その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう

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似合いの二人だったのに

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「はぁぁ……昨日のテンプラ、美味しかったなぁ」

ハルジオと外食をした次の日、ミルルはその時食べた海老のテンプラの味を思い出してうっとりとしていた。

「サクサクの衣に包まれたぷりぷりでジューシーな海老……噛むほどに海老の甘みが口の中に広がって、夢のようなひとときだったわ……」

ハルジオとの食事は楽しかった。

ゆっくりと食事をしながら夫婦で色んな事を語り合う。
一緒に暮らし、毎日顔を合わせていても話しは尽きなかった。

でもハルジオの口からリッカの名前が出る事はなかったのだ。

ーーリッカ先輩がこっちに戻って来る事、ハルさんが知らない筈はないと思うんだけど。まだ会っていないのかしら?

もし自分に遠慮して何も言えないのであれば申し訳ないな、と思うミルルであった。



それからひと月が経ち、リッカが魔法省地方局こっち帰省きしょうする日となった。

魔法省で再会してからはまた連絡を取り合うようになった元同期のレアから、リッカが法務部の次長に昇進したと聞いている。

ーー課長のハルさんよりも出世しちゃったのね

ハルさんの心境は如何ばかりか。

「そんな事を気にする人じゃないわね」

もう二人は再会を果たしたのだろうか。

その時ハルさんはどんな気持ちだったんだろう。


ーー苦しい思いをしていなければいいけれど

妻を持つ身となり、自分の本当の気持ちに蓋をしなければならないであろうハルジオの事をミルルは気の毒に思えてならなかった。


だってあんなにお似合いだったんだもの。

ミルルが魔法省に勤めていた頃、同じ部署の後輩として、ハルジオのバディとして、何度も一緒にいる二人と接した事がある。

芸能人カップルか?と言いたくなるくらいに似合いの二人だったのに。

その二人が別れたと聞いたのはいつだったか。

ミルルが足を怪我する三ヶ月前…くらいだったと思う。

プライベートな事なので何も触れずにいたらハルジオの方から、ある日ポツリと呟かれた事があった。

「彼女が二年ほど王都に行く事になってね。まぁそれ以前から互いの気持ちの変化もあって、元々別れ話は出てたんだ。決定的なきっかけもあったし、それでもう別れようって事になったんだよ」


その時のミルルには、何故ハルジオがそんな自身の私生活に踏み込んだ事を話してくれたのかは分からなかった。
まぁ今も分かっていないミルルだが。

ーーきっと誰かに聞いて貰いたいほど辛かったのよ

当時ハルジオに淡い恋心を抱き初めていたミルルだったが、自分に出来るのは話を聞いてあげる事しかないと思い、黙って聞き役に徹した。

ハルジオがリッカと別れたと知ったからといって、ミルルは自分の恋が叶う訳ではないと分かっていた。

だって二人は互いに嫌いになって別れたのではないはず。
二年という時間と地方と王都という距離に負けただけ。

あの事件が起きなければ、またこちらに戻って来たリッカと結ばれていたはずなのだ。

ーーあんな事さえ起きなければ……


ミルルは怪我を負った方の自分の足を見つめた。

ワンピースに隠された素足には大きな傷跡がある。

ハルジオを縛り付ける根源の傷が。


ミルルはあの日起きた、

ミルルとハルジオと、そしてリッカの人生を変えた事件の事を思い出していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回からミルルの怪我の真相に触れてゆきます。




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