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ミニ番外編
バスターの結婚 ②
「きゃーこのマフィンも美味し~♪」
「でしょでしょ♡私の義妹みたいなイキモノの店のマフィンなの♡今食べてるのがチョコフォンダンマフィンで、コッチがキャロットマフィンヨ♪スパイスが利いてて美味しいの、食べて食べて~」
王宮のカフェテリアの一画、嘱託魔法薬剤師という名のボディガードとしてバスターの想い人であるエルシィの側に居るメロディを囲んで、そのエルシィをはじめとする数名のメイドや女性文官などがわいわいとティータイムを楽しんでいた。
バスターに想いを寄せる女性たちから、最初でこそ様々な言いがかりや嫌がらせを仕掛けられていたエルシィだが、共に行動するようになったメロディが、
「ア~ラこのコムスメ、アタシのエルシィちゃんにイチャモンつけようなんてイイ度胸してるじゃナ~イ?その憎たらしい言葉と臭い息を吐き出すお口を縫い付けて、二度と喋れなくしてやろうかしら~?」とか、
「ゴォルァ゛そこのおクソ令嬢、陰でコソコソ嫌がらせを企むくらいなら正々堂々と向かって来たら如何かしらぁ?モ・チ・ロン受けてたつわヨォ~!あ、でも“受け”といってもアタシ、ダーリンのイチ○ツしか受け付けませんけどネ~♡」という、
年若いご令嬢に何言ってんだコラとツッコミを入れたくなるような言葉を連呼したりして撃退していったのだ。
しかしいつしかメロディは、王宮に勤める女性文官やメイドや侍女の一部から謎の崇拝者を生んでいた。
今はそんなメロディを慕う女性達とエルシィとで、メロディが持参したマフィンを食べながらお喋りをしている。
メロディのおかげでエルシィにも、王宮内に複数の女性の友達が出来ていた。
お喋りの内容はもっぱら恋愛相談で皆、経験豊富なメロディ姐さんのアドバイスを真剣に聞いている。
「オトコなんて単純でカワイイものヨ♡そして実はオンナよりもずーっとロマンチストで夢見がちなイキモノなのよネ、だから優しくして甘やかしてあげたらイチコロよん♡ついでにイ○モツをコロコロしてあげたらサラにイチコロよ~♡」
「「「きゃーー♡」」」
間にちゃっかり挟むエロトークに彼女たちは頬を赤らめて大興奮だ。
それをエルシィは呆れながらも黙って聞いていた。
生真面目であまりおふざけは好きではないエルシィだが、何故かこの“歩くおふざけ”メロディの事は嫌いではなかった。
いやむしろ好ましいとさえ思っている。
なぜ?どこに好ましく感じる要素が?と自分で自分に首を傾げてしまう。
まぁ古代魔術の復元チームに派遣され再会してからやたらと絡んでくるバスター=ワイズの所為で、複数の女性から陰口や嫌がらせを受けそうになったところを庇って貰った恩もあるし、訳が分からなくてもこの珍妙な同僚が好きだと思うエルシィであった。
そのバスター=ワイズはなぜ自分なんかに好意を寄せてくるのだろう。
あんなモテ男に好かれるようなタイプの女ではない事は自分が一番よく分かっているつもりだ。
地味で化粧っ気もなく、令嬢のくせに魔法文官の仕事などして可愛げがないと言われている自分である。
愛想笑いも出来ないしキツイ口調のもの言いしか出来ない。
そんな自分のどこをどう見て好きになってくれたのか、本当に謎である。
正直、隣に並び立つと釣り合わなさをヒシヒシと感じ、彼には相応しくないという現実を叩きつけられる。
