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アツアツのプロポーズ
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「あれ~?おかしいなぁ……」
「どうしたんだいジュリアちゃん」
店のオーブンの庫内を覗き込むジュリアに酒屋のおじさんが訊いてきた。
「少し前からなんだかオーブンの調子が悪いのよ。あまり温度が上がらなくて……」
「そのオーブンはもともと店に置いてあったもんなんだよな?」
「そうなの。掃除をすればまだ使えたからそのまま使用していたんだけど、そろそろ買い替え時なのかしら?」
ジュリアのその言葉を受け、酒屋のおじさんがニヤケ顔で言う。
「旦那さんに買って貰えばいいだろう。彼、魔法律事務所で早くもエースになってガッポリ稼いでいるそうじゃないか~」
「旦那じゃないし。ていうかそんな情報どこから仕入れてくるんですかっ」
「酒屋でお得意さんを回っているとさぁ?入ってくるんだよ~色んな情報が~」
「ご近所ネットワーク怖っ」
そんな会話をしているうちに、とうとうオーブンが壊れてしまった。
仕方ないのでその日は早めに店じまいをして、家庭用魔道具店に新しいオーブンを見に行く事にした。
───オーブンて……地味に高いのよねぇ……痛い出費だわ。
トホホとなりながら店の後片付けをすると、ふいに魔力の波動を感知した。
誰かが転移してくるようだ。
馴染んだ魔力の波動と、タッタッタッと二階からバンスが降りて来たのを見て、ジュリアは誰が転移してくるのかすぐにわかった。
───クリスね。今日は午後イチで用事があるって言っていたのどうしたのかしら?
ジュリアがそう思っていると、大きな木箱と共にクリスが転移して来た。
「クリス」
「クゥン!」
バンスがちぎれんばかりに尾を振ってクリスに駆け寄る。
クリスはバンスを撫でてやりながらジュリアに視線を向けた。
その表情はどこか緊張しているように見えた。
「ジュリアに二つ、贈りものがあるんだ」
「なによ藪から棒に」
「……デカい方と小さい方、どちらからがいい?」
「よく分からないけど、とりあえずその木箱の存在感が気になるから大きい方を……」
ジュリアがそう言うとクリスは大きく頷いて木箱を開封した。
「えっ……」
ジュリアは木箱から出てきた物に目を見張る。
それは大きくて立派な業務用オーブンだった。
「そ、それっ……※“マジックイートン”社製のオーブンじゃないっ、どうしたのそれ」
(※調理魔道具の最大手)
「オーブンの調子が悪いって聞いたから買ったんだ」
「買ったって、それかなりお高いわよね?」
「今までのジュリアの苦労をこんなオーブン一つで労うのは烏滸がましいとは分かっているけど、それでも受け取って欲しい……そして……」
「そして?」
ジュリアが言葉の続きを促すと、クリスは真剣な表情でジュリアに告げた。
「そして一生!俺に!美味いドリアを食べさせてくれ!」
クリスの大きな声が店内に響いた後、次に訪れた沈黙が二人を包む。
これは……アレだろう。
アレなんだろう。
だけどジュリアはわざと、こう返した。
「それは……客として?」
ジュリアのその言葉にクリスはガックリと項垂れる。
「客じゃねぇよぉ……」
───ぷ
「客じゃないのにどうしてドリアが食べたいと願うの?それも一生だなんて」
「それはだな、」
クリスは気を引き締め直した様子で懐からビロードに覆われた小さな箱を取り出した。
それからジュリアの前に跪いて真剣な眼差しと、その小さな箱を向けてきた。
そして箱をゆっくりとパカりと開ける。
「………」
中には、青い宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。
「ジュリア……俺が不甲斐ないばかりに回り道をしてしまってすまなかった。だけどもう二度とジュリアを悲しませるような事はしないと誓うから、どうか俺と結婚してくださいっ……!」
ジュリアは真剣なクリスの瞳と、指輪の青い石を交互に見た。
