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眠れる城のクロード
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アイリスへと仕向けられた刺客からその場の全員を救うために急性魔力欠乏症となってしまったクロード。
似た性質の魔力を輸力すればすぐに回復するのだが、運悪くクロードの魔力はかなり特殊らしい。
彼の父方は魔力がない家系なので恐らくは母方の方の魔力なのだろうが、クロードの母の出自は何故か不明らしく一切の記録がないというのだ。
既に亡くなっているクロードの母について記載されている書類が存在しているのは結婚後。
それまでの記録は見つかっていないらしい。
まるで突然この世界に現れたような。
まぁ身寄りのない子供が孤児院を飛び出してストリートチルドレンになった場合にそのケースがよく見られるので、おそらくクロードの母はそういった人物だったのだろう。
従ってクロードに魔力を提供してくれる人物が見つかる可能性は低い。
しかし魔力が完全にゼロの状態ではないので、このままクロード自身の自然治癒力により再び魔力が戻るのを待つしかないというのが宮廷医師の診立てである。
だがそれがいつなのか。
体内で魔力が作られ蓄積していく時間は個人差があり、いつになったら回復するとは診断出来ないと医師は言うのだ。
クロードの上官であるサブーロフ卿がせめてクロードの唯一の家族である妻にはこの事を知らせるべきだと王太子たちに進言するも、第二王子ジェラルミンがそれを敢なく却下した。
「ギルマンの忠義に報いたい気持ちはあるが、今回のアイリス襲撃を逆手にビオラ側を一気に潰したいのだ。わかるか?ここが正念場だ。そのためこちらの情報が外部に漏れるようなことは一切あってはならんのだ。すまないがたとえ女性一人といえど、今この王城に入れるわけにはいかぬ。そしてもちろん、口頭だろうが手紙だろうがギルマンの妻にこの件を伝えることも禁ずる。人は簡単に裏切るからな、侍女がいい例だろう?」
「そんなっ……そこをなんとかっ……」
「しつこいぞ、サブーロフ」
「………っ」
───くそっ……!
哀しきかな宮仕え。
主家の意向には逆らえない。
サブーロフはギリッと嫌な音を立てるほど奥歯を噛み締めた。
未だ魔力は回復せず依然として眠り続けるクロードにサブーロフは語りかける。
「何もしてやれずすまん。せめて一日も早く目を覚ましてくれ……恋女房が待ってるのだろう?」
その時、隠密特有のやけに印象の薄い者がサブーロフに声をかけてきた。
「突然すいやせん。ギルマン卿に確認したいですがね、本人がこんな感じだから上官の貴方に確認させてもらいてぇんですよ。彼の奥方への定期便、今週はどうしやす?」
「定期便?」
「はい。週に一度、ギルマン卿手書きのカードを添えて、奥方にぬいぐるみを届けているんですよ」
「あいつ、そんなマメなことをしていたのか……」
「定期便を通して奥方と繋がっていたかったんでしょーねぇ」
「ロマンチストだな……」
「んで?どうしやす?カードを添えられないんだからぬいぐるみを届けるのは取りやめにしやす?」
暗部の男にそう訊ねられ、サブーロフはしばし考えた。
新婚早々、七ヶ月も放置してしまった妻とようやく新婚生活をやり直せているのだと嬉しそうに言っていたクロードの笑顔が蘇る。
サブーロフは眠るクロードの顔を見ながらつぶやくように言った。
「……ぬいぐるみだけでも、今まで通り届けてやってくれ」
それさえ途切れてしまったら、クロードが目を覚ましても夫婦としての絆が絶たれてしまっているかもしれない。
また放置していると見做し、妻は夫を見限ってしまっているやもしれない。
そうなってしまえばあまりにもクロードが気の毒すぎる、サブーロフはそう思った。
───もう誰でもいい。どうか一日でも早くギルマンを目覚めさせてやってくれ。
そんなサブーロフの願いが届いたのかどうかは定かではないが、
眠り続けるクロードの深層心理に語りかける声があった。
『クロード、クロード。起きなさい』
───────────────────────
補足です。
クロードが魔力欠乏症に陥り昏睡状態になったのは、ジゼルとの再会のひと月前ほどです。
皆さま、ましゅろう鬼の撹乱によりご心配をおかけしました。
まだ本調子ではないですが熱も下がり、ぼちぼち動けるようになりました。
戴いた感想にお返事出来ず申し訳ないです。
よし、じゃあ遅ればせながら返信を…と思いましたが二日で約80……無理かな☆
でも一つ一つ大切に拝読させて頂きました!
本当にありがとうございます( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )♡
著者近況の方にも沢山のメッセージをありがとうございました!( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )♡
最高のお薬でした♡
まだ倦怠感が取れず、ちょっと投稿スピードが落ちるかもしれませんが、少しずつでも毎日更新でハピエンに向かってゆきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします!
