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そしてその事件は起きた 〜立証〜
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「これで最後の箱も片付きました~!」
「やっと終わったぁ」
「皆さん、ご協力ありがとうございました!」
「いや部長命令だもん、セノっちが気にする事ないよ」
証拠品の魔術札探しは、二人の応援要員のおかげで漸く終わりを告げた。
枚数にして二万枚。
犯人よ、これだけの枚数の偽札を作る胆力があるなら何故それを魔術師資格勉強に当てなかったのか……とミルルは謹んで文句を申し上げたかった。
大量のカモフラージュ魔術札の中から証拠品となり得る札は二枚。
二万枚の中でたったの二枚。
しかもこれだけ苦労したのに、もしこの札が犯行に使われた札と別の人物が犯人の札に模して作った物であったり、違う人間の魔力が検出されれば証拠品として提出は出来ないのだ……。
もしそうなれば今までの労力は全て水の泡。
「あわわわ……」
この次に行う立証で全てが明らかになるだろう。
確認してただの紙切れだと判明した偽札たちをまた纏め直して箱詰めしてゆく。
応援要員として来てくれた同部署の職員達も最後まで手伝ってくれた。
みんなと手を動かしながらも口も動かす。
ハルジオは課長に呼ばれて席を外していた。
ミルルの二年先輩だという女性職員さんが小声で尋ねてくる。
「……ね、バイス先輩がリッカ先輩と別れたってホント?」
ミルルは返答に困ってしまう。
個人のプライベートな問題を勝手に喋るわけにはいかないだろう。
よって、適当にお茶を濁す事にした。
「うーん……さぁ……どうなんでしょう」
しかしその職員は頓着する事なく話を振ってくる。
「美男美女で最高に目の保養だったのになぁ~。でも別れたっていってもどうせ一時的なもんでしょ」
「え?そうなんですか?」
「だってリッカ先輩は二年ほどでまたこっちに帰ってくるそうじゃない?一旦離れて充電期間を設けたみたいなものよ。戻って来たら絶対に恋の炎が再燃するでしょうよ~」
「ほほぅ。そんなものなんですね」
「真の恋人同士なら、そんなものでしょ」
「なるほどー……そうなればいいですね」
時々、ハルジオが何を見るともなしにぼんやりと遠くを眺めている時がある。
きっとリッカを失った喪失感を抱えているのだろう。
そんなハルジオの姿を知っているからこそ、本当にそうなればいいとミルルは心から思えた。
ミルルがその職員さんのご高説を感心して聞いていると、部屋に戻って来たハルジオが話に入って来た。
「何がそうなればいいんだい?」
女性職員は噂話をしていた本人を前に気不味いらしく、誤魔化した。
「若い女の子同士の会話なので年長者はご遠慮下さいませ」
ハルジオは少し不貞腐れた様な素振りで言う。
「あ、五つも年上だからって年寄り扱いして」
ミルルは思わず吹き出した。
「年寄りとは思ってないけど、ハル先輩にはナイショです」
「えー、気になるなぁ」
ーーナイショですよ、先輩
ミルルはまち針でチクチクとつつかれたような胸の痛みから目を逸らした。
次の日からは早速、魔術札に施術された術式の立証が始まった。
結界を張り、人払いをした室内で二枚の魔術札を調べる。
ハルジオは少し思案してからミルルに告げた。
「……念のため、ミルルは部屋から出ておこうか」
「え、何故ですか、わたしもちゃんと立ち会います」
突然退室を促され、ミルルは慌てた。
ハルジオは頭をかきながらミルルに説明する。
「術式を発動させて直ぐに反転魔術を掛けるけど、それでも危険が全くない訳じゃない。犯行現場で顕現した風魔術の殺傷能力から鑑みて、やはりキミは近くに居ない方がいいと思うんだ」
ミルルの身を案じて言ってくれているのは分かるが、ミルルとしてはそれではあまりにも情けない。
それに……ハルジオに役に立たないと言われているようで悲しかった。
「ハル先輩はわたしでは荷が勝ちすぎると思ってるんですか?わたしではサポートすらも務まらないと?」
「そうじゃない、そうじゃないよ」
ハルジオは否定した。
でもどこか宥めるような言い方に、自分が我儘を言っている様な気がして余計に引き下がりたくはなかった。
「じゃあわたしも最後まで立ち合わせてください。ハル先輩のバディとして、魔法省の職員として」
「………分かった」
いつになく頑としたミルルのもの言いに、ハルジオが折れた形となった。
しかしミルルこの後後悔する事になる。
あの時、ハルジオのいう事に従っていれば、
あの時、少しでもハルジオに成長の成果を見て貰おうと意気込んで余計な事をしなければ、
ミルルとハルジオ、二人の人生は変わっていただろう。
