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ある日、二人の令息は
「どうしよう……全然見つからない……行く先に見当もつかないっ……」
ラモレー伯爵令嬢フランシーヌの婚約者であるコラール・ミレ伯爵令息は頭を抱えていた。
生徒会に属するルドヴィック第二王子と側近候補である自分たちに、王家からリュミナ・ドウィッチを預けられ、常に行動を共にするようになった。
リュミナの護衛と監視と有事の際の対応をそれぞれ任せられ、その務めをきちんと果たすべくそればかりに専念してきた。
フランシーヌとの時間が削られるのは正直嫌だったが我儘は言えない。
学生の身でありながら初めて与えられた大役に成果を出すために仕方ない事だと割り切るようにした。
リュミナは同い年とは思えない無邪気な性格で、なんとなく末の妹に似ていた。
それもありすぐに気心の知れた友人のように接するようになったのだが……。
それら全ての行動が婚約者であるフランシーヌの誤解を招いてしまっていたとは。
「リュミナに恋心を抱き、そのためにフランシーヌを蔑ろにしたと思われていたなんて……!」
しかもフランシーヌがそんな誤解を抱いていた事を知ったのは、彼女が幼い頃から親交のあった他の令嬢たちと同じく、学院を退学して他国に渡ったと聞かされてからであったのだ。
「なんて事だ……!あぁ……フランシーっ……!」
思えば先日リュミナがノートが盗まれたとフランシーヌとプリムローズを犯人扱いして騒いだ時、あの時は既に様子がおかしかった。
目を伏せ、一向にこちらを見ようとしないフランシーヌに違和感を感じながらも、それはリュミナに泥棒扱いをされて困惑していたからだと思っていたのだ。
何よりあの時はこれ以上騒ぎを大きくするまいとリュミナを宥めて誤解を解く事の方に気を取られ、フランシーヌの心情の変化に気を配る余裕がなかった。
「前々からフランシーが僕はリュミナに心を移したのだと考えていたのなら、あの時の対応は更に誤解を招くだけの行動だったはずっ……ああっ……僕はなんて愚かなことをっ……!」
コラールとフランシーヌの婚約は、二人が十歳の時結ばれた。
確かに家同士の取り決めであったが、婚約者同士として共に歩むうちにコラールは特別な感情をフランシーヌに抱くようになっていたのだ。
そしてそれを大切に育んできたというのに。
しかし今になって思えばそこに驕りと言うべきか油断があったのだろう。
フランシーヌとは誰よりも強い絆で結ばれていると。
多くを語らずともわかってくれる。
誰よりも彼女の事を理解し、また誰よりも自分の事を理解してくれているのは彼女だと、そんな甘えが良好な関係を維持するという努力を怠らせたのだ。
「悔やんでも悔やみきれないっ……フランシー……どこにいる?お願いだから僕の側に戻ってほしい……」
フランシーヌが国を出てからというもの、コラールはミレ伯爵家の持てる力を駆使してフランシーヌを探し続けていた。
しかし父親であるラモレー伯爵に退学の手続きを任せて家を出た後のフランシーヌの足取りが不自然なまでに掴めないのだ。
ラモレー伯爵も知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりのようで決して娘の居場所を話そうとはしない。
まずはそのラモレー伯爵の誤解を解くのが先だとコラールは身振り手振り、自身の持つ語彙力全てを駆使して伯爵に申し開きをした。
リュミナに対して恋愛感情など一切持ち合わせていない事、愛しているのは変わらずフランシーヌであるという事を……。
終いにはラモレー伯爵もそのコラールの話に嘘偽りはないと信じてくれたが、自力で娘の信頼を取り戻せないようではとても大切な娘を任せられないと告げられたのだ。
「わかっている。全ては浅慮でお粗末な行動を取り続けた自分が招いた結果である事は……ラモレー伯は僕の力量を試しているんだ……」
この事を乗り越えられるくらいでないと第二王子の側近など務まらぬし、大切な娘の婿として迎え入れる事も出来ないと。
「どうする?どうしたらいい……?令嬢一人の足取りがここまで見事に掴めないとなると……やはりエリザベス嬢……レントン公爵家が一枚も二枚も噛んでいるんだろうなぁ……」
王国の暗部を取り仕切るレントン公爵を相手にするのは分が悪すぎる。