今までそんな事を考えたこともなかったのにこの頃はそれが嫌で仕方ない。
何故こんな気持ちになるのか……
そんな気持ちをメロディに相談したら、
「……エルシィちゃん……ソレはバスターに恋してるからに決まってルじゃない!ヤダちょっとナニっ?いつの間にっ?アイツちゃっかりエルシィちゃんのハートをゲットしちゃってルンじゃないっ!!」
「…………………コイ」
「そうヨ、恋♡」
「池の?」
「鯉じゃないわよっ」
「恋……?コイ、こい………恋っ!?」
その言葉の意味を認識した途端、エルシィの顔が真っ赤になった。
「ハイ、キタキタキタキターー♡美味しい展開ありがとうございますゥ♡」
「ちょっと待ってメロディさんっ、えっ?そんな訳はないでしょうっ!?私がっ?あのバスター=ワイズをっ?ナイナイナイナイあり得ないっ!!」
顔を真っ赤にしながら全力で否定するエルシィにメロディは言った。
「あり得なくはないデショ。あんなイケメンに真剣に想いを寄せられてナンとも思わないオンナはオンナじゃないわヨ。目線が合っただけでオンナが濡れるバスター=ワイズよ?当然のナリユキだわネ♡」
「……真剣な、想い……?一時の気の迷いでは?」
「アタシのマブダチがバスターの義理の叔母でいつも側で見せつけられてルンだけどネ、ワイズ家の男は自分の“唯一”を見つけたらそれはもうネチっこいほど一途なのヨ。バスターはアンタをその唯一だと言っていたワ、もう決して逃げられないから諦めて観念なさい♡」
「ゆ、唯一……?私が?バスター=ワイズがそう言っていたの……?」
「そうヨ」
「まさか……あり得ない……」と、エルシィはブツブツとその言葉を繰りかえす。
その時ふいに、今の今まで話題に出ていたバスターがエルシィに声を掛けて来た。
「なに?何があり得ないんだ?エルシィどうした?顔が真っ赤だよ?」
「バっ…バスター=ワイズっ……!な、なんでもないわよっ」
バスターに恋をしているとメロディに言われ、まさかと動揺している時のご本人登場に、エルシィはどうしていいのか分からずにその場を逃げるように立ち去って行った。
それを呆気に取られて見ていたバスターだが、メロディに向き直り訊いた。
「何かあったのか?」
「問題ないワ、通過儀礼のようなモノよ。ドゥフフ♡若いってイイわねぇ♡」
それからというもの、今までどんな時でも淡々として自分のペースを崩さないエルシィの様子が明らかにおかしくなった。
ソワソワと落ち着きがなくなり、バスターが近付くと明らかに挙動不審になる。
そんな自分が嫌で平静を取り戻そうとしても、いざバスターの目の前に立つとそれが出来ずに余計に変な言動を取ってしまう。
分かってる、明らかに変な女だ。
こんな調子ではバスターに呆れられ、愛想を尽かされ嫌われてしまう……
そこまで考えて、エルシィはハッとした。
何故自分はそれを恐れているのだろう。
別に嫌われたって愛想を尽かされたっていいではないか。
でも自分はそれを恐れている、嫌だと感じている。
これではまるで……これではまるで、メロディが言ったように恋をしているようではないか。
エルシィは愕然とした。
『そうなのっ?やはりそうなのっ!?』
思えば恋なんて、12歳の時に年上の従兄に初恋を抱いて以来の感情である。
(その従兄は直ぐに結婚して敢えなく失恋したが)
自分がバスター=ワイズを……?
