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シェリーの場合
新しい土地で
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妊娠発覚後、シェリーは直ぐにカイルに手紙を出して別れる意思を伝えた。
カイルにとっては青天の霹靂だったであろうが、身に覚えがある事なのだからきっとすんなりと受け入れるだろう。
ーーなにせ向こうでモテモテのようですから。
そしてシェリーは勤めている診療所に辞表を出し、とっとと王都から新しい街へと移り住んだ。
本当は心機一転、全く知らない街で一から出直したいところだけど、初めての妊娠出産育児と不安要素を抱えてそれをする勇気はないので、唯一残された肉親である姉が嫁いだ街を選んだ。
年の離れた姉は10年前にこの地方の街に住む銀行員の元へと嫁いでいる。
姉に事情を詳しく聞かれたが、カイルの事を昔から弟のように可愛がっていた姉に浮気の事を話すのがなんだか躊躇われた。
だから性格の不一致…は今更?と言われたので、価値観の相違と言っておいた。
変身魔法で別人になってカイルの浮気相手になったという事は秘密である。
たった一人を唯一としたいシェリーと複数の相手とも平気で寝れるカイルとは、全く違う価値観であるのだからあながち間違った事は言っていないはず。
姉は腑に落ちないという顔をしていたが、シェリーの意思が固い事と、妊娠初期でナーバスになっている時にあまり追い詰めるのも良くないと考えたらしくそれ以上は何も言わなかった。
ただ必ず姉の側で暮らす事、そして何かあれば必ず頼る事、それだけはしっかりと約束させられた。
なのでシェリーの新しい家は姉の自宅から歩いて五分ほどのアパートに決まったのだった。
新たな勤め先となる病院との距離もほど近い。
そこは割と大きな病院で、産婦人科も小児科もある。
シェリーにとっては理想的な職場と言えた。
妊娠当初は心配した悪阻も思ったより酷くはならず、
シェリーは新しい環境に身を置き始めたと同時に妊娠四ヶ月を迎えた。
専門家ではないので自分で検診は出来ないが、特殊なスキャン魔術で胎内の様子は見れる。
この日も入浴後、就寝前のリラックスした状態でシェリーは赤ん坊の様子を見た。
「あら?もう髪が生え始めているわ。一般的だと五ヶ月くらいからと聞いていたけど……この髪色は……」
おそらく黒髪だろう。
父親であるカイルの髪色だ。
「ふふ。あなたは本当にあの人の子なのね……」
当たり前だが血のつながりをまざまざと見せつけられる。
あんな事がなく普通に結婚していれば、お腹にいる子どもが自分譲りの髪色だと知り、彼は喜んだのだろうか。
何も知らずにいられたら、あのままずっと一緒にいたのだろうか。
シェリーはそこまで考え首を横に振った。
考えても詮ないことだ。
例えあの同僚女の発言が無かったとしても、いつかはカイルの裏切りに気付いていただろう。
でも、しかし、もし、を考えても仕方ない。
お腹の子の為に強く生きていかなくてはならないのだから。
シェリーの心にぽっかり空いた穴は、
きっとこの子が埋めてくれる。
シェリーはそう信じていた。
そう思う事でようやく心が凪いで、新たな人生を生きていけると思っていたのに。
それなのに。
「なんであなたがここにいるのよっ?」
「シェリー、探したぞ。もう、探しまくったぞ!」
別れたはずのカイルが、シェリーの勤める病院の診察室にいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回、答え合わせの時間。
カイルsideのお話です。
カイルにとっては青天の霹靂だったであろうが、身に覚えがある事なのだからきっとすんなりと受け入れるだろう。
ーーなにせ向こうでモテモテのようですから。
そしてシェリーは勤めている診療所に辞表を出し、とっとと王都から新しい街へと移り住んだ。
本当は心機一転、全く知らない街で一から出直したいところだけど、初めての妊娠出産育児と不安要素を抱えてそれをする勇気はないので、唯一残された肉親である姉が嫁いだ街を選んだ。
年の離れた姉は10年前にこの地方の街に住む銀行員の元へと嫁いでいる。
姉に事情を詳しく聞かれたが、カイルの事を昔から弟のように可愛がっていた姉に浮気の事を話すのがなんだか躊躇われた。
だから性格の不一致…は今更?と言われたので、価値観の相違と言っておいた。
変身魔法で別人になってカイルの浮気相手になったという事は秘密である。
たった一人を唯一としたいシェリーと複数の相手とも平気で寝れるカイルとは、全く違う価値観であるのだからあながち間違った事は言っていないはず。
姉は腑に落ちないという顔をしていたが、シェリーの意思が固い事と、妊娠初期でナーバスになっている時にあまり追い詰めるのも良くないと考えたらしくそれ以上は何も言わなかった。
ただ必ず姉の側で暮らす事、そして何かあれば必ず頼る事、それだけはしっかりと約束させられた。
なのでシェリーの新しい家は姉の自宅から歩いて五分ほどのアパートに決まったのだった。
新たな勤め先となる病院との距離もほど近い。
そこは割と大きな病院で、産婦人科も小児科もある。
シェリーにとっては理想的な職場と言えた。
妊娠当初は心配した悪阻も思ったより酷くはならず、
シェリーは新しい環境に身を置き始めたと同時に妊娠四ヶ月を迎えた。
専門家ではないので自分で検診は出来ないが、特殊なスキャン魔術で胎内の様子は見れる。
この日も入浴後、就寝前のリラックスした状態でシェリーは赤ん坊の様子を見た。
「あら?もう髪が生え始めているわ。一般的だと五ヶ月くらいからと聞いていたけど……この髪色は……」
おそらく黒髪だろう。
父親であるカイルの髪色だ。
「ふふ。あなたは本当にあの人の子なのね……」
当たり前だが血のつながりをまざまざと見せつけられる。
あんな事がなく普通に結婚していれば、お腹にいる子どもが自分譲りの髪色だと知り、彼は喜んだのだろうか。
何も知らずにいられたら、あのままずっと一緒にいたのだろうか。
シェリーはそこまで考え首を横に振った。
考えても詮ないことだ。
例えあの同僚女の発言が無かったとしても、いつかはカイルの裏切りに気付いていただろう。
でも、しかし、もし、を考えても仕方ない。
お腹の子の為に強く生きていかなくてはならないのだから。
シェリーの心にぽっかり空いた穴は、
きっとこの子が埋めてくれる。
シェリーはそう信じていた。
そう思う事でようやく心が凪いで、新たな人生を生きていけると思っていたのに。
それなのに。
「なんであなたがここにいるのよっ?」
「シェリー、探したぞ。もう、探しまくったぞ!」
別れたはずのカイルが、シェリーの勤める病院の診察室にいた。
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次回、答え合わせの時間。
カイルsideのお話です。
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