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ミニ番外編
ミニじゃない番外編 騎士団の医務室にて
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「あの……」
王宮騎士団の本部のある騎士団棟の受け付けにて、ハノンは一人の若い騎士に声をかけた。
「近衛騎士フェリックス=ワイズの家の者です。忘れ物を届けに伺ったのですが……何かあったのですか?」
ハノンが王宮内の騎士団棟を訪れたのはこれで初めてではない。
フェリックスと結婚後、こうやって忘れ物を届けたり差し入れをしたりと何度か訪れている。
なので明らかに今日の騎士団内の雰囲気がいつもと違う事に気が付いた。
ハノンに声を掛けられた若い騎士はフェリックスの名を出した事によりハノンが誰であるのか瞬時に理解したようだ。
「あぁ、ワイズ卿の奥方様ですね。騒がしくて申し訳ありません。実は今日、ちょっとイレギュラーに困った事が起きまして……」
「イレギュラーな困った事?」
困り顔で告げる若い騎士の言葉に、ハノンは何事かと眉を顰めた。
◇◇◇◇◇
「騎士団専属の薬剤師達が全員食中毒っ!?」
第二王子クリフォードが王宮内の廊下を歩きながら受けた報告に目を剥いた。
騎士団詰め所から連絡を受け、フェリックスの同僚であり近衛騎士のモラレスがクリフォードに説明をする。
「なんでも昨日、王都のとある店でとある料理を食べる懇親会を開いたそうで、
しかしその料理の中に入っていた食材に当たり、皆が揃いも揃って仲良く食中毒になったらしいのです」
「……そのとある料理とはどんな物だ」
「確か……“ヤミナベ”とか言っていました」
「ヤミナベ?」
クリフォードが聞き返すと側に居た侍従の一人が補足するように言った。
「東方の国の食文化の一つだそうで、真っ暗な部屋で皆で一つの鍋をつつくらしいのです。そしてなんでも、その鍋の中にはどんな食材が入っているのか分からない、いわば度胸試しの一種だそうでして……」
「それを食って食中毒かっ?呆れた奴らだ……!」
クリフォードはジト目で天井を仰いだ。
クリフォードの側で報告を聞いていたフェリックスがモラレスに尋ねた。
「それじゃあ騎士団の医務室はどうなってる?今日は演習日だから怪我人が多発して混乱してるんじゃないのか?」
その質問にモラレスが答える前に、クリフォードが告げた。
「王宮内の医務室から数名、薬剤師を騎士団の方へ派遣させる。それで今日は何とか凌ぐしかないだろう」
「それが……」
モラレスと共に報告に訪れた騎士が言い難そうにする。
「なんだ?まだなんかあるのか?」
「それが、王宮薬剤師も3名ほどがそのヤミナベ懇親会に参加していて、同じく食中毒になって今日は休んでおります……現在2名の薬剤師で王宮内の業務を捌いている状態でして、とてもじゃありませんが、これ以上人員を割く事は難しいかと……」
「……なんて事だ」
クリフォードは頭を抱えた。
フェリックスがクリフォードに向き直る。
「殿下、とりあえず私は騎士団棟に戻って様子を見て参ります。必要とあれば王都内の民間の薬剤師の協力を要請しても構いませんか?」
その言葉にクリフォードは頷いた。
「頼む。現場の差配はフェリックス、お前に任せる。各団長クラスへの報告は後回しでいい。さっさと解決して来てくれ」
「承知いたしました」
フェリックスは軽く騎士の礼を取り、踵を返した。
数名の同僚と共に騎士団棟へと向かう。
しかし棟内は何事も起きてはいないかのように普段通りの落ち着きを見せている。
「……医務室が機能しておらず混乱しているのではないのか?」
フェリックスが言うと、一緒に来たモラレスが首を傾げながら言った。
