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公女の視察
しおりを挟む「モルモア公国?」
ある日の放課後。いつも通り一緒に帰宅している道すがら、レイターの口から出た国の名前をメグルカは繰り返した。
レイターはひとつ頷き、答える。
「大陸のほぼ最南端に位置する小さな国だよ。そこの君主であるモルモア公の公女が学校に視察に見えられるそうだ」
「どうして公女様がわざわざ視察に?」
「モルモア公国にも魔法や魔術を学べる学校を設立する計画が立っているらしい。公女はその計画の責任者の一人として、アデリオール魔術学園とハイラント魔法学校の両校の視察に入るという事だ」
「まぁモルモア公国の公女様って確かまだお若いのよね?それなのに国の事業の一端を担われるなんて、凄いわ」
「……そうだね」
なんとなくレイターの反応がイマイチな事に気付き、メグルカは訊ねる。
「何かあるの?」
「その公女の視察中の案内役の一人に選ばれた」
「まぁ、公女様に学校を案内する係ね?さすがはレイね、学生を代表して選ばれるなんて凄いわ」
メグルカが感心してそう告げると、レイターはあまり乗り気ではなさそうな声で言う。
「案内役は俺と同じAクラスにいる生徒会長だ。公女の視察中は授業出席は免除で、俺と生徒会長は公女に付きっきりになる」
「付きっきり?」
「公女は朝の登校時の様子からご覧になられたいと希望されている。そしてその後の授業風景を各学年毎に丸一日視察されるそうた」
「各学年毎を丸一日、という事は一年生から三年生までだから……視察期間は三日間?」
「……その後は学校の施設の見学。それから学校の運営に携わる部分も隈無くお知りになられたいらしい。生徒会執行部はもちろん、PTA役員との面会、理事会の定例会議にも出席を希望されている。それらの予定をぎゅっと詰め込んで一週間の日程が組まれているそうだ……つまりは、だな」
「つまりは?」
「俺は一週間も公女のお守りに駆り出され、こうやってメグとの登下校が出来なくなるということだ……。俺や生徒会長は生徒生活の視察の三日間だけでいいだろ……何が生徒との交流だ」
誠に遺憾であるという表情を隠しもせずに不平不満を口にするレイターをメグルカは宥める。
「それは確かに寂しいけれど、たったの一週間の事じゃない。それよりも私は婚約者が生徒を代表して公女様の案内役を任されたという事が誇り高いわ」
「……本当に?」
「ええ。誉に思う」
「じゃあ……メグのために一週間、頑張るよ……」
「ふふ。頑張ってレイ」
「終わったら褒めてくれるか?」
「ええもちろん。頭を撫でて褒めてあげる」
この会話がなんだか昔の頃に戻ったようでメグルカはくすぐったい気持ちになる。
大人しくて甘えん坊だった頃のレイターを思い出し、つい甘やかしたくなった。
そんなメグルカにレイターは悪戯な表情を浮かべて言う。
「メグに頭を撫でて貰うのは至福だろうけど、子供の頃とは違うんだから別のご褒美が欲しいかな」
「別のご褒美?なにかしら、私にしてあげられることならなんでもいいわよ?」
「メグにしか出来ないな。というかメグ以外とする気はないなぁ」
「え、ナゾナゾ?ますますわからないわ」
ご褒美として何を所望されるのか、メグルカにはさっぱりわからない。
小首を傾げて見上げるメグルカに、レイターは彼女の耳元でこう囁いた。
「メグの方からキスしてほしい」
「え、」
「いつも俺からだからご褒美としてメグからキスして」
「え、え、え、」
「だって褒美なんだから」
「え、でも、だってっ……」
婚約者同士、しかも互いに想いを寄せ合うメグルカとレイターは魔法学校に入学した年から自然と唇を重ねるようになっていた。
だけどそれはいつだってレイターからで、メグルカからキスを強請った事も唇を奪った事も当然ない。
それなのに自分からキスをするだなんて……奥手でウブウブなメグルカにはとてつもなく、大陸最高峰のハイラント山脈の峰々よりもハードルが高い事であった。
「それを励みに、それだけを生き甲斐に一週間頑張るよ」
半分くらいはおどけて、そして半分以上は本気でレイターはそう告げた。
メグルカは恥ずかしさのあまりレイターに怒りをぶつける。
「もうっレイったら……!」
「あははははっ」
顔を真っ赤にして抗議するメグルカの手を繋いだままレイターは笑った。
その屈託のない笑みが今日ばかりは憎らしい。
だけど自分の手を包む大きなその手を、メグルカは振り解くことは絶対にしない。
そしてそれから三日後に、
モルモア公国のアレイラ公女が魔法学校へ来訪した。
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