『好意を寄せられたからと自分も好きになるなんてチョロ過ぎないっ?』
……いや、やっぱり気のせいだろう。
自分はお堅い女だと自他共に定評がある。
そんな自分がこんな簡単に恋に落ちる訳がない。
「恋に落ちるなんて一瞬ヨ?そしてそれに理由なんてないのヨ♡」
とメロディは言っていたが断じてそんな筈はない。
エルシィはそう無理やり結論付けて、自分に言い聞かせた。
だってやはりどう考えても自分とバスター=ワイズでは釣り合わない。
バスター=ワイズにはそう、センスが良くて美人で洗練された女性が似合う。
そう、あんな感じの……
「……!」
そんな事を思っていた矢先で目の前に飛び込んで来たその光景に、エルシィは愕然とした。
私服姿のバスターがオシャレなワンピースドレスを着こなした可憐な女性と腕を組んで王宮内を歩いていたのだ。
『……え……誰……?』
互いに微笑み合い、仲睦まじげに歩いている。
二人が互いを想い合っているのが第三者から見てもありありと感じ取れた。
ほらね。
やっぱり。
おかしいと思った。
彼が自分に寄せていた思いは恋情ではなく珍妙な同僚に対する興味と関心だ。
それを好かれているなんて勘違いして浮かれて……
エルシィは自分の頬に温かい何かが伝うのを感じた。
「……?」
それは涙だった。
知らないうちに涙を流していたのだ。
涙は胸の痛みを感じる度に流れてくる。
その胸の痛みと涙で、自分の本当の想いに気付かされた。
『そうねメロディさん……認めるわ。私は確かにバスター=ワイズに恋をしている……』
向こうはやりそうではなかったけど、
エルシィがバスターを好きになったのは間違いなかった。
初恋の時のように自覚した途端に失恋したけど。
「バカみたい……私、バカみたい……」
エルシィはそう言いながら涙を流し続けた。
その時、真後ろから声をかけられる。
「エルシィっ?」
「…………え?」
エルシィが振り向くと、そこには何故か今し方失恋したばかりのバスターが立っていた。
泣いているエルシィを見て、慌てた様子で近付いて来る。
「エルシィっ、どうしたんだ、何故泣いているっ?何かあったのか!?どこか痛いのか!?」
そう言って焦った様子でエルシィの事を心配そうに見ている。
「……バスター=ワイズ…………え?アレ?バスター=ワイズ!?」
たった今、綺麗な女性と回廊の向こう側を歩いて去って行った筈のバスターがなぜ今、目の前に立っているのだろう。
ご丁寧に服まで着替えて。
「エルシィ、本当にどうした?大丈夫なのかっ?メロディは、守護神はどうした?」
エルシィは思わずバスターの顔に触れていた。
ぐちゃぐちゃな感情が普段では絶対に出来ない行動に走らせる。
「……バスター=ワイズ……?本物……?」
ふいに触れられ、一瞬ビクっとしたバスターだが、顔を赤く染めながらもエルシィの手を受け入れている。
そしてはにかんだ様子でエルシィに答えた。
「俺以外に誰がいるんだよ。あ、でも同じ顔をした双子の兄貴はいるけどな」
「双子……?兄……」
そうだった。
バスター=ワイズは双子だった。
キースというそっくりの兄が居たんだった。
……という事は………今、回廊の向こうで見たのは……
そんな事をぐるぐると考えるエルシィの頬を、今度はバスターが両手で包んだ。
「どうして泣いていたんだ?誰かに何かをされたのか?教えてくれ、キミをそんな目に遭わせた奴を俺は許さない、必ずキミを泣かせた罰を受けさせてやる」
その言葉を聞き、エルシィはバスターを見つめた。
『この人は……どうして私の為にこんな表情をしてくれているの?』
まるで心の底から大切なものを見るような目を自分に向けてくる。
エルシィは呟くように答えた。
「それなら貴方は自分で自分に罰を与える事になるわよバスター=ワイズ……」
「え?」
エルシィには今、何も躊躇う気持ちはなかった。
不思議と自分の想いに素直になれる。
「答えてバスター=ワイズ。貴方は私の事が好きなの?」
「……!」
その問いかけにバスターは一瞬瞠目し、そして直ぐに真剣な眼差しをエルシィに向けてきた。
「ああ。俺はキミが、エルシィの事が本当に好きだよ。真面目で様々な事に真摯に取り組むキミが好きだ。周りから令嬢だてらにとか言われても、それに振り回される事なく我が道を行くキミが好きだ。でも本当は繊細で傷付きやすい、それを隠す為に毅然として顔を上げて生きているキミが好きだ。キミの全てが俺を虜にして離さない。エルシィ、キミは俺の唯一最愛の女性だ」