そしてつぶやくようにクリスに言う。
「……綺麗な青。でも、私はすでにあなたから最高の青い贈り物を貰っているのよ」
「それは………リューイだな」
クリスがそう返すとジュリアは頷いた。
「あなたと別れて、あの子を生んで。あなたと同じあの青い瞳を見つめる度にあなたを想った。リューイが居てくれて幸せだけれど、どうしてもあなたを思い出すと苦しくて悲しくて寂しくて。早く忘れてしまいたいのにどうしても忘れられなくて。本当に辛かった……」
ジュリアの瞳からぽつりと一粒、涙が零れた。
「ジュリア……」
クリスが静かに立ち上がる。
ジュリアはクリスを見つめた。
「もう絶対に、私とリューイを置いてけぼりにしないと約束してくれる?もうあなたの帰ってこない部屋で寂しく待つのはいやなの。仕事だから仕方ないのは分かってるいる、でも、一緒にいるのに心が遠く感じるのはもう嫌なの……」
そう言って涙を溢れさせたジュリアをクリスはかき抱く。
「……っジュリア」
「お願いクリスっ……もう絶対に離れていかないで……」
「約束する!もう絶対に、絶対にお前たちから離れないっ……!俺の人生はジュリアとリューイを守る為にあるんだ、だからジュリア……俺にその権利を与えてくれ……!」
「っ~~~……アホクリスぅ~~!」
「ごめん」
「遅いのよぉぉ~~!」
「ごめんなジュリア」
「私も勝手に諦めて、勝手に結論つけて、勝手に居なくなってごめんなさいっ~~!」
「ジュリアは悪くないっ!全部俺が愚鈍なせいだ!」
「お産の時、一人で不安だったぁ~~!」
「側にいてやりたかったよ」
「リューイが初めて熱を出した時は怖かったぁ~~!」
「よく頑張ってくれたな、本当にありがとう。これからは俺がついてる」
「アホクリス、アホクリス、アホクリスぅぅ~!」
「大事な事だから三回言ったな」
「………する、」
「え?」
「クリスと結婚する……!」
「ジュリアっ!!」
「……オーブンありがとう」
「何台でも買ってやる!」
「そんなには要らない。でも大好きなチキンドリアをいっぱい作ってあげる」
「チキンドリアも好きだがジュリアが好きだっ!愛してるっ!愛情は鬼無限大マシマシだっ!」
「………私も」
「ジュリアっ!」
こうして、互いに回り道をした二人が晴れて結ばれる事となった。
公開プロポーズはジュリアが嫌がるからとやめておいたクリスだが、
二人の大きな声でのやり取りは、薄い壁で隔てられただけの隣の八百屋夫婦には筒抜けだったらしい。
そしてすぐに、隣の八百屋の親父さんの感極まって号泣する声がドリア屋にも聞こえてきたそうな。
───────────────────────
次回、最終話です。
「どうしたんだいジュリアちゃん」
店のオーブンの庫内を覗き込むジュリアに酒屋のおじさんが訊いてきた。
「少し前からなんだかオーブンの調子が悪いのよ。あまり温度が上がらなくて……」
「そのオーブンはもともと店に置いてあったもんなんだよな?」
「そうなの。掃除をすればまだ使えたからそのまま使用していたんだけど、そろそろ買い替え時なのかしら?」
ジュリアのその言葉を受け、酒屋のおじさんがニヤケ顔で言う。
「旦那さんに買って貰えばいいだろう。彼、魔法律事務所で早くもエースになってガッポリ稼いでいるそうじゃないか~」
「旦那じゃないし。ていうかそんな情報どこから仕入れてくるんですかっ」
「酒屋でお得意さんを回っているとさぁ?入ってくるんだよ~色んな情報が~」
「ご近所ネットワーク怖っ」
そんな会話をしているうちに、とうとうオーブンが壊れてしまった。
仕方ないのでその日は早めに店じまいをして、家庭用魔道具店に新しいオーブンを見に行く事にした。
───オーブンて……地味に高いのよねぇ……痛い出費だわ。
トホホとなりながら店の後片付けをすると、ふいに魔力の波動を感知した。
誰かが転移してくるようだ。
馴染んだ魔力の波動と、タッタッタッと二階からバンスが降りて来たのを見て、ジュリアは誰が転移してくるのかすぐにわかった。
───クリスね。今日は午後イチで用事があるって言っていたのどうしたのかしら?
