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ミニ番外編
ポレットの婚礼③ 挙式三日前
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「おねぇさまぁぁ……」
「ほらもう泣かないでノエル」
「だってぇ……ふぇぇん……」
ワイズ伯爵家の夜、ノエルの部屋の寝台の上。
少し前からノエルが夜寝る時にポレットに傍にいて欲しいと強請るようになった。
もっと幼い頃なら寝る前の絵本の読み聞かせという名の夜伽役を家族の誰か……その日ノエルに指名された者(ハノンとルシアン率高し)が務めるのだが、八歳の誕生日を迎えてからはそのシステムは久しく失くなっていた。
が、ポレットの輿入れが間近に迫り、ある日突如としてそのシステムが復活したのだ。
もちろんもう絵本の読み聞かせではない。
今や母国語よりも古代語の方がスラスラと読めるノエルにとって、絵本の読み聞かせなど必要がないから。
ただ傍に。眠るまでのひと時、手を繋いで姉が傍に居ることをノエルが切に望んだのであった。
ノエルももう八歳。
数日後には姉が嫁いでいくことがわかる年頃になっている。
だからこそ、残り少ない日々を惜しむようにノエルがポレットとの時間を欲しがったのだ。
その時だけは間違いなく大好きな姉を独占できるのだから。
考えてみればポレットがデイビッドと婚約を結んだのは今のノエルとそう変わらない年齢であった。
だけどその時の自分よりもノエルが幼く感じるのはやはり末っ子であるからだろう。
皆で寄ってかかって甘やかしたとも言えるが、それはそれでなんと幸せなことかとポレットは思う。
そうしてここ数日、ポレットはノエルが眠るまでの時間を姉妹水入らずで過ごしていたのだが、この日とうとう寂しさからノエルが泣き出してしまったのだった。
「おねぇさま、およめにいかないでっ……」
「ノエル……」
「ずっとノエルといっしょにいてっ……」
「ノエル、これでお別れというわけではないのよ?同じ屋根の下というわけにはいかないけれど、いつでも会えるわ」
「でもっ……これからはおしょくじのときにおねぇさまはいないのでしょう?」
「そうね……」
「もうおかずをわけてもらえないんでしょう?」
「そうね……」
「ママにたべすぎだってしかられても、もうかばってもらえないのでしょう?」
「そうね……」
「ママにナイショよ、ってこっそりデザートをもらえなくなるのでしょう?」
「そうね……」
「そんなのイヤ~っ!おねぇさまっ……ずっとノエルといっしょにいて~!」
そう言ってノエルはまたわんわんと泣き出した。
悲しそうに綺麗な涙をぽろぽろと零すノエルを宥めながら、ポレットは姉らしい優しい声で言った。
「私はもうこれからはお食事の時にノエルの傍にはいられないけれど、宮に招待するわ」
「………ヒック…………ほんとぅ?」
「ええ本当よ。デイ様にお願いして、ランチやディナーにノエルをお招きするわ」
「おしろのおしょくじを……たべられるの?」
「ええ。王子宮の料理長やパティシエはとても腕利きらしいから、きっと美味しいと思うわ」
「パティシエ……スィーツも……」
「そうよ。そうやっていつでもまた一緒に食事が出来るのだから、そんなに悲しまないで。ノエルが泣くと私も悲しいわ」
ポレットにそう言われ、ノエルはこくんと頷いた。
そしてそれからは王宮ではどんな食事が出るのかとかマドレーヌは出るのかとか、ノエルの興味はすっかりそちらに移り、様々な質問をポレットにしたのであった。
「でもやっぱり……さびしいよぅ…おねぇさま……」
うとうとと眠りに落ちる寸前につぶやいたノエルの言葉に愛おしさが込み上げる。
可愛いノエル。
大切な大切な、年の離れた幼い妹。
ポレットは優しく妹の頭を撫で、頬にかかった髪を梳いてやる。
そしてその頬にキスをした。
こんな夜のひと時も、
いつか遠い思い出となる。