その一言一句、全てがエルシィの心に染み渡る。
あぁ……
もう、完敗だ………
釣り合わないと言われてもいい。
誰に何を言われても関係ない。
私は………
「私も貴方が好きよ、バスター=ワイズ。
私が貴方の唯一だと言うのなら、貴方も私の唯一だわ」
「っエルシィ……!」
思わずといった態でバスターはエルシィを抱きしめていた。
その力強さから彼が今、心から喜んでいるのが分かる。
その気持ちがエルシィにも伝わってきた。
エルシィの心にも喜びが湧き上がる。
そう思った瞬間、バスターがエルシィの前に跪いた。
そしてエルシィの両手を取り、熱のこもった眼差しで見上げる。
「エルシィ、今すぐでなくてもいい。でもどうか俺に、これからもキミの側にいられる権利を与えて欲しいんだ。どうか俺と、俺と結婚してください」
どこからか聞こえた小さな悲鳴に、ここが王宮内であった事を思い出させて貰った。
でもそんな事はどうでも良かった。
エルシィの目には、今はバスターしか見えていない。
エルシィはまた涙を溢れさせながら笑顔で返事をした。
「はい……!プロポーズをお受けします……どうか私を、貴方の唯一として一生側に居させてくださいっ……」
「あぁ…エルシィっ!」
バスターはガバリと立ち上がり、エルシィを抱きしめた。
近くでメロディの「っシャアァァァッ!!」
という雄叫びが聞こえた。
その瞬間王宮内の至る所から祝福の拍手が湧き起こる。
ハンカチを歯噛みする女性もチラホラ見受けられたが、大概の者が二人を祝福した。
後から聞いた話だけど、この時メロディは「我が生涯に一片の悔い無しっ!」
と言って天高く拳を突き上げていたのだそうだ。
その猛々しい姿を石像にしたいと宮廷彫刻家が言ったとか言わなかったとか……
そんなこんなの王宮内でのオープンプロポーズから一年後に、
バスターはエルシィと結婚式を挙げた。
バスターの双子の兄のキースはともかく、
結婚式に参列していたワイズ家の男達が皆、銀髪に赤い瞳だった事にエルシィは内心驚いた。
そしてバスターの義理の叔母で、メロディの親友のハノンという女性にこっそり耳打ちされる。
「ワイズ家の男の愛は重いわよ?でもそれ以上に優しくて温かくて安心出来る。一生愛されて幸せになれる覚悟は出来ている?」
満たされた笑顔で話す彼女の言葉を聞き、
エルシィは思わず「望むところです」と笑顔で返した。
「でしょでしょ♡私の義妹みたいなイキモノの店のマフィンなの♡今食べてるのがチョコフォンダンマフィンで、コッチがキャロットマフィンヨ♪スパイスが利いてて美味しいの、食べて食べて~」
王宮のカフェテリアの一画、嘱託魔法薬剤師という名のボディガードとしてバスターの想い人であるエルシィの側に居るメロディを囲んで、そのエルシィをはじめとする数名のメイドや女性文官などがわいわいとティータイムを楽しんでいた。
バスターに想いを寄せる女性たちから、最初でこそ様々な言いがかりや嫌がらせを仕掛けられていたエルシィだが、共に行動するようになったメロディが、
「ア~ラこのコムスメ、アタシのエルシィちゃんにイチャモンつけようなんてイイ度胸してるじゃナ~イ?その憎たらしい言葉と臭い息を吐き出すお口を縫い付けて、二度と喋れなくしてやろうかしら~?」とか、
「ゴォルァ゛そこのおクソ令嬢、陰でコソコソ嫌がらせを企むくらいなら正々堂々と向かって来たら如何かしらぁ?モ・チ・ロン受けてたつわヨォ~!あ、でも“受け”といってもアタシ、ダーリンのイチ○ツしか受け付けませんけどネ~♡」という、
年若いご令嬢に何言ってんだコラとツッコミを入れたくなるような言葉を連呼したりして撃退していったのだ。
しかしいつしかメロディは、王宮に勤める女性文官やメイドや侍女の一部から謎の崇拝者を生んでいた。
今はそんなメロディを慕う女性達とエルシィとで、メロディが持参したマフィンを食べながらお喋りをしている。
メロディのおかげでエルシィにも、王宮内に複数の女性の友達が出来ていた。
お喋りの内容はもっぱら恋愛相談で皆、経験豊富なメロディ姐さんのアドバイスを真剣に聞いている。
「オトコなんて単純でカワイイものヨ♡そして実はオンナよりもずーっとロマンチストで夢見がちなイキモノなのよネ、だから優しくして甘やかしてあげたらイチコロよん♡ついでにイ○モツをコロコロしてあげたらサラにイチコロよ~♡」
「「「きゃーー♡」」」
間にちゃっかり挟むエロトークに彼女たちは頬を赤らめて大興奮だ。
