異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、ある日の仕込み その1

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 居酒屋さわこさんで使用しているお野菜には、3種類の仕入のルートがございます。

 1つはアミリアさんの農場から
 1つは私が元いた世界の善治郎さんから
 そして最後の1つは、白銀狐のみなさんから

 白銀狐のみなさんは、最近ではリンシンさん達居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の方々と一緒に森に出向いて、野菜や野草を採取してきてくださいます。
 クニャスさんは目を丸くなさっていました。
「いやぁ、白銀狐と一緒に狩りに行く日がくるなんて思ってもみなかったわよ」
「そうなのですか?」
「そりゃそうよ。だって白銀狐って自分達だけで群れをつくるのがいつもなんだよ? 人種族や亜人種族と群れるなんて聞いた事がないよ」
 そう言って白銀狐さん達を見回しているクニャスさん。

 ですが

 これはあとでシロから聞いたのですが、
「人種族や亜人種族……襲ってくる……こわい」
 と、他の白銀狐さん達が言っているとのことでした。

 リンシンさんによりますと、
「……白銀狐の毛皮……高く売れるし……」
 と、言われていたんです。
 それだけに、白銀狐さん達を狙って狩りをしている冒険者の方々も少なくないんだとか。
 そういった冒険者の方々から身を守るために白銀狐さん達は群れで行動なさっているそうなんです。

 ただ、私達居酒屋さわこさんと契約している冒険者の方々は、

「だってこの白銀狐達はさわこの友達なんでしょ?」
「そんな魔獣を狩るわけないじゃん」

 そう言って笑ってくださいました。

 そういった皆さんの気持ちを感じ取ってくださっているからこそ、白銀狐の皆さんも初夏になっても北に移動することなく、ここ辺境都市トツノコンベにとどまってくださっているのでしょうね。
 本当にありがたいことです。

 この世界の冒険者の方々が狩りの対象にしているのは、主に人種族や亜人種族に危害を及ぼす魔獣です。
 白銀狐さん達のように、腐った魔獣の肉を処分してくださり、腐肉から発生するデパ熱という流行病を未然に防いでくれる益獣の方々を狩る行為は行いません。
 白銀狐さん達を狩ったとしても冒険者組合では引き取ってくださらないそうです。
 白銀狐さん達のような益獣を狩ることを禁止している冒険者組合も少なくないそうでして、持ち込むと逆に罰金を払わされたり、悪質だと捕まることもあるそうです。
 そういった魔獣を買い取るのは、あまりよくない商売をなさっている商会や商店の方々だそうでして、裏で直接買い取りしているそうです。

「私の世界の密漁みたいなものですね……なんか嫌です」
「さわこの世界にもそんな集団がいるのね」
「はい、色々問題になっています……」
「やっぱ、どこの世界でも悪い奴が考えることは同じってことねぇ」
 肩をすくめるバテアさん。
 でも、本当にそうですね……私もなんだか胸のあたりが苦しく感じてしまいます。

 そんな私の手に、ミュウが抱きついてきました。
 人型になって私の手を取ったミュウは

「みゅう?」

 私を見上げながら微笑んでいます。
 ひょっとしたら、私が悲しんでいることを察して、励まそうとしてくれているのかもしれません。
 私は、ミュウの前で膝を折ると、

「ありがとうミュウ、もう大丈夫です」
 
 笑顔でミュウを抱きしめました。
 すると、

「ニャ! ベルもベルも!」
「さわこ! 私も!」
「よくわからぬが妾もじゃ!」

 そこに、二階から駆け下りてきたベル・エンジェさん・ロッサさんのおチビさんチームも加わりまして、私はみんなに囲まれるような格好で抱きしめられていました。
 今はリンシンさんと一緒に狩りに行っているシロも、この場にいたら加わってくれていたかもしれません。

◇◇

 おチビさんチームのみんなのおかげで元気になった私は、早速今夜の営業の下ごしらえをはじめました。

「さーちゃん、ベル達もあれをするニャ!」
「はいはい、あれですね」

 ベルに言われて私が取り出したのは、うどん玉です。
 これを、ベル達に踏み踏みしてもらうんです。

 私から、ラップでくるんだうどん玉を受け取ったベル・エンジェさん・ロッサさんは、

「じゃあ今日も頑張るニャ!」
「頑張るわ!」
「まかせるのじゃ!」

 ベルのかけ声を合図に、

「わっせわっせ」
「わっせわっせ」
「わっせわっせ」

 一斉に踏み踏みを開始しました。
 カウンターに手をついて、リズムよく足を動かしている3人。

 こうして3人が踏み踏みしてくれたうどんは、お店でもとっても好評なんです。
 冬の寒い間は、鍋物のシメとして提供していた、このおうどん。

 おでんが今も人気なものですからおでん専用の鍋を出したままにしているのですが、そのおでんのお出汁に、おでんを数品加えたおでんうどんも人気です。

 大皿で提供させていただいている肉じゃがも、すっかり人気メニューとして定着しているのですが、そのお汁をどんぶりに多めによそって、肉じゃがと一緒にうどんを加えた肉じゃがうどんも、とっても評判がいいんです。

 そして、暑さが厳しくなりはじめたこともありまして、ぶっかけうどんも提供しはじめているんです。
 これは、うどんに冷たいお出汁をかけて頂くおうどんでして、私が住んでいた街の名物料理でもあったんです。
 刻んだネギと天かす、そこにウズラの卵をのせていただくと、とっても美味しいんです。

 ただ……それを試食していた際に、

「さわこ! 私も私も!」

 と……当然のようにお店に現れたツカーサさんも、私達と一緒にそれを試食なさったのですが、

「ほぎゃああああああああああああかかか辛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 って、いきなり悲鳴を上げながら立ちあがられたんです。

「つ、ツカーサさん、一体どうされたのですか!?」
「こここ、この、丼の端にくっついてた緑の物体を食べたら、鼻がツーンとなって、すっごい辛くてぇ」
「つ、ツカーサさん、それはわさびです! お出汁と一緒に混ぜて召し上がっていただかないと……」
「そ、そうだったのねぇ……あひゃあ……」

 お水をがぶ飲みなさるツカーサさんを見つめながら、

「そうですね、ぶっかけうどんを提供させていただく際には、わさびは混ぜてくださいって、最初に注意させていただいた方がいいかもしれませんね」

 と、思った私だったんです。

 その事を思い出しながら、思わず微笑んだ私。
 そんな私の前では、

「わっせわっせ」
「わっせわっせ」
「わっせわっせ」

 おチビさんチームの3人が元気にうどん玉を踏み踏みしてくれていたのですが、

「みゅう!みゅう!」

 それを見ていたミュウが、私の足元に駆け寄ってきまして、私の足をひっぱりました。
 どうやら、ミュウもお手伝いをしたいみたいですね。

「そうですねぇ……じゃあ」

 そう言って、私は保存してあるうどん玉の塊の端を少しちぎって、それをラップでくるみました。

「じゃあ、ミュウはこれをお願いしますね」
「みゅう!」

 私の言葉に、嬉しそうに声をあげると、ミュウはうどん玉をもってベルの横に移動していきました。

 やがて、私の前では、

「わっせわっせ」
「わっせわっせ」
「わっせわっせ」
「みゅう!みゅう!」

 そんなかけ声が聞こえはじめました。
 その、可愛いかけ声を聞きながら、私は笑顔で仕込みを続けていました。

ーつづく
 
 
 

 
 
 
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