無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
133 / 161
ミニ番外編

ポレットの婚礼③ 挙式三日前

しおりを挟む
「おねぇさまぁぁ……」

「ほらもう泣かないでノエル」

「だってぇ……ふぇぇん……」

ワイズ伯爵家の夜、ノエルの部屋の寝台の上。

少し前からノエルが夜寝る時にポレットに傍にいて欲しいと強請るようになった。

もっと幼い頃なら寝る前の絵本の読み聞かせという名の夜伽役を家族の誰か……その日ノエルに指名された者(ハノンとルシアン率高し)が務めるのだが、八歳の誕生日を迎えてからはそのシステムは久しく失くなっていた。

が、ポレットの輿入れが間近に迫り、ある日突如としてそのシステムが復活したのだ。

もちろんもう絵本の読み聞かせではない。
今や母国語よりも古代語の方がスラスラと読めるノエルにとって、絵本の読み聞かせなど必要がないから。
ただ傍に。眠るまでのひと時、手を繋いで姉が傍に居ることをノエルが切に望んだのであった。

ノエルももう八歳。
数日後には姉が嫁いでいくことがわかる年頃になっている。
だからこそ、残り少ない日々を惜しむようにノエルがポレットとの時間を欲しがったのだ。
その時だけは間違いなく大好きな姉を独占できるのだから。

考えてみればポレットがデイビッドと婚約を結んだのは今のノエルとそう変わらない年齢であった。
だけどその時の自分よりもノエルが幼く感じるのはやはり末っ子であるからだろう。
皆で寄ってかかって甘やかしたとも言えるが、それはそれでなんと幸せなことかとポレットは思う。

そうしてここ数日、ポレットはノエルが眠るまでの時間を姉妹水入らずで過ごしていたのだが、この日とうとう寂しさからノエルが泣き出してしまったのだった。

「おねぇさま、およめにいかないでっ……」

「ノエル……」

「ずっとノエルといっしょにいてっ……」

「ノエル、これでお別れというわけではないのよ?同じ屋根の下というわけにはいかないけれど、いつでも会えるわ」

「でもっ……これからはおしょくじのときにおねぇさまはいないのでしょう?」

「そうね……」

「もうおかずをわけてもらえないんでしょう?」

「そうね……」

「ママにたべすぎだってしかられても、もうかばってもらえないのでしょう?」

「そうね……」

「ママにナイショよ、ってこっそりデザートをもらえなくなるのでしょう?」

「そうね……」

「そんなのイヤ~っ!おねぇさまっ……ずっとノエルといっしょにいて~!」

そう言ってノエルはまたわんわんと泣き出した。
悲しそうに綺麗な涙をぽろぽろと零すノエルを宥めながら、ポレットは姉らしい優しい声で言った。

「私はもうこれからはお食事の時にノエルの傍にはいられないけれど、宮に招待するわ」

「………ヒック…………ほんとぅ?」

「ええ本当よ。デイ様にお願いして、ランチやディナーにノエルをお招きするわ」

「おしろのおしょくじを……たべられるの?」

「ええ。王子宮の料理長やパティシエはとても腕利きらしいから、きっと美味しいと思うわ」

「パティシエ……スィーツも……」

「そうよ。そうやっていつでもまた一緒に食事が出来るのだから、そんなに悲しまないで。ノエルが泣くと私も悲しいわ」

ポレットにそう言われ、ノエルはこくんと頷いた。
そしてそれからは王宮ではどんな食事が出るのかとかマドレーヌは出るのかとか、ノエルの興味はすっかりそちらに移り、様々な質問をポレットにしたのであった。

「でもやっぱり……さびしいよぅ…おねぇさま……」

うとうとと眠りに落ちる寸前につぶやいたノエルの言葉に愛おしさが込み上げる。

可愛いノエル。
大切な大切な、年の離れた幼い妹。


ポレットは優しく妹の頭を撫で、頬にかかった髪を梳いてやる。
そしてその頬にキスをした。


こんな夜のひと時も、
いつか遠い思い出となる。

だけど今は間近に感じる妹の、子ども独特の温かな体温に触れていたいと思うのであった。
しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

(完結)あなたの愛は諦めました (全5話)

青空一夏
恋愛
私はライラ・エト伯爵夫人と呼ばれるようになって3年経つ。子供は女の子が一人いる。子育てをナニーに任せっきりにする貴族も多いけれど、私は違う。はじめての子育ては夫と協力してしたかった。けれど、夫のエト伯爵は私の相談には全く乗ってくれない。彼は他人の相談に乗るので忙しいからよ。 これは自分の家庭を顧みず、他人にいい顔だけをしようとする男の末路を描いた作品です。 ショートショートの予定。 ゆるふわ設定。ご都合主義です。タグが増えるかもしれません。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました

奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」  妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。 「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」 「ど、どうも……」  ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。 「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」 「分かりましたわ」  こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。