124 / 161
ミニ番外編
閑話 かの偉大なる賢者は翻訳業には向いていない☆
しおりを挟む
ノエルとツェリシアの初顔合わせが済んだ数日後。
ツェリシアはノエルの勉強の教材となる魔導書を自宅(ジェスロのイグリード邸)の図書室で見繕った。
幼いノエルにも解りやすいよう、ツェリシアは魔術を使ってイラスト入りで翻訳をすすめてゆく。
(魔導書のほとんどが古代文字で記されている)
その作業を進めていると、イグリードがツェリシアに一冊の本を手渡してきた。
本を受け取りながらツェリシアが訊ねる。
「バルちゃん、これは?」
「異世界の魔法生物について書かれた本だよ。昔、アルトのために翻訳したんだ」
「まぁ、子供の時のアルトが使った教材なのね」
ツェリシアが目を輝かせて本の表紙を見る。
そこには大陸公用語のハイラント語で『モモタロウ』と書かれていた。
表紙を見つめるツェリシアに、イグリードは肩を竦めながら言う。
「それがさぁ~!アルトってば“こんなふざけた翻訳があるか”って怒って読んでくれなかったんだよ~☆ドイヒーだよね~☆」
「ふふ。ふざけた翻訳とわかるくらいにはちゃんと読んだということよね。アルトらしいわ」
「異世界の魔法生物を知るにはこの本が一番だよ~☆」
「なるほど。ありがとうバルちゃん、使わせてもらうね」
「うん!使って使って☆読んで読んで☆我ながら名翻訳だと思ってるから!」
その後ツェリシアは自室に戻ってさっそく、その『モモタロウ』なる本を読んでみることにした。
「どれどれ……」
ツェリシアがページをめくる。
【むかぁ~しむかし、ある所にグランパとグランマがおりましたとさ☆】
「グランパ?グランマ?」
読み始めてすぐに頭に浮かんだ疑問がツェリシアの口から零れる。
【グランマが川でグランパのフンドシを洗っているとね~☆】
「……フンドシ?フンドシってなに?」
【とっっても超絶巨大なモモが流れてきたんだって☆】
「え?超絶巨大な桃が川に?」
と、ツェリシアが頭に疑問符をいっぱい浮かべながら読んでいると、その本に気付いたアルトが呆れ顔で言った。
「……ツェリ、その本もしかして師匠から渡された?」
「うん。異世界の魔法生物について学ぶには良い教材だと貸してもらったの」
「その本が教材になるなんて有り得ないよ」
「え?でもバルちゃんが異世界の魔法生物が出てくるって……」
ツェリシアがそう言うとアルトは嘆息し、ジト目で本を睨め付ける。
「その話が異世界の物語なのは本当だよ。でもそこに出てくる……師匠が魔法生物と位置付ける登場人物たちは魔法生物でもなんでもないんだ」
「あら、そうなの?」
「モモタロウは桃から生まれたとはいえ人間だし、犬猿キジはただの野生(野良)動物だ」
「でも、人語を理解するんでしょう?高位魔法生物に間違いないんじゃないの?バルちゃんの説明ではそれでモモタロウの使い魔になると言っていたわ」
「ツェリ、それは異世界の童話なんだ。物語の中だから人語を理解するし話す事も出来る。そして誓約魔法による契約で結ばれるのではなく、キビダンゴという報酬を得てモモタロウの家来になるんだ。当然彼らは魔術は使わないし特殊能力もない。別のフェーズに住んでいて召喚されたわけでもない。よって魔法生物の定義から大きく逸脱している。だからその本で魔法生物については学べないんだよ……いや、学んじゃいけない」
「あらまぁ。じゃあどうしてバルちゃんはわざわざわたしにこの本を渡したのかしら?」
「ただ単にツェリとノエルちゃんに読んで欲しかったんだろうな。まったく……」
「ぷっ☆なるほど。ふふふふ」
ツェリシアは笑いながら再び本に視線を戻した。
よくよく見ると翻訳した文章の文末には必ず「☆」がついている。
「ふふ、バルちゃんはなんでも出来てしまうすごい人だけど、翻訳業だけは向いていなさそうね」
「まったくだ……」
アルトはヤレヤレと肩を竦めた。
教材には向いていないけど、物語としてはとても面白いのでは?