「俺が殿下へ報告に上がるために棟を出る時には医務室の前は治療待ちの騎士で溢れかえっていたのだが……」
不思議に思いながら医務室を覗く。
するとそこには……
「ハノン!薬材はここに置とくわヨ!」
「ワイズ夫人、医師が止血剤の追加を頼みたいって言ってます!」
「止血剤、出来ています。持って行って下さい」
「ハノン、軟膏はどのくらい作ればいい?」
「今日は演習日らしいから、薬材があるなら沢山調剤しておくといいと思うの」
「わかったワ!まったく、旦那への忘れ物を届けに来たハノンに着いて来たら休みの日なのに調剤させられるとは……アタシにコレ以上徳を積ませてどうしようっての?」
「ゴメンねメロディ、後でなんかご馳走するわ!」
「ま、イイけどネ!こうしてると西方騎士団の薬剤室で働いていた頃を思い出すわネ!」
「ふふふ、ホントね」
「ハ、ハノン?」
フェリックスは目の前で起きている事が俄には信じられなかった。
家に居る筈の妻が騎士団の医務室で忙しく働いているのだから……。
フェリックスはハノンの手伝いで目まぐるしく動いている若い騎士の襟首をとっ捕まえた。
「ヒィっ!?ワ、ワイズ卿っ!?」
「……どういう事だ?何故妻が?」
「そ、それが忘れ物を届けに来られた奥様が騎士団医務室の窮状をお知りになり、手伝いを申し出て下さったのですっ、あ、その時一緒にいたお友達の方も薬剤師だそうで、それで手伝いを……」
「……ほう」
フェリックスから漂う気配の変化に若い騎士は震え上がった。
フェリックスはハノンに声をかける。
「ハノン」
「あら、フェリックス。丁度良かったわ、そこにあなたの忘れ物があるの、持って行ってくれる?」
そう答えながらもハノンの手は休みなく動いている。
調剤をしながらも薬を塗ったり痛み止めを飲ませたり、処置の手伝いもしていた。
その様子をじっ……と見ているフェリックスにモラレスが言った。
「有り難い!助かった。そういえば奥さんは元薬剤師だったな!おかげで今日は何とかなりそうだな!」
その言葉を聞き、フェリックスはモラレスを睨みつけた。
「冗談じゃない……」
「へ?」
フェリックスはハノンの側へとズカズカと歩いて行った。
そして年若い騎士の包帯を巻くハノンからその包帯を奪う。
ハノンは目をぱちくりさせて夫を見た。
「フェリックス?」
「……怪我の処置は俺がやる。キミは調剤だけしててくれ」
「え?でもわたしも簡単な怪我の処置は出来るわよ?」
「駄目だ。騎士みたいな野蛮な人種に近づいてはいけない」
「何言ってるの?あなたも騎士じゃない」
「駄目だ」
そう言ってフェリックスは年若い騎士を包帯でぐるぐる巻きにした。
「おら出来たぞ、次」
「は、はいっ、ありがとうございましたっ!」
絶対零度の眼差しで一瞥され、年若い騎士は逃げるように医務室を後にした。
その後もフェリックスは包帯を巻いたり、湿布を貼ったりと、騎士の体に触れるような処置は全て自ら行った。
怪我が付きものである騎士という職業柄、ある程度の傷の処置はお手のものらしい。
消毒薬を調剤するハノンにメロディが面白がって囁く。
「ぶーーっ……!アンタの旦那、よっぽどアンタを他の男に近付けたくないのね、それが例え怪我の治療でもアンタが男に触れるのがイヤみたいよ☆気の毒なのは騎士達よねぇ?あーぁ、あんなに湿布を叩き貼って……ぷぷっ!ご馳走様っ」
その言葉を聞き、ハノンはフェリックスを見た。
不機嫌な顔で薬を塗布している。
そしてそれをしつつも、手伝いでハノンに近付く若い騎士や若い下男たちを目線だけで威嚇しているのだ。
ーーフェリックスったら……
ハノンは大人としてどうなのよと思いつつもヤキモチを焼いている夫が可愛いと思ってしまう自分も相当だな、と思いながら傷薬の調剤を続けた。
結局その日、ハノンとメロディの元西方騎士団専属薬剤師組のおかげで医務室の業務はなんとか事なきを得た。
