その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう

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結婚式にて

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麗かな日差しがふり注ぐ晴れの良き日。

ミルルの魔法省職員時代の同期、レア=マルソーの結婚式が執り行われた。

新郎は魔法省法務局長の息子という事で、魔法省上層部の人間が多く参列していた。

その中にはもちろん、出世して次長となったリッカ=ロナルドの姿もあった。


ーーリッカ先輩だ

ミルルは隣に並び立つハルジオの顔を盗み見た。
ハルジオは特段気にする様子もなく、皆に祝福され幸せそうに会場入りする新郎新婦を見つめている。

ーー……一応まだ妻であるわたしの前であからさまにリッカ先輩に視線を送れないわよね……
それにしても……今日のハルさん、とっても素敵……!

黒の礼服の上に羽織った式典用のローブを着こなす姿はまるで王侯貴族のような気品に溢れている。
いつもはラフに下ろした前髪も今日は後ろに撫で付け形の良い額を惜しげもなく披露しているのだ。
どこからどう見ても素敵な大人の男性で、ミルルはトキメキまくりで身悶えしそうであった。

「ミルル、今日はありがとう」

「こちらこそ眼福ですありがとうございます。こんな素敵なハルさんの姿を見れて、生まれてきて本当に良かったと思っております♡」

「ミルル……」

「へ?」

ハルジオがあまりにも素敵過ぎて思わず心の声が出てしまったミルル。
そのハルジオに名を呼ばれてはっと気が付けば、新婦のレアがミルルの目の前で笑いながら立っていた。

「あはは!ミルルってば分かった分かった。そうね、今日のあなたの旦那様は本当に素敵だものね~」

「いやだわたしったら……レア、ごめんね」

「ふふふ、いいのよミルル。もう一度言うわね、今日は来てくれてありがとう」

そのやり取りを見ていた参列者達も、夫が素敵だと喜ぶ妻が微笑ましいと、皆が笑っていた。

ミルルは恥ずかしくなって思わずハルジオの後ろに隠れてしまう。

「……ゴメンナサイ、ハルサン……」

消え入るような声で謝るミルルに、ハルジオは吹き出しながら手を握ってくれた。

「お褒めに預かり光栄だよ、奥さん」

「ハ、ハズカシヌ……」

「ぷっ……大丈夫だよミルル」

居た堪れず真っ赤になるミルルを見て、ますます皆が微笑ましげに笑っていた。

もちろん、ハルジオの元恋人のリッカも笑みを貼り付けて、そんなハルジオとミルルを眺めていた。


結婚式はガーデンパーティーであった。

立食式のラフなスタイルで、皆自由に各テーブルや庭を歩いて楽しんでいる。

料理もドリンクもどれも美味しくて、ミルルはウキウキと各テーブルの料理を楽しんでいた。

でもドリンクは果実水と果実酒を間違えるミルルなので、ハルジオから手渡される物しか口にしてはいけない決まりになっている。

料理に夢中になっているミルルがふと気付いた時には、同じテーブルにリッカを始めとするハルジオの同期の面々が揃っていた。

ーーい、いつの間に。いやだわすっかり料理に夢中になってしまってて……

ミルルの隣に立つハルジオは皆と楽しく談笑していた。

ハルジオの隣りにリッカが立っていたのを見て、ミルルは思わず固まってしまう。

そんなミルルに、ハルジオを間に挟んでリッカが声を掛けてくる。

「お久しぶり、ミルルちゃん。二年以上ぶりかしら?いつぞやは大変だったわね……」

いつぞやとはきっと、ミルルが大怪我をした時の事だろう。

思いがけず労って貰い、ミルルは嬉しくなって感謝の言葉を伝えた。……何故かハルジオ越しに。

「お久しぶりですリッカ先輩。そしてありがとうございます。もうすっかり大丈夫です」

「そう。良かったわ。あの時は責任問題で本省の方も結構意見が割れたのよ」

他ならぬリッカの口から“責任”という言葉が出て、ミルルは申し訳なさでいっぱいになった。

そしてその事について、ミルルはお詫びを口にする。
……何故かハルジオ越しに。

「その節はお騒がせしました。きっと色んな方に迷惑をかけたのでしょうね」

。そうでしょう?もう、ハルジオってば、あなたちょっと壁みたいで邪魔よ。ミルルちゃんと話し辛いじゃない」

「……気にしないでくれ」

「ホントそのぶっきらぼうなところ、昔と何も変わらないわね、そういえば入省したての新人研修でも……」

話は懐かしい昔話に移行して行った。

他の同期の人たちも「あ~、そんな事あったあった」と昔を懐かしんで思い出話に花を咲かせている。

話の内容が分からないミルルが同じテーブルに居続けて場を盛り下げてもいけない。
それに隣に並び立つハルジオとリッカの美男美女の光景が眩し過ぎて目に毒だと思い、ミルルは他のお料理を求めてハルジオを残してそっと移動しようとした。

が、

「ん?あら……?」

いつの間にかハルジオがミルルの腰に手を回してがっしりと腰をホールドしていたのだ。

「ハ、ハルさん?」

ハルジオはにっこりと微笑みながらミルルに問う。

「一人でどこに行く気?ミルル」

「え……?いえあの、向こうの料理が美味しそうだなぁと思って……」

「そう。じゃあ一緒に移動しよう」

「え、ダメよハルさんは。せっかく同期の方達とお話が出来るのに。わたしに構わずゆっくりと楽しんでいて」

ミルルがそう言うと、ハルジオの向こう側からひょっこりと顔を出してリッカが言った。

「そうよハルジオ。レガルドはいないけど、せっかく数年ぶりに同期が揃ったのよ?みんなで語りあいましょうよ。ミルルさんだって他のテーブルのお友達とお話をしたいでしょうに」

その言葉に、ミルルの腰をがっしりとホールドしたままハルジオは答えた。

「それなら俺も夫として彼女の友人に挨拶しないとね。それに妻と離れて行動するつもりはないんだ、悪いけど俺達は他のテーブルに行くよ」

そう言ってハルジオはミルルをエスコートするようにその場を立ち去った。

「え?ハルさん?」

「ハルジオ!?」

後ろからリッカの声が追いかけてくる。

「ハルさん……いいの?お話の途中なんじゃ……」

「いいんだ。ここは同期会でもなんでもないんだから、なるべく沢山の参列者と新郎新婦の門出を祝い合わないとね」

「なるほど」

さすがはハルジオだ。

細かいところにまで気が回って凄い。

ミルルはまた惚れ惚れとしてハルジオを見上げた。

「じゃあハルさん、わたしあそこのテーブルのサマープディングと新郎新婦の門出を祝いたいわ」

ミルルはベリーソースがヒタヒタにたっぷりと染み渡っているサマープディングを見遣った。

「よし、じゃあサマープディングと祝杯を上げに行こう」

「ふふふ」

ミルルは素直にハルジオと美味しそうなスィーツにありつける事を喜んだ。


その様子をリッカが真顔で見つめていたのだが……












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