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はぁ……お相手は領主のお嬢様ですか
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フォルカーに手紙を出して更に二ヶ月が経過した。
その間、一度も手紙の返信は届かなかった。
アパートの大家さんが住人の人と世間話をしていた内容や、新聞に報じられていることからも遠征先の戦況は一時期壮絶なものとなっていたのは間違いない。
数年、十数年、数十年に一度起きるといわれているスタンピード。
今回のものは一つ一つの規模はさほど大きなものではないらしいが短い間隔で、引いては寄せる波のように魔獣たちの群れが押し寄せるのだとか。
それでは当然、遠く離れた遠征地からいちいち帰ってくるなど出来ないし、手紙を書く暇さえもないのだと思う。
その事をヤスミンに伝えると、
「王都に戻ってくるのは無理だとしてもっ、手紙の一つや二つ書けますよっ!クソゥ!長文が無理ならメッセージでもいいんです!ひと言、『無事だよ』とか『元気だよ』とか『討伐なう』とか、奥様が安心できるように書いて寄越してもいいじゃありませんかっ!ハラガタツ!」
「そ、そうよね」
ヤスミンのあまりにも凄まじい剣幕に、私は思わずたじろいでしまう。
「大変だ大変だと言いながらも!領主様のご令嬢との逢瀬を繰り返す時間はあるんですから夫としての責務を果たすべき……あ、」
そこまで言いかけて、ヤスミンは明らかにしまったといった様子で口を押さえて黙り込んだ。
だけど私はバッチリ聞いてしまったのだ。
「領主様のご令嬢との逢瀬……?」
「いえあのそのっ……」
ヤスミンはわかり易く狼狽えてしどろもどろになる。
私はヤスミンに静かに訊ねた。
「大丈夫。ちゃんと聞かせてほしいわ。領主様のご令嬢というのは、スタンピードが起きた遠征先の領主のご令嬢のこと?」
「は、はい……ワタシたちの領地のお嬢様です……その方が……騎士たちの慰問に訪れた時に、フォルカー・クライブ様と出会われたのだとか……お二人とも、終始周りが見えていないように互いだけを見つめあっていたそうです……クッ……それからあっという間に距離が縮まり、その……今はお二人とも相手に夢中になっているとか……」
「それで“よろしくやっている”という噂が立ったのね……」
「はい……王都のタウンハウスにもその噂が流れてくるくらいには皆が知っている事実だそうです……ウゥ゛」
「そう、……そうなのね」
「奥様っ!もう旦那様なんてこちらから見限ってやりましょうよ!」
「えっ?えぇ?」
「旦那様が間抜け面を下げて王都に戻って来る前に、離縁状だけを置いてさっさとこの家を出て行ってやればいいんです!」
「一方的に離縁を突きつけて家出するということ?」
「そうです!奥様はまだお若くて、それにお綺麗な方なのですからもっともっと素敵な男性との出会いがあるはずです!」
「うーん……でもねぇ……」
「何を考える必要があるんですっ?音信不通という放置状態にあまつさえかなり信ぴょう性の高い噂まであるんですよ!ハラタツッ!旦那様に義理立てするなんてバカげてます!最低な男ですよ旦那様はっ!」
私のために本気で怒ってくれているヤスミンを見て、逆にどこか冷静になれる私がいた。
私は穏やかな口調でぷんすこ怒る彼女に言う。
「私のために怒ってくれてありがとうヤスミン。でもね、もし仮に本当に夫が領主様のご令嬢と恋仲になったのであれば、尚更きちんと夫婦で話し合って今後の事を決めないといけないと思うの」
「奥様っ……そんな悠長なっ……ナンデッ!?」
「私には私なりの、フォルカーと積み重ねてきた日々があるの。この五ヶ月間だけでそれを否定するような、そんな軽いものではないのよ」
「奥様……」
そう。
私が知っている私の中のフォルカーが、
噂だけを鵜呑みにするのに待ったをかける。
かといってヤスミンの話を疑っているわけでもない。
ヤスミンの友人だという女性も同じ事を言っていたのだし、噂は本当なのかもしれない。
だからこそ私は、
帰ってきたフォルカーの顔を見てきちんと答えを出したいと思う。
だからフォルカー、早く帰ってきて。
