38 / 161
ミニ番外編
のえるたんインパクト
しおりを挟む
薬剤店の前に捨てられていた赤ん坊を抱いたメロディがワイズ伯爵家に突撃して来る前日、
ハノンとフェリックスの第三子ノエルが誕生した。
銀色の髪にアンバーの瞳。
上の兄と姉と同じく父と母の容姿を半分ずつ受け継いで生まれてきた小さなノエル。
ハノンの陣痛が始まったと聞くや否や隠居して別邸へ移り住んでいた前ワイズ侯爵アルドンとその妻アメリアがワイズ伯爵家へと急ぎやって来た。
ポレット以来十年ぶりとなる赤ん坊の誕生を、今か今かと待ち望んでいたのだ。
無事に出産を終え、まずは夫であり父であるフェリックスが産室に入り、母子と対面した。
入室の許可をそわそわと待ち侘びる祖父と祖母は期待感と共に上昇する血圧をなんとか下げようと水を飲んだり深呼吸をしたりしている。
やがてようやく息子のフェリックスから産室へ入る許可が出た。
「っそ、そうか……会えるのかっ……!」
逸る気持ちを抑えながら、前侯爵と侯爵夫人の威厳を保ちつつ二人は入室した。
産室として設た部屋に置かれたベッドに出産を終えたばかりの嫁のハノンと、その腕に抱かれる生まれたばかりの孫の姿があった。
アルドンとアメリアは赤ん坊を驚かせないようにゆっくりと歩み寄って行く。
ハノンが微笑んで二人に言った。
「お義父さま、お義母さま、ご覧ください。元気で可愛い女の子です。フェリックスがノエルと名付けてくれました」
「のえる……たん……」
そしてハノンが二人が見え易いように抱き方を変える。
アルドンとアメリアは老眼を酷使して生まれたての新しい家族の顔を覗き込んだ。
そして、その瞬間……
◇◇◇◇◇
その日ルシアンは王宮の騎士団の練習に参加させて貰っていた。
母親が産気付いたと知らせを受け、父であるフェリックスはどうしたのかとワイズ伯爵家の使いの者に尋ねると、制止も聞かず既に転移魔法で自宅に飛んで帰った(文字通り)との事。
その様子が容易に想像出来てルシアンは思わず吹き出すも、自身も早く帰宅する為に乗って来た馬を預けてある厩へと急いだ。
その途中で、妃教育の為に王宮へ来ていたポレットと出会す。
同じく知らせを受けて急いで帰るところだと言う妹に、ルシアンは言った。
「じゃあ兄さまの馬に乗って一緒に帰ろう。その方が早い」
ポレットはパッと表情を明るくして答えた。
「お兄さまのお馬に乗るのは久しぶりね、とってもうれしいわ。でもアンソニーが重くて大変じゃないかしら……」
兄の愛馬を気遣う優しい妹に、ルシアンは微笑む。
「ポゥは羽根の様に軽いから大丈夫だよ。それにアンソニーなら、大人二人を乗せても悠々と駆けるだろう」
「アンソニーはすごいのね!」
ポレットは破顔した。
こうして兄妹は急ぎ自邸へと戻る。
伯爵家の馬丁に馬を任せ、急ぎ執事が出迎える邸に入った。
ルシアンとポレット、二人がエントランスに足を踏み入れた途端、ふいに邸が揺れたような衝撃を感じた。
まるで邸の屋根に雷が落ちたような。
いや実際には落ちていないのだが、それくらい凄まじい衝撃…魔力の波動を感じた。
ルシアンは執事に問う。
「今の魔力は……お祖父様とお祖母様が来られているの?」
「はい。奥様の陣痛が始まって直ぐの頃よりお見えになられております」
「ははは。待ちきれないといった感じだったんだろう?」
ルシアンが笑いながら言うと執事は人差し指を口元に当て、内緒話と言わんばかりに小声で囁いた。
「はい。“天使が降臨するとなー!”とお言いになられ、鼻息を荒くされながら邸へ入って来られました」
「あははっ!」「まぁふふふ」
ルシアンとポレットは祖父母のその様子が手に取るように分かり、二人で笑い合った。
「さあ、坊ちゃまもお嬢様もお早く。小さなレディがお待ちかねであらせられますよ」
「!女の子かっ!」「嬉しいっ!」
執事から性別を知らされ、ルシアンとポレットは喜んだ。