ハルジオが案じた通り、
ミルルは立証の立ち合いにて足を切断する寸前の大怪我を負った。
「やっと終わったぁ」
「皆さん、ご協力ありがとうございました!」
「いや部長命令だもん、セノっちが気にする事ないよ」
証拠品の魔術札探しは、二人の応援要員のおかげで漸く終わりを告げた。
枚数にして二万枚。
犯人よ、これだけの枚数の偽札を作る胆力があるなら何故それを魔術師資格勉強に当てなかったのか……とミルルは謹んで文句を申し上げたかった。
大量のカモフラージュ魔術札の中から証拠品となり得る札は二枚。
二万枚の中でたったの二枚。
しかもこれだけ苦労したのに、もしこの札が犯行に使われた札と別の人物が犯人の札に模して作った物であったり、違う人間の魔力が検出されれば証拠品として提出は出来ないのだ……。
もしそうなれば今までの労力は全て水の泡。
「あわわわ……」
この次に行う立証で全てが明らかになるだろう。
確認してただの紙切れだと判明した偽札たちをまた纏め直して箱詰めしてゆく。
応援要員として来てくれた同部署の職員達も最後まで手伝ってくれた。
みんなと手を動かしながらも口も動かす。
ハルジオは課長に呼ばれて席を外していた。
ミルルの二年先輩だという女性職員さんが小声で尋ねてくる。
「……ね、バイス先輩がリッカ先輩と別れたってホント?」
ミルルは返答に困ってしまう。
個人のプライベートな問題を勝手に喋るわけにはいかないだろう。
よって、適当にお茶を濁す事にした。
「うーん……さぁ……どうなんでしょう」
しかしその職員は頓着する事なく話を振ってくる。
「美男美女で最高に目の保養だったのになぁ~。でも別れたっていってもどうせ一時的なもんでしょ」
「え?そうなんですか?」
「だってリッカ先輩は二年ほどでまたこっちに帰ってくるそうじゃない?一旦離れて充電期間を設けたみたいなものよ。戻って来たら絶対に恋の炎が再燃するでしょうよ~」
「ほほぅ。そんなものなんですね」
「真の恋人同士なら、そんなものでしょ」
「なるほどー……そうなればいいですね」
時々、ハルジオが何を見るともなしにぼんやりと遠くを眺めている時がある。
きっとリッカを失った喪失感を抱えているのだろう。
そんなハルジオの姿を知っているからこそ、本当にそうなればいいとミルルは心から思えた。
ミルルがその職員さんのご高説を感心して聞いていると、部屋に戻って来たハルジオが話に入って来た。
「何がそうなればいいんだい?」
女性職員は噂話をしていた本人を前に気不味いらしく、誤魔化した。
「若い女の子同士の会話なので年長者はご遠慮下さいませ」
ハルジオは少し不貞腐れた様な素振りで言う。
「あ、五つも年上だからって年寄り扱いして」
ミルルは思わず吹き出した。
「年寄りとは思ってないけど、ハル先輩にはナイショです」
「えー、気になるなぁ」
ーーナイショですよ、先輩
ミルルはまち針でチクチクとつつかれたような胸の痛みから目を逸らした。
次の日からは早速、魔術札に施術された術式の立証が始まった。
結界を張り、人払いをした室内で二枚の魔術札を調べる。
ハルジオは少し思案してからミルルに告げた。
「……念のため、ミルルは部屋から出ておこうか」
「え、何故ですか、わたしもちゃんと立ち会います」
突然退室を促され、ミルルは慌てた。
ハルジオは頭をかきながらミルルに説明する。
「術式を発動させて直ぐに反転魔術を掛けるけど、それでも危険が全くない訳じゃない。犯行現場で顕現した風魔術の殺傷能力から鑑みて、やはりキミは近くに居ない方がいいと思うんだ」
ミルルの身を案じて言ってくれているのは分かるが、ミルルとしてはそれではあまりにも情けない。
それに……ハルジオに役に立たないと言われているようで悲しかった。
「ハル先輩はわたしでは荷が勝ちすぎると思ってるんですか?わたしではサポートすらも務まらないと?」
「そうじゃない、そうじゃないよ」
ハルジオは否定した。
でもどこか宥めるような言い方に、自分が我儘を言っている様な気がして余計に引き下がりたくはなかった。
「じゃあわたしも最後まで立ち合わせてください。ハル先輩のバディとして、魔法省の職員として」
「………分かった」
いつになく頑としたミルルのもの言いに、ハルジオが折れた形となった。
しかしミルルこの後後悔する事になる。
あの時、ハルジオのいう事に従っていれば、
あの時、少しでもハルジオに成長の成果を見て貰おうと意気込んで余計な事をしなければ、
ミルルとハルジオ、二人の人生は変わっていただろう。
ハルジオが案じた通り、
ミルルは立証の立ち合いにて足を切断する寸前の大怪我を負った。
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