無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
96 / 161
ミニ番外編

閑話 ノエルたんの唯一

しおりを挟む
“ワイズの唯一”についてルシアンが人生の先輩である父親のフェリックスに話を聞いた後。
居間に戻ってきたハノンとフェリックスが話の流れで二人で昔の話などをしていたその時だった。

「……ノエルの魔力の波動を感じる……」

とフェリックスがつぶやいた。

「またもうあの子は!」

それを聞いたハノンが勢いよくソファーから立ち上がりキッチンへと向かう。

するとまさに末っ子のノエルが子ども部屋からキッチンへ転移魔法で来て、こっそりケーキクーラーの上で冷まし中のマドレーヌに手を伸ばそうとしていたのだ。

「コラッ!ノエル!!」

「きゃっ」

いきなり現れた母にマドレーヌを盗み食いしようとしていた決定的瞬間を見られ、四歳になったノエルは驚いて小さく飛び上がった。

「また盗み食いをして!」

ハノンが娘を叱るとノエルは首をぷるぷると振って言う。

「まだたべてないから“ぬすみぐい”じゃないもん」

「屁理屈を言わないの。今日はおやつにメロディが焼いた顔の大きさほどもある巨大クッキーを食べたでしょう?そのマドレーヌは明日にしなさい」

「だって、やきたてのままのまどれーぬはいましかたべられないのよ?さめたらしっとりで、やきたてはふわふわなのよ?」

「……ホントに口は達者なんだから……。お夕食のサーモンソテーもサーモンまるまる一匹分は食べていたのだからもうダメよ」

「そんなぁ……」

母であるハノンにこれ以上は食べるなと言われてしょげかえる娘にフェリックスは言った。

「相変わらずノエルたんは食べることが大好きだなぁ」

「ぱぱ……」

ノエルは涙を浮かべてフェリックスを見上げる。
目を潤ませて救いを求める娘を、フェリックスはキュンとして堪らず抱き上げた。

「ノエルたん……!」

「ぱぱ!」

抱き上げられたノエルがヒシと父親の首に抱きつく。
それを側で見ていたハノンがジト目で見ながらフェリックスに言った。

「フェリックス、絆されちゃダメよ。あなたが自分に甘い事をノエルはちゃんとわかっているのだから」

「しかしだなハノン、こんなに悲しそうに目を潤ませて……」

「ぱぱ……のえる、まどれーぬたべたい……」

「くぅっ……!」

きゅるきゅるうるん、な瞳でおねだりされてフェリックスはたじろぐ。

「ノエル!パパを籠絡ろうらくしないの!」

「やだ!のえるはまどれーぬたべるんだもん!」

「食べ過ぎなの!おデブちゃんになっちゃうわよ」

「のえる、ぶたさんもすきだもん!」

「主に食べるのが、でしょ!」

「ノエルたんが豚さんになって食べられちゃうのはパパは嫌だなぁ」

「ぱぱ、あんしんしてね?のえるはぶたさんにはならないから」

「食べ過ぎていたらなるのよ!」


そんな賑やかな声がワイズ伯爵家のキッチンに響く。

食べる、食べてはダメ、豚さんノエルも絶対に可愛い、と言い合う親子を尻目にワイズ伯爵家のメイドが粗熱が取れたマドレーヌを保存容器に入れて片付けた。

それを見たノエルが悲壮感溢れる声で言う。

「あぁ…のえるのまどれーぬがぁ……」

「この子は本当に、まったく……」

半ば呆れるハノンにフェリックスがつぶやいた。

「ノエルたんの“唯一”は食べ物だな」

「えぇ?人以外にもアリなの?」

「愛してやまず、それに執着するなら“唯一”と言えると思う」

「年頃になったら変わるわよ、と言いたいところだけれど……この子の場合はそう言いきれないのが心配なところだわ……」

「いいじゃないか“唯一”が食べもので。どこぞの馬の骨に奪われなくて済む。ノエルたんはずっとパパと一緒に美味しいものを食べて暮らそうな」

「うん!パパだいすき!」

「ノエルたんっ……!」

フェリックスは感極まって娘のすべすべで柔らかな頬に頬ずりをした。

それを見ながらハノンはつぶやく。

に大好きなんでしょ……」


娘の行く末に少しだけ不安を感じるハノンであった。






───────────────────────




そんなノエルたんにも、いずれ本当の“唯一”が現れるのかしら……?( ˘͈ ᵕ ˘͈♡)






しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。