ジュリアがそう思っていると、大きな木箱と共にクリスが転移して来た。
「クリス」
「クゥン!」
バンスがちぎれんばかりに尾を振ってクリスに駆け寄る。
クリスはバンスを撫でてやりながらジュリアに視線を向けた。
その表情はどこか緊張しているように見えた。
「ジュリアに二つ、贈りものがあるんだ」
「なによ藪から棒に」
「……デカい方と小さい方、どちらからがいい?」
「よく分からないけど、とりあえずその木箱の存在感が気になるから大きい方を……」
ジュリアがそう言うとクリスは大きく頷いて木箱を開封した。
「えっ……」
ジュリアは木箱から出てきた物に目を見張る。
それは大きくて立派な業務用オーブンだった。
「そ、それっ……※“マジックイートン”社製のオーブンじゃないっ、どうしたのそれ」
(※調理魔道具の最大手)
「オーブンの調子が悪いって聞いたから買ったんだ」
「買ったって、それかなりお高いわよね?」
「今までのジュリアの苦労をこんなオーブン一つで労うのは烏滸がましいとは分かっているけど、それでも受け取って欲しい……そして……」
「そして?」
ジュリアが言葉の続きを促すと、クリスは真剣な表情でジュリアに告げた。
「そして一生!俺に!美味いドリアを食べさせてくれ!」
クリスの大きな声が店内に響いた後、次に訪れた沈黙が二人を包む。
これは……アレだろう。
アレなんだろう。
だけどジュリアはわざと、こう返した。
「それは……客として?」
ジュリアのその言葉にクリスはガックリと項垂れる。
「客じゃねぇよぉ……」
───ぷ
「客じゃないのにどうしてドリアが食べたいと願うの?それも一生だなんて」
「それはだな、」
クリスは気を引き締め直した様子で懐からビロードに覆われた小さな箱を取り出した。
それからジュリアの前に跪いて真剣な眼差しと、その小さな箱を向けてきた。
そして箱をゆっくりとパカりと開ける。
「………」
中には、青い宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。
「ジュリア……俺が不甲斐ないばかりに回り道をしてしまってすまなかった。だけどもう二度とジュリアを悲しませるような事はしないと誓うから、どうか俺と結婚してくださいっ……!」
ジュリアは真剣なクリスの瞳と、指輪の青い石を交互に見た。
そしてつぶやくようにクリスに言う。
「……綺麗な青。でも、私はすでにあなたから最高の青い贈り物を貰っているのよ」
「それは………リューイだな」
クリスがそう返すとジュリアは頷いた。
「あなたと別れて、あの子を生んで。あなたと同じあの青い瞳を見つめる度にあなたを想った。リューイが居てくれて幸せだけれど、どうしてもあなたを思い出すと苦しくて悲しくて寂しくて。早く忘れてしまいたいのにどうしても忘れられなくて。本当に辛かった……」
ジュリアの瞳からぽつりと一粒、涙が零れた。
「ジュリア……」
クリスが静かに立ち上がる。
ジュリアはクリスを見つめた。
「もう絶対に、私とリューイを置いてけぼりにしないと約束してくれる?もうあなたの帰ってこない部屋で寂しく待つのはいやなの。仕事だから仕方ないのは分かってるいる、でも、一緒にいるのに心が遠く感じるのはもう嫌なの……」
そう言って涙を溢れさせたジュリアをクリスはかき抱く。
「……っジュリア」
「お願いクリスっ……もう絶対に離れていかないで……」
「約束する!もう絶対に、絶対にお前たちから離れないっ……!俺の人生はジュリアとリューイを守る為にあるんだ、だからジュリア……俺にその権利を与えてくれ……!」
「っ~~~……アホクリスぅ~~!」
「ごめん」
「遅いのよぉぉ~~!」
「ごめんなジュリア」
「私も勝手に諦めて、勝手に結論つけて、勝手に居なくなってごめんなさいっ~~!」
「ジュリアは悪くないっ!全部俺が愚鈍なせいだ!」
「お産の時、一人で不安だったぁ~~!」
「側にいてやりたかったよ」
「リューイが初めて熱を出した時は怖かったぁ~~!」
「よく頑張ってくれたな、本当にありがとう。これからは俺がついてる」
「アホクリス、アホクリス、アホクリスぅぅ~!」
「大事な事だから三回言ったな」
「………する、」
「え?」
「クリスと結婚する……!」
「ジュリアっ!!」
「……オーブンありがとう」
「何台でも買ってやる!」
「そんなには要らない。でも大好きなチキンドリアをいっぱい作ってあげる」
「チキンドリアも好きだがジュリアが好きだっ!愛してるっ!愛情は鬼無限大マシマシだっ!」
「………私も」
「ジュリアっ!」
こうして、互いに回り道をした二人が晴れて結ばれる事となった。
公開プロポーズはジュリアが嫌がるからとやめておいたクリスだが、
二人の大きな声でのやり取りは、薄い壁で隔てられただけの隣の八百屋夫婦には筒抜けだったらしい。
そしてすぐに、隣の八百屋の親父さんの感極まって号泣する声がドリア屋にも聞こえてきたそうな。
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次回、最終話です。
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