3 / 26
戻って来た先輩
しおりを挟む
「やだ、ミルルじゃないっ?」
今夜は外で食事をしようと夫ハルジオに誘われたミルルが魔法省のロビーに辿り着いてすぐ、後ろから声をかけられた。
ミルルが振り向くとそこには魔法省職員時代の同期、レア=マルソーがいた。
「レア、久しぶり!」
ミルルが笑みを浮かべるとレアは急足でミルルの側までやって来た。
「ホントに久しぶりね!あなたの結婚式以来じゃない?旦那さまは同じ職場だからよく見かけるけど。元気だった?」
レアは嬉しそうにミルルの手を握ってぶんぶんと上下に振る。
「おかげさまで。レアこそ元気にしてた?同期のみんなは頑張ってるのかしら?」
「みんなボチボチね。入省してもう四年になるもの。新人を任されたりちょっと複雑な案件を任されたり、ひーひー言いながら駆けずり回ってるわ」
「そっか。凄いわみんな」
「凄いのはミルルよ。もう歩くのは不可能だと言われていたのに、ここまで回復するなんて。あなたの根性を見せて貰ったわ」
「ふふふ。だって意地でも歩けるようにならなければいけなかったのだもの。じゃないと一人で歩いてゆけないでしょ……う……」
「ミルル?」
久々に会った同期の変わらない気さくさを嬉しく思いながら会話をしていたミルルが、その相手の肩越しに見えた人物に息を呑んだ。
いずれ戻って来るとは分かっていたが、
いざその姿を目の当たりにすると、言い様のない感情に体が支配された。
途端に硬直して動けなくなる。
突然目を見開いて固まってしまったミルルの様子を怪訝に思ったレアがミルルの名を呼んだ。
「ミルル?どうしたの?」
その声に硬直を解いて貰ったかのように、ミルルは我に返った。
「あ、ごめんね。久しぶりにリッカ先輩の姿を見かけて驚いたの。先輩、戻って来られたのね」
「あ、そうなのよ!凄いわよね。王都の本省でスキルアップして、昇進して戻って来られたのよ。カッコいいわよね、同じ職業婦人として憧れちゃう」
「本当ね!すごいわ!」
それにはミルルも激しく同意した。
まだまだ働く女性の少ない時代。
それでも職を持つ道を選んだ女性達にとって、優秀でキャリアを積んでゆく同性を見ると尊敬の念を抱かずにはいられないのだ。
もう魔法省の職員ではないが、自立するための仕事を探し始めているミルルにとっても、輝かしく眩しい存在である事に変わりはない。
「リッカ先輩、今日は来月の帰省に先立って挨拶に来られたんだって」
「そうなのね。じゃあ来月からはずっとこの街に居られるのね」
ハルジオの側に。
彼女のかつての恋人の側に。
もう距離が二人を隔てる事はない。
ーーあ、
この場合、わたしが二人を隔てる壁になってしまっている?
大変だわ。こんなペラッペラの壁でも邪魔になるなら早く撤退しなきゃ……
その後は仕事中のレアと別れ、ロビーに座ってハルジオが降りてくるのを待った。
持参した文庫本を読むともなくページを開く。
頭の中にあるのはさっき見た彼女、リッカ=ロナルドの姿。
魔法省法務局の文官で、魔術学園を主席で卒業した才女だ。
ハルジオとは魔術学園時代からの付き合いで、卒業と同時に二人揃って魔法省に入省。
同期で恋人。
かつては将来を約束し合っていたらしい。
「……リッカ先輩、キレイだったなぁ」
自信に溢れ、内側から輝くような美しさだった。
ーーすごいわ、ああいう人の事を麗人と呼ぶのねきっと。
王都へ行き更に垢抜けて、その美しさに磨きが掛かっていた。
ミルルと同じ女性というイキモノとは思えない。
ーーぷ…月とスッポンとはこの事ね。この場合、わたしがスッポンよね?でもわたし、泳げないのよね……スッポンらしく上手に泳げるように練習するべきかしら?
