された理由をお訊きしても?」

「儂や側近達を見よ。皆無事じゃろう?呪いに掛かったのは陛下だけじゃ。それだけで王族だけを狙ったものだと考えられる。そして数々の王族への呪いや嫌がらせをしてきた者と言えば?」

「狂妃ダンテルマ……なるほど……肉体を子どもに戻すだとか、地味にダメージを受けるものにしたところがダンテルマらしいですわね」

「そうじゃろ?さすがじゃろ?」

「師匠……楽しんでますわね」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ♡」

イズミルは小さく嘆息して視線をグレアムに戻した。

グレアムは部屋の中を怪訝そうに見渡している。

マルセルがイズミルに告げた。

「今の陛下には八歳までの記憶しかないね……十歳で知り合った俺の事は知らなくて、もっと幼い頃から知っているランスの事だけを知っているみたいだから。まぁ本人は、大人のランスをランス本人だと認めていないようだけど……」

「それはそうでしょうね……」

となれば当然、イズミルの事なんて全く知らない赤の他人だろう。

そう考えていたら、チビグレアムが今度はイズミルの顔をじっ…と見つめてきた。

イズミルはチビグレアムに尋ねる。

「グレアム様、如何されましたか?私の顔に何かついておりますか?」

するとグレアム君は少し頬を赤らめて言った。

「そ、そなたは……何者だ?見かけぬ令嬢だが……」

イズミルは一瞬何と答えてよいのか迷ったが、例えグレアムの体が子どもに戻ったとしても、彼が彼である事に変わりはないと思い正直に答えた。

「わたくしの名はイズミル。貴方様の妃にございます」

「なっ……!?な、な、き、妃っ!?」

イズミルの言葉を聞き、チビグレアムは途端に顔一面を真っ赤に染め上げ、狼狽えた。

「そ、そんなバカなっ、そなたのようなっ……その、まさかっ……」

と言った後に小さな声で、
「こんな美女が俺の妃…やるな、俺。でもいつの間に?」
と呟いたのがばっちり耳に届いた。

女性不信を拗らせる前のグレアム君はなかなかマセた子どもだったようだ。

その後、一旦本人を落ち着かせる事と、この状況をランスロットから説明する為に、チビグレアムは別室に連れて行かれた。

イズミルはグレガリオと解呪の方法について訊いてみる。

「師匠はグレアム様に掛けられたあの呪いを解くにはどうしたらよいとお考えですか?」

「ふーむ、ちと考え中じゃ。宿題にしてもよいかの?」

「ええ。それはもちろんですわ。わたくしも古い文献などをあたって調べてみます」

「それにしても……後世の王家の者にも嫌がらせを残しておくとは……本当にチャーミングな女性じゃの♡ダンテルマ様は♡」

「……チャーミングと言う言葉で片付けてよいものか悩みますわ」

今回はさすがにイズミルも困り果ててしまったようだ。

このまま呪いが解けず、グレアムが子どものままとなればどうなるのか……。

グレアムの成長を待って挙式……というには歳の差がありすぎる。

やっと想いが通じ合って本当の夫婦になれたというのに。

イズミルの心は当然、穏やかではいられなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いつもお読みいただき、そして応援ありがとうございます……!

いつも読者サマ皆様にはエンジンをかけて頂き、本当に有り難いです!♡



しおりを挟む
感想 509

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...