特にポレットは妹が欲しいと思っていたのでその喜びようは尚更だ。
二人は急いで階段を上がり産室の扉をノックし、入室した。
まず目に飛び込んで来たのはソファーに力なく座り込む祖父と祖母の姿だった。
まるで雷に撃たれた後の様なぐったり具合である。
「可愛い……無理…もう可愛すぎて辛い……」
二人とも何やらぶつくさ呟いている。
どうやら血圧が上がりすぎて安静にしているらしい。
そしてルシアンとポレットは父に呼ばれた。
「ルシー、ポレットこちらにおいで」
父であるフェリックスはベビーベッドの横に立っていた。
母は産後の疲れが顔に色濃く出ているが元気そうだ。
ルシアンとポレットに優しく微笑みかけている。
母親の無事に安堵しながら、ルシアンとポレットはベビーベッドの側へ静かに歩いて行った。
そしてそっとベッドの中を覗き込む。
そこには……小さな小さな赤ん坊がいた。
銀色の髪は兄と同じ。
でも顔立ちはまだハッキリしていなくとも姉に面差しが似ている事が分かる。
「小さい……」「可愛いわ……」
ルシアンとポレットは囁くように言った。
自然と笑みが零れる。
小さくて可愛い自分たちの妹、新しい家族。
心の中が多幸感で満ち溢れた。
ルシアンはふと、ポレットが生まれた時の事を思い出した。
あの時はまだ四つと、ルシアンはかなり幼かったのだがそれでも覚えている。
あの時も自分は兄として小さな妹を守りたいと思った。
そして今もその時と同じ思いを抱いている。
可愛くて愛しくて仕方なかった。
フェリックスが二人に告げる。
「ノエル、と名付けたよ」
「「ノエル……」」
ルシアンとポレットが同時に呟いた。
それに応えるかのようにノエルが小さなあくびを一つする。
その様が本当に可愛らしくて、家族みんなで笑った。
ーー僕がまた兄になった日。
この日の幸せな気持ちを、きっと生涯忘れないのだろう……ルシアンはそう思った。
ハノンとフェリックスの第三子ノエルが誕生した。
銀色の髪にアンバーの瞳。
上の兄と姉と同じく父と母の容姿を半分ずつ受け継いで生まれてきた小さなノエル。
ハノンの陣痛が始まったと聞くや否や隠居して別邸へ移り住んでいた前ワイズ侯爵アルドンとその妻アメリアがワイズ伯爵家へと急ぎやって来た。
ポレット以来十年ぶりとなる赤ん坊の誕生を、今か今かと待ち望んでいたのだ。
無事に出産を終え、まずは夫であり父であるフェリックスが産室に入り、母子と対面した。
入室の許可をそわそわと待ち侘びる祖父と祖母は期待感と共に上昇する血圧をなんとか下げようと水を飲んだり深呼吸をしたりしている。
やがてようやく息子のフェリックスから産室へ入る許可が出た。
「っそ、そうか……会えるのかっ……!」
逸る気持ちを抑えながら、前侯爵と侯爵夫人の威厳を保ちつつ二人は入室した。
産室として設た部屋に置かれたベッドに出産を終えたばかりの嫁のハノンと、その腕に抱かれる生まれたばかりの孫の姿があった。
アルドンとアメリアは赤ん坊を驚かせないようにゆっくりと歩み寄って行く。
ハノンが微笑んで二人に言った。
「お義父さま、お義母さま、ご覧ください。元気で可愛い女の子です。フェリックスがノエルと名付けてくれました」
「のえる……たん……」
そしてハノンが二人が見え易いように抱き方を変える。
アルドンとアメリアは老眼を酷使して生まれたての新しい家族の顔を覗き込んだ。
そして、その瞬間……
◇◇◇◇◇
その日ルシアンは王宮の騎士団の練習に参加させて貰っていた。
母親が産気付いたと知らせを受け、父であるフェリックスはどうしたのかとワイズ伯爵家の使いの者に尋ねると、制止も聞かず既に転移魔法で自宅に飛んで帰った(文字通り)との事。
その様子が容易に想像出来てルシアンは思わず吹き出すも、自身も早く帰宅する為に乗って来た馬を預けてある厩へと急いだ。
