132 / 161
ミニ番外編
ポレットの婚礼②
しおりを挟む
「まぁ……!なんて素晴らしいっ……」
ワイズ伯爵家の一室。
じきに輿入れとなるポレットのために設えた支度部屋に、ワイズの女性陣が集まっていた。
そしてポレットを中心に、届いたばかりのウェディングドレスを皆でうっとりと眺めている。
「さすがはアデリオールで一番人気のドレスメーカー“マダムジョリー”のデザインと仕立てね」
フェリックスの妹であるアリアが満足そうに言うと、キースの妻であるイヴェットが頷いた。
「ええ本当に。これほどまでのウェディングドレス、西方大陸広しと言えどなかなかお目にかかれませんわっ……!」
その言葉に女性陣の長たる新旧侯爵夫人が二人揃って悠然として言う。
「当然よ。ワイズ家の威信にかけて細部にまで拘り抜いた一着ですもの」
「お金はいくらかかっても良いから(払うのはフェリックスだし)とにかく最高級のものをとマダムにはお願いしましたの」
「「さすがですわ~!」」
と、キースの妻イヴェットとバスターの妻エルシィが同時に言った。
皆のその反応に、ポレットは嬉しそうだ。
「よかった!センスの良いみんながそう言ってくれるなら安心ね。ワイズの花嫁のウェディングドレスはいつもその後の流行の先駆けとなると王宮で聞いたもの」
「そうね。中でもお義母様がお召しになったドレスのデザインは“アメリアスタイル”と呼ばれ、今でも人気だと聞いたわ」
「娘のアリア様もその“アメリアスタイル”のウェディングドレスを着て、当時話題になったものね」
「わ~そうなの?たしかトレーンがマーメイドタイプになっていて、裾が花弁を重ね合わせたようなデザインなのよね?」
その話に関心を示したポレットに向けてアリアが笑みを浮かべる。
「そうよ。私はお母様に容姿がよく似ているから、そのドレスを着てワイズの女神の再来と言われたのが少し照れくさかったけれど」
「お父様も伯父様もお祖父ちゃまにそっくりなのにね」
「ワイズの男の遺伝子はちょっと神がかっていると思うわ……」
「惣領家と血が濃い者は皆、銀髪赤目だものね」
「そして独占欲の塊ね」
「激重のね」
「そうそう!」
言いたい放題で笑うワイズの女たち。
その様子を眺めながらアリアがハノンに尋ねた。
「……でも、ドレスが届いて大変だったんじゃない?お兄様、ゴネたでしょう?」
「ゴネるというより……」
「拗ねちゃった?」
「いいえ。どちらかというとおセンチになっちゃって」
「あらまぁ」
母と叔母の会話を聞き、ポレットはドレスが届いた日の父を思い出した。
あの日、仕事を終えて帰宅したフェリックスが家令からドレスが届いたとの報告を受け、ポレットの支度部屋へとやって来た。
ポレットはハノンと支度部屋に居たのだが、ドレスを見つめるフェリックスの寂しそうな顔に引き寄せられるように傍へと行った。
「お父様。……こんなに素敵なドレスをありがとう……私は幸せ者です」
「ああ……」
感謝の言葉を口にした娘を眩しそうに目を細めて見つめ、フェリックスは素直に頷いた。
そしてもう一度ドレスに視線を戻す。
「ウェディングドレスを目の当たりにすると、実感が湧くよ……」
「そうね……」
「ウェディングドレスを着て、とうとうお嫁にいってしまうんだな……」
「はい……」
「…………グスッ」
「お父様?」
「なんでもない」
フェリックスから何か聞こえた気がしてポレットが不思議そうに仰ぎ見るも、彼はただ黙ってドレスを見ているだけであった。
その様子を見ていたハノンがフェリックスに寄り添うように傍に立つ。
「ふふ。ほら(心の中で号泣していないで)この素敵なドレスをよく見てあげて」
この期に及んで四の五の申すまいと懸命に虚勢を張るフェリックスだが、全てお見通しのハノンがそう言う。
「そうだな……」
フェリックスは寂寞たる思いを胸に娘の花嫁衣裳を見つめた。
フェリックスにドレスの良し悪しはわからないが、侯爵家の令息として質の良いものを見て育ってきた彼の確かな目がドレスを囚える。
そして、「うん、よい出来だ。このドレスを着こなせるのは、この世界ではポレットしかいないだろう」と頷いた。
そしてドレスの装飾を見て感心する。
「とくにこのレース。細部にまで緻密な模様が……これはかなりの技法だな。相当な熟練技術者が手掛けたものかい?」