コラールは情けないと思いつつもルドヴィックを頼り、彼の執務室を訪れた。
「よく来たなコラール。お前もレントン公爵家の仕業だと思ったから私の元に来たのだろう?」
「はい……出来る事ならば自分の力だけでフランシーを見つけ出したかったのですが、たかだか伯爵家の三男坊の僕では太刀打ち出来ません……」
「そう気負うなコラール。暗部を動かすレントン家に対し、私とて大した手は打てない。この件に関し私用で他の暗部を動かすなと父上に釘を刺されているしな」
「っでは……殿下はどうされるのですか?レントン公爵令嬢を諦めるのですかっ……?」
「バカを言え。私がベスを諦めるなど天と地がひっくり返っても有り得ない。何がなんでも捕まえて、膝をついてでも詫びて縋って許しを乞うのだ!」
「王族が膝を折ると言われるのですかっ?」
「それでベスを取り戻せるなら、バッキバキに折りまくってやる!この際土下座でもなんでもする所存!」
「で、殿下っ……!」
胸アツで涙を浮かべるコラールに背を向け、ルドヴィックは執務室の窓から外を眺めた。
丁度この窓から庭園の赤い薔薇が見えるのだ。
ルドヴィックはその真紅の薔薇を見ながら言った。
「巧みに足取りを隠されて後を追えないのなら……向こうから出て来て貰えばいいのだ」
「ど、どうやって……?」
「ふふふ………まぁそれは任せておいてくれ。勿論それでフランシーヌも現れるはずだ」
「ほ、本当ですかっ……?あ、ありがとうございます!……でも、エクトルはあれからどうしているのでしょう?少しも姿が見えませんが……」
「アイツはすでにプリムローズ嬢捕獲の為に国を出ているようだ。アイツ、自分の婚約者の行動を凡そ把握しているようだぞ」
「ではプリムローズ嬢が捕まるのは時間の問題ですね」
「さて、それはどうかな?なんせエクトルの婚約者は規格外の行動派だからな……」
「エクトル……大丈夫でしょうか……」
「しかしそれを上回るアイツの執着心……はてさてどうなるものか……」
そうつぶやくルドヴィックの声が、彼のため息と共に落ちていった。
───────────────────────
次回、薔薇之介参る!
ラモレー伯爵令嬢フランシーヌの婚約者であるコラール・ミレ伯爵令息は頭を抱えていた。
生徒会に属するルドヴィック第二王子と側近候補である自分たちに、王家からリュミナ・ドウィッチを預けられ、常に行動を共にするようになった。
リュミナの護衛と監視と有事の際の対応をそれぞれ任せられ、その務めをきちんと果たすべくそればかりに専念してきた。
フランシーヌとの時間が削られるのは正直嫌だったが我儘は言えない。
学生の身でありながら初めて与えられた大役に成果を出すために仕方ない事だと割り切るようにした。
リュミナは同い年とは思えない無邪気な性格で、なんとなく末の妹に似ていた。
それもありすぐに気心の知れた友人のように接するようになったのだが……。
それら全ての行動が婚約者であるフランシーヌの誤解を招いてしまっていたとは。
「リュミナに恋心を抱き、そのためにフランシーヌを蔑ろにしたと思われていたなんて……!」
しかもフランシーヌがそんな誤解を抱いていた事を知ったのは、彼女が幼い頃から親交のあった他の令嬢たちと同じく、学院を退学して他国に渡ったと聞かされてからであったのだ。
「なんて事だ……!あぁ……フランシーっ……!」
思えば先日リュミナがノートが盗まれたとフランシーヌとプリムローズを犯人扱いして騒いだ時、あの時は既に様子がおかしかった。
目を伏せ、一向にこちらを見ようとしないフランシーヌに違和感を感じながらも、それはリュミナに泥棒扱いをされて困惑していたからだと思っていたのだ。
何よりあの時はこれ以上騒ぎを大きくするまいとリュミナを宥めて誤解を解く事の方に気を取られ、フランシーヌの心情の変化に気を配る余裕がなかった。
「前々からフランシーが僕はリュミナに心を移したのだと考えていたのなら、あの時の対応は更に誤解を招くだけの行動だったはずっ……ああっ……僕はなんて愚かなことをっ……!」
コラールとフランシーヌの婚約は、二人が十歳の時結ばれた。
確かに家同士の取り決めであったが、婚約者同士として共に歩むうちにコラールは特別な感情をフランシーヌに抱くようになっていたのだ。
そしてそれを大切に育んできたというのに。