だけど今は間近に感じる妹の、子ども独特の温かな体温に触れていたいと思うのであった。
「ほらもう泣かないでノエル」
「だってぇ……ふぇぇん……」
ワイズ伯爵家の夜、ノエルの部屋の寝台の上。
少し前からノエルが夜寝る時にポレットに傍にいて欲しいと強請るようになった。
もっと幼い頃なら寝る前の絵本の読み聞かせという名の夜伽役を家族の誰か……その日ノエルに指名された者(ハノンとルシアン率高し)が務めるのだが、八歳の誕生日を迎えてからはそのシステムは久しく失くなっていた。
が、ポレットの輿入れが間近に迫り、ある日突如としてそのシステムが復活したのだ。
もちろんもう絵本の読み聞かせではない。
今や母国語よりも古代語の方がスラスラと読めるノエルにとって、絵本の読み聞かせなど必要がないから。
ただ傍に。眠るまでのひと時、手を繋いで姉が傍に居ることをノエルが切に望んだのであった。
ノエルももう八歳。
数日後には姉が嫁いでいくことがわかる年頃になっている。
だからこそ、残り少ない日々を惜しむようにノエルがポレットとの時間を欲しがったのだ。
その時だけは間違いなく大好きな姉を独占できるのだから。
考えてみればポレットがデイビッドと婚約を結んだのは今のノエルとそう変わらない年齢であった。
だけどその時の自分よりもノエルが幼く感じるのはやはり末っ子であるからだろう。
皆で寄ってかかって甘やかしたとも言えるが、それはそれでなんと幸せなことかとポレットは思う。
そうしてここ数日、ポレットはノエルが眠るまでの時間を姉妹水入らずで過ごしていたのだが、この日とうとう寂しさからノエルが泣き出してしまったのだった。
「おねぇさま、およめにいかないでっ……」
「ノエル……」
「ずっとノエルといっしょにいてっ……」
「ノエル、これでお別れというわけではないのよ?同じ屋根の下というわけにはいかないけれど、いつでも会えるわ」
「でもっ……これからはおしょくじのときにおねぇさまはいないのでしょう?」
「そうね……」
「もうおかずをわけてもらえないんでしょう?」
「そうね……」
「ママにたべすぎだってしかられても、もうかばってもらえないのでしょう?」
「そうね……」
「ママにナイショよ、ってこっそりデザートをもらえなくなるのでしょう?」
「そうね……」
「そんなのイヤ~っ!おねぇさまっ……ずっとノエルといっしょにいて~!」
そう言ってノエルはまたわんわんと泣き出した。
悲しそうに綺麗な涙をぽろぽろと零すノエルを宥めながら、ポレットは姉らしい優しい声で言った。
「私はもうこれからはお食事の時にノエルの傍にはいられないけれど、宮に招待するわ」
「………ヒック…………ほんとぅ?」
「ええ本当よ。デイ様にお願いして、ランチやディナーにノエルをお招きするわ」
「おしろのおしょくじを……たべられるの?」
「ええ。王子宮の料理長やパティシエはとても腕利きらしいから、きっと美味しいと思うわ」
「パティシエ……スィーツも……」
「そうよ。そうやっていつでもまた一緒に食事が出来るのだから、そんなに悲しまないで。ノエルが泣くと私も悲しいわ」
ポレットにそう言われ、ノエルはこくんと頷いた。
そしてそれからは王宮ではどんな食事が出るのかとかマドレーヌは出るのかとか、ノエルの興味はすっかりそちらに移り、様々な質問をポレットにしたのであった。
「でもやっぱり……さびしいよぅ…おねぇさま……」
うとうとと眠りに落ちる寸前につぶやいたノエルの言葉に愛おしさが込み上げる。
可愛いノエル。
大切な大切な、年の離れた幼い妹。
ポレットは優しく妹の頭を撫で、頬にかかった髪を梳いてやる。
そしてその頬にキスをした。
こんな夜のひと時も、
いつか遠い思い出となる。
だけど今は間近に感じる妹の、子ども独特の温かな体温に触れていたいと思うのであった。
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