その途中で、妃教育の為に王宮へ来ていたポレットと出会す。
同じく知らせを受けて急いで帰るところだと言う妹に、ルシアンは言った。
「じゃあ兄さまの馬に乗って一緒に帰ろう。その方が早い」
ポレットはパッと表情を明るくして答えた。
「お兄さまのお馬に乗るのは久しぶりね、とってもうれしいわ。でもアンソニーが重くて大変じゃないかしら……」
兄の愛馬を気遣う優しい妹に、ルシアンは微笑む。
「ポゥは羽根の様に軽いから大丈夫だよ。それにアンソニーなら、大人二人を乗せても悠々と駆けるだろう」
「アンソニーはすごいのね!」
ポレットは破顔した。
こうして兄妹は急ぎ自邸へと戻る。
伯爵家の馬丁に馬を任せ、急ぎ執事が出迎える邸に入った。
ルシアンとポレット、二人がエントランスに足を踏み入れた途端、ふいに邸が揺れたような衝撃を感じた。
まるで邸の屋根に雷が落ちたような。
いや実際には落ちていないのだが、それくらい凄まじい衝撃…魔力の波動を感じた。
ルシアンは執事に問う。
「今の魔力は……お祖父様とお祖母様が来られているの?」
「はい。奥様の陣痛が始まって直ぐの頃よりお見えになられております」
「ははは。待ちきれないといった感じだったんだろう?」
ルシアンが笑いながら言うと執事は人差し指を口元に当て、内緒話と言わんばかりに小声で囁いた。
「はい。“天使が降臨するとなー!”とお言いになられ、鼻息を荒くされながら邸へ入って来られました」
「あははっ!」「まぁふふふ」
ルシアンとポレットは祖父母のその様子が手に取るように分かり、二人で笑い合った。
「さあ、坊ちゃまもお嬢様もお早く。小さなレディがお待ちかねであらせられますよ」
「!女の子かっ!」「嬉しいっ!」
執事から性別を知らされ、ルシアンとポレットは喜んだ。
特にポレットは妹が欲しいと思っていたのでその喜びようは尚更だ。
二人は急いで階段を上がり産室の扉をノックし、入室した。
まず目に飛び込んで来たのはソファーに力なく座り込む祖父と祖母の姿だった。
まるで雷に撃たれた後の様なぐったり具合である。
「可愛い……無理…もう可愛すぎて辛い……」
二人とも何やらぶつくさ呟いている。
どうやら血圧が上がりすぎて安静にしているらしい。
そしてルシアンとポレットは父に呼ばれた。
「ルシー、ポレットこちらにおいで」
父であるフェリックスはベビーベッドの横に立っていた。
母は産後の疲れが顔に色濃く出ているが元気そうだ。
ルシアンとポレットに優しく微笑みかけている。
母親の無事に安堵しながら、ルシアンとポレットはベビーベッドの側へ静かに歩いて行った。
そしてそっとベッドの中を覗き込む。
そこには……小さな小さな赤ん坊がいた。
銀色の髪は兄と同じ。
でも顔立ちはまだハッキリしていなくとも姉に面差しが似ている事が分かる。
「小さい……」「可愛いわ……」
ルシアンとポレットは囁くように言った。
自然と笑みが零れる。
小さくて可愛い自分たちの妹、新しい家族。
心の中が多幸感で満ち溢れた。
ルシアンはふと、ポレットが生まれた時の事を思い出した。
あの時はまだ四つと、ルシアンはかなり幼かったのだがそれでも覚えている。
あの時も自分は兄として小さな妹を守りたいと思った。
そして今もその時と同じ思いを抱いている。
可愛くて愛しくて仕方なかった。
フェリックスが二人に告げる。
「ノエル、と名付けたよ」
「「ノエル……」」
ルシアンとポレットが同時に呟いた。
それに応えるかのようにノエルが小さなあくびを一つする。
その様が本当に可愛らしくて、家族みんなで笑った。
ーー僕がまた兄になった日。
この日の幸せな気持ちを、きっと生涯忘れないのだろう……ルシアンはそう思った。
570
あなたにおすすめの小説
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。