そう思ったツェリシアは、その『モモタロウ』なる本を機会があればノエルに読んであげようと思ったのであった。
ツェリシアはノエルの勉強の教材となる魔導書を自宅(ジェスロのイグリード邸)の図書室で見繕った。
幼いノエルにも解りやすいよう、ツェリシアは魔術を使ってイラスト入りで翻訳をすすめてゆく。
(魔導書のほとんどが古代文字で記されている)
その作業を進めていると、イグリードがツェリシアに一冊の本を手渡してきた。
本を受け取りながらツェリシアが訊ねる。
「バルちゃん、これは?」
「異世界の魔法生物について書かれた本だよ。昔、アルトのために翻訳したんだ」
「まぁ、子供の時のアルトが使った教材なのね」
ツェリシアが目を輝かせて本の表紙を見る。
そこには大陸公用語のハイラント語で『モモタロウ』と書かれていた。
表紙を見つめるツェリシアに、イグリードは肩を竦めながら言う。
「それがさぁ~!アルトってば“こんなふざけた翻訳があるか”って怒って読んでくれなかったんだよ~☆ドイヒーだよね~☆」
「ふふ。ふざけた翻訳とわかるくらいにはちゃんと読んだということよね。アルトらしいわ」
「異世界の魔法生物を知るにはこの本が一番だよ~☆」
「なるほど。ありがとうバルちゃん、使わせてもらうね」
「うん!使って使って☆読んで読んで☆我ながら名翻訳だと思ってるから!」
その後ツェリシアは自室に戻ってさっそく、その『モモタロウ』なる本を読んでみることにした。
「どれどれ……」
ツェリシアがページをめくる。
【むかぁ~しむかし、ある所にグランパとグランマがおりましたとさ☆】
「グランパ?グランマ?」
読み始めてすぐに頭に浮かんだ疑問がツェリシアの口から零れる。
【グランマが川でグランパのフンドシを洗っているとね~☆】
「……フンドシ?フンドシってなに?」
【とっっても超絶巨大なモモが流れてきたんだって☆】
「え?超絶巨大な桃が川に?」
と、ツェリシアが頭に疑問符をいっぱい浮かべながら読んでいると、その本に気付いたアルトが呆れ顔で言った。
「……ツェリ、その本もしかして師匠から渡された?」
「うん。異世界の魔法生物について学ぶには良い教材だと貸してもらったの」
「その本が教材になるなんて有り得ないよ」
「え?でもバルちゃんが異世界の魔法生物が出てくるって……」
ツェリシアがそう言うとアルトは嘆息し、ジト目で本を睨め付ける。
「その話が異世界の物語なのは本当だよ。でもそこに出てくる……師匠が魔法生物と位置付ける登場人物たちは魔法生物でもなんでもないんだ」
「あら、そうなの?」
「モモタロウは桃から生まれたとはいえ人間だし、犬猿キジはただの野生(野良)動物だ」
「でも、人語を理解するんでしょう?高位魔法生物に間違いないんじゃないの?バルちゃんの説明ではそれでモモタロウの使い魔になると言っていたわ」
「ツェリ、それは異世界の童話なんだ。物語の中だから人語を理解するし話す事も出来る。そして誓約魔法による契約で結ばれるのではなく、キビダンゴという報酬を得てモモタロウの家来になるんだ。当然彼らは魔術は使わないし特殊能力もない。別のフェーズに住んでいて召喚されたわけでもない。よって魔法生物の定義から大きく逸脱している。だからその本で魔法生物については学べないんだよ……いや、学んじゃいけない」
「あらまぁ。じゃあどうしてバルちゃんはわざわざわたしにこの本を渡したのかしら?」
「ただ単にツェリとノエルちゃんに読んで欲しかったんだろうな。まったく……」
「ぷっ☆なるほど。ふふふふ」
ツェリシアは笑いながら再び本に視線を戻した。
よくよく見ると翻訳した文章の文末には必ず「☆」がついている。
「ふふ、バルちゃんはなんでも出来てしまうすごい人だけど、翻訳業だけは向いていなさそうね」
「まったくだ……」
アルトはヤレヤレと肩を竦めた。
教材には向いていないけど、物語としてはとても面白いのでは?
そう思ったツェリシアは、その『モモタロウ』なる本を機会があればノエルに読んであげようと思ったのであった。
1,919
あなたにおすすめの小説
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。