それをエルシィは呆れながらも黙って聞いていた。
生真面目であまりおふざけは好きではないエルシィだが、何故かこの“歩くおふざけ”メロディの事は嫌いではなかった。
いやむしろ好ましいとさえ思っている。
なぜ?どこに好ましく感じる要素が?と自分で自分に首を傾げてしまう。
まぁ古代魔術の復元チームに派遣され再会してからやたらと絡んでくるバスター=ワイズの所為で、複数の女性から陰口や嫌がらせを受けそうになったところを庇って貰った恩もあるし、訳が分からなくてもこの珍妙な同僚が好きだと思うエルシィであった。
そのバスター=ワイズはなぜ自分なんかに好意を寄せてくるのだろう。
あんなモテ男に好かれるようなタイプの女ではない事は自分が一番よく分かっているつもりだ。
地味で化粧っ気もなく、令嬢のくせに魔法文官の仕事などして可愛げがないと言われている自分である。
愛想笑いも出来ないしキツイ口調のもの言いしか出来ない。
そんな自分のどこをどう見て好きになってくれたのか、本当に謎である。
正直、隣に並び立つと釣り合わなさをヒシヒシと感じ、彼には相応しくないという現実を叩きつけられる。
今までそんな事を考えたこともなかったのにこの頃はそれが嫌で仕方ない。
何故こんな気持ちになるのか……
そんな気持ちをメロディに相談したら、
「……エルシィちゃん……ソレはバスターに恋してるからに決まってルじゃない!ヤダちょっとナニっ?いつの間にっ?アイツちゃっかりエルシィちゃんのハートをゲットしちゃってルンじゃないっ!!」
「…………………コイ」
「そうヨ、恋♡」
「池の?」
「鯉じゃないわよっ」
「恋……?コイ、こい………恋っ!?」
その言葉の意味を認識した途端、エルシィの顔が真っ赤になった。
「ハイ、キタキタキタキターー♡美味しい展開ありがとうございますゥ♡」
「ちょっと待ってメロディさんっ、えっ?そんな訳はないでしょうっ!?私がっ?あのバスター=ワイズをっ?ナイナイナイナイあり得ないっ!!」
顔を真っ赤にしながら全力で否定するエルシィにメロディは言った。
「あり得なくはないデショ。あんなイケメンに真剣に想いを寄せられてナンとも思わないオンナはオンナじゃないわヨ。目線が合っただけでオンナが濡れるバスター=ワイズよ?当然のナリユキだわネ♡」
「……真剣な、想い……?一時の気の迷いでは?」
「アタシのマブダチがバスターの義理の叔母でいつも側で見せつけられてルンだけどネ、ワイズ家の男は自分の“唯一”を見つけたらそれはもうネチっこいほど一途なのヨ。バスターはアンタをその唯一だと言っていたワ、もう決して逃げられないから諦めて観念なさい♡」
「ゆ、唯一……?私が?バスター=ワイズがそう言っていたの……?」
「そうヨ」
「まさか……あり得ない……」と、エルシィはブツブツとその言葉を繰りかえす。
その時ふいに、今の今まで話題に出ていたバスターがエルシィに声を掛けて来た。
「なに?何があり得ないんだ?エルシィどうした?顔が真っ赤だよ?」
「バっ…バスター=ワイズっ……!な、なんでもないわよっ」
バスターに恋をしているとメロディに言われ、まさかと動揺している時のご本人登場に、エルシィはどうしていいのか分からずにその場を逃げるように立ち去って行った。
それを呆気に取られて見ていたバスターだが、メロディに向き直り訊いた。
「何かあったのか?」
「問題ないワ、通過儀礼のようなモノよ。ドゥフフ♡若いってイイわねぇ♡」
それからというもの、今までどんな時でも淡々として自分のペースを崩さないエルシィの様子が明らかにおかしくなった。
ソワソワと落ち着きがなくなり、バスターが近付くと明らかに挙動不審になる。
そんな自分が嫌で平静を取り戻そうとしても、いざバスターの目の前に立つとそれが出来ずに余計に変な言動を取ってしまう。
分かってる、明らかに変な女だ。
こんな調子ではバスターに呆れられ、愛想を尽かされ嫌われてしまう……
そこまで考えて、エルシィはハッとした。
何故自分はそれを恐れているのだろう。
別に嫌われたって愛想を尽かされたっていいではないか。
でも自分はそれを恐れている、嫌だと感じている。
これではまるで……これではまるで、メロディが言ったように恋をしているようではないか。
エルシィは愕然とした。
『そうなのっ?やはりそうなのっ!?』
思えば恋なんて、12歳の時に年上の従兄に初恋を抱いて以来の感情である。
(その従兄は直ぐに結婚して敢えなく失恋したが)
自分がバスター=ワイズを……?