「いいえ?それはメロディ作のレースよ」
「え?」
シレッと答える妻にフェリックスがもう一度問う。
「ドレスに施されているレースのことを言っているんだよ?」
「ええ。だからそのレースはメロディが手掛けたものなの。幼い頃からポレットのドレスを作ってきてくれたメロディが、『ポレたんの一世一代の女の晴れ舞台デショ!?アタシにも何か手伝わせて~!』とメーカーに直談判して、メロディの腕前に惚れたマダムがレース部分を総任せにしてくださったの」
「マヂか……」
フェリックスが驚愕の表情を浮かべてレースを見る。
「メロディがひと針、ひと編み、ポレットが幸せになれるように思いを込めて仕上げてくれたのよ。それはきっとこの子の守りにもなるわ」
「そうだな……なんだかレースの模様が最強の魔法布陣に見えてきたよ……まるでドレスに護符が施されているようだ」
ドレスの背景にメロディが立っているように見えるのは気の所為だろうか。
「まぁお父様ったら。でもこれでお式の当日は何があっても安心ね」
ポレットが笑いながらそう言うとフェリックスも毒気を抜かれたように笑った。
「あぁ。……ははは、メロディさんはウチの子たちの守護神だからな」
「ぷっ……ふふふ」
ハノンまで笑い出し、ウェディングドレスを前にして和やかな雰囲気に包まれた。
そんなことを思い出しながら、
ポレットはハノンやワイズの女性陣とウェディングドレスを囲んで、結婚前の楽しいひと時をすごしたのであった。
ワイズ伯爵家の一室。
じきに輿入れとなるポレットのために設えた支度部屋に、ワイズの女性陣が集まっていた。
そしてポレットを中心に、届いたばかりのウェディングドレスを皆でうっとりと眺めている。
「さすがはアデリオールで一番人気のドレスメーカー“マダムジョリー”のデザインと仕立てね」
フェリックスの妹であるアリアが満足そうに言うと、キースの妻であるイヴェットが頷いた。
「ええ本当に。これほどまでのウェディングドレス、西方大陸広しと言えどなかなかお目にかかれませんわっ……!」
その言葉に女性陣の長たる新旧侯爵夫人が二人揃って悠然として言う。
「当然よ。ワイズ家の威信にかけて細部にまで拘り抜いた一着ですもの」
「お金はいくらかかっても良いから(払うのはフェリックスだし)とにかく最高級のものをとマダムにはお願いしましたの」
「「さすがですわ~!」」
と、キースの妻イヴェットとバスターの妻エルシィが同時に言った。
皆のその反応に、ポレットは嬉しそうだ。
「よかった!センスの良いみんながそう言ってくれるなら安心ね。ワイズの花嫁のウェディングドレスはいつもその後の流行の先駆けとなると王宮で聞いたもの」
「そうね。中でもお義母様がお召しになったドレスのデザインは“アメリアスタイル”と呼ばれ、今でも人気だと聞いたわ」
「娘のアリア様もその“アメリアスタイル”のウェディングドレスを着て、当時話題になったものね」
「わ~そうなの?たしかトレーンがマーメイドタイプになっていて、裾が花弁を重ね合わせたようなデザインなのよね?」
その話に関心を示したポレットに向けてアリアが笑みを浮かべる。
「そうよ。私はお母様に容姿がよく似ているから、そのドレスを着てワイズの女神の再来と言われたのが少し照れくさかったけれど」
「お父様も伯父様もお祖父ちゃまにそっくりなのにね」
「ワイズの男の遺伝子はちょっと神がかっていると思うわ……」
「惣領家と血が濃い者は皆、銀髪赤目だものね」
「そして独占欲の塊ね」
「激重のね」
「そうそう!」
言いたい放題で笑うワイズの女たち。
その様子を眺めながらアリアがハノンに尋ねた。
「……でも、ドレスが届いて大変だったんじゃない?お兄様、ゴネたでしょう?」
「ゴネるというより……」
「拗ねちゃった?」
「いいえ。どちらかというとおセンチになっちゃって」
「あらまぁ」
母と叔母の会話を聞き、ポレットはドレスが届いた日の父を思い出した。
あの日、仕事を終えて帰宅したフェリックスが家令からドレスが届いたとの報告を受け、ポレットの支度部屋へとやって来た。
ポレットはハノンと支度部屋に居たのだが、ドレスを見つめるフェリックスの寂しそうな顔に引き寄せられるように傍へと行った。
「お父様。……こんなに素敵なドレスをありがとう……私は幸せ者です」
「ああ……」