後日、「心の狭いご夫君と食べてくれ」というメッセージ付きで、第二王子クリフォードから王都で一番人気の高級菓子が届いたのであった。
王宮騎士団の本部のある騎士団棟の受け付けにて、ハノンは一人の若い騎士に声をかけた。
「近衛騎士フェリックス=ワイズの家の者です。忘れ物を届けに伺ったのですが……何かあったのですか?」
ハノンが王宮内の騎士団棟を訪れたのはこれで初めてではない。
フェリックスと結婚後、こうやって忘れ物を届けたり差し入れをしたりと何度か訪れている。
なので明らかに今日の騎士団内の雰囲気がいつもと違う事に気が付いた。
ハノンに声を掛けられた若い騎士はフェリックスの名を出した事によりハノンが誰であるのか瞬時に理解したようだ。
「あぁ、ワイズ卿の奥方様ですね。騒がしくて申し訳ありません。実は今日、ちょっとイレギュラーに困った事が起きまして……」
「イレギュラーな困った事?」
困り顔で告げる若い騎士の言葉に、ハノンは何事かと眉を顰めた。
◇◇◇◇◇
「騎士団専属の薬剤師達が全員食中毒っ!?」
第二王子クリフォードが王宮内の廊下を歩きながら受けた報告に目を剥いた。
騎士団詰め所から連絡を受け、フェリックスの同僚であり近衛騎士のモラレスがクリフォードに説明をする。
「なんでも昨日、王都のとある店でとある料理を食べる懇親会を開いたそうで、
しかしその料理の中に入っていた食材に当たり、皆が揃いも揃って仲良く食中毒になったらしいのです」
「……そのとある料理とはどんな物だ」
「確か……“ヤミナベ”とか言っていました」
「ヤミナベ?」
クリフォードが聞き返すと側に居た侍従の一人が補足するように言った。
「東方の国の食文化の一つだそうで、真っ暗な部屋で皆で一つの鍋をつつくらしいのです。そしてなんでも、その鍋の中にはどんな食材が入っているのか分からない、いわば度胸試しの一種だそうでして……」
「それを食って食中毒かっ?呆れた奴らだ……!」
クリフォードはジト目で天井を仰いだ。
クリフォードの側で報告を聞いていたフェリックスがモラレスに尋ねた。
「それじゃあ騎士団の医務室はどうなってる?今日は演習日だから怪我人が多発して混乱してるんじゃないのか?」
その質問にモラレスが答える前に、クリフォードが告げた。
「王宮内の医務室から数名、薬剤師を騎士団の方へ派遣させる。それで今日は何とか凌ぐしかないだろう」
「それが……」
モラレスと共に報告に訪れた騎士が言い難そうにする。
「なんだ?まだなんかあるのか?」
「それが、王宮薬剤師も3名ほどがそのヤミナベ懇親会に参加していて、同じく食中毒になって今日は休んでおります……現在2名の薬剤師で王宮内の業務を捌いている状態でして、とてもじゃありませんが、これ以上人員を割く事は難しいかと……」
「……なんて事だ」
クリフォードは頭を抱えた。
フェリックスがクリフォードに向き直る。
「殿下、とりあえず私は騎士団棟に戻って様子を見て参ります。必要とあれば王都内の民間の薬剤師の協力を要請しても構いませんか?」
その言葉にクリフォードは頷いた。
「頼む。現場の差配はフェリックス、お前に任せる。各団長クラスへの報告は後回しでいい。さっさと解決して来てくれ」
「承知いたしました」
フェリックスは軽く騎士の礼を取り、踵を返した。
数名の同僚と共に騎士団棟へと向かう。
しかし棟内は何事も起きてはいないかのように普段通りの落ち着きを見せている。
「……医務室が機能しておらず混乱しているのではないのか?」
フェリックスが言うと、一緒に来たモラレスが首を傾げながら言った。
「俺が殿下へ報告に上がるために棟を出る時には医務室の前は治療待ちの騎士で溢れかえっていたのだが……」
不思議に思いながら医務室を覗く。
するとそこには……