似た性質の魔力を輸力すればすぐに回復するのだが、運悪くクロードの魔力はかなり特殊らしい。
彼の父方は魔力がない家系なので恐らくは母方の方の魔力なのだろうが、クロードの母の出自は何故か不明らしく一切の記録がないというのだ。
既に亡くなっているクロードの母について記載されている書類が存在しているのは結婚後。
それまでの記録は見つかっていないらしい。
まるで突然この世界に現れたような。
まぁ身寄りのない子供が孤児院を飛び出してストリートチルドレンになった場合にそのケースがよく見られるので、おそらくクロードの母はそういった人物だったのだろう。
従ってクロードに魔力を提供してくれる人物が見つかる可能性は低い。
しかし魔力が完全にゼロの状態ではないので、このままクロード自身の自然治癒力により再び魔力が戻るのを待つしかないというのが宮廷医師の診立てである。
だがそれがいつなのか。
体内で魔力が作られ蓄積していく時間は個人差があり、いつになったら回復するとは診断出来ないと医師は言うのだ。
クロードの上官であるサブーロフ卿がせめてクロードの唯一の家族である妻にはこの事を知らせるべきだと王太子たちに進言するも、第二王子ジェラルミンがそれを敢なく却下した。
「ギルマンの忠義に報いたい気持ちはあるが、今回のアイリス襲撃を逆手にビオラ側を一気に潰したいのだ。わかるか?ここが正念場だ。そのためこちらの情報が外部に漏れるようなことは一切あってはならんのだ。すまないがたとえ女性一人といえど、今この王城に入れるわけにはいかぬ。そしてもちろん、口頭だろうが手紙だろうがギルマンの妻にこの件を伝えることも禁ずる。人は簡単に裏切るからな、侍女がいい例だろう?」
「そんなっ……そこをなんとかっ……」
「しつこいぞ、サブーロフ」
「………っ」
───くそっ……!
哀しきかな宮仕え。
主家の意向には逆らえない。
サブーロフはギリッと嫌な音を立てるほど奥歯を噛み締めた。
未だ魔力は回復せず依然として眠り続けるクロードにサブーロフは語りかける。
「何もしてやれずすまん。せめて一日も早く目を覚ましてくれ……恋女房が待ってるのだろう?」
その時、隠密特有のやけに印象の薄い者がサブーロフに声をかけてきた。
「突然すいやせん。ギルマン卿に確認したいですがね、本人がこんな感じだから上官の貴方に確認させてもらいてぇんですよ。彼の奥方への定期便、今週はどうしやす?」
「定期便?」
「はい。週に一度、ギルマン卿手書きのカードを添えて、奥方にぬいぐるみを届けているんですよ」
「あいつ、そんなマメなことをしていたのか……」
「定期便を通して奥方と繋がっていたかったんでしょーねぇ」
「ロマンチストだな……」
「んで?どうしやす?カードを添えられないんだからぬいぐるみを届けるのは取りやめにしやす?」
暗部の男にそう訊ねられ、サブーロフはしばし考えた。
新婚早々、七ヶ月も放置してしまった妻とようやく新婚生活をやり直せているのだと嬉しそうに言っていたクロードの笑顔が蘇る。
サブーロフは眠るクロードの顔を見ながらつぶやくように言った。
「……ぬいぐるみだけでも、今まで通り届けてやってくれ」
それさえ途切れてしまったら、クロードが目を覚ましても夫婦としての絆が絶たれてしまっているかもしれない。
また放置していると見做し、妻は夫を見限ってしまっているやもしれない。
そうなってしまえばあまりにもクロードが気の毒すぎる、サブーロフはそう思った。
───もう誰でもいい。どうか一日でも早くギルマンを目覚めさせてやってくれ。
そんなサブーロフの願いが届いたのかどうかは定かではないが、
眠り続けるクロードの深層心理に語りかける声があった。
『クロード、クロード。起きなさい』
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補足です。
クロードが魔力欠乏症に陥り昏睡状態になったのは、ジゼルとの再会のひと月前ほどです。
皆さま、ましゅろう鬼の撹乱によりご心配をおかけしました。
まだ本調子ではないですが熱も下がり、ぼちぼち動けるようになりました。
戴いた感想にお返事出来ず申し訳ないです。
よし、じゃあ遅ればせながら返信を…と思いましたが二日で約80……無理かな☆
でも一つ一つ大切に拝読させて頂きました!
本当にありがとうございます( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )♡
著者近況の方にも沢山のメッセージをありがとうございました!( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )♡
最高のお薬でした♡
まだ倦怠感が取れず、ちょっと投稿スピードが落ちるかもしれませんが、少しずつでも毎日更新でハピエンに向かってゆきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします!
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