感謝の言葉を口にした娘を眩しそうに目を細めて見つめ、フェリックスは素直に頷いた。
そしてもう一度ドレスに視線を戻す。
「ウェディングドレスを目の当たりにすると、実感が湧くよ……」
「そうね……」
「ウェディングドレスを着て、とうとうお嫁にいってしまうんだな……」
「はい……」
「…………グスッ」
「お父様?」
「なんでもない」
フェリックスから何か聞こえた気がしてポレットが不思議そうに仰ぎ見るも、彼はただ黙ってドレスを見ているだけであった。
その様子を見ていたハノンがフェリックスに寄り添うように傍に立つ。
「ふふ。ほら(心の中で号泣していないで)この素敵なドレスをよく見てあげて」
この期に及んで四の五の申すまいと懸命に虚勢を張るフェリックスだが、全てお見通しのハノンがそう言う。
「そうだな……」
フェリックスは寂寞たる思いを胸に娘の花嫁衣裳を見つめた。
フェリックスにドレスの良し悪しはわからないが、侯爵家の令息として質の良いものを見て育ってきた彼の確かな目がドレスを囚える。
そして、「うん、よい出来だ。このドレスを着こなせるのは、この世界ではポレットしかいないだろう」と頷いた。
そしてドレスの装飾を見て感心する。
「とくにこのレース。細部にまで緻密な模様が……これはかなりの技法だな。相当な熟練技術者が手掛けたものかい?」
「いいえ?それはメロディ作のレースよ」
「え?」
シレッと答える妻にフェリックスがもう一度問う。
「ドレスに施されているレースのことを言っているんだよ?」
「ええ。だからそのレースはメロディが手掛けたものなの。幼い頃からポレットのドレスを作ってきてくれたメロディが、『ポレたんの一世一代の女の晴れ舞台デショ!?アタシにも何か手伝わせて~!』とメーカーに直談判して、メロディの腕前に惚れたマダムがレース部分を総任せにしてくださったの」
「マヂか……」
フェリックスが驚愕の表情を浮かべてレースを見る。
「メロディがひと針、ひと編み、ポレットが幸せになれるように思いを込めて仕上げてくれたのよ。それはきっとこの子の守りにもなるわ」
「そうだな……なんだかレースの模様が最強の魔法布陣に見えてきたよ……まるでドレスに護符が施されているようだ」
ドレスの背景にメロディが立っているように見えるのは気の所為だろうか。
「まぁお父様ったら。でもこれでお式の当日は何があっても安心ね」
ポレットが笑いながらそう言うとフェリックスも毒気を抜かれたように笑った。
「あぁ。……ははは、メロディさんはウチの子たちの守護神だからな」
「ぷっ……ふふふ」
ハノンまで笑い出し、ウェディングドレスを前にして和やかな雰囲気に包まれた。
そんなことを思い出しながら、
ポレットはハノンやワイズの女性陣とウェディングドレスを囲んで、結婚前の楽しいひと時をすごしたのであった。
2,247
あなたにおすすめの小説
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、
「――俺のことが怖くないのか?」
と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!
うちに待望の子供が産まれた…けど
satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。
デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁
柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。
婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。
その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。
好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。
嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。
契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。