しかし今になって思えばそこに驕りと言うべきか油断があったのだろう。
フランシーヌとは誰よりも強い絆で結ばれていると。
多くを語らずともわかってくれる。
誰よりも彼女の事を理解し、また誰よりも自分の事を理解してくれているのは彼女だと、そんな甘えが良好な関係を維持するという努力を怠らせたのだ。
「悔やんでも悔やみきれないっ……フランシー……どこにいる?お願いだから僕の側に戻ってほしい……」
フランシーヌが国を出てからというもの、コラールはミレ伯爵家の持てる力を駆使してフランシーヌを探し続けていた。
しかし父親であるラモレー伯爵に退学の手続きを任せて家を出た後のフランシーヌの足取りが不自然なまでに掴めないのだ。
ラモレー伯爵も知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりのようで決して娘の居場所を話そうとはしない。
まずはそのラモレー伯爵の誤解を解くのが先だとコラールは身振り手振り、自身の持つ語彙力全てを駆使して伯爵に申し開きをした。
リュミナに対して恋愛感情など一切持ち合わせていない事、愛しているのは変わらずフランシーヌであるという事を……。
終いにはラモレー伯爵もそのコラールの話に嘘偽りはないと信じてくれたが、自力で娘の信頼を取り戻せないようではとても大切な娘を任せられないと告げられたのだ。
「わかっている。全ては浅慮でお粗末な行動を取り続けた自分が招いた結果である事は……ラモレー伯は僕の力量を試しているんだ……」
この事を乗り越えられるくらいでないと第二王子の側近など務まらぬし、大切な娘の婿として迎え入れる事も出来ないと。
「どうする?どうしたらいい……?令嬢一人の足取りがここまで見事に掴めないとなると……やはりエリザベス嬢……レントン公爵家が一枚も二枚も噛んでいるんだろうなぁ……」
王国の暗部を取り仕切るレントン公爵を相手にするのは分が悪すぎる。
コラールは情けないと思いつつもルドヴィックを頼り、彼の執務室を訪れた。
「よく来たなコラール。お前もレントン公爵家の仕業だと思ったから私の元に来たのだろう?」
「はい……出来る事ならば自分の力だけでフランシーを見つけ出したかったのですが、たかだか伯爵家の三男坊の僕では太刀打ち出来ません……」
「そう気負うなコラール。暗部を動かすレントン家に対し、私とて大した手は打てない。この件に関し私用で他の暗部を動かすなと父上に釘を刺されているしな」
「っでは……殿下はどうされるのですか?レントン公爵令嬢を諦めるのですかっ……?」
「バカを言え。私がベスを諦めるなど天と地がひっくり返っても有り得ない。何がなんでも捕まえて、膝をついてでも詫びて縋って許しを乞うのだ!」
「王族が膝を折ると言われるのですかっ?」
「それでベスを取り戻せるなら、バッキバキに折りまくってやる!この際土下座でもなんでもする所存!」
「で、殿下っ……!」
胸アツで涙を浮かべるコラールに背を向け、ルドヴィックは執務室の窓から外を眺めた。
丁度この窓から庭園の赤い薔薇が見えるのだ。
ルドヴィックはその真紅の薔薇を見ながら言った。
「巧みに足取りを隠されて後を追えないのなら……向こうから出て来て貰えばいいのだ」
「ど、どうやって……?」
「ふふふ………まぁそれは任せておいてくれ。勿論それでフランシーヌも現れるはずだ」
「ほ、本当ですかっ……?あ、ありがとうございます!……でも、エクトルはあれからどうしているのでしょう?少しも姿が見えませんが……」
「アイツはすでにプリムローズ嬢捕獲の為に国を出ているようだ。アイツ、自分の婚約者の行動を凡そ把握しているようだぞ」
「ではプリムローズ嬢が捕まるのは時間の問題ですね」
「さて、それはどうかな?なんせエクトルの婚約者は規格外の行動派だからな……」
「エクトル……大丈夫でしょうか……」
「しかしそれを上回るアイツの執着心……はてさてどうなるものか……」
そうつぶやくルドヴィックの声が、彼のため息と共に落ちていった。
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次回、薔薇之介参る!
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