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一人じゃない安心感

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フォルカーに会いたいという気持ちが私の中で溢れているせいか、
昨夜はエッチな夢を見た……。

夢の中で突然現れたフォルカーに激しく求められて体を重ねた……というハレンチな夢を見てしまったのだ。

「いやだわ。私ったら欲求不満なのかしら」

考えてみればフォルカーとは初夜とその後私の体の回復を待っての遠征前夜と、数えるほどしか夫婦の営みをしていない。
しかもそれももう半年近くも前の話となってしまっている。

でもあんな夢を見て……私ったら……ポポポ……!
新妻だからと言い訳が出来るかしら。
恥ずかしい……。

「奥様っ!」

パンッ

「ハッ……!」

またぼーっと呆けていた私に喝を入れるためだろう、ヤスミンの手の平を叩く音が間近でした。
私はまたハッとして彼女を見る。

「奥様、またぼーっとされていましたよ。お仕事が捗っていないように見えますが……え?ピンクの象?」

作業机に向かい、絵筆を握りながらも呆けていた私の横でヤスミンが絵を覗き見て言った。

「え?ピンクの象?」

思いも寄らない言葉が出て、わたしがキョトンとして作業中の絵を見ると、そこにはピンクの絵の具で塗られた象の絵があった。

「いやだ私ったら、どうして象をピンクに塗ったのかしら?この象のイラストは実物と同じ色を塗るつもりだったのに」

「奥様、根を詰め過ぎてお疲れなんじゃありませんか?ちょうどお茶が入りましたからひと休みしてください」

ヤスミンはそう言って私に休憩を促してくれた。

「ありがとう。じゃあ書き直す前に少し休むわ」

「そうなさいませ」

私は有り難く、ヤスミンが淹れてくれたお茶を飲むことにした。

それにしてもどうして象をピンクに塗ってしまったのかしら?


◇◇◇


それから数日後、なぜかピンクに塗ってしまい描き直しとなった象のイラストを依頼主に納品した帰りに、私はまた声をかけられた。

「やぁ、シュリナさんじゃないか」

今度は男性の声だ。

声の主の方へと視線を巡らせると、そこには一人の青年が立っていた。
今度はよーく見なくても、私の知っている人物だった。

「アーロンさん、こんにちは」

「お久しぶりです。シュリナさん……いや、もうクライブ夫人と呼んだ方がいいかな?」

彼の名前はアーロン・スライ。
夫フォルカーの友人で、同じく王国から剣を授かった王国騎士だ。
彼はフォルカーとは違う中隊に所属しており、今回の遠征には参加していないらしい。

互いに挨拶をすませ、立ち話だけど私たちはたわいも無い会話をした。
その中でアーロンさんは柔らかな笑みを浮かべて私に言った。

「ようやく今回のスタンピードの鎮圧が終了したそうだよ。どうやらフォルカーは手柄を立てて報奨をゲットしたみたいだ」

「あら、何か頂いたの?今度は何かしら?」

と、そこまで口にして私は思った。

“また”とは何のことだろう。
遠征後から音信不通となったフォルカーの事など何も知らない、知らされていないはずなに。
彼が手柄を立てて報奨を得た事は初耳のはずなのに。
なぜか私の口から自然に“また”という言葉が零れ出た。

その不思議な感覚に私が首を傾げていると、アーロンさんが教えてくれた。

「良かったねシュリナさん、ようやくフォルカーが王都に戻ってくるよ」


◇◇◇



アーロンさんに第三連隊のスタンピード鎮圧完遂を知らされてから早いものでひと月が経過しようとしていた。

第三連隊はあと半月以内には王都に帰還するという。
最小限の損害で未曾有の魔獣の波を討ち果たしたのだがら、間違いなく凱旋となる。

フォルカーはこの討伐で数々の武勲を挙げたらしい。

「あいつはきっと出世するよ」

と先月会ったアーロンさんが言っていた。
出世はともかくフォルカーが無事に王都に戻ってくるのが嬉しい。

……戻って来るわよね?

もしヤスミンが言っていた通り地方領主のお嬢様と恋仲になってしまって、私との離婚を望むのだとしても一度は戻ってちゃんと話し合わなければならないのだもの……。

本当にそうなったら私、離婚に応じなければならないのかしら……。

「奥様、なんだか顔色がわるくないですか?連隊の王都帰還の知らせを受けてからなんだかお元気がないような……やはり、もうさっさと旦那様なんて捨てて新しい人生を歩まれた方がいいんじゃないですか?」

「心配してくれてありがとうヤスミン。でもそれはやっぱり出来ないわ」

「でも!もし戻ってきた旦那様に酷いことを言われたらどうするんですっ?ギリリッ傷付けられたら……」

「大丈夫よ。話し合いが荒れそうならお義父様かお義兄さまに立ち会っていただくし、それにフォルカーは乱暴なもの言いをするような人じゃないわ」

「……私は直ぐにでも離婚をオススメします……」

「ヤスミン……」

なんだかヤスミンのテンションが急降下だわ。
そんなにも心配をかけてしまっているのね。
顔色が悪いらしいから余計に心配させてしまっているのだろう……。

確かにあまり気分は優れない。
いざフォルカーが王都に戻るとわかった途端に怖気付いて不安になるなんて。
我ながら情けないわね。

「……なんだか体が重いわ……」

心が沈むと体も重く感じるのね、ムカムカと悪心もする。

私は今日の作業は中止してベッドに横になって休むことにした。
幸い納期までにはまだ日がある。

「あら奥様……やはりお加減が悪いんですね」

私がベッドで寝ていると、心配したヤスミンが声を掛けてきた。

「たいした事はないの。ただの風邪だと思う……」

「風邪ですか、それは大変です。今、美味しくて滋養のあるスープを拵えてあげますからね。それを召し上がってひと眠りすればあっという間に風邪なんて治ってしまいますよ!私のスープは薬要らずで評判なんです」

「ふふふ。すごいわね……じゃあお願いするわ、ヤスミン……」

「はい。お任せ下さいませ奥様」

そう言って寝室を出ていこうしたヤスミンに、私はベッドの中から声をかける。

「ヤスミン……」

ヤスミンはドアの所から振り返って返事をした。

「はい、なんでしょうか?」

「ヤスミンが居てくれて本当によかった……」

半年も一緒に過ごすとヤスミンがかなり行動力のあるタイプなのはわかったけど、それでも単身、女性の身で遠く離れた地方領から王都まで出て来るのは大変だったと思う。
フォルカーの雇用の要請に応じ、我が家に来てくれた事に素直に感謝したい。

「側に居てくれてありがとう……大好きよ、ヤスミン……」

「…………具合の悪い時は気弱になるものです……とにかくゆっくりとお休みください」

「そうね、わかったわ……」

私はそう言ってゆっくりと瞼を閉じる。
ややあって寝室のドアが静かに閉まる音がした。

騒がしいわけではないけれどアクティブなヤスミンは普段はもっと音を立ててドアを開け閉めする。
だけど今はきっと私の体調を慮ってだろう、そーっとドアが閉まる音に私はヤスミンの優しさを感じて取り、とても穏やかな気持ちになれた。













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