「ハノン!薬材はここに置とくわヨ!」
「ワイズ夫人、医師が止血剤の追加を頼みたいって言ってます!」
「止血剤、出来ています。持って行って下さい」
「ハノン、軟膏はどのくらい作ればいい?」
「今日は演習日らしいから、薬材があるなら沢山調剤しておくといいと思うの」
「わかったワ!まったく、旦那への忘れ物を届けに来たハノンに着いて来たら休みの日なのに調剤させられるとは……アタシにコレ以上徳を積ませてどうしようっての?」
「ゴメンねメロディ、後でなんかご馳走するわ!」
「ま、イイけどネ!こうしてると西方騎士団の薬剤室で働いていた頃を思い出すわネ!」
「ふふふ、ホントね」
「ハ、ハノン?」
フェリックスは目の前で起きている事が俄には信じられなかった。
家に居る筈の妻が騎士団の医務室で忙しく働いているのだから……。
フェリックスはハノンの手伝いで目まぐるしく動いている若い騎士の襟首をとっ捕まえた。
「ヒィっ!?ワ、ワイズ卿っ!?」
「……どういう事だ?何故妻が?」
「そ、それが忘れ物を届けに来られた奥様が騎士団医務室の窮状をお知りになり、手伝いを申し出て下さったのですっ、あ、その時一緒にいたお友達の方も薬剤師だそうで、それで手伝いを……」
「……ほう」
フェリックスから漂う気配の変化に若い騎士は震え上がった。
フェリックスはハノンに声をかける。
「ハノン」
「あら、フェリックス。丁度良かったわ、そこにあなたの忘れ物があるの、持って行ってくれる?」
そう答えながらもハノンの手は休みなく動いている。
調剤をしながらも薬を塗ったり痛み止めを飲ませたり、処置の手伝いもしていた。
その様子をじっ……と見ているフェリックスにモラレスが言った。
「有り難い!助かった。そういえば奥さんは元薬剤師だったな!おかげで今日は何とかなりそうだな!」
その言葉を聞き、フェリックスはモラレスを睨みつけた。
「冗談じゃない……」
「へ?」
フェリックスはハノンの側へとズカズカと歩いて行った。
そして年若い騎士の包帯を巻くハノンからその包帯を奪う。
ハノンは目をぱちくりさせて夫を見た。
「フェリックス?」
「……怪我の処置は俺がやる。キミは調剤だけしててくれ」
「え?でもわたしも簡単な怪我の処置は出来るわよ?」
「駄目だ。騎士みたいな野蛮な人種に近づいてはいけない」
「何言ってるの?あなたも騎士じゃない」
「駄目だ」
そう言ってフェリックスは年若い騎士を包帯でぐるぐる巻きにした。
「おら出来たぞ、次」
「は、はいっ、ありがとうございましたっ!」
絶対零度の眼差しで一瞥され、年若い騎士は逃げるように医務室を後にした。
その後もフェリックスは包帯を巻いたり、湿布を貼ったりと、騎士の体に触れるような処置は全て自ら行った。
怪我が付きものである騎士という職業柄、ある程度の傷の処置はお手のものらしい。
消毒薬を調剤するハノンにメロディが面白がって囁く。
「ぶーーっ……!アンタの旦那、よっぽどアンタを他の男に近付けたくないのね、それが例え怪我の治療でもアンタが男に触れるのがイヤみたいよ☆気の毒なのは騎士達よねぇ?あーぁ、あんなに湿布を叩き貼って……ぷぷっ!ご馳走様っ」
その言葉を聞き、ハノンはフェリックスを見た。
不機嫌な顔で薬を塗布している。
そしてそれをしつつも、手伝いでハノンに近付く若い騎士や若い下男たちを目線だけで威嚇しているのだ。
ーーフェリックスったら……
ハノンは大人としてどうなのよと思いつつもヤキモチを焼いている夫が可愛いと思ってしまう自分も相当だな、と思いながら傷薬の調剤を続けた。
結局その日、ハノンとメロディの元西方騎士団専属薬剤師組のおかげで医務室の業務はなんとか事なきを得た。
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