後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

文字の大きさ
76 / 83
外伝 イズミルと後宮の隠し部屋

これじゃあわたくしもダンテルマニアですわ

しおりを挟む
「イズミル、イズミル?聞いているのか?イズミル」

「え?あ、はいっ……」

グレアムの声に我に返り、イズミルは思わずカチャリとカトラリーの音を立ててしまった。

テーブルマナーも完璧なイズミルらしからぬ事である。

グレアムとの夕食の時間にも、ついついダンテルマの事を考えてしまっていたのだ。


グレアムは心配そうな顔をしてイズミルを見る。

「どこか具合でも悪いのか?それとも何か気になる事でもあるのか?」

ダンテルマの事を打ち明けようかとも思ったが、グレアムや他の者にはダンテルマの姿は見えず声も聞こえないのだから、話した所で説明のしようもない。

それに、これはイズミルとダンテルマの勝負なのだ。
グレアムに話してもし反対でもされれば逆らえない。

そうなれば最後の呪詛の在りかを知る事が出来なくなり、その呪詛が発動されるのを黙って見ている外なくなるのだ。

ーーグレアム様に隠し事をするのは心苦しいけれど、ここは黙っておくしかないわね。


イズミルはそう思い、グレアムに笑顔で答えた。

「ごめんなさい。隠し部屋の事を夢中で考えてしまっていましたわ。食事中に、お行儀が悪いですわよね」

「それならよいのだが……。隠し部屋の調査で疲れただろう。今日は早めに休もう」

「グレアム様も一緒に早めの就寝をして下さるのですか?」

「俺が後からベッドに入ってキミを起こしてしまっては安眠妨害になるだろう?だから今日は一緒に休む事にする」

「ふふふ。嬉しいですわ」

後宮を取り壊す事になり、国王夫妻は寝室を一つにして共寝をするようになった。

後宮があった時代は王も妃もそれぞれ別の寝室で眠り、同衾する時のみ“お渡り”として王が妃の寝室へと行くのが慣例であった。

それが変わった事も、ハイラント王室にとって大きな変化だろう。

その夜、グレアムは宣言した通り早めに寝室に入り、イズミルを懐に抱えて就寝した。

グレアムの側にいると心が満たされて何も怖くなくなる。
愛されていると信じる事が出来て、穏やかに眠る事が出来るのだ。

イズミルは明日への活力を貰ったと、
心穏やかに眠りに就いた。




◇◇◇◇◇



次の日、イズミルは恩師グレガリオにだけダンテルマとの邂逅を報告した。


「ほぇっ!?ダ、ダ、ダダダダダンテルマ様がっ!?
ダダダダンテルマ様とっ!?会った!?話した!?な、なんじゃとぉぉ!ズルいぞよズーちゃんだけ!」

グレガリオはイズミルから話を聞くなり地団駄を踏んで悔しがった。

「そうおっしゃると思っていましたわ。仕方ないでしょう?妃にしか接する事が出来ない仕組みになっているのですから……」

「ズルいズルいズルいぞよ~!儂とてダンテルマ様にお会いしたいぞーい!」

「ほら師匠、お好きなカスタードパイをお持ちしましたからご機嫌をお直しくださいませ?ダンテルマ様には師匠の事をちゃんとお話して差し上げますから」

グレガリオはじと…と拗ねた目つきでイズミルを見遣り、

「必ず、儂のダンテルマ様への熱い想いを伝えておいてくだされよ」

と言いながらちゃっかりカスタードパイをその手に取っていた。

そしてイズミルはダンテルマが言っていた最後の呪詛の在りを探るべく、グレガリオ所蔵のダンテルマが愛人や知人に宛てた手紙を借り受けた。

そしてイズミルは公務の合間にそれを読み進め、何かヒントになる文言がないかを探した。

ダンテルマは率直な文章で手紙を綴る時や、詩的な言い回しで文章を綴ってゆく場合など、同じ人物が書いているとは思えない幅広いバラエティの文章力の持ち主だったようだ。

イズミルは特に詩的な言い回しの文章に着目し、その真意を紐解こうとしていた。

例えば……

●ダンテルマ、母方の遠縁、K令嬢に宛てた手紙より抜粋●


【あぁ大海原をその儚げな姿で漂う草船くさぶねよ……その身は儚く、眼前に広がる今にも悲しみを吐露しそうな黒き雲に気付かない……】

これは要するに
『貴女のようなちっぽけな田舎娘が後宮に入ればたちまち潰されるに決まっているのだか、身の程知らずな希望はお持ちにならない方がよろしくてよ』
という意味が含まれる。
地方出身の令嬢を草船に例え、迂遠に田舎娘と言い回しているところがいやはやなんとも……である。

こんな感じに綴られた文章の中に何かヒントはないかを探すのだ。

かつて隠された規範の書の一部がユニコーンの封印箱にあるとわかったように。

それとダンテルマの生い立ちから自ら尖塔の上から身投げするまでの軌跡をもう一度見直そうと思っている。


このようにイズミルの頭の中はずーっとダンテルマの事ばかりである。


「これではまるでわたくしの方がダンテルマニアみたいではありませんの」


今のイズミルはおそらく、自称ダンテルマニアのグレガリオよりも彼女の事を考えていると思う。

なんともおかしな事になったと嘆息するイズミルであった。







しおりを挟む
感想 509

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...