────────────────────
次回、鎮圧終了のお知らせ。
その間、一度も手紙の返信は届かなかった。
アパートの大家さんが住人の人と世間話をしていた内容や、新聞に報じられていることからも遠征先の戦況は一時期壮絶なものとなっていたのは間違いない。
数年、十数年、数十年に一度起きるといわれているスタンピード。
今回のものは一つ一つの規模はさほど大きなものではないらしいが短い間隔で、引いては寄せる波のように魔獣たちの群れが押し寄せるのだとか。
それでは当然、遠く離れた遠征地からいちいち帰ってくるなど出来ないし、手紙を書く暇さえもないのだと思う。
その事をヤスミンに伝えると、
「王都に戻ってくるのは無理だとしてもっ、手紙の一つや二つ書けますよっ!クソゥ!長文が無理ならメッセージでもいいんです!ひと言、『無事だよ』とか『元気だよ』とか『討伐なう』とか、奥様が安心できるように書いて寄越してもいいじゃありませんかっ!ハラガタツ!」
「そ、そうよね」
ヤスミンのあまりにも凄まじい剣幕に、私は思わずたじろいでしまう。
「大変だ大変だと言いながらも!領主様のご令嬢との逢瀬を繰り返す時間はあるんですから夫としての責務を果たすべき……あ、」
そこまで言いかけて、ヤスミンは明らかにしまったといった様子で口を押さえて黙り込んだ。
だけど私はバッチリ聞いてしまったのだ。
「領主様のご令嬢との逢瀬……?」
「いえあのそのっ……」
ヤスミンはわかり易く狼狽えてしどろもどろになる。
私はヤスミンに静かに訊ねた。
「大丈夫。ちゃんと聞かせてほしいわ。領主様のご令嬢というのは、スタンピードが起きた遠征先の領主のご令嬢のこと?」
「は、はい……ワタシたちの領地のお嬢様です……その方が……騎士たちの慰問に訪れた時に、フォルカー・クライブ様と出会われたのだとか……お二人とも、終始周りが見えていないように互いだけを見つめあっていたそうです……クッ……それからあっという間に距離が縮まり、その……今はお二人とも相手に夢中になっているとか……」
「それで“よろしくやっている”という噂が立ったのね……」
「はい……王都のタウンハウスにもその噂が流れてくるくらいには皆が知っている事実だそうです……ウゥ゛」
「そう、……そうなのね」
「奥様っ!もう旦那様なんてこちらから見限ってやりましょうよ!」
「えっ?えぇ?」
「旦那様が間抜け面を下げて王都に戻って来る前に、離縁状だけを置いてさっさとこの家を出て行ってやればいいんです!」
「一方的に離縁を突きつけて家出するということ?」
「そうです!奥様はまだお若くて、それにお綺麗な方なのですからもっともっと素敵な男性との出会いがあるはずです!」
「うーん……でもねぇ……」
「何を考える必要があるんですっ?音信不通という放置状態にあまつさえかなり信ぴょう性の高い噂まであるんですよ!ハラタツッ!旦那様に義理立てするなんてバカげてます!最低な男ですよ旦那様はっ!」
私のために本気で怒ってくれているヤスミンを見て、逆にどこか冷静になれる私がいた。
私は穏やかな口調でぷんすこ怒る彼女に言う。
「私のために怒ってくれてありがとうヤスミン。でもね、もし仮に本当に夫が領主様のご令嬢と恋仲になったのであれば、尚更きちんと夫婦で話し合って今後の事を決めないといけないと思うの」
「奥様っ……そんな悠長なっ……ナンデッ!?」
「私には私なりの、フォルカーと積み重ねてきた日々があるの。この五ヶ月間だけでそれを否定するような、そんな軽いものではないのよ」
「奥様……」
そう。
私が知っている私の中のフォルカーが、
噂だけを鵜呑みにするのに待ったをかける。
かといってヤスミンの話を疑っているわけでもない。
ヤスミンの友人だという女性も同じ事を言っていたのだし、噂は本当なのかもしれない。
だからこそ私は、
帰ってきたフォルカーの顔を見てきちんと答えを出したいと思う。
だからフォルカー、早く帰ってきて。
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次回、鎮圧終了のお知らせ。
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