異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、あれこれはじめました その2

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 初夏まっさかりといいますか、日差しがきつくなりはじめた最近の辺境都市トツノコンベです。
 私の世界と違って、こちらの世界は空気がどことなくカラッとしているものですから少々の暑さならあまり気になりません。

 とはいうものの……

「はぁ……まぁたこの季節がやってきたわねぇ」

 バテアさんは、窓から外を眺めながら眉間にシワを寄せておられます。
 その手にはバニラアイスが握られていまして、それを口に運び続けておられるバテアさん。
 私の記憶が確かですと……

 起きてすぐに1本
 朝食を食べ終えて1本
 ベル達にせがまれて、おチビさんチームと一緒に1本
 そして今……

 指折り数えて4本目のバニラアイスを……

「おチビさんチームと一緒に3本食べたから、これで6本目よ」
「……え?」

 バテアさんからの上方修正に、思わず苦笑する私です。
 こんな調子で、毎日バニラアイスを10回前後は口になさっているバテアさん。
 棒アイスだけでなく、お徳用パックをそのまま抱えて食べておられることも多々目撃しているのですが……一番驚愕するのは、普通に食事をなさっていて、その上でさらにアイスを食べておられるというのに体型がまったく変わらないところと申しますか……もし私がバテアさんと同じ食生活を送っていたら、間違いなくお腹周りがサイズアップしてしまいます……背も低いですし、胸もありませんし、その上太りやすいって……

「……バテアさんはいいですよね……いくら食べても太らないんだから……」
「あら、そうでもないわよ……ほら、ここが時々アップしているっていうかさ」

 そう言ってバテアさんが指さしたのは、ご自分の豊満な胸でした。
 もう私、苦笑することしか出来ませんでした。
 普通の人は、そこにお肉はつきませんもの……ねぇ?

◇◇

 夜の居酒屋さわこさんでも、

「はぁ、今日も暑かったわい」
「ホント……やってらんないわぁ」

 来店早々、そんな声をあげる方々が少なくありません。
 今も、カウンター席に座られたばかりのクニャスさんが、カウンターに頭をのせながらため息をついておられます。

「では、暑気払いにこんなお酒はいかがですか?」

 厨房内に設置してある魔石冷蔵庫の中から、私はグラスと炭酸水の瓶を取り出しました。
 お酒と炭酸水を1:1で割りまして、そこにすだちの汁を数的垂らせば、日本酒ソーダの出来上がりです。

 クニャスさんは、普段から甘口で果実の味わいのする日本酒を好まれています。
 ですので、大吟醸酒「鳳翔」をベースにさせていただいております。
 
「わぁ……なんだかシュワシュワしてるねぇ!」

 グラスを手になさったクニャスさんは、元気な笑顔を浮かべておられます。

「……シュワシュワ?」

 その言葉に反応なさった、吟遊詩人のミリーネアさんがクニャスさんの元に駆け寄ってきました。
 2人してグラスの中をマジマジと見つめています。

「……うん……シュワシュワ」
「だねぇ……シュワシュワ」

 しばらくそうやってグラスの中を見つめていた2人。

「んじゃ、まぁ頂きますかぁ!」

 クニャスさんは、一度グラスを掲げてからそれを一気に飲み干していきました。

「ってか、何これ! すっごく喉越しがいい! ってか、すっごく飲みやすいし、何よりスカッとして暑さだるさが一気に吹き飛んじゃったわぁ!」

 歓喜の声をあげるクニャスさん。
 同時に、空になったグラスを私に向かって差し出しました。

「というわけで、さわこお代わり!」
「はいはい、お代わりはアタシがお相手するわよぉ」

 そこに、横からバテアさんが歩み寄ってこられました。
 
 事前に、バテアさんにも

 ・ソーダ割りに適した日本酒
 ・グラスは冷やした物を使用
 ・フルーティなお酒を好まれる方にのみすだちを一絞り

 そういった打ち合わせをしてありますので、お任せしても大丈夫です。

「クニャス、先に言っておくけどこのソーダ割りは口当たりがよくて飲みやすいんだけどさ、結局お酒なんだからくれぐれも飲み過ぎないようにね、あんた、ただでさえお酒は弱いんだから」
「大丈夫大丈夫、酔い潰れたことなんて一度もないしぃ」
「「「うぉい!」」」

 右手をひらひらさせながら笑顔のクニャスさんなのですが……即座に店内のほとんどのお客様が突っ込みを入れてこられました。

 それはそうですよね……この1年程度しかクニャスさんとはお付き合いがない私ですが、その間に泥酔なさって寝入ってしまったクニャスさんを何度も拝見なさっているわけですので……

「ほら、みんなの反応見た? これが現実よ」
「むう……なんだか納得いかないけどさぁ……なら、一緒に何か食べればいいわけよ! さわこ、何か食べ物もちょうだい!」
「はい、よろこんで」

 バテアさんとお話なさっていたクニャスさん。
 その御注文に、私は笑顔で返事を返していきました。

 私は、早速大皿のひとつから料理をよそっていきました。

 私の世界の茄子によく似たナルス・タマネギによく似たタルマネギを刻んで、自家製のめんつゆとお酢で味を調えました、夏野菜の南蛮漬けです。

「へぇ、なんだかさっぱりしていていいお味だねぇ。これはお酒がさらにすすみそう!」

 クニャスさんは、早速南蛮漬けを口に頬張ると、次に日本酒ソーダを口にしてまた南蛮漬けを……と、料理とお酒をすごい勢いで口に運びはじめられました。

「……こりゃ、そろそろストップかけないとねぇ」

 そんなクニャスさんの様子を見ていたバテアさん。
 苦笑しながらそんな事を口になさっていました。

 でも、そんなクニャスさんの食べっぷり、飲みっぷりに触発されたのか、

「さわこさん、そのナンバンヅケってやつをこっちにもくれるかな?」
「こっちにはソーダワリってのを頼むよ、あ、俺は辛口でお願い」

 そんな声が店内のあちこちから聞こえてきています。

「はいはい、お酒はアタシがいくわよ」
「……大皿料理は、私」

 その声に、バテアさんとリンシンさんが笑顔で応えてくださっています。
 そのおかげで、私は焼き鳥や串焼きといった焼き物の調理に専念することが出来ています。
 それに、この時期になっても鍋料理の注文も結構入ってくるものですから、厨房の中には熱がこもってしまい、結構大変です。

 額から汗が噴き出しています。

 お料理に汗を入れてしまうわけにはいきませんので、たすき掛けしている私は鉢巻きまで巻いていきました。

「これでよし、と」

 一度握りこぶしをつくった私は、改めて魔石コンロへと向き直っていきました。
 網の上では、クッカドウゥドルの焼き鳥がいい色に焼きあがりながら、美味しそうな匂いを周囲にまき散らしています。

「はぁい、クッカドウゥドルの焼き鳥もあがりますよ、今なら焼きたてですよぉ」

 私が声をあげると、

「さわこさん、1皿!」
「こっちにもお願い」

 即座にそんな声が聞こえてきました。

「はい、よろんで!」

 焼き上がったばかりの焼き鳥をお皿に移しながら、私は笑顔を浮かべていました。

 今夜も、居酒屋さわこさんの店内には、楽しげな声が遅くまで響き続けていました。

ーつづく
 
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