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ユラル、侍女にと望まれる

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ライルが正式にユラルの父に結婚の申し込みをした。

「ちょっと待ってくれよ、それじゃあ俺が男爵にプロポーズしたみたいだろ」

あ、そうか。では改めて。
ライルはユラルとの結婚の許可を正式にフレイヤ男爵に願い出た。

「そうそう。それでいいんだよ」

「?ライル、さっきから何ひとり言を言ってるの?」

「なんでもねぇよ。おはようユラ♡我が愛しの婚約者どの♡」

「ぷ、おはようライル。婚約者だなんて大袈裟ね。お父さまの許可が下りて、婚姻誓約書を提出しただけでしょう」

「結婚の約束をしたんだから婚約者だろ」

「まぁ……そうね。今日もお迎えありがとう」

「おう」

よーしよしよしと、ユラルがライルの頭を撫でてやっているとユラルの姉の夫、アレンが二人に声を掛けて来た。

「あはは。そうやってると尾を振ってるライルの幻覚が見えるから不思議だよ」

「お義兄さん、それは幻覚ではありません。俺の心のシッポです。俺の腰には前後にユラルの為にシッポが付いて…あべしっ」

ドヤ顔でとんでもない下ネタを言いそうになったライルの頭を間髪入れずにユラルはしばいた。

ちなみに「あべしっ」とはなぜか昔からユラルが頭をぶつけたりした時に言っていた口癖がライルにも定着したものである。

「朝から最低な事を言わないで。それにもう“お義兄さん”呼びになってるし」

「当たり前だろ、俺たち義兄弟になるんだから♪」

「気が早いわよ。まだ婚姻誓約書が受理されたわけじゃないんだからね」

「くぅ~ん……」

「あはははっ!」

義兄の笑い声に見送られながら今日も二人で国教会へと向かう。

ライルは聖女の騎士として。
ユラルはアマンディーヌの手伝いとして。

ライルが友の会のメンバーに何を言ったのか知らないが、このところユラルは一人で行動する事がないようにとされている。

本部内をアマンディーヌの所用で歩く時もおトイレに行く時も必ず誰かと一緒に居た。

なぜこのような事になっているのかは分からないが、ロアンヌが言う事には何でも聖女が近頃ユラルの事を気にしているのだとかなんとか。

何故わたしを?と思うが、やんごとなきお方の考える事などユラルに分かる筈もない。

考えても考えても分からない事は考えるのをやめる主義なので、ユラルは気にしない事にした。

本部と家の行き帰りはライルと。
本部内はロアンヌら友の会メンバーの誰かと。
そして家では常に家族と共に。

そうやって一向に一人になる気配がないユラルに対して(一人になったらどうするつもりだったのか…)、とうとう痺れを切らしたのか聖女ルナリアから直々に指名がかかった。

「ユラルちゃんを専属の侍女にしたいって言ったそうよ」

「ライル卿を堕とせないからって、側に置いてユラルちゃんから懐柔するつもり?」

「仮にも男爵家の令嬢を侍女にって、王族にでもなった気でいるのかしら」

「仮にでなくてわたし、正真正銘の男爵家の娘なんですけどね」

「とにかく行ってはダメよユラルさん」

「でも聖女の指名を断れるのかしら……」


「断って良いザマス」


皆で口々に言い合い、時折ユラルが口を挟むように話していたら、ふいにアマンディーヌがきっぱりと言い切った。

ユラルはアマンディーヌに向き直って尋ねる。

「アマンディーヌ様、断っては良いとは……?」

「いくら教会が定めた聖女だからといってルナリア様にそのような権限はないザマス。なのでユラルさんは言う事をきく必要はないザマス」

「大丈夫でしょうか……?」

ユラルが心配そうに言うとアマンディーヌがユラルの肩に触れて微笑んだ。

「貴女はワタクシの付き人、そして友の会の会員、引いてはお友達ザマス。貴女の事はこのワタクシが全力で守るザマスから心配は要らないザマス」

「アマンディーヌ様ぁ……」

ーーなんて頼りになるお優しいお言葉……!わたしは一生アマンディーヌ様について行きます!

斯くして駄犬の飼い主は忠犬となった。

アマンディーヌは枢機卿夫人、そして国教会に多大な金品をお布施として寄付して居る実家の権威を最大限に活かして、聖女ルナリアによるユラルの召し上げを突っぱねのであった。

表面上はルナリアもそれで引き下がったように見えた。

しかし聖女としての自尊心を傷付けられたのか、ルナリアはより一層、自分に靡かない騎士ライルの恋人であるユラルの存在を気にするようになる。



「貴女がユラルさん?」

「はい?」 


ユラルがロアンヌや他のメンバーとアマンディーヌの客人を出迎える為の花や菓子を買い求めて本部に戻って来た時に、ふいに声を掛けられた。

その邂逅はほんの偶然だったのだろう。

だけど運悪くエントランスで鉢合わせした事により、ルナリアが暴挙に出たのだ。

「ここで会えて嬉しいわ。わたくし、本当に貴女に侍女になって側にいて貰いたいの。ねぇいいでしょう?このままわたくしと共に行きましょう。誰か、彼女を連れて来て頂戴」

「え?無理矢理?暴君ルナネロ?」

ユラルは思わず声に出して言った。
あら暴君ハバ○ロだったかしら?なんて思ったが今はそれどころではない。

ロアンヌが慌ててルナリアに言った。

「お待ち下さい聖女様。そのお話は枢機卿夫人からきっぱりとお断り申し上げた筈でございます。いくら聖女様といえどもこれ以上のご無体は許されるものではござません!」

それを聞き、ルナリアはきょとんとした顔で告げる。

「このバレスデンではわたくしの言う事は神の言葉と同等なのではないの?わたくしはそう教えられて育ったわ。違うの?そのわたくしが欲しいと言っているのよ?何故いけないのか分からないわ」

本気で、心底それが真実だと思っている様子が窺えた。

権力を行使するという感覚ではない、純粋に欲しいものを欲しいとねだる子どものようであった。

ーー怖い……

なんとも言えない空恐ろしさをルナリアから感じる。
聖女の騎士がユラルに近付こうとした。
聖女の言いなりで強制的にユラルを連行するつもりだろう。


が、その時、ユラルの前に広くて大きな背中が立ち塞がった。


「ライルっ」


ライルがユラルを背に庇い、代わりに聖女達と対峙する。


「先輩方、それ以上近付かないでくれ。俺は仲間を斬るような事はしたくないんでね」






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