その温かな手を離す日は近い

キムラましゅろう

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そして夫婦となった

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ハルジオのプロポーズを受けて夫婦となり早いものでもう二年になろうとしている。

あの日、

ミルルがプロポーズをお受けしますと彼に告げた時、
ハルジオは本当に喜んでくれた。

『ミルルっ……!ミルル、嬉しいよ。ありがとう、本当にありがとうっ……!』

心の底から安堵したような深い喜びがハルジオから伝わってきて、ミルルはあぁ…受けて良かったなぁと思ったのだ。
だってこれでもうハルジオは誰にも責められる事がなくなるから。

それからのハルジオの行動は早かった。

まずはミルルの母に結婚の承諾を得た。

『ミルルさんを必ず大切にするとお約束します。どうか、結婚をお許しください』

ミルルの入院中何度も顔を合わせてすっかりハルジオの為人を知り、彼の人柄を気に入っていた母は、一も二もなく快諾した。

それはもう、気持ちいいくらいに。

『どうぞどうぞ。かなりマイペースな娘ですが、良い子に育ってくれたと思っております。どうか末永く、娘の事をよろしくお願いします』

そう言って、母は大らかに笑っていた。
そんな母に、期間限定の結婚なのだと言える筈もなく、ミルルはただ微笑みを浮かべておくばかりであった。

母は悪戯っぽい表情を浮かべてハルジオに言う。

『でもこの子、寝言と寝相が酷いから、ハルジオさんが万年寝不足にならないか心配だわ~』

『ちょっとお母さん、わたしは寝言を言った覚えもないし、寝相が酷いなんて記憶にないわよ?』

『だって寝てるんだから分からないでしょうよ』

『あ、ふふふ。それもそうね』

『ふふふこの子ったら』

『……』

そのやり取りを、日向で昼寝をしている猫を見るような和みの目つきでハルジオが見ていた事を、ミルル達親子は気付いていない。

そうして結婚が決まった二人。
退院と同時にミルルが行った事はまず、魔法省へ退職届けを出す事であった。

離婚した後の事を考えると、魔法省には居られないと考えたからだ。
自分の有責で離婚して、その後同じ職場で顔を合わせる事になるなんて気不味いだろう。
それに離婚後にハルジオがリッカと再婚する様を見る事になるのも辛すぎると思ったのだ。

次の就職先は離婚の準備を進める上で探すしかない。

そしてリハビリを死ぬ気で頑張って、二年後に杖が無くても歩けるようなる事だ。
ミルルがいつまでも痛々しい歩き方をしていたら、離婚した後もハルジオに余計な心配を掛けてしまうかもしれない。

ーー大丈夫。わたしには健脚な東方人の血が半分流れているのよ。
東方の国の会社、ヒキャクデリバリーの配達員にだってなれちゃうくらいになってみせるわっ
いえ、むしろ再就職先はヒキャクデリバリーよ!
……でもわたしに“フンドシ”は似合うかしら……?
ワンピースの下に身につければ大丈夫ね。

要はリハビリを頑張るという事なのだが、やる気の行き先が明後日の方向なのがミルルという人物であった。

そうして、ミルルの足の状態も鑑みて、ごく近しい者だけを招いてのささやかな結婚式も執り行われ、ミルルとハルジオは夫婦となったのであった。



リビングのサイドボードに置いてある結婚式の時の魔力念写画写真を見つめながら、ミルルは当時の事を思い出していた。

あれから二年。
本当にあっという間だった。

ハルジオとの暮らしはこのまま永遠に続くと錯覚してしまうほどに、きちんとした夫婦としての暮らしであった。

愛おしくて大切な……

でもその暮らしの中、ミルルはハルジオに沢山の隠し事をしてきたのだ。

全て離婚する為の隠し事なのだが、中でも一番罪が大きいと感じているのが、ハルジオには内緒で避妊薬を服用している事である。

ーーだって、もし赤ちゃんが出来てしまったら、ハルさんの足枷になってしまうもの。

仮に子どもが生まれて離婚したとしても、ミルルは一人で二人分、何なら百人分くらいの愛情を注いで育てるつもりだが、ハルジオの心残りとなってしまってはいけないと考えたのだ。

ーーわたし一人となら、後腐れなく離婚できるものね。

ミルルはため息を吐きながら、クローゼットからハルジオと自分の礼服を取り出した。
ハルジオのは式典用の魔法省のローブも出しておく。

三日後に同期のレアの結婚式がある。

ハルジオと公の場へ夫婦として出るのはこれで最後となるだろう。

ミルルはカバーを掛けてあるハルジオのローブに額を付けて目を閉じる。

「ハルさん、ハルさん……」


レアの結婚式。

そこでミルルはあの人との再会を果たす。

そしてミルルの離婚計画が、一気に加速するのである。



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