『好意を寄せられたからと自分も好きになるなんてチョロ過ぎないっ?』
……いや、やっぱり気のせいだろう。
自分はお堅い女だと自他共に定評がある。
そんな自分がこんな簡単に恋に落ちる訳がない。
「恋に落ちるなんて一瞬ヨ?そしてそれに理由なんてないのヨ♡」
とメロディは言っていたが断じてそんな筈はない。
エルシィはそう無理やり結論付けて、自分に言い聞かせた。
だってやはりどう考えても自分とバスター=ワイズでは釣り合わない。
バスター=ワイズにはそう、センスが良くて美人で洗練された女性が似合う。
そう、あんな感じの……
「……!」
そんな事を思っていた矢先で目の前に飛び込んで来たその光景に、エルシィは愕然とした。
私服姿のバスターがオシャレなワンピースドレスを着こなした可憐な女性と腕を組んで王宮内を歩いていたのだ。
『……え……誰……?』
互いに微笑み合い、仲睦まじげに歩いている。
二人が互いを想い合っているのが第三者から見てもありありと感じ取れた。
ほらね。
やっぱり。
おかしいと思った。
彼が自分に寄せていた思いは恋情ではなく珍妙な同僚に対する興味と関心だ。
それを好かれているなんて勘違いして浮かれて……
エルシィは自分の頬に温かい何かが伝うのを感じた。
「……?」
それは涙だった。
知らないうちに涙を流していたのだ。
涙は胸の痛みを感じる度に流れてくる。
その胸の痛みと涙で、自分の本当の想いに気付かされた。
『そうねメロディさん……認めるわ。私は確かにバスター=ワイズに恋をしている……』
向こうはやりそうではなかったけど、
エルシィがバスターを好きになったのは間違いなかった。
初恋の時のように自覚した途端に失恋したけど。
「バカみたい……私、バカみたい……」
エルシィはそう言いながら涙を流し続けた。
その時、真後ろから声をかけられる。
「エルシィっ?」
「…………え?」
エルシィが振り向くと、そこには何故か今し方失恋したばかりのバスターが立っていた。
泣いているエルシィを見て、慌てた様子で近付いて来る。
「エルシィっ、どうしたんだ、何故泣いているっ?何かあったのか!?どこか痛いのか!?」
そう言って焦った様子でエルシィの事を心配そうに見ている。
「……バスター=ワイズ…………え?アレ?バスター=ワイズ!?」
たった今、綺麗な女性と回廊の向こう側を歩いて去って行った筈のバスターがなぜ今、目の前に立っているのだろう。
ご丁寧に服まで着替えて。
「エルシィ、本当にどうした?大丈夫なのかっ?メロディは、守護神はどうした?」
エルシィは思わずバスターの顔に触れていた。
ぐちゃぐちゃな感情が普段では絶対に出来ない行動に走らせる。
「……バスター=ワイズ……?本物……?」
ふいに触れられ、一瞬ビクっとしたバスターだが、顔を赤く染めながらもエルシィの手を受け入れている。
そしてはにかんだ様子でエルシィに答えた。
「俺以外に誰がいるんだよ。あ、でも同じ顔をした双子の兄貴はいるけどな」
「双子……?兄……」
そうだった。
バスター=ワイズは双子だった。
キースというそっくりの兄が居たんだった。
……という事は………今、回廊の向こうで見たのは……
そんな事をぐるぐると考えるエルシィの頬を、今度はバスターが両手で包んだ。
「どうして泣いていたんだ?誰かに何かをされたのか?教えてくれ、キミをそんな目に遭わせた奴を俺は許さない、必ずキミを泣かせた罰を受けさせてやる」
その言葉を聞き、エルシィはバスターを見つめた。
『この人は……どうして私の為にこんな表情をしてくれているの?』
まるで心の底から大切なものを見るような目を自分に向けてくる。
