【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう

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13 遠い人

紛争が終結し、王都では盛大な凱旋パレードが行われたという。

かつては戦地へ向かう彼らの善戦と勝利を願って送り出した中央通りが、今度は凱旋する彼らを労い祝う場となった。

一時劣勢であった我が国を救った連隊の勇姿をひと目見ようと、国中から人々が押し寄せたらしい。
そして凱旋した隊列が王宮に辿り着いたとき、
連隊長であるクライブ・オーウェンを出迎えたのは、彼の父親である宰相と婚約を結ばれる予定であるという王弟殿下令嬢だった……。
と新聞には書かれ、関心を寄せる人々の口の端にのぼった。

当然それらは私の耳にも入り、その度に私は遠い他人事のように感じていた。
実際、他人事であったしね。
そう。彼と私は元から他人。
クライブにとっては過去の任務で関係を持ってしまった捜査対象者というところでしょう。
きっと誰にも知られたくない、輝かしい功績を積んだ彼の唯一の汚点だろうから、私はこのまま息を潜めてこの国の英雄の記憶から消えなければならないと、本気で思っていたの。

(だけど……フィンリーと二人で生きていくのは、それだけは許してほしい。決して迷惑はかけないから……)

クライブと婚約者となる王弟殿下令嬢の順風満帆な人生に影を落とすような真似だけはしないと誓うから。
認知してほしいとも思わないし、金銭を求めることも絶対にしない。

そこまで考えて、私はふと思ったの。

(出征前のほんのひととき関わった女のことなんて、彼はもう忘れているわね……)

いつまでも未練たらしく想っているのは私だけ。
だけどそれでいい。そのおかげで母と息子、二人で慎ましくも穏やかな生活を続けられるのだから。

フィンリーはすくすくと育つ。
お乳をよく飲み、よく眠る。
大きな病に罹ることもなく、発育の段階も同じ月齢の子よりもいつも先に抜きん出ていた。
そこはきっと、外見だけでなく父親に似たところなのだろうと思う。

ベージュグレイの髪色、そして世にも珍しい黒と青のヘテロクロミアを持つフィンリー。
その容姿は否が応でも話題の英雄を彷彿とさせる。
けれどツバメ亭の店主夫妻も常連客たちも、彼らは何も追及せずにいてくれた。
父親が誰なのか明かさない、天涯孤独の身の上で子どもを産み育てる女。
誰がどう見ても胡散臭い存在の私を、近所の人たち皆が容認してくれた。
それがどれほど有難かったか……。

そうやって人々の優しさに縋り支えられながら、私は初めての子育てに奔走していた。

だけど待てど暮らせど、英雄クライブ・オーウェンが王弟殿下令嬢と婚約を結んだという報せは届かない。
婚約期間を飛び越して婚姻を?と思っても、それすらなにも報じられない。
私はそれを不思議に思いながらも、どこかホッとしている自分に嫌気がさしていた。

そしてようやく聞こえてきたクライブのその後の一報は、第一師団長への昇進を辞退し、同時に王宮騎士団を去ったというものだった。

国の英雄の突然の退任に、あれこれ臆測が飛び交う。
国や騎士団に非があるのではないかと、これまた人々の口の端にのほったけど、結局真相はわからぬままクライブ・オーウェンのその後の消息が途絶えた。

それもこれもどれも、やはりに私に遠く関係のないことだと思っていた。

思っていたのに……。

フィンリーが一歳半になろうかという頃、

突然クライブがセントクレアの街を訪れたのだった。




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(´°д°`)…。
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