無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

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ミニ番外編

ポレットの婚礼②

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「まぁ……!なんて素晴らしいっ……」


ワイズ伯爵家の一室。
じきに輿入れとなるポレットのために設えた支度部屋に、ワイズの女性陣が集まっていた。

そしてポレットを中心に、届いたばかりのウェディングドレスを皆でうっとりと眺めている。


「さすがはアデリオールで一番人気のドレスメーカー“マダムジョリー”のデザインと仕立てね」

フェリックスの妹であるアリアが満足そうに言うと、キースの妻であるイヴェットが頷いた。

「ええ本当に。これほどまでのウェディングドレス、西方大陸広しと言えどなかなかお目にかかれませんわっ……!」

その言葉に女性陣の長たる新旧侯爵夫人が二人揃って悠然として言う。

「当然よ。ワイズ家の威信にかけて細部にまで拘り抜いた一着ですもの」

「お金はいくらかかっても良いから(払うのはフェリックスだし)とにかく最高級のものをとマダムにはお願いしましたの」

「「さすがですわ~!」」

と、キースの妻イヴェットとバスターの妻エルシィが同時に言った。

皆のその反応に、ポレットは嬉しそうだ。

「よかった!センスの良いみんながそう言ってくれるなら安心ね。ワイズの花嫁のウェディングドレスはいつもその後の流行の先駆けとなると王宮で聞いたもの」

「そうね。中でもお義母様がお召しになったドレスのデザインは“アメリアスタイル”と呼ばれ、今でも人気だと聞いたわ」

「娘のアリア様もその“アメリアスタイル”のウェディングドレスを着て、当時話題になったものね」

「わ~そうなの?たしかトレーンがマーメイドタイプになっていて、裾が花弁を重ね合わせたようなデザインなのよね?」

その話に関心を示したポレットに向けてアリアが笑みを浮かべる。

「そうよ。私はお母様に容姿がよく似ているから、そのドレスを着てワイズの女神の再来と言われたのが少し照れくさかったけれど」

「お父様も伯父様もお祖父じぃちゃまにそっくりなのにね」

「ワイズの男の遺伝子はちょっと神がかっていると思うわ……」

「惣領家と血が濃い者は皆、銀髪赤目だものね」

「そして独占欲の塊ね」

「激重のね」

「そうそう!」

言いたい放題で笑うワイズの唯一たち。
その様子を眺めながらアリアがハノンに尋ねた。

「……でも、ドレスが届いて大変だったんじゃない?お兄様、ゴネたでしょう?」

「ゴネるというより……」

「拗ねちゃった?」

「いいえ。どちらかというとおセンチになっちゃって」

「あらまぁ」

母と叔母の会話を聞き、ポレットはドレスが届いた日の父を思い出した。


あの日、仕事を終えて帰宅したフェリックスが家令からドレスが届いたとの報告を受け、ポレットの支度部屋へとやって来た。

ポレットはハノンと支度部屋に居たのだが、ドレスを見つめるフェリックスの寂しそうな顔に引き寄せられるように傍へと行った。

「お父様。……こんなに素敵なドレスをありがとう……私は幸せ者です」

「ああ……」

感謝の言葉を口にした娘を眩しそうに目を細めて見つめ、フェリックスは素直に頷いた。
そしてもう一度ドレスに視線を戻す。

ウェディングドレスこれを目の当たりにすると、実感が湧くよ……」

「そうね……」

ウェディングドレスこれを着て、とうとうお嫁にいってしまうんだな……」

「はい……」

「…………グスッ」

「お父様?」

「なんでもない」

フェリックスから何か聞こえた気がしてポレットが不思議そうに仰ぎ見るも、彼はただ黙ってドレスを見ているだけであった。
その様子を見ていたハノンがフェリックスに寄り添うように傍に立つ。

「ふふ。ほら(心の中で号泣していないで)この素敵なドレスをよく見てあげて」

この期に及んで四の五の申すまいと懸命に虚勢を張るフェリックスだが、全てお見通しのハノンがそう言う。

「そうだな……」

フェリックスは寂寞せきばくたる思いを胸に娘の花嫁衣裳を見つめた。

フェリックスにドレスの良し悪しはわからないが、侯爵家の令息として質の良いものを見て育ってきた彼の確かな目がドレスを囚える。
そして、「うん、よい出来だ。このドレスを着こなせるのは、この世界ではポレットしかいないだろう」と頷いた。
そしてドレスの装飾を見て感心する。

「とくにこのレース。細部にまで緻密な模様が……これはかなりの技法だな。相当な熟練技術者が手掛けたものかい?」

「いいえ?それはメロディ作のレースよ」

「え?」

シレッと答える妻にフェリックスがもう一度問う。

「ドレスに施されているレースのことを言っているんだよ?」

「ええ。だからそのレースはメロディが手掛けたものなの。幼い頃からポレットのドレスを作ってきてくれたメロディが、『ポレたんの一世一代の女の晴れ舞台デショ!?アタシにも何か手伝わせて~!』とメーカーに直談判して、メロディの腕前に惚れたマダムがレース部分を総任そうまかせにしてくださったの」

「マヂか……」

フェリックスが驚愕の表情を浮かべてレースを見る。

「メロディがひと針、ひと編み、ポレットが幸せになれるように思いを込めて仕上げてくれたのよ。それはきっとこの子の守りにもなるわ」

「そうだな……なんだかレースの模様が最強の魔法布陣に見えてきたよ……まるでドレスに護符が施されているようだ」

ドレスの背景にメロディが立っているように見えるのは気の所為だろうか。

「まぁお父様ったら。でもこれでお式の当日は何があっても安心ね」

ポレットが笑いながらそう言うとフェリックスも毒気を抜かれたように笑った。

「あぁ。……ははは、メロディさん彼女はウチの子たちの守護神だからな」

「ぷっ……ふふふ」

ハノンまで笑い出し、ウェディングドレスを前にして和やかな雰囲気に包まれた。


そんなことを思い出しながら、
ポレットはハノンやワイズの女性陣とウェディングドレスを囲んで、結婚前の楽しいひと時をすごしたのであった。










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