ある日、悪役令嬢の一人だと言われました

キムラましゅろう

文字の大きさ
15 / 30

ある日、宰相の娘は

「ねぇイヴァン様ぁ~殿下やエクトル様たちはどうしたんですか?もう二日も学院をお休みしてるじゃないですかぁ」

放課後、ルドヴィックとエクトルといった執行部ブレイン不在のためにこれといった仕事もなく、手持ち無沙汰になったリュミナとイヴァンは学院内のカフェテリアでお茶を飲んでいた。

もちろんリュミナはイヴァンの奢りで様々なスイーツを注文して食べている。

ケーキをこくんと嚥下してからそう言ったリュミナに、イヴァンは脳筋を働かせる事もなく答えた。

「殿下たちは今、消えた婚約者を探して大変なんだ」

それを聞き、リュミナは一瞬で真顔になる。

「……え?探す……?わざわざ?なぜ?」

「それはもちろん、突然婚約者が消えたからだろうな!」

「どうして?せっかく向こうから消えてくれたのに……原作本当は修道院送りか国外追放だったけど、悪役令嬢たちは予想外の行動をするし、断罪なんて面倒くさいことをしなくて済んだと喜んでたのに……」

昏い顔して独り言を言うリュミナにイヴァンは首を傾げる。

「リュミナ?何を言ってるのか意味がさっぱりわからんぞ?」

「……気にしないでください、ひとり言です♡でもイヴァン様はどうしてここに?イヴァン様の婚約者も居なくなったんでしょ?」

「俺はリュミナが心配だから残った」

「嬉しい♡やっぱりイヴァン様は優しいわ♡」

「ははは、まあな。それにロザリーは頭がいいから大丈夫だろう。他の令嬢たちもどうせすぐにしっぽを巻いて逃げ帰ってくるさ、殿下たちも無駄な事をされるものだ!」

「まぁ!それじゃあワタシがバカだから心配しているように聞こえるわ!」

「アハハハハハハッ!」

その後も二人は楽しくお茶の時間を過ごした。
そしてリュミナをオーブリー侯爵家の馬車で送り届けた後にイヴァンが帰宅すると、出迎えた家令が難しい顔をして告げた。

「おかえりなさいませお坊ちゃま。……ロンブレア侯爵令嬢ロザリー様がお見えになっています」

「なに?ロザリーが?あいつも国外へ行ったのではなかったのかっ?」

「……坊ちゃまに大切なお話があるとの事です」

「筋トレの後でもいいかな?」

「良いわけないでしょう。宰相閣下のご息女をお待たせしてはなりません。ただでさえ坊ちゃまの心象は底を突き通して地中深くを抉り続けている状態なのです。一秒でも早く応接間へお向かいください」

家令に追い払うようにそう言われ、イヴァンは内心面白くないといった様子でロザリーが待つという応接間へと行った。

夕食前に筋トレをするのが日課である事は長い付き合いであるロザリーは知っているはずなのに。

───それなのにわざわざこんな時間に来るとは非常識なやつだ。
そんな事をしなくてもいつでも会えるじゃないかっ……ん?そういえばロザリーと最後に会ったのはいつだったか?……まぁいいか。どうせ卒業すれば結婚してその後はずっと顔を合わせるんだから。

学生時代くらいは自由にしたい、イヴァンはそう考えていた。
そして今は素直で可愛くて元気なリュミナに夢中だった。
自分の婚約者であるロザリー・ロンブレアと比べなんと無邪気で愛らしいことか。
いっそリュミナが婚約者であれはいいのに!と何度イヴァンは思ったことか。
しかし自身が侯爵家の嫡男である事もイヴァンはわかっている。
リュミナは可愛いが彼女では侯爵家の女主人は務まらない、それも充分にわかっていた。

いや、わかっているつもりになっていた。

ノックもそこそこにイヴァンは応接間の扉を開ける。

ソファーに座っていたロザリーが立ち上がり、軽く膝を折って礼をした。

「お邪魔しております。お久しぶりですねイヴァン様」

「こんな時間に何の用だっ?というかお前はなぜ国内にいる?レントン公爵令嬢たちと他国に渡ったのではないのか?」

少々苛立った様子でそう言い放つイヴァンに、ロザリーは無表情で冷静に答える。

「こんな時間まで他のご令嬢と共にいたあなたに遠慮する必要はないもの」

「なんだとっ?人聞きの悪い事を言うな!リュミナは執行部の仲間としてっ……「仲間として口付けをするなんて凄い絆ですわね。それもディープなやつを」

声を荒らげるイヴァンの言葉を遮るようにロザリーがそう告げた。

その言葉にイヴァンは言葉を詰まらせる。

「なっ……な、なぜっ……それをっ……!?」

「馬車の中なら誰にもバレないと思っていたのですか?それならせめてカーテンくらい閉めたらどうです?明るい時間の車内はわりと外からも見えやすいのですよ?」

「なっ……な、な、なっ……!?」

「でもいいのですか?ドビッチ男爵令嬢の身柄は何やら王家の預かりとなっているのでしょう?そんな重要な方に口付けだけとはいえ手を出されて……これが露見すればお咎めを受けるのでは?でももう遅いですわね、あなた方の馬車での行為は何度か他の者にも目撃されているようですから」

「なんだとっ……!?えっ、そ、それは本当かっ……?」

「ええ。でももうその事は私には関係ないのでどうでもよいのです」

「か、関係ない、とは……どうでもいいとは……?」

狼狽えしどろもどろになるイヴァンを一瞥し、ロザリーは居住まいを正して告げる。

「本日をもちまして、イヴァン様と私の婚約は解消となりました。こんな時間に訪れましたのはさっさと挨拶を済ませて今日中に全てを終わらせたかったからですわ。そのために私は国内の残ったのです」


「なっ……えっ……?は?婚約、解消っ!?」


イヴァンの声が屋敷中に響いた。




───────────────────────



イヴァン、想像以上にクズだった、の巻。



お知らせです。

明日の夜に読み切りを一本投稿します。

タイトルは
『あのひとのいちばん大切なひと』
です。

切なくも優しいお話が書きたくて、時間を見つけてはコツコツ書きました。
(そんなお話になったかは置いといて……なったかな……なってないかな……)

投稿時間は21時。
よろしくお願いいたします。
(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゚ペコリンチョ
感想 532

あなたにおすすめの小説

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

知らぬが花

鳥柄ささみ
恋愛
「ライラ・アーデ嬢。申し訳ないが、キミとの婚約は破棄させてもらう」 もう何度目かわからないやりとりにライラはショックを受けるも、その場では大人しく受け入れる。 これでもう婚約破棄と婚約解消あわせて十回目。 ライラは自分に非があるのではと自分を責めるも、「お義姉様は何も悪くありません。相手の見る目がないのです」と義弟であるディークハルトにいつも慰められ、支えられていた。 いつもライラに親身になって肯定し、そばにいてくれるディークハルト。 けれど、ある日突然ディークハルトの訃報が入ってくる。 大切な義弟を失い、泣き崩れて塞ぎ込むライラ。 そんなライラがやっと立ち直ってきて一年後、とある人物から縁談の話がやってくるのだった。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで

海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。 さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。 従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。 目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。 そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!? 素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。 しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。 未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。 アデリーナの本当に大切なものは何なのか。 捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ! ※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定