無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう

文字の大きさ
153 / 161
ミニ番外編

羨望と僻み

しおりを挟む
女性近衛騎士として王孫妃であるポレットに侍るミシェル。
彼女は宮中で、一部の人間のちょっとしたアイドルでもあった。
その一部の人間とは、侍女やメイドや女性文官たちといった、王宮に勤める女性たちだ。

小柄で華奢なミシェルだが、凛とした美しさや立ち振る舞いが男性を演じる歌劇の女優のようだと羨望を向けられているのだ。
そんな女性たちの中で、ミシェルファンクラブまでもが存在している……らしい。

「きゃあっ……!ミシェル様よ、相変わらず素敵ねぇ……!」
「今日はお姿を拝見できてラッキーだわっ……」
「私なんて、廊下で落として散乱した書類を一緒に拾って貰ったのよ。ふふ、羨ましいでしょう?」
「また隠し撮りした魔術念写お写真が出回らないかしら……」
「歌劇の劇中の名台詞、『心は自由だからだってばよ!』ってミシェル様に言っていただきたいわぁ……!」
などと、女性たちは今日もミシェル推し談義に花を咲かせていた。

一方、羨望に対し対角線上にあるのがひがみである。
西方大陸内でも屈指の先進国であるアデリオール王国において、貴族でありながらと職業婦人として働く女性は数多いる。
女性騎士とてまた然りだ。
だが入団後すぐに近衛騎士に、ましてや王族専属の護衛騎士に抜擢されるのは稀である。
そのため騎士道精神をその剣に誓った騎士の中であっても、どうしてもミシェルに対し妬み嫉みを抱く者が出てくるのだ。

彼女の実力は明白であるのに、その出自ゆえに厚遇されていると不条理に僻む。
そしてそれを表立って向けてくる者が時折現れるのであった。

、辺境仕込みの剣技を是非ともご教示願いたい」
と、練習を名目にミシェルを痛い目に遭わせてやろうと目論む輩だ。
……まぁそんな奴ほど実力が伴わず、ミシェルに返り討ちに遭うのが関の山だが。



「え?目薬が欲しい?目をどうかしたの?ミシェル」

練習試合と見せかけた虐めを企んだ先輩騎士を鍛錬場の地面に沈めた後、ミシェルは王宮内の医務室へと向かった。
そして魔法薬剤師として復職している叔母のハノンに、洗浄効果のある目薬を調剤してほしいと頼んだのである。

「練習試合中に相手が足払いで砂をかけてきたの。すぐに躱したのだけれど、一応目を洗っておきたくて……」

それを側で聞いていたメロディの眦が見る間に釣り上がる。

「相手の騎士が砂で目潰しを企んだってコトッ!?なんて姑息で卑怯で矮小で短小なヤツなのっ!!」

「でも、戦場ではそれもひとつの戦法だもの。練習試合だからと油断した私が悪いの」

「ナニ言ってんノッ!?喩え実戦を想定した訓練であったとしても目潰しとキンテキはご法度なのヨッ!そんな基本中の基本、学生だって知ってるわヨッ!」

学校のカリキュラムで剣技の授業を受けていたかつての貴族令息が、真っ赤なルージュの唇から唾きを撒き散らしながらそう吼えた。
そのやり取りを聞いていたハノンがメロディとミシェル、二人に言う。

「……確かに細かな砂の粒子が目に入っている可能性があるわね。とにかく目を洗浄しましょう。ミシェル、こちらへいらっしゃい。それからメロディ、その相手の騎士への個人的報復は止めておきなさいよ」

ハノンに釘を刺され、メロディが唇を尖らす。

「えぇ~ナンデよォ?目ん玉とキ○タマをほじくり出してコロコロ転がしてやろうと思ったのにィィ~」

「とても冗談に聞こえないから怖いのよ。それに、騎士に罰則を与えるのはアナタの仕事ではないでしょう?」

「あ、そうだったわネ。アタシなんかより数倍怖ぁ~い人が近衛の長だったわネ♡」

怖~い近衛の長……の妻であるハノンは否定も肯定もせず、ただ肩を竦めた。
まぁわざわざハノンが注進しなくても、きっとすでに違反行為がフェリックスの耳に届いているはずである。
ミシェルに打ち負かされた上に厳罰に処される騎士は自業自得だが、それによってまたミシェルが妬まれるのではないかという懸念をハノンは抱いた。






─────────────────────



来週は多分お休みです。
( ´•̥ω•̥`)ゴメンナサイ…



しおりを挟む
感想 3,580

あなたにおすすめの小説

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。