ミルルはスッポンのように池で泳ぐ自分の姿を想像して思わず吹き出してしまっていた。
側から見たら変な人間である。
その時、ソファーに座るミルルの頭上から声が聞こえた。
「何を笑ってるの?思い出し笑い?」
朝、見送って以来久しぶりに聞く大好きな声。
ミルルは嬉しくなって微笑みを深くして見上げる。
そこにはやはり、
大好きな夫ハルジオの姿があった。
今夜は外で食事をしようと夫ハルジオに誘われたミルルが魔法省のロビーに辿り着いてすぐ、後ろから声をかけられた。
ミルルが振り向くとそこには魔法省職員時代の同期、レア=マルソーがいた。
「レア、久しぶり!」
ミルルが笑みを浮かべるとレアは急足でミルルの側までやって来た。
「ホントに久しぶりね!あなたの結婚式以来じゃない?旦那さまは同じ職場だからよく見かけるけど。元気だった?」
レアは嬉しそうにミルルの手を握ってぶんぶんと上下に振る。
「おかげさまで。レアこそ元気にしてた?同期のみんなは頑張ってるのかしら?」
「みんなボチボチね。入省してもう四年になるもの。新人を任されたりちょっと複雑な案件を任されたり、ひーひー言いながら駆けずり回ってるわ」
「そっか。凄いわみんな」
「凄いのはミルルよ。もう歩くのは不可能だと言われていたのに、ここまで回復するなんて。あなたの根性を見せて貰ったわ」
「ふふふ。だって意地でも歩けるようにならなければいけなかったのだもの。じゃないと一人で歩いてゆけないでしょ……う……」
「ミルル?」
久々に会った同期の変わらない気さくさを嬉しく思いながら会話をしていたミルルが、その相手の肩越しに見えた人物に息を呑んだ。
いずれ戻って来るとは分かっていたが、
いざその姿を目の当たりにすると、言い様のない感情に体が支配された。
途端に硬直して動けなくなる。
突然目を見開いて固まってしまったミルルの様子を怪訝に思ったレアがミルルの名を呼んだ。
「ミルル?どうしたの?」
その声に硬直を解いて貰ったかのように、ミルルは我に返った。
「あ、ごめんね。久しぶりにリッカ先輩の姿を見かけて驚いたの。先輩、戻って来られたのね」
「あ、そうなのよ!凄いわよね。王都の本省でスキルアップして、昇進して戻って来られたのよ。カッコいいわよね、同じ職業婦人として憧れちゃう」
「本当ね!すごいわ!」
それにはミルルも激しく同意した。
まだまだ働く女性の少ない時代。
それでも職を持つ道を選んだ女性達にとって、優秀でキャリアを積んでゆく同性を見ると尊敬の念を抱かずにはいられないのだ。
もう魔法省の職員ではないが、自立するための仕事を探し始めているミルルにとっても、輝かしく眩しい存在である事に変わりはない。
「リッカ先輩、今日は来月の帰省に先立って挨拶に来られたんだって」
「そうなのね。じゃあ来月からはずっとこの街に居られるのね」
ハルジオの側に。
彼女のかつての恋人の側に。
もう距離が二人を隔てる事はない。
ーーあ、
この場合、わたしが二人を隔てる壁になってしまっている?
大変だわ。こんなペラッペラの壁でも邪魔になるなら早く撤退しなきゃ……
その後は仕事中のレアと別れ、ロビーに座ってハルジオが降りてくるのを待った。
持参した文庫本を読むともなくページを開く。
頭の中にあるのはさっき見た彼女、リッカ=ロナルドの姿。
魔法省法務局の文官で、魔術学園を主席で卒業した才女だ。
ハルジオとは魔術学園時代からの付き合いで、卒業と同時に二人揃って魔法省に入省。
同期で恋人。
かつては将来を約束し合っていたらしい。
「……リッカ先輩、キレイだったなぁ」
自信に溢れ、内側から輝くような美しさだった。
ーーすごいわ、ああいう人の事を麗人と呼ぶのねきっと。
王都へ行き更に垢抜けて、その美しさに磨きが掛かっていた。
ミルルと同じ女性というイキモノとは思えない。
ーーぷ…月とスッポンとはこの事ね。この場合、わたしがスッポンよね?でもわたし、泳げないのよね……スッポンらしく上手に泳げるように練習するべきかしら?
ミルルはスッポンのように池で泳ぐ自分の姿を想像して思わず吹き出してしまっていた。
側から見たら変な人間である。
その時、ソファーに座るミルルの頭上から声が聞こえた。
「何を笑ってるの?思い出し笑い?」
朝、見送って以来久しぶりに聞く大好きな声。
ミルルは嬉しくなって微笑みを深くして見上げる。
そこにはやはり、
大好きな夫ハルジオの姿があった。
154
あなたにおすすめの小説
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる