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その手を離す時
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とうとう家を出る決心をしたミルル。
魔道具事故の事後報告でそのまま王都へ飛んで行ったハルジオが帰宅する前に実行に移そうと慌ただしく準備を進めた。
前日に役所へ行って貰ってきた離婚届にサインをして、この部屋にある最低限の私物を片付ける。
そしてハルジオへの手紙を書いて、テーブルに離婚届と共に置いた。
もちろん、結婚指輪も一緒に。
指輪を外す時、本当に彼とお別れなんだなぁと実感が湧き、切なさでどうにかなりそうになる。
指先が小さく震えている事に気付きながらも指輪を置いた。
二年間ハルジオと暮らした部屋を見渡す。
そこかしこに楽しい思い出がぎゅぎゅっと詰まった愛しい場所。
「今まで本当にありがとう……」
ミルルはその一つ一つに別れと礼を告げた。
そして玄関の扉を開けて部屋を出た。
扉が閉まるギリギリまでハルジオと過ごした部屋を見て、その光景を目に焼き付ける。
キィィパタン、と扉が閉まる音と同時に涙が溢れた。
あぁ……もう本当に最後なんだなぁと思っていたらまた胸が締め付けられるように苦しかった。
でも、二年前に自分で決めた事だ。
ちゃんと責任を取ったハルジオを解放する。
かつてのミルルが決めた事だ。
そしてその気持ちは今も変わらない。
ーーだけど、心の方はままならないものね……
これがハルジオと自分にとって一番良い選択だと分かっていても、寂しくて悲しくて辛くて堪らない。
許されるならハルジオとずっと共にいたかった。
結婚式で皆の前で誓ったように、一生添い遂げたかった……。
ミルルは未練を断ち切るように玄関の鍵を閉めた。
カチャリと施錠する無機質な音が耳に届く。
「………さようなら」
ミルルは誰に聞かせる訳でなくそう呟き、踵を返して歩き出そうとした。
が、
「ぶふっ!?」
直ぐ後ろに壁があり、ミルルはそれに顔面ごとぶつかった。
それは硬いけど壁にしては柔らかい。
しかも見覚えのある衣類を纏っている。
ネクタイはミルルがハルジオの誕生日に贈ったものだった。
「…………」
ミルルはおそるおそるその壁を見上げる。
そしてその壁の頂には、この世界で一番好きな顔が鎮座していた。
「ハ、ハルさん……?」
何故こんなまだ午前中にハルジオがここにいるのだろう。
彼はまだ王都で、戻ったとしても魔法省に顔を出してから帰って来る筈なのだが……。
ミルルが首を傾げながらハルジオの顔を見る。
ハルジオは微笑みを浮かべていた。
でも確実に何やら怒っているのが伝わってくる。
「ハ…ハル、さん……?」
ハルジオは笑顔のままミルルに訊いた。
「どこに行く気?ミルル。買い物?」
「え、えっと……その、あのね……」
「とりあえず」
ハルジオはそう言ってミルルを抱き寄せ、部屋へと転移した。
ーーこの部屋には外部から転移魔法で侵入出来ないようにハルさんが結界魔術を施していたと思うのだけれど……
やっぱり自分で掛けた魔術だから特別なのね。
と、ミルルはまた変なところに感心していた。
ハルジオはミルルを抱き寄せたままテーブルに置かれている離婚届と手紙と結婚指輪を一瞥する。
ミルルの背中に添えられた手に力が篭るのを感じた。
「ハルさん……あのね、「ミルル」
ミルルがハルジオに告げようとした言葉は彼自身によって遮られた。
そしてハルジオは言う。
「キミが思い留まってくれる事を信じて待っていたんだけど……俺は悲しいよ、ミルル」
「へ?……え?きゃあっ!?」
その瞬間、ミルルはハルジオに抱きかかえられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミルルさん、お仕置きをされてしまうのか!?
お待たせしました。
次回、ハルさんのターンです☆
魔道具事故の事後報告でそのまま王都へ飛んで行ったハルジオが帰宅する前に実行に移そうと慌ただしく準備を進めた。
前日に役所へ行って貰ってきた離婚届にサインをして、この部屋にある最低限の私物を片付ける。
そしてハルジオへの手紙を書いて、テーブルに離婚届と共に置いた。
もちろん、結婚指輪も一緒に。
指輪を外す時、本当に彼とお別れなんだなぁと実感が湧き、切なさでどうにかなりそうになる。
指先が小さく震えている事に気付きながらも指輪を置いた。
二年間ハルジオと暮らした部屋を見渡す。
そこかしこに楽しい思い出がぎゅぎゅっと詰まった愛しい場所。
「今まで本当にありがとう……」
ミルルはその一つ一つに別れと礼を告げた。
そして玄関の扉を開けて部屋を出た。
扉が閉まるギリギリまでハルジオと過ごした部屋を見て、その光景を目に焼き付ける。
キィィパタン、と扉が閉まる音と同時に涙が溢れた。
あぁ……もう本当に最後なんだなぁと思っていたらまた胸が締め付けられるように苦しかった。
でも、二年前に自分で決めた事だ。
ちゃんと責任を取ったハルジオを解放する。
かつてのミルルが決めた事だ。
そしてその気持ちは今も変わらない。
ーーだけど、心の方はままならないものね……
これがハルジオと自分にとって一番良い選択だと分かっていても、寂しくて悲しくて辛くて堪らない。
許されるならハルジオとずっと共にいたかった。
結婚式で皆の前で誓ったように、一生添い遂げたかった……。
ミルルは未練を断ち切るように玄関の鍵を閉めた。
カチャリと施錠する無機質な音が耳に届く。
「………さようなら」
ミルルは誰に聞かせる訳でなくそう呟き、踵を返して歩き出そうとした。
が、
「ぶふっ!?」
直ぐ後ろに壁があり、ミルルはそれに顔面ごとぶつかった。
それは硬いけど壁にしては柔らかい。
しかも見覚えのある衣類を纏っている。
ネクタイはミルルがハルジオの誕生日に贈ったものだった。
「…………」
ミルルはおそるおそるその壁を見上げる。
そしてその壁の頂には、この世界で一番好きな顔が鎮座していた。
「ハ、ハルさん……?」
何故こんなまだ午前中にハルジオがここにいるのだろう。
彼はまだ王都で、戻ったとしても魔法省に顔を出してから帰って来る筈なのだが……。
ミルルが首を傾げながらハルジオの顔を見る。
ハルジオは微笑みを浮かべていた。
でも確実に何やら怒っているのが伝わってくる。
「ハ…ハル、さん……?」
ハルジオは笑顔のままミルルに訊いた。
「どこに行く気?ミルル。買い物?」
「え、えっと……その、あのね……」
「とりあえず」
ハルジオはそう言ってミルルを抱き寄せ、部屋へと転移した。
ーーこの部屋には外部から転移魔法で侵入出来ないようにハルさんが結界魔術を施していたと思うのだけれど……
やっぱり自分で掛けた魔術だから特別なのね。
と、ミルルはまた変なところに感心していた。
ハルジオはミルルを抱き寄せたままテーブルに置かれている離婚届と手紙と結婚指輪を一瞥する。
ミルルの背中に添えられた手に力が篭るのを感じた。
「ハルさん……あのね、「ミルル」
ミルルがハルジオに告げようとした言葉は彼自身によって遮られた。
そしてハルジオは言う。
「キミが思い留まってくれる事を信じて待っていたんだけど……俺は悲しいよ、ミルル」
「へ?……え?きゃあっ!?」
その瞬間、ミルルはハルジオに抱きかかえられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミルルさん、お仕置きをされてしまうのか!?
お待たせしました。
次回、ハルさんのターンです☆
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