無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
122 / 161
ミニ番外編

ノエルとせんせぇ

「は~い!」

パタパタとルームシューズの足音と共に聞こえた元気で優しそうな女の人の声。

ノエルがドキドキしながらちょこんと待っているとやがてドアが開き、中からひとりの女性が顔を出した。

美しく艶やかで、だけど柔らかそうなセミロングの黒髪にターコイズブルーの瞳。
よく見ればその瞳の側に小さな泣きぼくろがある。

両親や兄姉など美形には見慣れているはずのノエルでさえポ~っとしてしまうようなとても綺麗な女の人だった。

ノエルがポ~としてその人をじっと見つめていると、目の前の女性が優しげな笑みを浮かべて話しかけてきた。

「あなたがノエルちゃんね?」

名を呼ばれ、ノエルはハッとして自分も相手に訊ねる。

「……ノエルの、せんせぇ……?」

「ええそうよ。はじめましてノエルちゃん。私はツェリシア・ジ・コルベールです。ツェリ先生って呼んでね!」

「ツェリせんせぇ……」

ポ~としてツェリシアを見上げるノエルに、フェリックスは背中に手を添えて娘に言う。

「ノエル、ご挨拶は?」

父に促され、ノエルはまたハッとした。
そしてその場で桃色のワンピースを摘み、ちょこんとカーテシーをする。

「ごきげんようはじめまして。ノエル・ワイズです」

その小さな淑女のカーテシーを見て、ツェリシアが大いに破顔した。

「キャ~♡なんてちんまりとした愛くるしいカーテシーなのっ!可愛い♡可愛いわ~!どうしましょう、私の弟子が可愛すぎるわ!」

大喜びするツェリシアの言葉に、フェリックスはうんうんと頷いた。
俺の娘は可愛いだろうオーラ全開である。

一頻り喜んだ後、ツェリシアはノエルに向かってこう告げた。

「ノエルちゃん、今日のハジメマシテのご挨拶はお庭でピクニックしながらにしましょうか♪」

「ピクニック?」

「ええそうよ。だってとってもいいお天気だもの!どうかしら?」

ツェリシアの提案書に、ノエルは段々と目を輝かせてゆく。

「うん!する!ピクニックする!」

「ふふふ。そう言うと思って、じつはもう用意してるの」

そう言って、ツェリシアはパチンと指を鳴らした。
そしてその次の瞬間には、三人揃って庭の大きな木の下へと移動していたのだった。

「わぁ……!」

目の前に広がる光景を見て、ノエルはますます目を輝かせた。

大きな木の木陰には大きなピクニック用のマットが敷き詰められており、そのマットの上にはサンドイッチやフライドチキンにレモネード、そしてトライフルやマフィンなど沢山のスイーツが所狭しと並んでいた。

「お腹空いたでしょう?先生もペコペコなの。一緒に食べましょう♪」

「うん!」

「ワイズ卿もぜひ」

ツェリシアに誘われ、フェリックスは軽く会釈をした。

「ありがとうございます。ではご一緒させていただきます。……あの、アルトは今日は不在ですか?」

「そうなんです。外せない仕事があって……でもすぐに帰ってくるようなことを言ってましたよ」

「そうですか……」

ノエルの付き添いでなければあまり好ましくない状況だ。
アルトが了承しているなら大丈夫だろうが……

『いや、アイツも本当は嫌だろうな』

自分の留守中に最愛の妻が幼馴染とはいえ男と(おチビ付きだが)同じ空間にいるなど。
フェリックスには絶対に我慢ならない。

『まぁ“ワイズの唯一”を知っているから許されているんだろうな』
と、フェリックスはそう思った。

そうしてフェリックスはノエルの付き添いとしてツェリシアの招待を受けることとなった。


「おいし~!ツェリせんせぇ!このドーナツおいしいね!」

すでにサンドイッチもキッシュもフライドチキンもトライフルも食べたノエルが満面の笑みでそう言った。

「ホント?良かった。これらの料理は全部、先生の旦那さまが作ってくれたのよ」

「せんせぇの?パパのおともだちのリンゴのかみのひと?」

一先ず先にと顔を合わせていたアルトのことを思い出し、ノエルがそう言った。
夫の赤い髪を林檎と喩えたノエルに、ツェリシアは笑いながら答える。

「ぷ☆ふふ。そうよ、林檎みたいに赤い髪のあの人よ」

「すごいのね!おりょうりがじょうずだわ!ノエルのママみたい!」

「ノエルちゃんのお母さんもお料理上手なのね」

「うん!」

元気にお返事をするノエルの向こうでまたフェリックスがひとりウンウンと頷いていた。

「ノエルちゃん、食べても食べてもお腹が空く?」

ツェリシアが徐にそう訊ねると、ノエルはこくんと頷いた。

「うん。おなかがいっぱいになってもすぐにペコペコになっちゃうの」

「そうなのね。ねぇノエルちゃん、先生の手の上にノエルちゃんの手を重ねてみてくれる?」

ツェリシアにそう言われ、ノエルはきょとんとした顔をしながらも小さな手をツェリシアの手の平の上に乗せた。

「ふふ。小さくてふくふくの子供のお手手。久しぶりだわ……♡」

ツェリシアはそうひとりちてから、瞼を閉じて何かに意識を集中させた。
そしてややあって静かに目を開き、大きな木のこずえの方へと視線を向けてノエルに言う。

「ノエルちゃん、あの木の先の方を見てくれる?」

「きのさき?」

ツェリシアの言葉を受け、上を見上げて梢の方へと視線を巡らせるノエルにツェリシアは訪ねた。

「何か見えるかしら?」

「ミドリいろのちっちゃいひととシロいちっちゃいひと……?」

「やっぱりえるのね」

「え?小さい人?」

ノエルがそう答えたのを聞き、フェリックスの木の梢を凝視するも、彼には何もなかった。

ツェリシアはノエルの隣に座っているフェリックスに告げる。

「ノエルちゃんには精霊がいますね。この子の魔力の中に僅かに精霊の“気配”を感じます。……これはアルトも言っていたことですが、おそらくワイズ家かルーセル家の家系に精霊人せいれいびとと結婚した人がいるのではないでしょうか。ノエルちゃんはいわばその先祖返りというか……非常に卓越した能力を持って生まれてきたわけです」

「え……精霊人、ですか?」

フェリックスは魔術学園時代にその存在について学んだことがあった。

稀なことではあるが、高位な精霊が気まぐれに人間界へと流れて来て、人と縁付き子を成すことがあるという。

そしてその精霊と人との間に生まれた者のことを精霊人せいれいびとと呼ぶのだ。

アルトの生家であるコルベール家(ル・コルベール、ジ・コルベール両家)も、この精霊人を祖とする一族だという。

彼らと同じような祖がワイズかルーセルにも居たと聞き、フェリックスは驚きを禁じえなかった。





─────────────────────



今週はここまで。
カタツムリの歩行並みで申し訳ないです(´•ω•̥`)
混ぜるな危険は起こるのか?


ちなみに精霊人云々の設定は作者が十代の頃に考えたものです( ́𖠶͈⌄𖠶͈ ̀)ᦂウフ


感想 3,580

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)