エルシィは呟くように答えた。
「それなら貴方は自分で自分に罰を与える事になるわよバスター=ワイズ……」
「え?」
エルシィには今、何も躊躇う気持ちはなかった。
不思議と自分の想いに素直になれる。
「答えてバスター=ワイズ。貴方は私の事が好きなの?」
「……!」
その問いかけにバスターは一瞬瞠目し、そして直ぐに真剣な眼差しをエルシィに向けてきた。
「ああ。俺はキミが、エルシィの事が本当に好きだよ。真面目で様々な事に真摯に取り組むキミが好きだ。周りから令嬢だてらにとか言われても、それに振り回される事なく我が道を行くキミが好きだ。でも本当は繊細で傷付きやすい、それを隠す為に毅然として顔を上げて生きているキミが好きだ。キミの全てが俺を虜にして離さない。エルシィ、キミは俺の唯一最愛の女性だ」
その一言一句、全てがエルシィの心に染み渡る。
あぁ……
もう、完敗だ………
釣り合わないと言われてもいい。
誰に何を言われても関係ない。
私は………
「私も貴方が好きよ、バスター=ワイズ。
私が貴方の唯一だと言うのなら、貴方も私の唯一だわ」
「っエルシィ……!」
思わずといった態でバスターはエルシィを抱きしめていた。
その力強さから彼が今、心から喜んでいるのが分かる。
その気持ちがエルシィにも伝わってきた。
エルシィの心にも喜びが湧き上がる。
そう思った瞬間、バスターがエルシィの前に跪いた。
そしてエルシィの両手を取り、熱のこもった眼差しで見上げる。
「エルシィ、今すぐでなくてもいい。でもどうか俺に、これからもキミの側にいられる権利を与えて欲しいんだ。どうか俺と、俺と結婚してください」
どこからか聞こえた小さな悲鳴に、ここが王宮内であった事を思い出させて貰った。
でもそんな事はどうでも良かった。
エルシィの目には、今はバスターしか見えていない。
エルシィはまた涙を溢れさせながら笑顔で返事をした。
「はい……!プロポーズをお受けします……どうか私を、貴方の唯一として一生側に居させてくださいっ……」
「あぁ…エルシィっ!」
バスターはガバリと立ち上がり、エルシィを抱きしめた。
近くでメロディの「っシャアァァァッ!!」
という雄叫びが聞こえた。
その瞬間王宮内の至る所から祝福の拍手が湧き起こる。
ハンカチを歯噛みする女性もチラホラ見受けられたが、大概の者が二人を祝福した。
後から聞いた話だけど、この時メロディは「我が生涯に一片の悔い無しっ!」
と言って天高く拳を突き上げていたのだそうだ。
その猛々しい姿を石像にしたいと宮廷彫刻家が言ったとか言わなかったとか……
そんなこんなの王宮内でのオープンプロポーズから一年後に、
バスターはエルシィと結婚式を挙げた。
バスターの双子の兄のキースはともかく、
結婚式に参列していたワイズ家の男達が皆、銀髪に赤い瞳だった事にエルシィは内心驚いた。
そしてバスターの義理の叔母で、メロディの親友のハノンという女性にこっそり耳打ちされる。
「ワイズ家の男の愛は重いわよ?でもそれ以上に優しくて温かくて安心出来る。一生愛されて幸せになれる覚悟は出来ている?」
満たされた笑顔で話す彼女の言葉を聞き、
エルシィは思わず「望むところです」と笑顔で返した。
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「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
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